アドバイザリー
会計不正 ― 会計不正の手口と事例

第一回: 総論、現金及び預金に関する会計不正

2013.09.18
秋元 宏樹
秋元 宏樹
新日本有限責任監査法人
ビジネスリスクアドバイザリー部 シニアマネージャー
公認会計士

早稲田大学商学部卒後、复旦大学(上海)留学。1996年監査法人入所後、2003年より5年間EY上海事務所にて、中国現地法人の会計、監査、税務及びコンサルティングに従事。多業種・多規模の中国現地法人マネジメント問題に関与。
現在、中国をはじめ海外・新興国で事業展開する日本企業に対して、海外子会社リスク・マネジメント、内部統制・内部監査アウトソーシング、グループ会社マネジメント、不正・不祥事・コンプライアンス対応、海外進出・M&A・撤退、税務・会計、株式公開(IPO)支援、調査及び教育研修などの各種コンサルティングを提供。
多数の中国語専門翻訳・専門通訳実績を有するマルチリンガル(日本語、中国語、英語)として講演、官公庁・企業内研修、執筆・論文等多数。


会計不正とは何か

いわゆる「不正」はいくつかのカテゴリーに分類できますが,ACFE(公認不正検査士協会)による三分類をご存じの方は多いのではないでしょうか。ACFEは,不正リスクを,不正会計(不正な財務報告),横領(資産の不正流用)および汚職に分類しています。
ちなみに,似たようなものとして不正の三原因があり,不正の三分類とよく混同されていますので,参考までに併せて提示します(図表)。会計不正は横領や汚職などの不正に比べて,(予算や業績目標,業績連動報酬などの)プレッシャーが強く働く傾向がありますが,会計不正の実行が容易に可能となる機会が存在するという,企業管理や内部統制の環境そのものの方が重要な問題です。

不正の三分類(参考)不正の三原因

不正会計に関係するリスクの例示として,収益や費用の不適切な報告,資産や負債の不適切な記載(不適切な評価や分類,未認識負債など),不適切な情報開示,資産の不正利用があげられています。これらは,会計処理や開示の領域でなされる不正であり,取引や事象の認識,測定,仕訳,集計,転記,分類などの過程でなされます。
また,横領に関係するリスクの例示として,現金の窃盗,不正支出,給与不正,経費精算,融資,不動産,電子送金,小切手・カード,保険,棚卸資産,無形資産などがあげられています。これらは,資産の横領や着服,窃盗など,会計処理や開示の過程で不正行為がなされる訳ではありませんが,最終的に会計上の損失につながること,関連する証憑や帳簿などの虚偽記載や改ざん,隠蔽などを伴うことから,本連載では会計不正に含めて取り扱っています。

進化・拡大する会計不正

また,会計不正の手段も,伝票や証憑の改ざん,収益や費用の期ズレといった伝統的で“見えやすい”ものから,会計システムや業務システムの不適切な操作や設定,合理性や妥当性を欠く見積もりや予測などの,より“見えにくい”ものが増えてきています。
そもそも,ソフトウェアや役務の提供や権利の授受など,会計の対象となる取引や事象そのものが,無形で見えないものが増えてきていますので,伝統的な会計不正のみならず,“見えにくく”かつ“巧妙化する”現代の会計不正への対応も強く求められています。
企業活動の国際化が進み,海外における会計不正への対処が迫られる一方で,新興国を中心に伝統的な会計不正が後を絶ちません。内部統制制度が導入されて海外拠点への浸透も進んできていますが,海外における管理体制そのものが脆弱で,内部監査などのモニタリングの実効性が乏しいことなどがその背景にあります。

現金・預金不正 ― 使い込みや横領

現金や預金項目の不正は,不正の中でもかなりポピュラーで古典的な部類に属します。たとえば,小さなものであればレジ現金の持ち出しがあります。これは,定期的に受払記録と残高を照合すれば比較的容易に発覚しますが,商店街にある小売店や飲食店でよく見かけるように,レジを打っていない状況では,少額であればなかなか発覚しないでしょう。
なお,レジに限らず,小口現金などでも多頻度の受払がある場合は,お釣りの渡し間違いなどにより,残高が合わないことはよく生じていますが,恒常的に一定額が合わない,定期的に差異が生じる場合は,不正の可能性が高くなります。このリスクを抑えるために,小口現金の残高を少額にしたり,小口現金から外部記録が残る振込やカード払いに変更するという対策を講じることがよく行われています。
大きなものとなりますと,出納・財務担当者による預金の使い込みや不正送金があります。個人の遊興費やギャンブルへの充当や借金の返済という動機が主たるものですが,個人の資金繰りの関係から一時的に預金を“拝借”するも,目算が狂って元に戻すことができなくなったり,チェックが緩やかなために徐々に金額が膨らんで行ったりします。
虚偽の送金や支払の仮装による横領の場合は,送金記録や支払記録の承認や検証がきちんと実施されていないと長期間判明しない確率が高くなってきます。また,送金記録や支払記録を残さない単なる横領の場合は,現金や預金の実際有高は帳簿残高より少なくなりますから,何らかの形でつじつまを合わせる必要がでてきます。出納・財務担当者以外の第三者が,実際有高と帳簿残高を定期的に照合・確認していない場合,これらの間に差異があったとしても,長期間判明しないことが少なくありません。

現金・預金不正 ― 隠ぺいや穴埋め,手口の現代化

現金や預金の実際有高は帳簿残高と定期的に検証を受けるため,つじつまを合わせるために,いくつかのテクニックや,証憑や帳簿の偽造や改ざんが通常行われます。典型的な手法としては,期末に他行宛の小切手を振り出すことによるカイティング,期末に簿外で資金を融通してきて期初に返済する手法があります。
カイティングは,他行宛てに振り出した小切手は翌期に落ちるため,振り出した銀行の通帳残高や残高証明では,振り出した小切手の金額が過大に計上されていることを利用したものです。銀行勘定調整表を作成して検証すれば判明しますし,翌期の銀行通帳や取引記録において小切手取引をチェックすれば,振り出し側銀行の残高が過大であることは簡単に判明しますが,それらを怠っているとなかなか判明しません。
また,大胆ではありますが,意外とポピュラーな手法が,預金証書や小切手,手形の偽造およびそれらを担保にした資金融通です。コピーや手書きは論外ですが,デジタル化が進んだ現在,預金通帳や残高証明書,取引通知書,小切手や手形の偽造や改ざん精度は向上しており,透かしや用紙を含めて本物と見分けがつかない(ホンモノが横流し・売買されている?)ケースもあります。
皮肉なことに,海外や新興国ではホンモノの精度がそれほど高くなく,最新鋭の偽造技術を有している場合もあります。ハンコがあるだけでは信用できず,金融機関の窓口に直接出向いて証明書の発行を受ける,残高を確認するという手法を行使することもあります。複数の外部証拠と照合する,複数の手続を組み合わせないと,海外や新興国の現金や預金の会計不正を見抜くことは難しいのが現実です。

(中央経済社「企業会計」2013年1月号)

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