アドバイザリー
Financial Services Risk Management(FSRM)

FATF第4次対日相互審査に向けた金融庁のAML/CFTガイドラインに基づく態勢整備・高度化

2018.2.26

2018年2月、金融庁は、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下「AML/CFTガイドライン」という。)を公表した。これは、FATF*第4次対日審査を2019年に控え、銀行を含む金融機関全体のAML/CFT**について、同審査にも対応できる態勢強化を目指して策定されたものである。今後は同ガイドラインに基づき、金融庁による金融機関に対するモニタリングは一層高度化されていくと見込まれる。

* FATF: Financial Action Task Force (金融活動作業部会)
**AML/CFT: anti-money laundering and combating the financing of terrorism (マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策)

同ガイドラインが公表に至った背景には、昨今の経済・金融のグローバル化に伴う犯罪組織の国際的な暗躍や、依然として繰り返される卑劣なテロ事件、一部地域の地政学的リスクの高まりといった国際情勢のほか、こうした現実に対する備えとしてAML/CFTの強化を求める国際的な機運の高まりといった事情がある。

また、後述するとおり、我が国は2008年に公表されたFATF第3次対日審査において49項目中25項目で要改善(不備10項目、一部履行15項目)という厳しい評価を受け、その後、2014年6月には、指摘事項に対する対応の遅れから、FATFより迅速な立法措置等を促す異例の声明を受けた経緯があり、金融庁を含む関係当局は強い危機意識の下、2019年のFATF第4次対日審査に向けて連携し、万全を期している。

このような内外の情勢を考慮すれば、銀行を含む金融機関はもちろん、金融機関ならずとも特定事業者においてはAML/CFTの改善・高度化が急務であるといえる。

FATF第4次対日相互審査の予定とそれに向けた本邦当局の動き

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AML/CFTガイドラインの概要

従前より、金融機関のAML/CFTの取組みについては監督指針において定められていたが、新たに策定されたAML/CFTガイドラインは、監督指針よりも詳細かつ具体的な内容となっており、改正された監督指針から同ガイドラインを参照する形が採られている。

AML/CFTガイドラインは、FATFの「40の勧告」で求められているAML/CFTをベースとして、リスクベース・アプローチの具体的な対応(リスクの特定・評価・低減など)、管理態勢とその有効性の検証・見直し(方針、手続、計画等の策定・実施・検証・見直し(PDCA))、経営陣の関与・理解、経営管理(三つの防衛線等)、グループベースの管理態勢、職員の確保・育成、金融庁によるモニタリング、官民連携などについて解説したうえで、①ミニマム・スタンダードである「対応が求められる事項」、②より堅牢なML/TF***リスク管理態勢の構築に向けた提言である「対応が期待される事項」、③ベスト・プラクティスを目指すにあたって参考となる「先進的な取組み事例」をリストアップすることで、各金融機関が自金融機関の現状に照らして最適な改善・高度化メニューを選択できるようにしている。

***ML/TF: money laundering and terrorist financing (マネー・ローンダリング及びテロ資金供与)

ただし、同ガイドラインp.3にあるとおり、「関係法令や本ガイドライン等を遵守することのみを重視し、管理部門を中心として法令 違反等の有無のみを形式的にチェックすることとならないよう留意」する必要がある。

なお、特筆すべき事項として、①「対応が求められる事項」については、当該事項に係る措置が不十分であるなど、ML/TFリスク管理態勢に問題があると認められる場合には、監督指針等も踏まえながら、必要に応じ、報告徴求・業務改善命令等の法令に基づく行政対応を行うことが改めて明確にされている。

AML/CFTガイドラインの概観

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FATFの概要、FATF相互審査の影響など

ここで改めてFATFの概要と、AML/CFTガイドラインがベースとしている「40の勧告」の沿革、FATF相互審査の進め方とその影響などにつき概観する。

  • FATFの概要
    FATFは、1989年にアルシュ・サミット合意により設立された政府間会合。現在35カ国、2国際機関が参加。
    目的は、麻薬・国際犯罪の摘発と収益補足、テロ資金供与防止、大量破壊兵器の拡散金融防止。

