アドバイザリー
会計不正 ― 会計不正の手口と事例

第十一回: 人件費に関する会計不正

2014.02.03
第十回 税効果・諸税金に関する会計不正
堀内 公博
新日本有限責任監査法人
ビジネスリスクアドバイザリー部 マネージャー
公認会計士

2013年7月当法人に入所。
監査法人、および日本あるいは中国のコンサルティング会社において、金融、事業会社のJ-SOXおよびUS-SOXの監査・アドバイザリー業務、内部管理体制構築支援業務に従事。また、メガバンクにおいてSOXチームおよび中国での現地法人設立メンバーとして業務に従事し、外資投資銀行においては内部監査部門に所属。その他、IFRS導入支援、M&A、IPO、および国内外の税務関連の経験も有する。


11回目の今回は,人件費関連の不正に焦点をあてて説明します。
人件費は,外部との共謀というのはあまりなく,社内で完結するものが多いため,ある意味不正の温床になりやすい性格のものと言えるでしょう。
それでは,実際にどのように不正が行われているか,見ていきましょう。

架空人件費

ある従業員がすでに退職しているにもかかわらず,あたかもまだ在籍しているかのように見せかけたり,あるいは架空の従業員を在籍させることで,その従業員に給与を振り込むことがあります。その際,給与の振込先としては,不正を働く従業員やその家族の口座,あるいは退職者と結託して退職者の口座を利用するケースもあります。
また,現在では給与は口座振込のところがほとんどですが,一部,アルバイトに対して現金で支給しているところもあります。その場合,アルバイトが退職しているにもかかわらず,まだ在籍しているとして,不正を働く従業員がバイト代を不正に受給し,受け取りのサインまでしているケースもあります。
このような不正を防ぐ方法として,たとえば,①パソコンのログイン状況,②入退出カードの使用履歴,③定年を超えた勤務者,④昇格/昇給等が無い従業員,⑤個人のパフォーマンスデータ,の有無を確認したり,⑥同じ部門の従業員にヒアリングするなどの方法もあります。また,現金で給与を支給している場合は,口座振込にすると良いでしょう。

従業員への上乗せ社長給与

所得税は累進課税制度をとっており,所得が高くなればなるほど高い税率が設定されていますが,その制度から逃れるための不正も存在します。
ある会社の社長が高い給与をもらっており,高い税率での所得税の納税を避けるため,低い税率が適用される従業員数名にいったん社長の給与を上乗せして渡し,その低い税率で所得税を支払った後,社長に上乗せ分を返すということを行っている会社がありました。
これは,経営トップである社長主導で行われており,また,従業員と共謀していることから,その従業員から告発が無い限り,この不正を発見することは難しいでしょう。しかし,雇用されている従業員の弱い立場から,従業員からの告発は困難と思われます。
社長および従業員のモラルを正すほか,有効な手段はないのかもしれません。

架空残業代

残業代について,残業代を多く受給したい従業員が残業時間を水増しして,残業申請を行うことがあります。
現在,多くの会社で上司の事前承認制度が採られており,これにより不必要な,不当な残業を無くそうとしています。しかし,実際は事前承認を超えて残業した場合,その超えた時間について残業か否かを判断することは難しいと言えます。そのため,その超過時間をそのまま事後承認し,実際に部下が請求した金額の残業代を支給しているところが少なくありません。あるいは,承認する上司との結託や,結託しないまでも上司で内容を確認しないまま承認が行われていれば,事前承認は意味のないものになってしまいます。
そのため,事前承認制度を生かしつつ,事前承認を超えた分については上司と部下で業務内容を十分に協議・確認することで不正を防止するとともに,その協議を繰り返すことで,結果的により効率的に業務が行えることにもつながると思われます。
また,上司と部下で結託しているケースもありますので,人事部にて同じ部門内の他の従業員間の残業時間と比較するのも良いでしょう。
その他,世間でよく言われているサービス残業も,本来会社が支払わなければならない残業代が支払われていないため,不正と言えるでしょう。それではということで,みなし残業代を導入するとどうでしょう。その場合でも,その残業代に含まれる時間数を超える場合には会社に残業代の支払い義務がありますので,その超過時間分の残業代を別途支払わない限り,先ほどのサービス残業代の解消とはならないことに注意が必要です。

製造業における人件費の付替え

製造業を営んでいる会社では,製造に係る人件費とそうでないものとが混在します。製造に係らないものは発生時に費用計上される一方,製造に係るものは製造された製品が販売されない限り費用として計上されません。これをうまく利用した不正が存在します。
たとえば,ある会社で,法人税の支払いを抑えるために,本来製造に係る人件費として製品が販売されるまで費用化されないものを,製造に係らないものとして発生時に費用化することで利益を圧縮し,結果,法人税を低くすることがあります。
一方で,融資元の金融機関等,外部に対して利益が発生しているように見せるため,本来製造に係らない人件費を製造に係るものとして,発生時に費用化せず,在庫に含めて費用を抑え利益を増やすこともあります。
これらの不正を発見するために,全従業員について,製造への関与を確認すればよいのでしょうが,規模が大きくなればなるほど全員をチェックするのは難しく,発見は困難と思われます。よって,たとえば,原価率(利益率)を前期と比較し,前期より大きく変動している場合,その理由をヒアリングし,納得しうる回答がなければ不正の可能性を疑ってみると良いでしょう。

さいごに

今回,いろんなパターンの不正事例を見てきましたが,上記以外にも,下記のようにさまざまな不正が存在します。

  • 人事担当者による基本給,肩書など給与支給の基礎データとなる人事データの改ざん
  • 営業担当者による歩合給の基礎となる架空の売上報告,など

このような不正を予防あるいは発見する役割が期待される組織として,内部監査の存在があります。しかし,不正は日々進化・複雑化しており,限られた内部監査のリソースの中で不正を予防・発見するのは難しいかもしれません。

最後になりましたが,今回の記事が少しでも皆さんの不正の予防・発見の一助になれば大変うれしく思います。

(中央経済社「企業会計」2013年11月号)

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