IASBがIFRS第15号の明確化を公表

2016年4月22日 PDF
カテゴリー 収益認識

重要ポイント

  • 2016年4月12日、IASBはTRGが審議したいくつかの適用上の問題に対応するため、新しい収益認識基準を改訂した。
  • IASBは、IASBとFASBが異なる決定を下したことで、会計上異なる結果が生じる可能性があるとしている。
  • 当該改訂の発効日は2018年1月1日である。企業は、これらの改訂を遡及適用することが求められる。

概要

国際会計基準審議会(IASB) は、新たな収益認識基準であるIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」の改訂を公表した。この改訂では、収益認識に関する合同移行リソース・グループが審議した適用上の問題(履行義務の識別、本人か代理人かに関する適用指針及び知的財産のライセンスに関する適用指針、ならびに経過措置)が取り扱われている。当該改訂は、企業によってIFRS第15号がより首尾一貫して適用されるようにするとともに、その適用コストと複雑性を低減することを目的としている。

IASBによる改訂

  • 約定した財又はサービスがどのような場合に契約に含まれる他の約定から「区別して識別できる」(すなわち、契約の観点から区別できる)かが明確化されている。これは、約定した財又はサービスが履行義務であるかどうかの評価の一部である。
  • 企業の約束の性質が、約定した財やサービスそのものを提供することであるのか(すなわち企業は本人である)、他の当事者によって提供される財又はサービスを手配することであるのか(すなわち企業は代理人である)を判断するうえで、本人か代理人かに関する適用指針をどのように適用すべきかが明確化されている。
  • 知的財産のライセンスに関し、企業の活動が、どのような場合に顧客が権利を有する知的財産に著しい影響を与えるかが明確化されている。これは、企業が収益を一定期間にわたり認識するか、一時点で認識するかを判断するうえでの1つの要因である。
  • 契約に他の財又はサービスがある場合に、売上高及び使用量に基づきロイヤルティの金額が決まる知的財産のライセンスに係る例外規定(ロイヤルティ制限)の適用範囲が明確化されている。
  • IFRS第15号の経過措置に、以下に関する2つの実務上の便法が追加されている。
    (a) 完全遡及アプローチの下での完了した契約
    (b) 移行時までに条件変更された契約

IASB及び米国財務会計基準審議会(FASB)(総称して「両審議会)は、新しい収益認識基準のすべての変更の内容と範囲については合意しているわけではない。これを受けてIASBは、結論の根拠の中で両審議会が異なる決定を下したことで、異なる結果が生じる可能性があると述べている。1

1: IFRS第15号BC116K項

履行義務の識別―契約の観点から区別できるか

改訂では、約定した財又はサービスがどのような場合に契約に含まれる他の約定から「区別して識別できる」(すなわち、契約の観点から区別できる)かが明確化されている。これは、約定した財又はサービスが独立した履行義務であるかどうかを判断するうえでの重要なステップである。改訂では、(1)複数の約定した財又はサービスが一体となって結合されたアウトプットを提供しているかどうかによって評価が決まることを強調するために、約定した財又はサービスが区別して識別できるかどうかを判断するための原則が見直されており、(2)約定した財又はサービスが区別して識別できるかどうかを判断するための当該基準の3つの指標が、この原則に合わせて変更されており、また、(3)これらの概念を適用する上で役立つように新しい例が追加され、現行の設例の一部が改訂されている。

約定した財又はサービスが区別して識別できるという指標の1つを評価する際に、企業は財又はサービスを移転する複数の約定の一体性、相互関連性又は相互依存性の程度を考慮する。IASBは結論の根拠において、ある項目が、その性質上、他の項目に依存するかどうか(すなわち、2つの項目に機能的な関係があるかどうか)だけを評価すべきではなく、契約履行のプロセスにおいて2つの項目間に変化を生じる関係があるかどうかを評価すべきであると述べている。

本人か代理人かの検討

IFRS第15号では、他の当事者が顧客への財又はサービスの提供に関与している場合、顧客との約束の性質を評価し、企業が取引における本人なのか代理人なのかを判断することが求められる。改訂では、以下が明確化される。

