アドバイザリー
会計不正 ― 会計不正の手口と事例

第七回: 仕入取引に関連する会計不正

2013.11.18
八木 理也
八木 理也
新日本有限責任監査法人
ビジネスリスクアドバイザリー部 マネージャー
公認会計士

当法人入所後、大手広告代理店や大手食品メーカー等複数業種において、主に国内外の内部統制・内部監査の支援業務を実施。
当法人入所前は、コンサルティング会社において、大手電機メーカー、大手総合商社等複数業種の内部統制支援(USSOX、J-SOX)、経理業務コンサルティング(IFRSをはじめとした会計導入支援等)および内部監査支援など多岐にわたるアドバイザリー業務に従事。また、会計監査、電機メーカーでの計画策定業務も経験。


はじめに

第7回目の今回は,仕入取引に関連する不正を取り上げます。
購買部門は,社内では資産の調達という重要な権限を有し,対仕入先では顧客として強い立場にあるといえます。従って,こういった「権限」「立場」を適切にコントロールしなければ,不正を発生させる動機が生まれてしまいます。
また,仕入取引は,実物資産の受領や金銭の支払を伴います。これらはいずれも横領や詐取の対象となりやすい性質がありますので,不正の機会を生じさせやすいと言えます。
以上を踏まえ,仕入取引において起こりうる具体的な不正のケースを考えてみることにしましょう。

架空仕入

(1) 想定されるケース
購買や発注の権限者が,必要な資産の発注を装って架空の発注を行い,実際には物品やサービスを受領していないにもかかわらず検収処理を行い,購入代金を不正に取得するようなケースです。一般に,仕入先担当者との共謀により行われる傾向が強いと言われます。
これに相当する事例が,平成25年に公表されています。開示された調査結果によりますと,システムコンサルティング会社のZ社において,営業責任者が得意先担当者と共謀し,Z社受注案件の一部に架空のサービスを紛れ込ませ,これを別の共謀者が経営する下請会社に架空発注することにより,Z社から支払われた外注委託費を横領しました。その額は7年間で8億円にのぼります。

(2) 内部統制上の問題点
Z社の事例では,モニタリングの有効性と職務分掌の問題が大きく影響しています。
即ち,架空仕入は多くの場合,実際にサービスの提供を受けた際に検収が実施されること,また検収を行った者と別の担当者が,作業完了報告等の証憑を仕入計上時もしくは支払時に確認することにより発見することができます。しかし,このケースでは,確かにサービスの検収を行った者と別の担当者が仕入計上や支払を実施していたものの,その担当者にサービス内容に関する十分な知識がなかったため,実質的には営業担当者からの申請をそのまま処理している状態でした。これでは,モニタリングが機能せず,職務分掌の意味がありません。
サービスは無形資産ですので,受領確認が書面のみで交わされることが多く,取引の実在性の確認が物品の購入よりも難しいと考えられます。特に事例のようなシステムコンサルティング会社では,顧客に提供するサービスの一部を外部委託で賄い,更にその外部委託にあたり営業部門自ら購買取引を行う場合があります。このような状況では,同一人物に権限が集中し,架空仕入等の不正取引が適時に予防・発見できません。この事例においても,社内の内部統制で不正行為が発覚することはなく,税務調査で発見される結果となりました。
こういった不正のリスクを低減するためには,実質的な仕入業務を行う担当者に権限を集中させないこと,また取引のモニタリングを十分実施することといった内部統制の整備・運用が重要といえます。

過少計上

(1) 想定されるケース
業績を良く見せたいとの動機から,売上原価・買掛金の過少計上を行おうとしても,ITによる管理が進んだ現在では,モノと数字の動きが連動しており簡単には実行できません。しかし,モノの動きと連動しない割戻取引を利用すれば,比較的容易に実行することができます。即ち,仕入先との合意のない仕入割戻を,あたかも仕入先と合意したかのように装い,仕入金額から控除して計上することで,粗利や営業利益を大きく見せるケースです。
これに相当する事例が,平成24年12月に公表されています。開示された調査報告によりますと,食品小売業のY社において,商品部門責任者が仕入先の承認なしに仕入割戻明細書を作成し,経理部に指示して架空の仕入割戻を計上させていました。これにより一時的に粗利が改善し,業績は向上したように見えますが,仕入先からはこれに対応する入金は行われないため,未入金の割戻残高がどんどん積み上がります。結果として,平成23年から平成25年までの3年間で,架空の仕入割戻が1億8千万円計上されています。

(2) 内部統制上の問題点
Y社の事例では,特に外部証憑によるチェックの問題が大きく影響しています。
即ち,仕入割戻は,通常仕入先からの契約書等を検証し,契約上の取り決めに従っていることを確認した上で計上すべきところ,Y社では,契約書等の添付がない場合でも計上処理を行っていました。
また,仕入先への残高確認手続により架空の割戻を発見できることがあります。Y社でも確かに残高確認手続を行い,差異を発見していたのですが,差異原因の分析など,十分な対応がとられていませんでした。
更に,この事例の大きな特徴は,経営者が不正を意図的に隠蔽していたことです。即ち,架空の仕入割戻が積み上がった結果発生した買掛金の違算約6千万円について,社長をはじめ取締役3名が私財で補填し,未収入金が正常に回収されたかのような会計処理を行わせていました。経営者自らが隠蔽を主導しては,たとえ内部統制が正常に機能していても意味がありません。
なお,こういった仕入割戻に関連する内部統制上の問題は,たとえば割戻の一部を横領したり,仕入先に要求して一部の割戻を簿外処理の上キックバックさせるなど,私的流用を伴う不正の機会を生じさせる場合がありますので,注意が必要です。

まとめ

このように,職務分掌や外部証憑のチェックといったプロセスレベルの内部統制の整備・運用は,不正の予防・発見の観点から有効です。しかし,決められた手続がルーチン業務として淡々と行われるだけでは,十分機能しないことがあります。不正事例の調査報告に多く記載されているのは,取締役のコンプライアンス意識の欠如です。不正リスクの高い領域を十分把握し,そこに設定された内部統制の状況をモニタリングすること,また内部統制の実施者に統制活動の目的を十分理解させることなど,内部統制への積極的な関与が,取締役に求められています。

(中央経済社「企業会計」2013年7月号)

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