アドバイザリー

グループ企業におけるITコスト削減

2012.05.17
岡村 和彦
岡村 和彦
新日本有限責任監査法人
ITリスクアドバイザリー部 エグゼクティブディレクター
システム監査技術者、中小企業診断士
監査法人入所後、官公庁、地方自治体、独立行政法人を中心に開発保守、運用の情報システム監査、金融機関、一般企業の個人情報保護に関わるセキュリティ、ITコスト削減などのアドバイザリー業務などに従事。


はじめに

東日本大震災で大きな打撃を受けた日本経済にようやく個人消費や公共投資など内需主導で回復の兆しが見えます。しかし、ユーロ圏の金融危機や米国景気の脆弱さを背景に、輸出の持ち直しにはまだ時間がかかりそうです。さらに、この度の電力料金の大幅値上げは、電力消費の多い企業だけでなく、日本の産業界全体のコスト増につながることが懸念されています。今日、日本企業は国際競争力向上に向け、再び、コスト削減に取り組まざるを得ません。
既にITコスト削減に大きな成果を上げて、「もはや削減余地はない」と嘆く企業は、グループ企業全体でスケールメリットを生かしてITコスト削減に取り組んでみてはいかがでしょうか。特にグループ企業の場合、各社が個別に情報システムの運営管理に取り組んでいるのであれば、コスト削減の余地は大きいといえます。各企業独自に情報システムの最適化やITコスト削減に取り組むのではなく、グループが連携して、IT資源の共有化、共通業務の集中処理、ナレッジの共有化など、グループ全体の最適化の視点から取り組むことが鍵です。

グループ企業形態に応じた取組

グループ企業は、垂直統合型、水平展開型、及びこれらの複合型の3つに分類できます。

(1) 垂直統合型

垂直統合型とは、調達、開発、製造、物流、販売などの業務プロセス単位ごとに企業が区分されているものと、素材、部品、完成品などのサプライチェーンの要素ごとに企業が区分されているものに分けられます。これらの企業が垂直的にリンクして企業グループを構成しています。

(2) 水平展開型

水平展開型とは、コア事業から周辺事業あるいは非周辺事業への多角化により形成された異事業を行う企業グループを組み合わせて構成されています。

(3) 複合型

複合型とは、垂直統合型と水平展開型の子会社群が入り組んで、複合化したもので、大企業が多数存在する特大規模の企業グループに多く見られます。

グループ企業全体のITコスト削減効果を高めるには、グループ企業形態の特徴を予め認識してコスト削減計画を立案する必要があります。例えば、垂直統合型グループでは、事業目的、取扱商品にも共通性があるので、IT戦略の重視すべき点にも共通部分が多い傾向があります。また、水平展開型グループにおいては、各企業の業種、業態、企業規模なども異なり、IT戦略の重視すべき点には共通部分が少ない傾向があります。また、垂直統合型に比べてグループ企業の結集力は強くない傾向が見られます。

スケールメリットによるITコスト削減策

グループ企業のスケールメリットを生かしたITコストの削減には、次の3つの方法があります。

(1) IT資源の共有

グループ企業が、IT資源を共有する方法の一つにシェアードサービスがあります。この場合のシェアードサービスとは、グループ内の複数企業に散在する共通的な業務やサービスを、標準化するとともに集中し、複数企業で共用することにより、効率化する手法です。対象となる業務は、人事、総務、経理などの一般に間接業務と呼ばれるものです。ただし、各企業で遂行しているこのような業務を単に一箇所に集約しただけでは、総要員数は殆ど変わらず、メリットは少なくなります。各グループ企業で行っている業務方式の全てが固有のやり方でなくてはならないという考え方を捨てて、コアコンピタンス以外は、最も効率的な業務方式に一本化し、同じ手順や方法で大量の業務を画一的に遂行できるようにします。グループ企業の業務の標準化を徹底させることにより、シェアードサービスのスケールメリットを最大限に発揮させることができます。

