コンサルティング
SIU(Strategic Impact Unit)コラム【バイオの世紀】

第3回 人工タンパクで素材革命

2020.03.11

大きな期待を集めているのは、バイオプラスチックだけではない。石油由来の化学繊維に代わる素材として、微生物などの力を借りて合成する人工タンパク質繊維に世界中の目が注がれている。スタートアップ企業がこの素材の開発をリードしており、日本のスパイバー(山形県鶴岡市)、米国のボルト・スレッズやモダン・メドウなどが知られている。

商品も登場し始めている。ゴールドウインはスパイバーと組み、人工タンパク質から作った世界初となる高機能ウエアを12月中旬に限定発売。化学繊維と遜色ない耐久性や安定性、強靱(きょうじん)性を持つ繊維に仕立てた。

人工タンパク質が注目される理由の一つは、微生物の発酵プロセスで作られるため環境負荷が小さいことが挙げられる。

気候変動対策の矛先はアパレル産業にも向けられている。循環型経済を提唱する英エレン・マッカーサー財団の推計によると、同産業の温暖化ガス排出量は年間12億トン。国連の調査によると、ジーンズ1本の製造に人1人が飲む7年分の水(7.5立方メートル)を使用しており、産業全体では年に930億立方メートルの水を使い、50万トンのマイクロファイバーを海洋に投棄している。マイクロファイバーは海洋プラスチック問題の一因とされる。

ファストファッションの台頭などにより2000年からの15年間でアパレル産業の生産量は倍増し、海洋汚染や温暖化ガス排出量、繊維廃棄物の増加などの環境破壊につながっている。その点、原料を化石資源に依存しない人工タンパク質は、環境負荷低減や脱マイクロプラスチックへの解決策となり得る持続可能な新素材である。

人工タンパク質が注目されるもう一つの理由が、多種多様な性能の素材を製造可能なことである。人工タンパク質は遺伝子を自在に操作する「ゲノム編集」で無限の組み合わせの中からアミノ酸の配列を自由にデザインすることができる。用途に合わせて耐熱性や耐湿性、強靭性、伸縮性、分解性などを設計し、様々な素材を製造できる。アパレル産業以外でも大きな可能性を秘めており、スパイバーはボディーやシートのクッション材など自動車部品、建築資材などへの応用も検討中である。

人工タンパク質素材はまだ開発途上だが、将来的には環境に優しく、これまでにない性能・機能を持ち、内容を自在に設計できる夢の素材になる可能性を秘めている。従来の化石資源を使った高温高圧の素材生産から、常温常圧の生産にできることも大きい。バイオプラスチックやセルロースナノファイバーなどと合わせて、枯渇資源に頼る素材産業の概念を一変する「バイオマテリアル革命」が起きようとしている。

人工タンパク質素材の製造イメージ

図 人工タンパク質素材の製造イメージ
(日経産業新聞連載より転載)

【筆者】

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
シニアマネージャー 齊藤 三希子

国内シンクタンクを経て現職。再エネ活用の地域活性化、スマート農業、農作物のブランド化、食農ヘルスケアなどの業務に従事。最近ESG(環境 ・投資・企業統治)など社会課題解決型の事業組成に取り組む。

※所属・役職等は掲載当時