  • 本人か代理人かを評価する際の会計単位は、区別できる財又はサービス(あるいは区別できる財又はサービスの束)である特定の財又はサービスである。状況に応じて、特定の財又はサービスは、財又はサービスそのもの(たとえば、フライト、食事)である場合もあれば、他の当事者が提供する財又はサービスに対する権利(たとえば、チケット、バウチャー)である場合もある。当該改訂は、企業が特定の財又はサービスを適切に識別できるようにするとともに、特定の財又はサービスが複数ある契約において、企業が一部の特定の財又はサービスに関しては本人となり、他の財又はサービスに関しては代理人となる場合があることを明確化することを目的としている。
  • 企業が顧客に移転する前に約定した財又はサービスを支配している場合、企業は本人となる(したがって収益は総額で計上する)。企業の役割が、別の企業による財又はサービスの提供を手配することである場合、企業は代理人となる(したがって代理業務に関しする手数料を純額で収益計上する)。また、改訂では、サービスに関連して支配の原則をどのように適用するか(すなわち、企業がサービスを提供する本人である場合に、何が支配の対象となるか)が説明されている。
  • 当該指標は、企業が支配の評価を行う際の手助けとなるものであり、支配の評価に置き換わるものではない2。すなわち、当該指標は支配の評価に優先するものではなく、単独で考慮したり、チェックリストとして使用されることを意図したものではない。改訂では、企業が代理人ではなく本人として行動しているという証拠を重視するように指標の見直しが行われている。

IASBは、新しい例を追加し、これらの改訂に合わせるためにIFRS第15号に付随する現行の設例の一部を修正している。

弊社のコメント

これらの改訂により、本人と代理人に関するIFRS第15号の適用指針に関して提起されていた多くの適用上の論点に対処することができるだろう。しかしながら、企業は、現行のIFRSに基づいた場合と同様に、収益の総額表示と純額表示のどちらが適切かを評価するにあたり、今後も重要な判断を行使する必要がある。
企業は、特定の財又はサービスが、財又はサービス自体であるのか、その財又はサービスを得る権利であるのかを評価するために重要な判断を行わなければならない場合がある。IASBは、この区別を説明するための文言を結論の根拠3に含めている。

2016年3月、FASBは自身の収益認識基準における本人と代理人に関する適用指針の改訂を公表した4。この改訂は、IASBの改訂と同一である。5

2: IFRS第15号BC385H項
3: IFRS第15号BC385M項-385W項
4: 米国会計基準アップデート2014-09「顧客との契約から生じる収益」(その大部分が会計基準書(ASC)第606号に定められている)
5: 詳細は、「To the point: FASB issues amendments to the principal versus agent guidance in its new revenue standard (March 2016)」を参照

知的財産のライセンス

知的財産のライセンス契約の性質の判定

改訂では、知的財産のライセンスを供与する約定が充足される(そして、収益が認識される)のは一定期間にわたってなのか、一時点なのかを判断するため、その約定の性質について企業がどのように評価すべきかが明確化されている。知的財産のライセンスに係る収益を一定期間にわたり認識するために満たすべき3つの要件のうちの1つは、企業(ライセンス供与者)に対し、顧客に財又はサービスを移転するものではない企業の活動が、顧客が権利を有する知的財産に著しい影響を与えるかどうかを評価することを求めるものである。改訂では、以下のいずれかに該当する場合、それらの活動が知的財産に著しい影響を与えると明確化されている。(a)知的財産の形態(たとえば、デザインや内容)又は機能性を変化させる。(b)知的財産からの便益を顧客が得る能力に影響する。知的財産が重要な独立した機能性を有している(すなわち、ライセンス供与者の活動が、顧客が権利を有する知的財産の機能性に著しい影響を与えない)場合、収益は一時点で認識されることになる。

弊社のコメント

弊社は、IASBの改訂によりIFRS第15号の運用が改善し、首尾一貫性が高まると考えている。しかしながら、知的財産のライセンスを会計処理する際には引き続き判断が要求される。
FASBは、知的財産を機能的な知的財産と象徴的な知的財産のいずれかに分類することを企業に要求する改訂を公表する予定であるが、IFRS第15号においてはこのような分類は要求されない。IASBは結論の根拠において、異なる結果が生じる可能性があることを認めている。6

