コンサルティング
Financial Services Risk Management(FSRM)

AML/CFTアップデート2020

2020.01.15

「FATF審査後の重点テーマ」

FATF(*1)による対日オンサイト審査は予定通り終了し、巷間では、その結果についてさまざまな憶測も聞かれるようになったが、後述するとおり、FATF第4次対日相互審査の結果は未だ確定しておらず、今後、所定の手続(*2)に則り、FATFと本邦当局の対話・討議を経て確定していく予定である。

もっとも、対日オンサイト審査の前後に公表された2019年版のAML/CFTレポート(*3)とNRA(*4)には、我が国の現状に関する本邦当局の最新の課題意識が反映されており、これらは今後の我が国のAML/CFT(*5)の重点テーマや留意点を先読みする手掛かりとなり得るものである。

本稿では、FATF第4次相互審査の進捗と今後について概観するとともに、2020年以降の本邦金融機関等のAML/CFTに関する重点テーマを探る。

  • *1 FATF: Financial Action Task Force(金融活動作業部会)の略称。
  • *2 Procedures for the FATF fourth round of AML/CFT mutual evaluations  
  • *3 AML/CFTレポート: 金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策の現状と課題」の略。2019年版は同年10月21日に公表。
  • *4 NRA: national risk assessmentの略。本邦では、国家公安委員会が犯収法に基づき「犯罪収益移転危険度調査書」として毎年作成・公表。2019年版は同年12月19日に公表。
  • *5 AML/CFT: anti-money laundering and combating the financing of terrorism (マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策)の略。

FATF審査の進捗と今後

主要国・地域の審査結果

第4次相互審査が終了し、MER(*6)が公表された国・地域のうち、「通常フォローアップ」の対象となったのは僅かな国・地域(英国、香港など)であり、多くの国・地域(米国、シンガポール、中国など)が「強化フォローアップ」の対象となっている(下表は、主要国・地域をまとめたもの。2019年9月更新)。

(下図をクリックすると拡大します。)

とりわけ、金融機関等の有効性評価基準であるImmediate Outcome 4(IO4)において最低ランクの「Low level of effectiveness」となった国・地域(デンマーク、中国など)においては、AML/CFTの取組みが実質的な意味で民間セクターに浸透していないということがいえよう。事実、デンマークでは大手金融機関による莫大な金額のマネー・ローンダリングへの関与が報じられている。

  • 日本の審査結果が「通常フォローアップ」「強化フォローアップ」のどちらになるかに加え、IO4のランク如何によっても今後の本邦金融機関等のAML/CFTの取組みが大きく左右されるだけに、関係者はその動向を注視している。
  • *6MER: mutual evaluation report (相互審査結果報告書)の略称。

対日相互審査の結果公表までの流れ

日本に対するオンサイト審査は、2019年11月に終了し、その最終段階でFATFによる本邦当局に対する講評等が行われた模様。

2020年1月以降、所定の手続に則り、FATFと本邦当局との間で対話・折衝が行われ、対面での議論も経たうえで、対日相互審査の結果がMERとして取りまとめられる。

その後、2020年6月下旬のFATF全体会合での討議・採択を経て、同年8月頃に対日MERが公表される。

(下図をクリックすると拡大します。)

フォローアップ・プロセスの流れ

相互審査の結果がFATF全体会合で採択されると、審査対象国は5年後にフォローアップ評価を受けることとなる。

この5年間で、「通常フォローアップ」の対象国は1回、「強化フォローアップ」の対象国は3回程度、FATFに改善報告を行わなければならない。

2020年以降の日本に対するフォローアップ・プロセスの流れは、下図の通りである。

(下図をクリックすると拡大します。)

2020年以降の重点テーマ

経営管理態勢の高度化

2019年版AML/CFTレポートでは、金融機関等の経営管理態勢に関し、依然として以下のような課題が指摘されている。

  • 経営陣が管理部門に対して限定的な指示を行うにとどまり、態勢整備の観点において、適切な経営資源を把握し、組織体制を見直すなど、全社的な対応に至っていない。
  • 営業部門、管理部門及び内部監査部門の機能(「3つの防衛線」)が適切に発揮されていない。
  • 形式上「3つの防衛線」を設けているが、ML/TF(*7)リスクの評価・低減措置が第1線に浸透していない。また、第2線が第1線のリスクベースでの管理態勢の有効性を十分に検証していない。
  • 第3線が、リスクベースでの有効性監査を実施していなかったり、そもそもAML/CFTに関する知見が不十分であるなど、独立した立場からの検証が十分でない。
  • AML/CFTを経営上の重点課題と位置づけ、3線管理コンセプトに基づく組織・体制作りを再考する必要あり。具体的には、各防衛線の権限・責任の最適化やチェックプロセスの導入等を通じて牽制機能を充実させ、金融機関等として自己規律を高めることが重要。
  • その前提として、各防衛線の担い手となる人材の登用・育成が不可欠。
  • *7ML/TF:money laundering and terrorist financing (マネー・ローンダリング及びテロ資金供与)の略。

