アドバイザリー
会計不正 ― 会計不正の手口と事例

第三回: 売上債権と会計不正

2013.09.18
山田 孝次
山田 孝次
新日本有限責任監査法人
ビジネスリスクアドバイザリー部 シニアマネージャー
公認会計士、公認内部監査人(CIA)、公認不正検査士(CFE)

監査法人入所後、製薬、自動車等複数業種において、内部統制のプロジェクトマネージメント、整備構築及び運用評価にかかる支援業務 、内部統制の効率化、高度化支援など、内部統制(J-SOX)関連のアドバイザリー業務に多数従事する。また、会計不正に絡むガバナンスの構築支援や研修会講師、内部監査の外部品質評価なども多数経験する。


前回は経営者不正に絡んだ巨額不正につながる手口として循環取引を取り上げました。会計不正といえば,有名企業の巨額不正などに目を奪われがちですが,実は,ほとんどの会計不正は従業員レベルで発生しています。そこで今回は,売上債権の回収と貸倒れに絡んだ従業員レベルの会計不正の事例を取り上げます。
売上債権は,請求および計上から回収,貸倒に至るまで,どの段階でも従業員レベルの会計不正が発生します。たとえば,請求および計上では請求書金額の水増しによる着服,回収ではラッピングや不正な値引き処理,貸倒れでは貸倒引当金の過小計上や貸倒債権の着服などあります。
その中で今回は、

  • 売上債権の回収でのラッピング
  • 貸倒れでの貸倒債権の着服

の手口の解説と防止・発見方法を簡単な事例を交えて解説します。
これらは,きちんとした内部統制の仕組み,特に職務分掌を徹底することで未然に防止し早期に発見できる事例が大半です。

ラッピング(Lapping)

最近の企業は,記帳担当と回収担当を分けるなど職務分掌が整備されていますが,海外などの比較的小規模な営業所などではラッピングの事例が未だに多く発生しています。そこで,ラッピングの概要を理解するため事例を単純化して説明します。

【事例】

  • 顧客Aから売上債権100を小切手で回収したが,入金額を抜き取って着服
  • 顧客Aに対する入金通知書や領収書,支払い督促状などの書類を偽造するなどして隠ぺい
  • 顧客Bの売上債権150を現金で回収し,50を着服,残りを顧客Aの口座へ充当
  • 顧客Bに対する書類を偽造して隠ぺい
  • 顧客Cに対しても③~④と同様の手口を繰り返す

事例

【解説】

ラッピングとは,埋め合わせ(たらい回し)横領のことで,売上債権のスキミング(帳簿で入金処理をする前に現金を抜き取る)の隠ぺいに最も頻繁に使用される手口です。この手口では,自転車操業的にこの行為を繰り返すことが必要で,不正が発覚するか,または売上債権が貸倒処理されるまで続くこととなります。なお,上記事例では売上債権残高が全額入金されていますが,顧客との間では毎月取引が発生することが通常であるため残高が常に変動し,さらに取引先からは内金で入金されることもありますので,適切に残高の期日管理をしていないと不正を招きやすい状況となります。

また,隠ぺい行為が長期化し,着服額を不正な売上値引き処理で帳消しにするなど,他の不正の手口を絡めて隠ぺいを図る等複雑なスキームとなるのが一般的で,不正行為者は着服した顧客や金額を管理するために,別途不正の記録を残すことが多いということにも留意した方がいいでしょう。

【防止・発見方法】

ラッピングは一時的に取り繕う手口のため,以下のような方法で内部統制を整備し,不正の端緒を見つけ出すことが効果的です。また,現金での回収をせず銀行振り込みへ変更することなども検討する余地があります。

  • 残高確認
    定期的に顧客に対して売掛債権の残高確認を行うことは債権管理の基本的な手続きであり,不正に対して最も有効な手続きです。
  • 領収書管理
    領収書の連番管理を徹底し,全ての入金金額と使用した領収書をひも付きで管理できるようにします。
  • 滞留債権管理
    回収期日になっても入金されない売上債権を適時に把握し,顧客に督促を行うような管理体制を構築します。
  • 職務分掌
    内部牽制の基本ですが,入金を記帳する担当者と回収担当者の職務を分離し,不正を可能とする機会をなくすことが必要です。

貸倒債権の着服

【事例】
A社は取引業者Bの業績が悪化したため,売上債権の回収が不能と判断して債権残高の全額を貸倒処理し,帳簿上の残高を0円とした。数年後,A社との取引がなくなっていた取引業者Bは,新規事業が好調なことから業績が回復し,過去のA社に対する債務を返済した。しかし,A社は現在の取引がないことからB社の現況を把握していなかったため,A社の担当者はこれを利用して帳簿上の入金処理をせず,この返済金を着服した。

【解説】
貸倒れが頻繁に発生する会社となると,会社の経営そのものが問題となりますので,貸倒処理は通常は売上債権の計上や回収からすると特別な事象となります。そのためか,売上債権では内部牽制が働いた十分な内部統制を構築し運用を行っているものの,いったん貸倒処理されてしまうと管理が疎かになっている事例が意外と多く見受けられます。貸倒債権は,そもそも回収されることが期待されていないため,未だ貸倒債権の着服が発覚していない事例も多数存在するものと思われます。
また,貸倒処理を実施する際には,支店など複数に分散して管理されていた全ての債権債務を集約して,本社の管理部門に残高を移管することが一般的です。しかし,本社管理部門は定期的な督促のみ実施し,相手先の現況把握など貸倒債権の回収のため努力を怠り,時間が経つにつれて担当者も交代して当時の状況が忘れ去られていく傾向にあります。貸倒債権であっても,通常の売上債権と同じ管理が必要であることは言うまでもありません。

【防止・発見方法】

  • 管理台帳の作成
    管理台帳には備忘価格で記録しますが,貸倒前の債権残高や貸倒に至った経緯,督促の経過を記録します。担当者の交代に際して引継ぎを十分に実施し,最新の取引先の状況も常に更新する必要があります。
  • 職務分掌
    ラッピングと同様,入金記帳をする担当者と回収担当者の職務を分離し,内部牽制の機能が発揮できる体制とすることが重要です。

(中央経済社「企業会計」2013年3月号)

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