M&A会計解説 第3回 経営統合に係るスキーム案

関与経緯

経営統合に係る財務DD、税務DDをEYが実施していた際に、クライアントが経営統合を実施する際のスキームを検討中であったため、EYがいくつかのスキーム案を検討し、それぞれのスキーム案において会計処理などの相違を示したものです。

事例の概要

資本関係のない会社間(共に許認可を必要とする事業を営む)における経営統合において、一方の会社の株主に米国株主がいる場合、組織再編のスキームによってはいわゆるForm F-4を提出(Form F-4の概要は下記参照)しなければいけません。本事例(以下において、取得企業は常にA社とする)においては①合併(A社が存続企業)、②逆さ合併(B社が存続企業)、③株式移転(持株会社化)の3スキームを検討しました。

事例の概要

設例のポイント

経営統合に利用される組織再編のスキームは色々ありますが、それぞれのスキーム毎に、会計処理や税務上の処理が異なるのみでなく、その他実務上で問題となる論点が存在します。
当該実務上の論点には、例えばForm F-4の提出義務や、許認可の再申請、従業員に与える影響等が存在します。
そのため、それぞれの組織再編のスキーム毎に、どのようなメリットデメリットが存在するのか適切に検討したうえで、総合的に組織再編のスキームを決定する必要があるといえます。

設例による解説

基礎レベル

1. Form F-4 について※1
日本企業同士の組織再編(合併、株式移転、株式交換など)に伴う株式の発行であっても、米国株主に株式が交付される場合には、米国証券取引委員会(SEC)への登録届出義務が生じる場合があります。
これは、米国の1933年証券法が、米国株主の保護のために、組織再編に伴い有価証券を交付する場合であっても、有価証券の募集に該当するとみなして規制の対象としているためです。
日本企業が登録届出義務を負う場合には、Form F-4と呼ばれる様式の登録届出書の提出を求められます。Form F-4には、米国会計基準または国際財務報告基準に従った監査済財務諸表を記載する必要があるため、日本の会計基準による財務諸表しか作成したことがない日本企業にとっては相当な負担が生じることになります。
なお、Form F-4を提出した会社の継続開示義務については、1934年証券取引所法で規定されています。

2. Form F-4 登録届の適用除外規定の概要について※1
SEC規則の802が定める一定の要件を満たした場合には、外国民間発行体(通常、日本企業は該当)はForm F-4の提出義務が免除されます。適用除外要件のうち、実務上、重要になるのが対象会社(株式の交付を受ける側の株主の会社)における米国株主の株式保有比率が10%以下であることです。
米国株主の株式保有比率の計算については、例えば、株主名簿上の名義が証券会社等の場合の実質的株主の調査など実務上問題となる点が多いので、実際に検討する際は、米国証券法に詳しい法律専門家に相談することをお勧めします。

3. 逆さ合併(逆取得)について※2
通常の企業結合は、対価として株式を交付した企業が取得企業となります。しなしながら、株式を発行する側ではない会社の規模が相対的に大きいことなどにより、主従が逆転し、消滅会社が取得企業となるケースを逆さ合併(逆取得)といいます。

4. 株式移転について
株式移転とは、株式会社がその発行済株式の全部を新たに設立する株式会社に取得させることをいいます(会社法2条32号)。その結果、新設の株式会社が設立され、従来の株式会社は新設会社の完全子会社(100%子会社)となるため、持株会社(ホールディングカンパニー)を設立する場合に用いられるスキームの一つです。

(※1)「組織再編会計の実務(第2版)中央経済社」を参照している
(※2)「ケースから引く組織再編の会計実務 中央経済社」を参照している

応用レベル

それぞれの組織再編のスキーム毎の特徴・会計処理について

※詳細は、以下のPDF資料をご参照ください。

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