リスク評価書の高度化

2019年版AML/CFTレポート及びNRAでは、金融機関等によるリスクの特定・評価に関し、依然として以下のような課題・留意事項が指摘されている。

  • 取り扱う全ての商品・サービスを網羅していないなど、リスクの特定・評価が包括的でない。
  • リスク評価書の「雛形」をそのまま使用。自らが直面するリスクの特定・評価が十分でない。
  • 疑わしい取引の届出内容を分析してリスク評価に反映していない。
  • ビジネスモデルや顧客特性を個別具体的に考慮していない。
  • リスク評価書の作成にあたり、NRA等の当局資料等のみに依拠するのではなく、今一度自社のビジネスモデル、経営環境、営業地域、取扱い商品・サービス、取引形態、取引に係る国・地域、顧客特性、疑わしい取引の届出の傾向などを具体的に分析し、自社特有のリスクを包括的・網羅的に特定・評価する必要あり。

全顧客リスク評価を含む継続的な顧客管理

2019年版AML/CFTレポートでは、金融機関等による継続的な顧客管理に関し、依然として以下のような課題が指摘されている。

  • 全顧客についてリスク評価を行っておらず、そのリスク評価に応じた顧客情報の調査頻度や手法を定めていないなど、継続的な顧客管理に関する具体的な計画を策定していない。
  • 高リスクと評価した顧客を厳格な顧客管理の対象にしていない。
  • 個々の顧客のリスクは変化するという前提に立ち、新規はもちろん、既存顧客についてもそのリスクに応じた頻度で、また、一定の事象をトリガーとして情報をアップデートし、最新の情報に基づきリスク評価を実施する必要あり。
  • 高リスクと評価した顧客に対して講ずる厳格な顧客管理措置を具体化する必要あり。
  • 音信不通又は非協力的な顧客のリスクへの対処法(取引制限等)も検討する必要あり。

疑わしい取引の検知・届出・管理の高度化

2019年版AML/CFTレポートでは、金融機関等による疑わしい取引の検知・届出・管理に関し、依然として以下のような課題が指摘されている。

  • 規模・特性や取引形態等に応じたリスクを踏まえ、ITシステムのカスタマイズ等を行っていない。
  • 取引モニタリングシステムにより検知した取引につき、疑わしい取引の該当性を判断していない、又は、十分な検証をせずに疑わしい取引の届出を行っている。
  • 取引モニタリングシステムの検知シナリオや敷居値等の抽出基準や、取引フィルタリングシステムのあいまい検索機能の設定が、自らのリスク評価に見合ったものとなっているかを定期的に検証していない。
  • 取引モニタリング・フィルタリングシステムに用いられるデータの網羅性・正確性を定期的に検証していない。
  • 取引モニタリングシステムにより検知した取引を第2線が十分に検証することが重要。
  • 検知シナリオの有効性の定期的検証、誤検知数やパターンの継続的検証が重要。
  • ITシステム活用の前提として、データ管理(データ・ガバナンス)の向上が重要。
  • システムやプロセスの共同化、自動化や機械学習による効率化・有効性向上を検討。

来日外国人の増加への対応

2019年版AML/CFTレポート及びNRAでは、来日外国人増加に関する金融機関等による対応に関し、以下のような課題・留意事項が指摘されている。

  • 外国人(留学生、技能実習生等)による口座開設につき、在留期間の管理手続を定めていない。
  • 口座開設時に在留期間を確認せず、帰国時にも口座解約手続を促していないなど、帰国時の口座売買等のリスクに応じた低減措置を実施していない。
  • 外国人顧客の在留資格(留学生、技能実習生、永住者等)に応じたリスクを勘案していない。
  • 顧客情報を取得の上、顧客のリスク評価の実施、その評価結果に応じた低減措置の実施が十分でない。
  • 外国人の口座開設時に、口座売買が犯罪であることを周知する必要あり。
  • 取引時に在留期間を確認し、帰国前に口座解約を促す等、適切な措置を講ずる必要あり。また、在留期間経過後に入出金等が発生している口座を検知する必要あり。
  • 金融庁「外国人の預貯金口座・送金利用について」   (2019年4月公表。同年6月更新)を参考にする必要あり。