(2) 共通業務の集中処理

共通業務の集中処理としては、PC、サーバー、OA用品などのグループ一括購買があります。各グループ企業が個別に行っている購買業務を集約し、購買業務に掛かるコストの削減と、スケールメリットを生かしたボリュームディスカウントによる購入費用の削減です。また、ソフトウェアライセンス購入に関しても、各社のライセンス数を集計して、トータル数が増えれば増えるほどディスカウント率が高くなり、より安価に購入できます。各グループ企業の購買業務を一括処理して、グループ全体の調達業務のコスト削減を実現します。さらに、グループ全体の購買履歴が一元化され、購買実績、購買傾向などが正確に把握、管理することで、購買計画立案にも役立ち、適切な在庫水準が維持できます。

(3) ナレッジの共有

グループ企業がナレッジを共有することにより、グループ企業間で、各社の成功・失敗事例、取組事例などを共有したり、社員がアイデアを提案したり、自由に意見を交換したりすることができます。IT分野においては、セキュリティポリシー、各種規程類、IT教育指針の雛形などが情報共有の対象となります。また、システム開発標準、開発マニュアル、開発・運用委託のSLAやRFP(提案依頼書)作成マニュアル、外部委託契約書案のレビューマニュアルなどのノウハウも共有可能です。ナレッジの共有は、各種のマニュアル作成や改訂に伴う重複する作業を減らすことになるだけでなく、グループの中からより効率的な手法を見出すことにつながります。

グループ企業の取組における落とし穴

グループ企業全体で取り組むITコスト削減の期待される効果は、企業が気付かない潜在的なコスト削減も含めれば計り知れないものがあります。しかし、グループ企業全体の統一化や標準化などを優先し過ぎると、グループ各社の独創性が喪失し、個別事業の意思決定や実行のスピードが鈍る恐れがあります。やみくもにITガバナンスの強化を推進し、グループ各社のIT計画などを制約するのではなく、それぞれの独立性や独自性を尊重しつつ、グループ企業全体のITコスト削減に取り組むことが肝要です。
また、実際にグループ企業全体で取り組むと、さまざまな問題に直面します。「集中購買にして間接部署を設けたら固定費が余計に掛かる」、「IT機器を集約したら災害時のリスクがグループ企業全体に及ぶ」、「すぐにコスト削減効果が見込めない」、「ITコスト削減のための新規投資額が莫大で新規投資額がITコスト削減額に見合わない」等。
私たちは、ITアドバイザリーサービスの豊富な実績とノウハウを生かし、低コストで、こうした問題や障害の抜本的なソリューションを含めて、グループ企業全体のITコスト削減を支援しています。
貴社においてグループ企業がITコスト削減に取り組んだ場合、大きな成果が期待できるかは、次のチェック項目で診断してみてください。Yesの数が多い程、コスト削減効果は期待できます。

ITコスト削減 - 自己診断チェック項目

子会社、関連会社を集約すれば、社員数は約3000人を超える。 (Yes、No)
今までにグループ企業間で連携してITコスト削減に取り組んだことがない。 (Yes、No)
グループ企業間でデータセンターやサーバーを共有していない。 (Yes、No)
グループ企業間で、使用するソフトウェアなどは標準化されていない。 (Yes、No)
グループ企業全体のITコストを統括した担当部署や管理者はいない。 (Yes、No)
サーバー、PC等の調達は、各グループ企業が独自に行っている。 (Yes、No)
消耗品、文具品は各グループ企業が独自に調達している。 (Yes、No)
開発保守、運用などの外部委託も各グループ企業が独自に行っている。 (Yes、No)
各グループ企業には開発保守、運用の委託見積りを精査できる人がいない。 (Yes、No)
情報セキュリティ管理などは、各グループ企業が独自に行っている。 (Yes、No)




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