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IFRS Developments

IBOR改革:IASBフェーズ2の残りの論点を議論

2020.03.19
重要ポイント
  • IASBは、2月の会議にて、IBOR改革で生じる財務報告上の課題に対処するため、IFRS改訂プロジェクトのフェーズ2に関する議論を完了した。
  • IASBは、RFRへの移行時に、適用される救済措置やその有効期間を含め、リスク要素をどのように指定すべきかについて合意した。
  • IASBは、救済措置が適用可能な場合にはその適用を義務付ける。
  • 2021年1月1日以降開始する事業年度から適用されるが、早期適用も容認される。過去にIBOR改革の直接の結果としてその要件を満たさなくなったヘッジ関係については復活させなければならない。
  • 作業は公開草案へと進むことになり、コメント募集期間を45日とする公開草案が2020年4月中に公表される予定である。

はじめに

国際会計基準審議会(以下、IASB又は審議会)は2020年2月26日の会議で、IBOR改革に関連して生じる財務報告上の論点を取り扱うプロジェクトの最後の論点について議論した。本稿では、暫定的決定について要約したうえで、EYの見解を説明する。

世界の規制当局が銀行間調達金利(IBORs)を代替指標金利又は無リスク金利(RFRs)に置き換える決定をしたことを受けて、IASBは2018年にIBOR改革が財務報告に及ぼす影響に対応するための作業を開始した。IASBは、本プロジェクトを2段階に分けている。

  • フェーズ1(第1段階)では、既存の金利指標を実質的に無リスクの代替的金利に置き換える前の期間における財務報告に影響を与える論点を取り扱う。
  • フェーズ2(第2段階)では、既存の金利指標をRFRに置き換える時に財務報告に影響を与える可能性のある論点に焦点をあてる。

2019年9月、IASBは、「金利指標改革:IFRS第9号、IAS第39号及びIFRS第7号の改訂」の公表をもってフェーズ1の作業を完了した。2019年10月、IASBはフェーズ2の論点の検討を開始し、その議論を2019年12月及び2020年1月の会議でも引き続き行った。2月に暫定的な結論に達したことにより、IASBはフェーズ2のすべての論点について議論を完了したこととなり、スタッフは4月に公表を予定している公開草案(ED)の開発作業を進めている。

IASBのプロジェクトの背景についてはIFRS Developments 第144号と第145号、フェーズ1の改訂についてはIFRS Developments 第152号において解説している。IFRS Developments第154号、第156号及び第160号でフェーズ2の暫定的な決定について要約している。これらの刊行物はwww.ey.com/ifrsで閲覧可能である。

1. 金融商品の条件変更

IASBは10月の会議において、たとえ金融商品の契約条件自体に変更がなくても、当初の予想キャッシュ・フローを結果的に変化させるような契約上のキャッシュ・フローの算定基礎の変更は、条件変更に該当するという明確化をIFRS第9号「金融商品」に加えることを暫定的に決定した。例えば、2019年10月のユーロ圏無担保翌日物平均金利(EONIA)から新たな銀行間翌日物金利である€STRへの変更や、欧州銀行間取引金利(EURIBOR)の算出方法の将来的な変更などが条件変更の例に挙げられる。

この改訂が、著しい影響を及ぼすことは、10月の会議時点ですでに分かっていたが、これによりもたらされる影響の判別及びその度合いを見極めるには相当の時間を要するであろうと考えられていた。そこで、IASBはフェーズ2の改訂をできるだけ早く完了するために、条件変更の定義の拡大を、IBOR改革に直接起因する契約上のキャッシュ・フローの変更のみに留めることで合意した。「条件変更」の定義に対する抜本的な変更は、すべての状況に適用されることとなるため、それにより生じる影響はより広範なものとなるが、これについては、IASBの本IBOR改革プロジェクトが完了した段階で、別個のプロジェクトとして検討される。

2. リスク要素のヘッジ-「独立して識別可能である」とする規定

リスク要素に関しては、IFRS第9号は「リスク要素」という用語、IAS第39号は「指定された構成部分」という用語を用いているが、IASBは、それらの概念はいずれも同じであると考えていることから、我々は「リスク要素」という用語を使用することにする。