経済制裁への対応の高度化

2019年版AML/CFTレポートは、前年版よりも経済制裁に関する記述が充実している。

  • リスク低減措置の前提として、制裁リストとの照合にとどまらず、金融取引(広義)の背後・周辺事情も含めた情報収集について改めて言及されている。
  • また貿易金融や船舶ファイナンスを取り扱う銀行のほか、海上保険を取り扱う損害保険会社等も、クロスボーダー取引を行う限り、対象であることが明確化されている。
  • これらの背景には、膠着する北朝鮮情勢や北朝鮮による「制裁回避」問題などが挙げられる。
  • 金融取引(広義)の背後・周辺にある商流や使途・目的も含めた幅広い情報収集と適切な期中管理によってリスクを把握し、リスクに応じた低減措置を講ずることで、米国OFAC規制を含む国内外の制裁に係る法規制等を遵守する必要あり。
    • なお、財務省「外国為替検査ガイドライン」は、北朝鮮を含む特定国・地域に対する仕向送金の受取人につき、その名称のほか、住所・所在地、実質的支配者、被仕向銀行、送金目的等の情報を確認するよう求めている。例えば、受取人である法人の実質的支配者が北朝鮮関係者でないか、北朝鮮との取引に関係する送金でないか などを幅広く確認する必要あり。

資産運用業務におけるML/TFリスク管理

2019年版AML/CFTレポートは、資産運用会社や保険会社等の「資金の出し手」としての側面に着目し、それに関わるML/TFリスクにも言及している。

  • 直接の投資先であれば、投資先についての反社、制裁対象者リストとの照合等を行う必要あり。
  • ファンド・オブ・ファンズを通じた投資等であれば、ゲートキーパーによる投資先へのML/TFリスク管理態勢の確認等を行う必要あり。
  • 運用する商品(投資信託等)の販売を委託する場合、販売会社の実質的支配者の確認のみならず、同社のマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢が自社の基準に照らして適切であるかの確認を行うことが重要。

その他の留意点

AML/CFT共同化を含む効率化・高度化

2019年版AML/CFTレポート及びNRAでは、金融機関等によるAML/CFTの課題として、効率性と有効性の両立という点が取り上げられている。

  • AML/CFTに係るコストが増加している中、金融機関等においては、専門人材の育成や配置、ITシステム(ソフトウェアを含む。)への適切な資源配分が課題となっている。
  • 一部の業界団体や金融機関等において、AML/CFTに関するシステムや事務プロセスの共同化、RPA(*8)の導入や機械学習の活用による疑わしい取引の届出業務の効率化・有効性向上に向けた検討が進められている。
  • *8RPA: ロボティック・プロセス・オートメーションの略。

FATFオンサイト審査という節目を通過した当局のスタンス

2019年版AML/CFTレポート及びNRAでは、金融機関等のAML/CFTの取組みに関し、依然として業態や規模による格差があることが指摘・示唆されている。こうした「格差」は、我が国全体のAML/CFTに「抜け穴」を作りかねないものである。

そのため、当局は、FATFオンサイト審査の時期に合わせるかたちで、関係当局や業界団体とも連携しながら、あまねく金融機関等に対してさまざまな働きかけ(アウトリーチ)を行い、全体的な底上げを図ってきた。

しかしながら、FATFオンサイト審査という節目を通過したことにより、当局のスタンスが、これまでのアウトリーチ重視から、エンフォースメント寄りに変わってくる可能性もある。

  • 従前、本邦では、金融機関等に対するAML/CFT関連の行政対応が諸外国と比べて穏やかであったが、今後、取組みが低調な事業者には厳しい行政処分もあり得るということを念頭に置く必要あり。
  • その上で、AML/CFTガイドライン(*9)等とのギャップ分析や態勢の高度化を慎重に行い、対当局コミュニケーション(各種報告を含む)に細心の注意を払う必要あり。
  • *9AML/CFTガイドライン: 金融庁「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」の略。2018年2月に公表され、2019年4月に改正。

おわりに

FATFオンサイト審査は通過点に過ぎない

2019年は、FATFオンサイト審査に向けた「官民一体」の取組みが熱を帯び、ML/TFリスクに対するさまざまな対策が講じられた結果、我が国のAML/CFT態勢には一定の進捗があったといえる。

しかしながら、常に変化するML/TFリスクの前では、有効な対策も僅かな時間で陳腐化するものである。そういう意味では、「まだ何も終わっていない」というのが正しい理解であろう。

本邦当局は、FATFオンサイト以前から、我が国のAML/CFT態勢の高度化に向けたロードマップを描いており、FATFオンサイトは一通過点にすぎないと位置付けているようである。

本邦金融機関等の事業者におかれては、最新のAML/CFTレポートやNRAなどを分析するとともに、第4次FATF対日相互審査の結果次第では関係する法令・ガイドライン等の改正もあり得るということを念頭におき、2020年以降の新たな展開に備えておくことが求められる。

お問い合わせ

  • 和家 泰彦:Yasuhiko.Wake@jp.ey.com
  • 鹿島 浩司:Koji.Kashima@jp.ey.com