コンサルティング
SIU(Strategic Impact Unit)コラム【バイオの世紀】

第9回 タンパク危機救う培養肉

2020.05.08

人口増加や新興国の経済成長に伴い食肉需要が急拡大しており、国連食糧農業機関(FAO)は2050年に2007年比で1.8倍になると予測している。供給が追いつかないだけではなく、食肉生産には大量の穀物と水が必要で、温暖化ガスも大量に排出するため、環境へも大きな負荷となる。

食肉生産の拡大は環境と土地利用の両面から難しく、近い将来世界的なタンパク質不足に陥る可能性が高い。そこで、環境に優しい効率的なタンパク質生産技術として注目を集めているのが、細胞を培養して食肉に仕立てる「培養肉」である。米コンサルティング会社、A・T・カーニーによると、世界の食肉市場は2040年には1兆8000億ドルとなり、うち35%を培養肉が占める見通しだ。投資家の関心も高く、2018年までに開発企業に対して総額5億ドルの資金が集まった。

店頭に並ぶのはまだ先だが、米国を中心に世界中の企業が開発を急いでいる。いち早く取り組んだのが米メンフィス・ミーツで、牛肉や鶏肉の肉片の生成に成功。米ニュー・エイジ・ミーツはゲノム(全遺伝情報)編集技術を活用する。イスラエルでも活発で、フューチャー・ミートは各種食肉、アレフ・ファームは宇宙での食肉生産、スーパーミートは鶏肉の生産に挑戦している。オランダのミータブルは豚肉培養に取り組む。

日本では2019年3月に東京大学と日清食品ホールディングス(HD)が、本物の肉の食感に近い細長い筋組織のある培養肉の作製に成功したと発表した。今後、脂肪なども含む本物により近い肉を目指す。7月には、培養肉開発のインテグリカルチャー(東京・新宿)と日本ハムが量産に向けた基盤技術の開発に乗り出した。

食品だけではない。魚肉でも培養技術の応用が進んでいる。米フィンレス・フーズはクロマグロ、米ワイルドタイプはサケ、シンガポールショーク・ミーツはエビの培養に取り組んでいる。

培養肉の市販に向けた大きな課題は量産化とコストだが、消費者が受け入れてくれるかどうかも、大きなカギを握る。

日清食品HDが11月に公表した「培養肉に関する大規模意識調査」の結果によると、「培養肉は世界の食糧危機を解決する可能性がある」と答えた人が55%と過半数を占める半面、「培養肉を試しに食べてみたい」との回答は27%と3割にも満たなかった。ただ、培養肉が環境負荷の軽減や食糧危機の解決、動物愛護に貢献する可能性があることを情報提供した後では、「培養肉を試しに食べてみたい」とする人は50%まで増えた。

培養肉が新たな食材として市民権を得るためには、食肉生産プロセスの見直しだけではなく、「試しに食べる」から「習慣的に食べる」まで消費者の意識が変わるように、さまざまな形の情報提供・普及活動が求められる。

食肉と穀物の需要は増え続ける

図 食肉と穀物の需要は増え続ける
(日経産業新聞連載より転載)

【筆者】

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
シニアマネージャー 齊藤 三希子

国内シンクタンクを経て現職。再エネ活用の地域活性化、スマート農業、農作物のブランド化、食農ヘルスケアなどの業務に従事。最近ESG(環境 ・投資・企業統治)など社会課題解決型の事業組成に取り組む。

※所属・役職等は掲載当時