IFRS第15号の適用の影響、定量化の準備は整っているか

2017年7月3日 PDF
カテゴリー 収益認識

重要ポイント

  • IFRS第15号が2018年に強制適用となるのを受けて、ほぼすべての企業が、新たな収益認識基準を適用するためのプロジェクトを既に開始しているようであるにもかかわらず、大半の企業が、現在に至るまで予想される影響について定量的情報をほとんど提供していない。
  • 企業は、IFRS第15号を適用することで生じると予想される影響に関する定量的情報を2017年の期中財務諸表に開示することが必要になる可能性がある。

概要

新たな収益認識基準であるIFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」は2018年1月1日以後開始する事業年度から適用される。

収益の金額や契約コスト及び(又は)認識の時期が現行の実務から著しく異なる場合があるため、IFRS第15号の適用は多くの企業の財務諸表に重要な影響を与える可能性がある。また、IFRS第15号では追加の開示も求められる。

ほとんどすべての企業がIFRS第15号を適用するためのプロジェクトを既に開始していると述べているものの、2016年の財務諸表に予想される影響に関する情報はほとんど開示されていなかった。EYは、フォーチュン500に掲載されているIFRS適用企業207社の2016年度年次財務諸表を調査した。調査を実施した企業のうち、

  • IFRS第15号の予想される影響に関する定量的情報を提供していたのはわずか1%で、33%の企業が、財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性があるIFRS第15号の論点について定性的開示を行うにとどめた。
  • 3%の企業がIFRS第15号は重大な影響を及ぼすと答え、他方、35%の企業が、IFRS第15号が重大な影響を及ぼすとは予想していなかった。
  • 想定される移行方法を開示していたのは15%の企業のみであった。

IAS第34号「期中財務報告」は、すでに公表されているが未だ適用されていない新たな基準書について、従前に開示されていた情報をアップデートするための具体的な開示規定を定めていない。しかし、欧州証券市場監督局(ESMA)のように一定の規制当局は、2016年度年次財務諸表にすでに開示されている、IFRS第15号適用の想定される影響に関する情報を企業がアップデートすることを期待している。したがって、企業は、規制当局の助言に耳を傾け、生じる可能性が高い影響について、定性的情報と定量的情報をアップデートできるように準備を進める必要がある。

公表されているが未発効の基準書に関する開示規定

公表されているが未発効の新基準書を企業が適用していない場合、IAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」に従い、(a)その旨、(b)新基準書の適用が適用開始年度における企業の財務諸表に及ぼし得る影響の評価に関連性のある既知の又は合理的な見積可能な情報を開示しなければならない1

企業は、次のすべての事項の開示を検討する必要がある。

  • 新基準書の名称
  • 近い将来行われる会計方針の変更の内容
  • 当該基準書の強制適用日
  • 企業による当該基準書の適用開始予定日
  • 当該基準書の適用が企業の財務諸表に及ぼすと予想される影響についての説明、あるいは、その影響が不明であるか又は合理的に見積ることができない場合は、その旨2

1: IAS第8号30項
2: IAS第8号31項

規制当局の視点

2016年に複数の規制当局が、企業がIFRS第15号に関する適切な開示を行うことの重要性を強調し、新基準書の影響に関しより多くの情報が入手可能になるに応じて、各報告期間における企業の開示は一層充実していくはずであるとの期待を表明した。証券監督者国際機構(IOSCO)は、この点を再度確認する文書を2016年12月に公表した。さらに、作成者の適用プロジェクトのごく初期の段階であれば影響に関する定性的開示も有用となるが、IOSCOは、「作成者がその適用計画を実現していくに従って、新基準書の考え得る影響に関する定量的開示が増加していくはずである」と考えている。定量的見積りは変化する可能性があるという内在リスクを認めつつ、IOSCOは、作成者が適時かつ企業固有の十分かつ適切な詳細情報を提供することを推奨する。「作成者は、単に新基準書の適用の最終的な影響が変わる可能性があるという理由のみで合理的な見積可能な定量的情報の開示を躊躇すべきではない。合理的かつ見積可能な定量的情報は、完全な確実性に欠けるかもしれないが、投資者にとっては目的適合となる。他の会計上の見積り同様、作成者は、それらの金額は見積りである旨を開示することになる。」3

ESMAは、2016年7月に新基準書の影響について透明性の必要性を強調する文書を公表した。ESMAは、2017年の期中財務諸表を作成する時点で、企業はIFRS第15号適用の影響を把握している、あるいは合理的に見積ることができるようになっているはずとの期待を寄せていた。ESMAはさらに、大半のケースで、2017年度の年次財務諸表だけにIFRS第15号の影響度に関する開示を提供するのは適切でないと述べていた。

企業が重要な影響があると予測する場合、ESMAは、作成者に以下を行うことを期待している。

  • IFRS第15号の最初の適用時に判断される会計方針の選択(完全遡及適用アプローチ、移行時に累積的にキャッチアップ修正する方法又は実務上の便法を適用する会計方針など)についての情報を提供すること
  • 性質に応じて(すなわち、影響により、認識される収益の額、その時期又はその両方が修正されることになるか否かに応じて)、及び収益の流れごとに、予想される影響を細分化すること
  • 財務諸表の利用者が、IAS第11号、IAS第18号及び関連する解釈指針書に記載されている認識及び測定に関する既存の原則に照らし合わせて、現行の実務からの変更、及びその主因を理解できるように、影響の性質を説明すること4

