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会計不正 ― 会計不正の手口と事例

第五回: 固定資産に関する会計不正

2013.09.18
畠山 正一
畠山 正一
新日本有限責任監査法人
ビジネスリスクアドバイザリー部 マネージャー
公認会計士

大手監査法人にて主に保険会社の監査業務を経験後当法人に入所。当法人では、機械製造、製薬等複数業種において、内部統制関連のプロジェクトマネージメント(USSOX、J-SOX)、内部監査支援(国内、海外)、不正対応支援といったリスク関連アドバイザリーから、経営統合後の支援、決算早期化、不備コントロールの改善といったプロセス改善アドバイザリーにいたる、多岐にわたる業務に多数従事する。


前回まで販売取引や棚卸資産に関する会計不正を取り扱ってきましたが,今回は固定資産に関する会計不正を取り上げます。

固定資産と会計不正

固定資産に絡んだ会計不正には様々なものがありますが,以下に典型的な3つのパターンを紹介します。

  • (1)費用を固定資産として繰り延べ
    費用を不適切に有形固定資産として計上し,償却期間にわたって費用を繰り延べるという会計不正です。
  • (2)セールアンドリースバック取引
    含み益のある固定資産を貸手に売却し,貸手から当該物件のリースを受け,固定資産の含み益を売却時に利益として実現するという会計不正です。
  • (3)固定資産の横領
    価値ある固定資産は横領の対象になりやすく,横領された資産は売却され換金されるか私的に利用されます。

これらについて具体的な事例や防止策をご説明します。

費用の繰り延べ

本来費用として計上すべき取引を固定資産として計上し,費用を翌期以降に繰り延べる不正会計の手口があります。以下の図1に示した通り,本来その期の費用として計上すべき50億円を固定資産として計上し,5年間でその固定資産を定額償却した場合,当期に40億円の利益の水増しが可能です。この手口は単純ですが,実際,Sarbanes-Oxley法(US-SOX)の導入の契機となったワールドコム社によって行われていた不正会計の手法です。
非常に単純な手法のため悪用されるリスクは高く,定期的に費用の資産計上に関する内部統制を適切に構築することが不正防止につながります。

セールアンドリースバック取引

所有する物件を貸手に売却し,貸手から当該物件のリースを受ける取引を「セールアンドリースバック取引」といいます。所有する本社ビルをリース会社に売却し,本社ビルをリース会社から借り受けてそのまま事業の用に供する,といった取引が具体的な例としてあげられます(図2)。これにより,事業に影響を及ぼすことなく手許資金を潤沢にすることが可能になります。さらに,所有する固定資産に大きな含み益があれば,売却時に売却益を計上することが可能になり,利益操作に利用される可能性があります。

セール・アンド・リースバック取引の定義

そのため,セールアンドリースバック取引による利益操作を防止するために,「リース取引に関する会計基準」により売却時に売却益の全額を認識できるケースは限定されています。しかし,基準に従わない会計処理も見受けられ,実際に発生した事例をご紹介します。
ニイウスコー株式会社は平成20年4月30日に,リース取引に関連する同社の行った不適切な疑いのある取引について,「調査委員会の調査結果概要と当社としての再発防止策について」を公表しています。その中に以下の興味深い2つの記述があります。

  • 2)粗利益5%以上を計上したセール&リースバック取引
    (略) こうした会計処理はセール時点で一時に利益の計上が先行して行われる一方,その後のリース料の支払に応じて徐々に費用計上が行われるため,計上した期の利益が実態に対して過大になる。 (略)。
    ただし,これらの案件に関しては,営業担当者には不正の意図はなく,会計基準の認識・理解不足から生じたものであると認められる。
  • 3)リース契約(会社)を利用した不適切な循環取引
    (略) 売上利益の獲得,または損失計上の回避を目的として,(略),自社における設備投資物件に関わる製品等を売上原価として,いったん売上計上し,売却先または転売先経由で,会社がリース会社からリース資産または買取資産として計上するスキームである。

前者は会計基準からの逸脱であり,後者は,循環取引(第2回の売上取引に関する会計不正で紹介)とリース取引が絡んだ不適切な会計処理の事例であり,固定資産売却時に過大な利益を計上していました。
これらを防止するには,売却後も自社利用する重要な売却資産については,売却部門が事前に経理部門と適切な会計処理を検討するといった内部統制を構築することが重要です。

固定資産の横領

固定資産の横領に関しては,株式会社 フジシールインターナショナルのグループ会社におけるパソコンの横流しが影響額の大きい事例として挙げられます。設備部門の技術部長職であった従業員は,偽りの購入手続きによりパソコンを購入し,第三者に転売する手法で現金を着服し,私的な用途に流用していたもので,公表時に明らかになった不正購入額は約47百万円です。
上記横領についての詳細な発生原因は公表されていませんが,通常,固定資産の横領を防止するには,定期的な棚卸や固定資産の購買・管理に関する適切な職務権限の分離が有効です。

(中央経済社「企業会計」2013年5月号)

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