M&A会計解説 第1回 会社分割における、結合当事企業間の非対称な会計処理

本シリーズでは、第1回~第3回に分けて、企業結合に関する具体的な事例を基に、設例を紹介します。
設例は以下の2段階にレベルを分けて記載していますので、お好きな箇所からご覧ください。

  • 基礎レベル
    M&Aの会計処理を基礎から学びたいという方向けに、基本用語等の説明から行っています。
  • 応用レベル
    基礎は理解しているが、より高度なことも学びたいという方向けに、会計処理やその他問題となる点について解説を行っています。

なお、解説の中で参照している、企業結合に関連する会計基準は以下のとおり省略して表示しています。

  • 平成25年9月13日改正「企業結合に関する会計基準(企業会計基準第21号)」⇒企業結合基準
  • 平成25年9月13日改正「事業分離等に関する会計基準(企業会計基準第7号)」⇒事業分離基準
  • 平成25年9月13日改正「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針(企業会計基準適用指針第10号)」⇒結合分離指針

関与経緯

本件は、クライアント(P社)と事業の取得に関するスキームを検討している段階で、会計上の論点整理についても依頼を受けたことから関与させて頂きました。
スキームが固まっていない段階から検討を始めたため、スキーム変更の都度、適宜クライアントとディスカッションをしながら作業を進めていきました。

事例の概要

事業を資本関係のない他社に売却するものの、分離元企業が当該事業に継続して関与していきたいと考える際に、売却事業の対価をキャッシュではなく、分離先の株式とするスキームです。なお本事例においては、企業結合後にP社及びA社のいずれもS社を支配しておらず、当該企業結合は共同支配企業の形成に該当しないものとします。

事例の概要

会計処理のポイント

A社はa事業をS社に移転していますが、A社はその対価としてS社株式を受領し、かつ企業結合後にS社が関連会社に該当することから、a事業をS社に移転したもののA社のa事業に対する投資は継続していると考えられます。

その結果、資本関係のない会社間における分社型吸収分割において、分離元企業(A社)は「投資の継続として簿価移転」、分離先企業(S社)は「取得として時価で受け入れる」ことになります。

設例による解説

基礎レベル

1. 分社型吸収分割について

会社の一部(事業等)を(既存の)他の会社に移転させる(吸収)会社分割のうち、移転させた事業等の対価を、事業を移転した会社が受け取るものをいいます。ちなみに、対価を移転した会社の株主が受け取るものを、分割型会社分割といいます。

2. 投資の継続について

M&Aの前に、移転対象となった事業等に対して行っていた投資が、M&Aを行うことによっても清算されていないと判断できる場合(例えば、対価として子会社株式や関連会社株式を受け取った場合)には、投資は継続しているといえます。
逆に、M&Aを行うことによって投資が清算されたと判断できる場合(例えば、対価として現金等の移転した事業と明らかに異なる資産を受け取った場合)には投資は継続していないといえます。
投資が継続していれば簿価で移転(移転損益を認識しない)となり、継続していなければ時価で移転(移転損益を認識する)することになります。(事業分離基準10参照)

3. 取得の会計処理について

M&Aによって、移転した事業等に対して新たに支配を獲得した会社は、取得(いわゆるパーチェス法)の会計処理を行うことになります。具体的には、移転された事業等にかかる資産および負債を時価で受け入れ、受け渡した対価との差額をのれんに計上することになります。

応用レベル

1. 分離元企業(A社)の会計処理について(対価は移転先企業の株式のみとする)

M&Aの前後において、S社株式を受領し、かつ企業結合後にS社が関連会社に該当することから投資が継続していると考えられる(事業分離基準23)ため、移転した事業にかかる資産および負債を簿価で移転し、A社が受け取ったS社株式の取得原価は、移転した事業の株主資本相当額に基づいて評価することになります。(事業分離基準20)

分離元企業(親会社)であるP社の会計処理(個別)

2. 分離先企業(S社)の会計処理について

取得の会計処理を行うため、以下の処理を行います。(結合分離指針51参照)

  • 移転された事業にかかる資産および負債を時価で受け入れます。
  • 受け渡した対価(今回のケースではS社株式)の時価を払込資本とします。ただし、今回のケースにおけるS社は非上場で時価がないため、この場合の時価は、一般的に受け渡した対価と等価であると考えられる、受け入れた事業自体の時価を指します。
  • 資産負債の時価と、対価の時価との間に差額が生じた場合にはのれん(または負ののれん)に計上することになります。
第1回 会社分割における、結合当事企業間の非対称な会計処理

※1:移転した事業にかかる資産・負債を、会社分割時点の時価で評価します。
※2:この場合の時価は、受け渡した対価と等価であると考えられる、移転した事業自体の時価を指します。

第1回 会社分割における、結合当事企業間の非対称な会計処理

3. 非対称な会計処理について

同じa事業の資産及び負債について、分離元のA社では簿価で移転(移転損益を認識しない)する一方、分離先のS社では時価で評価され、異なる会計処理が採られた結果となっています(非対称)。
これについて、A社とS社は別個の法人であり、それぞれの経済的実態に即した会計方針を用いて会計処理をするため、結果として会計処理が非対称となることもあり得るといえます。
また、例えば日本において一般的な有価証券譲渡の際の認識基準は約定日基準ですが、相手先は修正受渡日基準を用いることがあります。このように、非対称な会計処理が用いられるケースも存在します。そのため、上記のような会計処理が行われた場合でも特に問題は生じないと考えられます。

当コラムのご利用は一般的な参考目的に限られるものとし、特定の目的を前提としたご利用、詳細な調査への代用、専門的な判断の材料としてのご利用等は行わないで下さい。

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