アシュアランス
IFRS Developments

信用減損金融資産の治癒

2019.05.21
重要ポイント
  • IFRS解釈指針委員会は2019年3月、従前の暫定アジェンダ決定を確認した。
  • 信用減損金融資産が治癒する場合、従前に未認識の金利は、金利収益ではなく、減損費用の貸方として計上する。

概要

IFRS解釈指針委員会(解釈指針委員会又は委員会)は、信用減損金融資産(いわゆる「ステージ3」の金融資産)が事後的に全額返済された場合又は信用減損に該当しなくなった場合に、未認識の金利をどのように表示するのかに関する要望を受けた。より具体的には、従前に未認識の金利の戻入れを金利収益として表示することができるかどうかが、要望書において質問された。

解釈指針委員会は、2019年3月会議において、要望書に記載されている差額を減損損失の戻入れとして表示しなければならないと結論付ける最終アジェンダ決定を公表した。

背景

IFRS第9号「金融商品」 では、信用減損していない金融資産(すなわちステージ1もしくは2)に係る金利収益は、総額での帳簿価額に実効金利を乗じて計算することが求められている。一方、資産が信用減損(すなわちステージ3)となった場合、金利収益は、金融資産の償却原価、すなわち総額の帳簿価額から予測信用損失を控除した金額に実効金利を乗じて計算される。したがって、以下の金額に差額が生じる。

  • 信用減損金融資産の総額での帳簿価額に実効金利を乗じて計算される金利
  • 当該資産について認識される金利収益

金融資産が「治癒」し、ステージ2もしくはステージ1に戻る場合、金利収益は総額での帳簿価額を基に再び計算されることになる。IFRS解釈指針委員会に提出された要望書において、金融資産の治癒後に、企業は、この差額を金利収益として表示することができるのか、もしくは減損損失の戻入れとして表示することを要求されるのかが質問された。

委員会は、損失評価引当金をIFRS第9号に従って認識が要求される金額とするために要求される修正を、予測信用損失の戻入れとして純損益に認識しなければならないことに留意した。なお、当該資産が全額返済される場合には、損失評価引当金はゼロになる。当該修正には、金融資産が信用減損となった期間中の損失評価引当金に係る割引の巻戻しの影響が含まれる。これは、減損損失の戻入れ額が、資産の存続期間にわたり純損益に認識された減損損失を上回る可能性があることを意味する。

IFRS解釈指針委員会の決定

解釈指針委員会は2018年11月の会議で、企業は、要望書に記載された差額を、信用減損金融資産の治癒後に減損損失の戻入れとして表示しなければならないと暫定的に結論付けた。同様に、解釈指針委員会は、既存のIFRS基準における要求事項が、要望書に記載された事例において、信用減損金融資産の治癒後に予想信用損失の戻入れを認識し表示するための適切な基礎を提供していると結論づけた。したがって、解釈指針委員会は、本論点をアジェンダに追加しないことを決定した。

コメント募集期限が終了したのを受け、解釈指針委員会は2019年3月に再度招集され、従前の暫定アジェンダ決定を確認した。

設例
  • 実効金利10%の既存の貸付金が信用減損するN年目の1月1日時点で全期間の予想信用損失が当該貸付金に関し認識される。
  • 予想キャッシュ・フロー不足額は表1の通りで、N+3年目の12月31日まで状況が変わることがない。当該キャッシュ・フローを実効金利で割り引くと、1月1日時点の予想信用損失は、表1の通り59百万円となる。
  • 設例上、契約上のキャッシュ・フロー(元本及び発生金利)が、予想に反し、N+3年目の12月31日に全額回収されると仮定する。
  • 説明を単純化するため、未払金利に利息は発生しないと仮定する。

表1 契約上のキャッシュ・フロー及び予想キャッシュ・フロー(単位:百万円)

12月31日時点のキャッシュ・フロー N N+1 N+2 N+3 合計
契約上のキャッシュ・フロー 10 10 10 110 140
予想キャッシュ・フロー 0 0 0 60 60
予想キャッシュ・フロー不足額 10 10 10 50 80
1月1日現在の予想信用損失(実効金利で割り引いた不足額) (9) (8) (8) (34) (59)

表2 ステージ3の会計処理(単位:百万円)

 

 

 

12月31日

 

P/L上の累積的
影響額

 

 

N

N+1

N+2

N+3

 

 

総額での帳簿価額期首残高

100

110

120

130

 

 

総額での帳簿価額を基に計算された金利

10

10

10

10

 

 

決済

0

0

0

(140)

 

 

総額での帳簿価額期末残高

110

120

130

0

 

 

損失評価引当金期首残高

(59)

(65)

(70)

(75)

(59)

当初引当金

割引の巻戻し

(6)

(5)

(5)

(5)

 

 

損失評価引当金の戻入れ

0

0

0

80

80

未使用引当金の戻入れ

損失評価引当金期末残高

(65)

(70)

(75)

0

21

減損費用

償却原価期首残高

41

45

50

55

 

 

償却原価に基づく金利収益

4

5

5

5

19

償却原価に係る金利

決済

0

0

0

(60)

 

 

償却原価期末残高

45

50

55

0

19

金利収益

貸付金は信用減損していることから、金利収益は、貸付金の償却原価に実効金利を適用して導き出される金額に制限される。解釈指針委員会の決定により、損失評価引当金の戻入れは、全額が減損費用として認識されることが明確化された。従って、貸付金の総額での帳簿価額に生じる実効金利(40百万円)の一部は金利収益として表示されず、減損の戻入れとして表示されることになる。これは、貸付金が信用減損している期間における損失評価引当金に関する割引の巻戻しに該当する(21百万円)。

弊社のコメント

当該決定により、税前純損益自体に影響はないが、損失評価引当金の戻しを金利収益ではなく減損損失の戻入れとして認識することは、複数の重要な比率、特に金融機関の各比率に影響を及ぼす可能性がある。例えば、減損損失比率、純金利利益率などに影響を及ぼすと考えられる。また、当該決定は、企業内部の業績指標にも影響を及ぼす可能性がある。財務諸表作成者は、当該変更が財務報告上の比率及び主要な業績指標に及ぼす影響を検討し、変更点につき、社内外の利用者に積極的に説明していくことが求められるであろう。

特に、当該戻入れを従前金利収益として認識していた企業にとっては、今回の解釈指針委員会の指針は実務に著しい影響を及ぼすと考えられる。

なお、解釈指針委員会は本論点をアジェンダに追加しないことを決定した。したがって、適用に際してIASBの公表物である「アジェンダ決定-タイム・オブ・エッセンス(期限の考慮)」外部サイトに移動しますを参照する必要がある。これは、IFRS解釈指針委員会が公表したアジェンダ決定から生じる会計方針の変更の適用に関する公表物である。本公表物において、アジェンダ決定の公表後、企業は変更を適用するために十分な時間をかけることができると説明されている。




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