コンサルティング
会計不正 ― 会計不正の手口と事例

第十二回: 海外現地法人の会計不正

2014.02.03
秋元 宏樹
秋元 宏樹
新日本有限責任監査法人
ビジネスリスクアドバイザリー部 シニアマネージャー
公認会計士

早稲田大学商学部卒後、复旦大学(上海)留学。1996年監査法人入所後、2003年より5年間Ernst & Young上海事務所にて、中国現地法人の会計、監査、税務及びコンサルティングに従事。
多業種・多規模の中国現地法人マネジメント問題に関与。
現在、中国をはじめ海外・新興国で事業展開する日本企業に対して、海外子会社リスク・マネジメント、内部統制・内部監査アウトソーシング、グループ会社マネジメント、不正・不祥事・コンプライアンス対応、海外進出・M&A・撤退、税務・会計、株式公開(IPO)支援、調査及び教育研修などの各種コンサルティングを提供。
多数の中国語専門翻訳・専門通訳実績を有するマルチリンガル(日本語、中国語、英語)として講演、官公庁・企業内研修、執筆・論文等多数。


会計不正について一年間連載をさせていただきましたが,第12回目である最終回は海外現地法人の会計不正を通じて,最近のトピックに触れながら会計不正のこれからを考えていきたいと思います。なお,本稿は私見に基づくものであり,所属法人の見解や事例とは関係のないことを予めお断り申し上げます。

海外現地法人,ノンコア事業

最近の会計不正は,親会社よりは,海外の子会社や関係会社などの海外現地法人,本業よりは,ノンコア事業などで発生するケースが多くなってきています。幸か不幸か,親会社と比較すると事業規模が相対的に小さく,ガバナンスやマネジメントの水準が緩やかであることが多く,また会計不正の金額そのものが相対的又は絶対的に少ないことも多いため,それらの会計不正が外部に開示又は報道されることはめったにありません。
それでも,コンプライアンスの水準が相対的に低い海外・新興国への進出が活発になるにつれ,海外現地法人の会計不正が外部に開示又は報道されるケースが最近増えてきています。典型的なケースとしては,当該会計不正が贈収賄や汚職に関係し,当該現地法人が当局の摘発又は処分を受けたり,現地法人関係者が逮捕又は検挙されることで,報道されたり明るみになる場合があります。

贈収賄・汚職と会計不正

贈収賄や汚職は現地および日本の法規に違反する行為であり,主としてコンプライアンス上の問題として取り扱われますが,贈賄や汚職のための原資を「確保」するための手段や行為が,いわゆる会計不正の領域に関係してきます。
典型的な手段としては,いわゆる裏金のプールがあります。虚偽又は架空の取引による支払,実在する取引であるものの過大な取引金額の支払などを通じて,贈賄や汚職のための原資としての裏金を「拠出」していきます。一件当たりの金額は少額であっても,取引件数が多く,また実在する取引先,実在する取引を介在して不正行為が実行されるケースが多く,当該不正行為は容易には発覚しません。

手口は単純,希薄な罪悪感

海外現地法人においては,過大支払,不正経費,簿外キックバックなど,会計不正が悪しきプラクティスとして定着してしまっている場合があります。経営管理者などの当事者が組織的に関与している場合は,通常のガバナンスやマネジメントの手続,内部統制やモニタリング手続でこれらの会計不正が発見されることはまずありません。
地域や倫理観,文化や習慣の違いもありますが,現場担当者が実施又は関与する少額の会計不正であれば,ごく日常的な業務や行為として遂行されていることが一般的で,当該現場担当者の罪悪感はあまりありません。「現地の常識・習慣」,「みんなやっている」などというコメント(正当化・言い訳?)を耳にされたことがある方もいらっしゃるかと思います。

内部統制制度の限界

皮肉な話ではありますが,内部統制制度対応が浸透し,内部統制の整備が進んで運用がなされている海外現地法人において,これらの「適切とはいえない」不正行為が,「規則に従って」申請,承認,処理されていることが少なくありません。形式的や表面的な検証手続やモニタリングではまず発覚しないため,内部統制の限界として語られることも少なくありません。経営管理者が関与する会計不正であれば,なおさらのことです。
また,これらの会計不正は,告発や密告,関与者の逮捕や検挙などによって「発覚」することが多いという厳しい現実があります。そのことは裏を返せば,内部監査などのモニタリングや内部通報制度によって発覚するケースは少なく,内部監査や内部通報制度が十分に機能していない場合があることを示しています。

十分に機能していない内部監査,内部通報制度

そもそも,当該海外現地法人に対する抑止力のある内部監査を実施するだけの余裕を有していない企業も多く,モニタリング体制そのものに問題がある企業も少なくありません。また,伝統的なコンプライアンス重視,会計重視,チェックリスト依存の内部監査では,海外現地法人のリスクを十分にカバーすることもキャッチすることもできておらず,内部監査そのものの実効性も問われています。
さらに最近では,ウェブやSNSに「流出」して問題が発覚するケース,コンピュータシステムを悪用したケース,情報セキュリティやプライバシーの問題を伴うケースも多く,より難易度が高いモニタリングと対処が求められていますが,海外現地法人は手つかずの状態となっていることが一般的です。
鍵を握る海外現地法人の内部通報制度も,現地の事情に合わせて十分に構築されていない,通報者の保護が期待できない,制度そのものが放置されているケースが少なくありません。日本企業のコーポレイトガバナンスや内部統制の水準を上げるために,今後取り組むべき重要な課題のうちの一つであるといえます。

Strategic transactionと会計不正

海外M&A(合併・買収)などのStrategic transactionが活発になるにつれ,買収・統合後において,買収前の会計不正問題が表面化することや,贈収賄・汚職などの問題が発覚することで,買収後の対応を求められる事例が後を絶ちません。また,企業や事業の再編,縮小,撤退など,リストラクチュアリングの局面では,過去の「負の遺産」が表面化して泥沼にはまってしまい,当初の計画通りに進まないことが少なくありません。
たとえ,会計不正に至らなくとも,買収前のガバナンスやマネジメントのままでは,グループにおける標準的な水準と比較すると,税務や会計における不適切な処理がなされている,コンプライアンス上の問題に抵触するといった問題が生じています。
買収前後において,ガバナンスやマネジメントの体制が変更され,人材の流出や引上げが生じることはめずらしいことではありません。しかし,属人的なガバナンスやマネジメントがなされていた場合など,最悪の場合人員の流出により業務そのものが止まってしまうリスクまで想定して対策を講じているケースはほとんどありません。
一般的に,買収時に何らかのデューデリジェンスが実施されていますが,比較的短期間で実施され,資産評価や買収価格などの金額的な観点に重きが置かれます。ガバナンスやマネジメントに起因する上述の問題を把握することは,時間や費用の制約もあり,現実に実施できているケースはそれほど多くありません。

以上,海外子会社の会計不正にまつわる問題を今日的なトピックに関連付けて説明させていただきました。最後となりましたが本連載が読者の方々の一助になれば幸いに存じます。

(中央経済社「企業会計」2013年12月号)

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