フェーズ1の救済措置の終了

フェーズ1の改訂は、ヘッジ対象リスクとして指定される、契約によらない特定のIBORリスク要素は、「独立して識別可能である」という要件をヘッジ関係の開始時点でのみ満たせば良いとする救済措置を定めている。これは、IBORからRFRに移行する前の期間において、あるヘッジ関係に関してヘッジ対象リスク要素が独立して識別可能であることを企業がもはや示すことができなくなった場合でも、当該救済措置によりヘッジを中止する必要がないことを意味する。しかし、指定されたリスク構成要素は、依然として信頼性をもって測定可能でなければならず、それは、RFRを参照する金融商品に関してターム・ストラクチャーが構築されるための十分に流動性のある市場が存在しなければならないことを示唆する。

フェーズ1で定められたその他の救済措置の適用の具体的な終了時期に関する規定と異なり、「独立して識別可能である」に関する救済措置は終了日が定められていなかったが、それはフェーズ2の動向次第ということになっていた。フェーズ2について暫定的な合意が見られたことから、IASBは2月の会議で、当該救済措置は以下のいずれか早い時点で終了するとした。

  • ヘッジ対象リスクにIBOR改革に直接起因する条件変更が反映されるようにヘッジ関係が変更される時点
  • ヘッジ関係が中止になる時点

RFRのリスク要素としての指定

金融商品がIBOR参照からRFR参照に徐々に移行していく際、市場の状況に照らすと契約によらない特定のRFRリスク要素が独立して識別可能であることを示すことが不可能である期間が存在することが考えられる。これは、変動金利支払いのRFR連動が一般化していない場合や、また固定金利金融商品のプライシングが未だRFRとの比較をもとに行われていないケース、さらに大半の金利スワップが未だRFRを参照していない状況も考えられるためである。こういったケースにあっては、RFRがヘッジ対象リスクとしての指定の要件を満たさない可能性があり、そのことが、金融商品をIBOR参照からRFR参照に移行し、RFRリスク要素の新しいヘッジを締結するという企業の意欲を削ぐことになりかねない。

したがってIASBは2月、RFR参照金融商品がリスク要素のヘッジとして指定されたケースについて「独立して識別可能である」とする要件を満たさなくても良いとする一時的な救済措置を定めることで暫定合意した。本救済措置により、ヘッジの指定時点で企業は、「独立して識別可能である」とする要件を満たしているとみなすことが可能になるが、企業はその後24カ月の間にRFRリスク要素が独立して識別可能になると合理的に見込めなければならない。救済措置は以下のいずれか早い時点で終了する。

  • RFR要素の指定開始から24カ月が経過した時点
  • 指定開始時から24カ月が経過するまでの間に、リスク要素が独立して識別可能にはならないことを企業が合理的に確実と判断した時点

いずれのケースもヘッジは将来に向かって中止しなければならない。

RFRリスク要素を指定する時点で企業は、救済措置を適用できるか、そして継続的に適用し続けることができるかを評価するための判断を行使する必要がある。また、ヘッジ関係の期間全体を通してリスク要素は信頼性をもって測定可能でなければならないとする要件に関してはいかなる免除措置も提供されない。よってヘッジの非有効部分は通常どおり純損益に認識される。

救済措置は、RFRリスク要素が独立して識別可能であるかどうかが、IBOR改革から直接生じる不確実性による場合についてのみ適用される。すなわち、リスク要素が独立して識別可能であるかどうかに関する不確実性が存在するが、当該不確実性がIBOR改革に直接起因するものではない場合、そのヘッジ関係には救済措置を利用することはできない。救済措置が適用可能な期間は、IBOR改革が完了し、RFRが市場の基準金利として定着した時点で終了する。したがって、将来生じる可能性がある、指標金利市場の非流動性を引き起こすその他の原因を緩和するために当該救済措置を適用することはできない。

3. 救済措置の複数の適用

金融商品がRFR参照に移行するにつれ、単一の指標金利でも、IBOR改革の直接の結果として1つ以上の変更が生じる可能性がある。例えば、上述したEONIAを参照する金融商品を例にとれば、当該指標金利の算出方法が2019年中に€STRプラス固定スプレッドを参照する方法に変更になり、それに加えて契約上EONIAへの参照が€STRへの参照に置き換わる移行が見込まれる。救済措置はそれぞれの指標金利に関し一度限りの適用に制限されるものではなく、IBOR改革の直接的な結果としてヘッジ関係が変更されるその都度、適用が可能である。2019年10月に合意されたフェーズ2の条件変更に関する救済措置にも同じ原則が適用されると見込まれる。

4. 強制適用

フェーズ2の論点に影響を受ける金融商品を企業が有している場合、IASBは、救済措置の適用は、任意ではなく強制適用とすることを暫定的に決めた。これは、企業は、IBOR改革に直接影響されるすべてのヘッジ関係に救済措置を適用しなければならないとする、フェーズ1の改訂のアプローチに整合する。それにより、IBOR改革の影響に関する会計上の取扱いに一貫性がもたらされ、企業間の比較可能性が確保される。