6: IFRS第15号BC385H項

売上高及び使用量に基づくロイヤルティ

利害関係者は、売上高又は使用量に基づくロイヤルティに係る例外規定(すなわち、ロイヤルティ制限)が、例えば契約に区別できるライセンスと別の履行義務がある場合、あるいはライセンスが他の財又はサービスと組み合わされて1つの履行義務を構成している場合に適用されるかどうかが明確ではないとコメントしていた。これを受けて、改訂では、ロイヤルティが関連する主たる項目が知的財産のライセンスである場合、ロイヤルティ制限がロイヤルティ全体に適用されることが明確化されている。
また、こうした種類の契約における売上高又は使用量に基づくロイヤルティは、全体がロイヤルティ制限の適用対象となるか、あるいは全体が一般的な変動対価に係る制限の適用対象となるかであり、両方の適用範囲に含まれることはない。

経過措置―条件変更された契約及び完了した契約に関する実務上の便法

改訂では、両方の移行アプローチ(すなわち完全遡及アプローチ及び修正遡及アプローチ)の下で、基準が適用されるより前に完了した契約及び条件変更された契約について、移行時における会計処理の負担を緩和するため、IFRS第15号に2つの実務上の便法が追加された。

この実務上の便法がなければ、収益のすべてが認識済みとなってはいない完了した契約又はIFRS第15号適用前に何度も条件変更された複数年契約を有する企業にとって、IFRS第15号が適用される契約の評価の負担が増す可能性がある。

完了した契約

新しい実務上の便法により、完全遡及アプローチを使用する企業は、表示される最も古い期間の期首時点で完了していない契約に対してのみIFRS第15号を適用することが認められる。IFRS第15号の下では、企業が現行の収益認識基準及び解釈指針に従って適用開始日より前に識別された財及びサービスのすべてを移転している場合、契約は完了していることになる。IFRS第15号では、修正遡及アプローチを選択する企業に関しては、すでに同様の会計処理が認められている。

条件変更された契約

契約変更に係る新しい実務上の便法では、どちらの移行アプローチの下でも、それぞれの条件変更の影響を個別に会計処理するのではなく、契約開始時から表示される最も古い日付の間に発生したすべての条件変更を合算した影響を算定することが認められる。ただし、修正遡及アプローチを適用する企業の場合、契約開始時から、表示される最も古い日ではなく適用開始日の間に発生したすべての条件変更にこの便法を適用することができる7。企業は、充足した履行義務と未充足の履行義務の識別、ならびにそれらの履行義務に配分する取引価格の算定にあたり、事後的判断を用いることができる。表示する最も古い期間の期首は、財務諸表に表示される年数に応じてIFRS適用企業ごとに異なる(例:暦年を採用しているため年度末が12月31日であり、財務諸表に比較期間を1期のみ含めている企業に関しては、2017年1月1日となる)。この実務上の便法の適用を選択した場合は、類似の特性を有するすべての契約について適用しなければならない。

7: IFRS第15号C7A項

経過措置及び発効日

IFRS第15号の改訂の発効日は、IFRS第15号の発効日と同じ2018年1月1日である。企業は、これらの改訂をIAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従って遡及適用しなければならない8。遡及適用が要求されるが、これらの改訂はIFRS第15号の規定の明確化を意図したものであり、基準の変更を意図したものではない。
また、遡及適用によって、財務諸表の利用者が収益の趨勢を理解できるようになる。

8: IFRS第15号BC445S項

次のステップ

FASBは、知的財産のライセンス、履行義務の識別、回収可能性、現金以外の対価、経過措置、ならびに売上税及び同様の税金の表示に関し、新しい収益認識基準の最終的な改訂を間もなく公表する予定である。また、FASBは、新しい収益認識基準に関連した8つの会計技術的な改善を提案し、未充足の履行義務に配分された変動対価の開示を一定の状況において(たとえば、変動対価の見積りが開示のためだけに行われる場合)行わないことを認める実務上の便法を追加することを決定している。履行義務の識別及び知的財産のライセンスの会計処理に関する最終的な改訂を除き、IASBは同様の改訂を提案することは予定していない。

関連資料を表示

  • 「IFRS Developments 第119号 2016年4月」をダウンロード

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