ESMAの公式文書はまた、企業が当該基準書が重要な影響を及ぼすと予想する場合にESMAが2016年及び2017年の期中及び年次報告のそれぞれに開示されることを期待する情報の種類も設例の形式で説明している。

3: IOSCO公式報告書 2016年12月16日に公表された「FR 12/2016 Statement on implementation of new accounting standards」は IOSCO's website.で入手可能である
4: ESMA公式文書 IFRS第15号適用の際に留意すべき事項 2016年7月20日に公表された「顧客との契約から生じる収益」(ESMA's websiteで入手可能)

IFRS第15号の適用以前の開示の調査

IFRS第15号が適用される以前の開示の質に関する洞察を得るために、EYは、フォーチュン500に掲載されているIFRSに準拠して財務諸表を作成している207社の2016年の年次財務諸表における開示をレビューした。調査した企業のうち、11%の企業のみが、IFRS第15号を適用する影響の予備的評価を終えていると開示していた。71%の企業が、当該評価を現在行っているところであると述べていた。1社は、まだ評価を開始していないと開示していた。

IFRS第15号の適用の影響に関する開示

上述の通り、企業はIAS第8号に従って、新基準書の適用が企業の財務諸表に及ぼすと予想される影響についての説明、あるいは、その影響が不明であるか又は合理的に見積ることができない場合は、その旨を開示しなければならない。

課税所得(税務上の欠損金)、税務基準額、未使用の繰越欠損金、未使用の繰越税額控除及び税率の決定

調査した企業のうち、3%の企業のみが、IFRS第15号は財務諸表に重要な影響を及ぼすと想定していると記載しており、当該企業の半数が電気通信業界に帰属する企業であった。35%の企業が、IFRS第15号が重大な影響を及ぼすと想定していないと記載しており、その3分の1は金融サービス業界の企業であった。しかし、企業の大半が、信頼のおける見積りが可能ではないと述べるか、予想される影響の明確な指標を提供していないかのいずれかであった。

規制当局がその適用プロジェクトを進捗させる重要性について説明していたにもかかわらず、調査した企業の中でIFRS第15号の適用の潜在的影響について定量的情報を提供していたのはわずか1%のみであった。1社が、想定される全体の影響を開示していた。

定性的な情報の開示はより一般的に行われており、33%の企業が、財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性のあるIFRS第15号の側面を開示していた。

定性的開示において影響度が大きいと企業が考えるトピックのトップ10は次のとおりである(記載割合が大きいトピック順)

課税所得(税務上の欠損金)、税務基準額、未使用の繰越欠損金、未使用の繰越税額控除及び税率の決定

上記以外のトピックとしては、追加の財又はサービスに関する顧客の選択権、返還不能の前払手数料及び一定期間の進捗度の測定などが挙げられていた。

IFRS第15号への移行方法についての開示

IFRS第15号は遡及適用することが求められる。IASBは、「完全遡及適用アプローチ(表示されるすべての期間に同基準書を遡及適用する)」又は「修正遡及適用アプローチ」のいずれかを選択できることとした。修正遡及適用アプローチを選択する企業は、IFRS第15号を財務諸表に表示される直近の期間(すなわち、適用開始年度)のみに遡及的に適用する。

企業は、IFRS第15号を初めて適用したことによる累積的影響を、期首利益剰余金に対する調整として認識しなければならない。例えば完了済みの契約又は表示される最も古い期間の期首以前に条件変更がなされている契約に関しては、いずれの方法であってもいくつかの負担軽減措置(実務上の便法)が存在する。上述のとおり、規制当局は、企業が完全遡及適用アプローチ、修正遡及適用アプローチのいずれを適用するつもりかを開示することを期待している。

調査した企業のうち、2016年度年次財務諸表に想定される移行方法を開示した企業は15%のみに留まった。この情報を開示した企業の3分の2以上が、修正遡及適用アプローチを適用すると記載していた。

弊社のコメント

規制当局は、当該新基準書が及ぼす影響についてより多くの情報が入手可能になるにつれ、企業の開示が報告期間ごとに充実することを期待している。これには、より詳細な企業固有の定量的情報の提供が含まれる。

大半の企業がIFRS第15号の適用の影響を今なお評価中であり、予測される影響についての定量的開示は、2017年の年次財務諸表まで待つという選択をすれば、規制当局の期待を裏切る結果となる。従って、企業は、IFRS第15号を適用する影響を定量化し、2017年の期中財務諸表でも当該情報を開示できる体制を整える必要がある。

関連資料を表示

  • 「IFRS Developments 第126号 2017年5月」をダウンロード

IFRSインサイト

IFRSインサイト

IFRSインサイトでは、EYの財務報告プロフェッショナルによるあらゆる専門的なコンテンツ、ガイダンス、ツールを取りそろえています。

詳細ページへ

 

関連コンテンツのご紹介

IFRS

EYのIFRS専門家チームは、国際財務報告基準の解釈とその導⼊にあたり、企業が直⾯する問題を精査します。

詳細ページへ

アシュアランスサービス

全国に拠点を持ち、日本最大規模の人員を擁する監査法人が、監査および保証業務をはじめ、各種財務関連アドバイザリーサービスなどを提供しています。

詳細ページへ

情報センサー

「情報センサー」は EY新日本有限責任監査法人が毎月発行している定期刊行物です。国内外の企業会計、税務、各種アドバイザリーに関する専門的情報を掲載しています。

詳細ページへ