5. 発効日及び経過規定

フェーズ2の改訂は、2021年1月1日以降開始する事業年度から適用され、早期適用も容認されるということが合意された。

2020年末にかけてIBOR改革の速度が加速していくことを鑑みると、フェーズ2の救済措置を企業が適用できるようになる前に、IBOR改革の直接の結果として会計上のヘッジが中止になってしまうことも十分に考えられる。そこでIASBは、企業がフェーズ2の改訂を最初に適用した時点で、そうしたヘッジ関係は復活させるということを暫定的に決定した。これは、企業が、フェーズ2の救済措置が適用されていれば、ヘッジ関係が中止になることはなかったということを示すことができる場合にのみ適用される。

過去に中止されたヘッジ関係については、フェーズ2の改訂を適用する時点で、当該期間の期首時点の期首利益剰余金を、復活されたヘッジ関係の影響について修正する。それより古い報告期間は修正再表示しない。

この救済措置は、フェーズ2の救済措置が適用可能になるまでの期間にヘッジ関係を中止しなければならないことに起因する会計上の影響により、IBORs参照からRFRs参照に金融商品を移行させる企業の意欲が削がれないようにすることを意図している。例えば、経済的に及びリスク管理上ヘッジが引き続き有効であっても、IBORからRFRへの移行の際に必要になるヘッジ文書の変更により、ヘッジが中止になる場合がある。したがって、本救済措置は、この種のIBOR改革から生じる純粋な会計上の影響は一時的なものであり、フェーズ2の改訂を適用した時点で戻し入れられることを意味する。ヘッジ関係の復活は、影響を受けるすべてのヘッジに強制適用されるものであり、企業は、一部の中止されたヘッジを復活させ、その他は復活させないという選択を行うことはできない。

次のステップ

IASBはフェーズ2の議論を完了したことで、4月に公表を予定する公開草案の開発に取り掛かっている。公開草案のコメント募集期間は45日とすることで合意された。

弊社のコメント

我々は、「独立して識別可能である」に関する救済措置は、IBORベースのヘッジ手段がRFRを参照するよう変更されるか、又は新たなRFRベースのヘッジ手段を締結するケースにおいて、それらがRFR要素のヘッジに指定される3つの状況において適用されると考えている。

  • ヘッジ対象は固定金利負債性金融商品である。
  • ヘッジ対象は既存のIBORベースの金融商品である。
  • ヘッジ対象は非常に可能性が高い負債性金融商品の取得又は発行である。

3番目の区分には、金融商品が固定金利である、又はIBORあるいはRFRに基づく変動金利であると予測される場合だけでなく、変動金利であると見込まれるものの、当初それがIBORに基づくものであるか、RFRに基づくものであるかが現時点では不確実である場合も含まれる。

「独立して識別可能である」に関する救済措置を適用する24カ月という期間は、企業に新しいタイプの会計上の判断を要求することになる。すなわち、救済措置の適用を開始するにあたり、企業は、ヘッジ指定開始の時点で、救済期間が終了するまでにRFRが独立して識別可能になるということが合理的に確実であると判断できねばならない。その一方、救済期間が終了になる前に、RFRが独立して識別可能にならないことが合理的に確実と判断された場合にのみ、企業は救済措置の適用を中止することができる。企業が「合理的に確実である」という規定の解釈は、救済措置の適用を開始する、又は中止するという両方の場合において、高いハードルになる。ゆえに、企業は、「独立して識別可能」が何を意味するのか、明確に理解しておくことも必要になる。

フェーズ2の救済措置が適用可能になる前にIBOR改革に直接起因して中止されるすべてのヘッジ関係について、企業は、それらを中止された事実に基づき会計処理しておくだけでなく、フェーズ2の改訂を適用する時点で復活できるように、ヘッジが引き続き適用されていたと仮定した場合の会計記録を作成保管しなければならない。

IASBがフェーズ2の論点に関する議論を完了したことから、影響を受ける企業はRFRに移行するより具体的な計画を立てることができる。例によって、公開草案が公表された時点で、その規定の正確な意味に留意することが重要となる。また、実務上直面するであろう様々なシナリオに対して、提案された救済措置がどのような影響を及ぼすかを慎重に検討してさえおけば、企業側のほうが、よほど公開草案が明確で、十分かつ実務上適用可能であるかということについて、IASBに対し適切なコメントをすることができる立場にあることも意識すべきであろう。




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