  • 「40の勧告」の公表と発展(1990年~)
    FATFは、マネー・ローンダリング対策のために各国が法執行、刑事法制及び金融規制の各分野でとるべき措置をまとめ、「40の勧告」を公表。1996年と2003年に改訂。
    また、2001年の9.11テロを受け、テロ資金供与対策のための「8の特別勧告」を公表。2004年にはさらに1項目が追加され、「9の特別勧告」となる。
    2012年2月、これらの勧告を統合し、さらに対応の高度化を求める、新たな「40の勧告」を公表。

  • FATF相互審査とその影響
    FATF加盟国は、相互に「40の勧告」に沿った国内法整備を求め、その状況を審査する。 審査の結果、不備が認められた場合は、不備の程度に応じて改善状況のフォローアップが行われる。また、審査結果やフォローアップへの対応状況への評価が著しく低い場合は、リスクの高い国・地域として国名公表されることがある。
    国名公表されると、その国の金融機関は、他国の金融機関との取引においてデュー・デリジェンスが厳格化されること等により、国際取引による収益機会を喪失したり、顧客企業の国際取引支援に支障を来たすなど、その影響は甚大。
    こうした背景から、我が国の関係当局は、FATF第4次対日相互審査に向けて「官民一体」の態勢で、国を挙げて対応する構えである。

  • FATF第3次相互審査の結果
    下表は、前回(第3次)FATF相互審査の結果。日本は要改善が49項目中25項目と、厳しい結果となった。
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  • FATF第4次相互審査の日程
    下表は、今回(第4次)FATF相互審査の日程。日本へのオンサイト審査は2019年10月-11月頃の予定。
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  • FATF第4次相互審査の手法
    新「40の勧告」(2012年採択)に基づく第4次相互審査の手法は次のとおり。Technical ComplianceとEffectivenessの評定結果が一定水準を下回ると、強化されたフォローアップ(enhanced follow-up)又は対抗措置対象国に分類される。
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  • 既に公表ずみのFATF第4次相互審査の結果(主要国)
    下表は、既に公表済みの第4次審査結果のうち、主要国のみをまとめたもの。
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本邦金融機関の対応状況はさまざま(平成28事務年度「金融レポート」より)

金融庁は、本邦金融機関のAML/CFTに関するテーマとして、「リスクベース・アプローチ」を最重要視しており、平成28事務年度「金融レポート」では、その導入・運用状況に関する水平的レビューの結果を報告している。

リスクベース・アプローチの導入・運用状況 (下図をクリックすると拡大します。)


自金融機関の現状を踏まえた戦略的なAML/CFT態勢の整備・高度化の進め方

限られた経営資源を効果的に活用し、戦略的にAML/CFT態勢の整備・高度化を進めていくにあたり、AML/CFTガイドラインの活用は不可欠といえる。
まずは早期に自金融機関の現状を把握したうえで、当面のターゲットとして①「対応が求められる事項」のレベルを目指すか、その充足を前提として、さらに②「対応が期待される事項」や③「先進的な取組み事例」のレベルを目指すかを選択する。

AML/CFTガイドラインの趣旨に照らすと、このとき自金融機関のレベルに合わせて、必要に応じ、BCBS****やNYDFS*****のガイドラインや規則なども参考にするとさらに良いといえる。

****BCBS: Basel Committee on Banking Supervision(バーゼル銀行監督委員会)
*****NYDFS: Department of Financial Services(ニューヨーク州金融サービス局)

自金融機関のターゲットを決定した後は、すみやかに現状について詳細なGAP分析を行い、AML/CFT態勢の整備・高度化のために対応が必要な項目を洗い出し、優先順位を付けて具体的な対応を実行する。

なお、これらすべてのプロセスは経営陣のリーダーシップの下で行われることが求められる。

AML/CFTの改善・高度化プロジェクトの初期フェーズ(現状把握とターゲットの選択) (下図をクリックすると拡大します。)