アドバイザリー
会計不正 ― 会計不正の手口と事例

第九回: 引当金、その他の負債項目に関連する会計不正

2013.11.18
村松 淳哉
村松 淳哉
新日本有限責任監査法人
ビジネスリスクアドバイザリー部 マネージャー
公認会計士

総合電機メーカーの内部統制(US-SOX)関連支援業務や、システムインテグレーション業等複数業種の内部監査支援業務などのアドバイザリー業務の他、法定監査業務、株式公開支援業務、財務デューデリジェンス実施業務、従業員教育(利益マインド研修)など多岐にわたる業務に従事。
日本公認会計士協会会計制度委員会の専門委員として、外貨建取引等会計基準実務指針の作成、および企業会計基準委員会の専門委員として、1株当たり当期純利益に係る会計基準・実務対応報告の作成に従事。


はじめに

第9回目の今回は,引当金,その他の負債項目(以下,引当金等という。)に関連する不正を取り上げます。
引当金等の勘定科目は,法的債務の性格を有するものも含めて,計上金額を何らかの見積方法により決定しなければならないという特徴を有しています。見積である以上,いかに正確性を期して金額を算定しても,実績値との間には誤差が生じる可能性があります。また,見積値であることに着目して,損益の調整に利用される可能性が高い項目であるともいえます。引当金等の金額の妥当性を判断しうる社内関係者は非常に限定されていることが多く,不正の意図を以て会計処理(未処理を含む)された場合,発見までに時間を要するケースが多く見受けられます。
引当金等の計上に際しては,経理部門が見積のための基礎情報を社内外から収集し,金額を算定する場合もありますが,関係部署が自ら収集・集計した基礎情報に基づき計上金額を見積り,事実上決定している場合もあります。上記いずれの場合でも,引当金等の計上に関して,以下のような状況があてはまる場合,会計不正が発生しやすいと考えられます。

  • 引当金等について明確な計上方針,計上手続が定められていないか,関係者に共有されていない。
  • 見積根拠資料が整備されていないか,事後的に確認できるように保存されていない。
  • 見積根拠資料や計上金額の算出結果に対して,第三者によるチェックがなされていない。

以上を踏まえて,引当金等に関して生じうる具体的な会計不正のケースを考えてみることにしましょう。

受注損失引当金の計上回避

(1) 想定されるケース

受注産業において,受注案件の見積総原価が受注額を上回る赤字案件の採算を改善するため,製造原価の一部を(採算の良い)他の案件に付け替え,採算を見かけ上確保するとともに,赤字案件について計上が要求される受注損失引当金の計上を回避するケースです。
このケースに相当する事例が平成24年に公表されています。開示された調査結果によると,プラントエンジニアリング会社のX社において,海外案件担当役員が,不採算のA案件と,発注者,工事内容がA案件と類似していて,採算が確保されているB案件との損益の平準化を部下のマネージャーに指示し,当該マネージャーは両案件の製造指図書間で材料費の付替を行い,採算の調整を図りました。
同社の会計方針では,見積総工事原価が受注額を上回ることが見込まれる場合は,当該差額について,受注損失引当金を計上することとしていましたが,上記の調整により,A案件の赤字は回避されたため,当該引当金の計上対象には含まれませんでした。
また,同社では金額や工期について一定の要件を満たす案件については,工事進行基準により売上計上する方針としており,A案件は当該基準を満たしていましたが,上記の調整により,見積総工事原価が減額され,工事進捗率が上昇したため,調整前よりも工事進行基準による売上高が増加しました。(B案件は工事進行基準対象案件でなく,原価振替が行われた会計期間は仕掛中でした。)
同社は本件に関して決算の修正を行いましたが,材料費の付替がもたらした会社決算への影響は,修正前後で連結営業利益の約24%,個別営業利益では54%の変動(減少)率に及びました。

(2) 内部統制上の問題点

X社の事例では,工事案件に係る原価計算や引当金等の見積計算についての内部牽制上の問題が大きく影響しています。
同社では,当該事例が発生する直前の組織変更により,海外案件担当役員の管掌範囲,権限を拡大し,業務の効率化を図る施策がとられましたが,このことが海外事業担当部門に対する外部からのチェックが入りにくい状況を生み,担当役員に会計不正(材料費の付替)の機会を与えてしまったと考えられます。
また,工事案件の原価については,案件毎の予算管理が実施されていましたが,権限の増大した役員のもとで,当該モニタリングコントロールは形骸化していたと考えられます。
本件の原価付替による工事損益の調整,受注損失引当金の計上回避は製造指図書間の調整作業を通じて実行されましたが,もしも,製造指図書間の原価付替が経理部門によって事前に確認・検討されていたら,あるいは見積総工事原価の変動が予算管理によって厳密にモニタリングされていたとしたら,このような利益操作は未然に防げたかもしれません。しかし,権限の集中による内部統制の無効化により,いとも簡単に実施されてしまったのです。本件は,海外事業の特殊性,業務の効率性を優先するあまり,権限の集中を招き,内部統制(牽制)の観点がおろそかになってしまった事例といえます。
会計不正が発生しやすい状況として,「はじめに」に記載したもののうち,①と②が該当するかは不明ですが,③はまさにあてはまる状況であったと考えられます。

まとめ

このように,引当金等の見積項目は,計算の根拠を調整することにより,計上金額を容易に操作(計上の回避を含む)することができます。しかも,通常外部の取引先との共謀を必要とせず,一部の社内関係者だけで辻褄を合せることが出来てしまいます。そして,不適切な金額であることに第三者が気付くまでに比較的長い期間を要することもあるため,影響が累積し,発覚とともに過年度損益の修正につながることも充分に考えられます。これは,会社の信用を大きく傷つけ,事業の成長・継続にもマイナスの影響を及ぼすでしょう。
本事例でいえば,本社の経理部員が損益調整後の案件情報を渡されても,受注損失引当金の計上対象案件を正しく把握することは困難であったと考えられますし,材料費の付替が発覚するまでに8カ月間を要しました。その間に影響額はみるみる膨らんでいったのです。
したがって,引当金等の会計処理に影響を及ぼしうる管掌役員の財務報告に対する倫理感が非常に重要といえます。自分の目標達成のために行ったことが,結果的に会社全体の業績を大きく歪め,その存続を危うくする可能性もあるからです。
また,一部の役員に機能や権限が集中する状況は業務遂行上の合理性はあっても,会計不正のリスクを防止する観点からは好ましくなく,このような体制の変更に際しては内部統制が有効に機能し,リスクを低減できるかどうかの検討を慎重に実施すべきといえます。

(中央経済社「企業会計」2013年9月号)

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