アドバイザリー
SIU(Strategic Impact Unit)コラム【バイオの世紀】

第7回 遺伝子で究極の健康管理

2020.04.20

血液型や誕生日と同様、誰もが個人のゲノム(全遺伝情報)を知っていることが当然の時代が到来しようとしている。解析技術の発展で、個人の遺伝子を短時間かつ安価に解析できるようになった。

遺伝子検査でがんや糖尿病などの疾患、肥満傾向などの体質に関して遺伝的な傾向を把握できる。疾患は遺伝的要因と環境要因の掛け合わせで発生する。自分の遺伝的な疾病の要因を知ることができれば、未病の段階で食事や運動により環境要因リスクを下げることができる。これまでのような発症後での治療中心ではなく、予防中心にシフトできる。

日本の医療費は2018年度、過去最高の42.6兆円となった。厚生労働省の試算では2040年には66兆円を超える見通しで、現在の社会保障の質を保つには医療費の削減は喫緊の課題である。個人の遺伝的な疾患リスクを管理することは、医療費削減にもつながり、医療現場の負担軽減も期待される。

心血管系疾患やがん、慢性呼吸器疾患、糖尿病などの慢性疾患が高まっており、世界の死亡原因の7割以上を占めている。日本のみならず、世界的にも医療費は増加傾向にあり、予防・疾患管理が重要となってきている。

このような社会情勢を背景に、米国を中心に体質や多因子疾患の罹患(りかん)リスクなど、消費者向けの遺伝子解析ビジネスが急速に拡大している。

個人の遺伝子情報を把握できるようになり、個人の体質や健康状態に合わせた食や生活習慣を見直すサービス提供が可能となった。体の状態に合わせて食や日々の運動、過ごし方などを提案し続けることで、健康の増進から病気の予防、治療までをカバーする総合的なサービスが重要になってきている。薬や治療ではなく健康になることを売る時代への突入である。

ただ、将来病気になる可能性などがわかる遺伝子情報は、究極の個人情報ともいえる。倫理的な問題や遺伝子差別につながる恐れもある。社会全体で考え、問題が起きないように制度として整えておくことが欠かせない。

実際、米国では雇用における遺伝子差別が社会問題となり、11年前に遺伝子差別禁止法が制定された。欧州連合(EU)もEU基本権憲章(2000)で遺伝的特徴に基づく差別を禁止している。しかし、日本では未整備の状況である。

技術的に身近になりつつある個人のゲノム解析。これまで予測できなかった自分の疾患リスクを事前に把握できる。倫理面などの問題を乗り越え個人のゲノムを上手に活用できるようになれば、国全体の医療費を下げながら、個人が健康的に生活できるようになる。他国が経験したことのない超高齢社会を迎えている日本こそ、いち早く法制度を整え、他国に先んじて取り組むべきテーマといえる。

新しい病気予防のイメージ

図 新しい病気予防のイメージ
(日経産業新聞連載より転載)

【筆者】

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
シニアマネージャー 齊藤 三希子

国内シンクタンクを経て現職。再エネ活用の地域活性化、スマート農業、農作物のブランド化、食農ヘルスケアなどの業務に従事。最近ESG(環境 ・投資・企業統治)など社会課題解決型の事業組成に取り組む。

※所属・役職等は掲載当時