アドバイザリー
SIU(Strategic Impact Unit)コラム【バイオの世紀】

第10回 研究組織、大衆化と大型化

2020.05.18

技術が変われば、研究開発体制も変わる。新時代のバイオ技術の開発はどんな体制で進んでいるのだろうか。遺伝子を自在に操作する「ゲノム(全遺伝情報)編集」や人工的に生命を作り出す「合成生物学」では、デジタルにおけるアプリ開発の個人とビッグデータを扱う巨大IT(情報技術)企業のように、二極化が進んでいる。

米国を中心に自宅の一室やガレージを使い、DIY感覚でゲノム編集する個人が増えており、その情報を交換するDIYバイオコミュニティーは世界168カ国に広がっている。背景にあるのが実験に使う試薬の低コスト化で、米国ではゲノム編集キットは約300ドルで購入できる。

その一方で最新のバイオ技術は大量の遺伝子データを扱うため、研究機関は大規模になってきている。従来のラボ単位の分散型から相互に連携するネットワーク型に移行しており、それらを束ねる大型拠点化も進んでいる。大型拠点の米ブロード研究所や英フランシス・クリック研究所ではデータや異分野人材の共有により、多様な研究に取り組んでいる。

大規模化だけではない。基礎研究から応用、実用化までを一貫して手掛ける、研究機関の枠を超えた「バイオファウンドリー」も世界各地に登場している。バイオファウンドリーは、バイオ由来製品の生産性向上やコスト低減化を図ることを目的とした培養・運搬・受託製造などのバイオ生産システムのことである。日本では、神戸大学が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の事業を活用して構築を目指している。

研究の進め方も大きく進化している。生物を扱うだけに、DNAを合成し、微生物などで目的の物質を作り出すには、人手に頼っていては時間と手間ばかりかかってしまう。そこで生まれたのが、最新の計算科学を活用する「DBTL(設計・構築・評価・学習)」と呼ぶ研究サイクルだ。データの解析結果を次の試作品の設計につなげることで、研究開発の効率化・低コスト化を図っている。

個人から大規模機関までさまざまなレベルで進むバイオの研究開発。デジタルの世界と同様、自由闊達な研究開発が新たなイノベーションを生む一方、生物兵器になる可能性もあり、社会に甚大な被害を及ぼす恐れもある。自主規制団体を組成し、ビジネスや技術の研究開発と並行してリスク管理をすることが望ましい。また、さまざまなバックグラウンドを持つ人が参加し議論するコミュニティーの形成も欠かせない。

日本はバイオ分野で10年以上後れを取っている。他国へ追い付くにはまず、開放された市場と分野・業種横断型のコミュニティーの形成を図ることが、第1ステップとなるのではないだろうか。

DBTLサイクルのイメージ

図 DBTLサイクルのイメージ
(日経産業新聞連載より転載)

【筆者】

EYアドバイザリー・アンド・コンサルティング株式会社
シニアマネージャー 齊藤 三希子

国内シンクタンクを経て現職。再エネ活用の地域活性化、スマート農業、農作物のブランド化、食農ヘルスケアなどの業務に従事。最近ESG(環境 ・投資・企業統治)など社会課題解決型の事業組成に取り組む。

※所属・役職等は掲載当時