アドバイザリー
会計不正 ― 会計不正の手口と事例

第四回: 棚卸資産の会計不正

2013.09.18
山田 孝次
山田 孝次
新日本有限責任監査法人
ビジネスリスクアドバイザリー部 シニアマネージャー
公認会計士、公認内部監査人(CIA)、公認不正検査士(CFE)

監査法人入所後、製薬、自動車等複数業種において、内部統制のプロジェクトマネージメント、整備構築及び運用評価にかかる支援業務 、内部統制の効率化、高度化支援など、内部統制(J-SOX)関連のアドバイザリー業務に多数従事する。また、会計不正に絡むガバナンスの構築支援や研修会講師、内部監査の外部品質評価なども多数経験する。


第二回と第三回で販売取引に絡む会計不正を解説しましたが,第4回では販売取引と併せてよく利用される棚卸資産(商品,製品のほか未成工事支出金など会社の事業内容によって様々な科目がありますが,総称して,棚卸資産と呼びます)の会計不正を取り上げます。

棚卸資産の会計不正とその特徴

売上原価の計算式は,『期首棚卸資産+当期仕入高-期末棚卸資産』ですので,期末棚卸資産を増加させれば,それと同額の売上原価を減少(利益を増加)させることができ,利益に最も直接的に影響を与えることができるという特徴があります。
また,期末棚卸資産の計上額を会計基準の解釈(原価計算や評価方法など)の問題にすり替えられてしまうこともあり,そのためか不正の匂いを何となく嗅ぎつけていながらも,なかなか所在を突き止めることが困難なことが多いという特徴もあります。

棚卸資産の会計不正の手口のパターン

棚卸資産の会計不正の手口のパターン

棚卸資産の会計不正の手口として良く利用されるのは、

  • 売上原価の在庫付替え,未計上
  • 架空の棚卸資産の計上
  • 評価損計上の先送り,過少計上

などのパターンがあります(図)。
手口が単純なため担当者レベルで行われることが多いと思われがちですが,実は経営者の巨額不正の手口でも利用されている事例が多数あります。たとえば,複雑なスキームを駆使したことで知られている巨額の不正会計事例において,棚卸資産の数量と単価の操作による水増しや架空計上,陳腐化棚卸資産の評価損を計上しない等の手口が含まれていました。このことは,不正会計において,棚卸資産の操作が常套手段であることを示唆しているものと思われます。

棚卸資産の会計不正の発見方法

それでは,棚卸資産の会計不正はどのように見つけ出せばいいのでしょうか。手口が単純であることが多いため,やはり基本に立ち返り,以下の手続きが効果的でしょう。

A)棚卸資産の現物確認

架空に計上された棚卸資産は,実地棚卸手続により現物を直接確認することがもっとも簡単で有効な方法です。しかし,在庫証明書の偽造等による虚偽または架空在庫,遠隔地倉庫での保管による現物確認の回避など,会計不正の実行者は,様々な策や口実を講じることによって,不正の兆候をキャッチできないようにすることが一般的です。

また,ようやく現物を確認することができたとしても,仕掛品や未成工事支出金などは現物を見ただけでは金額の妥当性を判断することが困難です。このことを悪用して棚卸資産の水増しが行われることがありますので,棚卸資産の会計不正に対して現物を確認するだけ十分ではありません。

B)期間比較,売上高等との分析検証

年度,四半期や月次の残高や取引高,率等を継続的にモニタリングする必要があります。一方向に残高が増加するなど,異常または不自然な数値の変動が生じた場合には十分にその理由を分析検証する必要があります。モニタリングに引っ掛からないように,数値変動を招かない形で不正がなされることも多く,ビジネスの状況を熟知した者によって実施される必要があります。

なお,売上高と棚卸資産の関係は回転期間(棚卸資産の在庫期間)として計算されますので,これにより趨勢と期間自体の妥当性を検証します。売上高の増加より棚卸資産の増加の方が顕著な場合は粉飾の可能性が高まります。

これ以外にも滞留期間や勘定分析など,正常なビジネス状況に照らして違和感を覚えた場合には,ビジネスの実質面に踏み込んで徹底的に分析調査することが肝要であると思われます。

事例紹介

先の①~②のパターン毎に会計不正の事例を簡単に紹介します。

【①売上原価の在庫付替え,未計上の事例】
設備関連事業を営むA社は,受注した一部の工事物件において,実在する売上や仕入の原始証憑の日付・物件名を操作・改変して,売上・仕入(原価)を本来計上しなければならない年度から前倒しするなどの手口で,過去5事業年度にわたって過大な利益を計上していました。
具体的には,

  • (1)物件の原価を翌期以降の他の工事物件の原価として付け替える方法により,原価の計上を先送りする
  • (2)引渡し前の物件について,原始証憑の日付を改変して売上を前倒し計上するが,原価の計上をしない

といった方法によるもので,それぞれが単独あるいは組み合わせて用いられていたりして過大な利益が計上されていました。

【②架空の棚卸資産の計上事例】
物品販売業のB社の管理部門を管掌していた取締役が,業績予想として発表した利益額を確保するため,経理担当社員に在庫の調整,証憑改ざんを指示していました。

具体的な手口は,

  • (1)棚卸原票の未使用ページに実在しない在庫数量を記載し,在庫数量を増加させる
  • (2)評価単価の安い倉庫在庫を評価単価の高い店舗在庫として計上し,評価額を増額する

といった方法に加え,一部の在庫には適正な社内手続を経ずにその評価額を増額する方法が採られていたことが判明しました。

【③評価損計上の先送り過少計上する事例】

【③評価損計上の先送り過少計上する事例】

中古マンションの販売を手掛けるC社が,交換取引に絡んで評価損を不計上とした会計不正の手口です。資金や手数料の授受など取引自体は複雑ですが,単純化すると,C社の物件(簿価110,売却前に時価相当額の60まで簿価を引き下げ,評価損50を計上)をD社の物件と交換しましたが,C社はその計上額を評価損計上前の110としていました。

上述3事例は,J-SOXが適用される上場会社で発覚した会計不正です。会計不正の抑止や発見に対する内部統制の機能を見直すのみならず,不正の兆候を見つけ出すための取組みと感性を強化し続けることが重要であるといえます。

(中央経済社「企業会計」2013年4月号)

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