アシュアランス
業種別IFRS解説

IFRS導入が建設業に与える影響について

2010.04
建設業研究会 公認会計士 佐藤賢治

I はじめに

本稿では、建設工事の施工を主としている事業(以下、建設業)が、国際会計基準(IFRS)を導入した際に検討すべき点をご紹介します。なお、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

II 個別の基準の解説

1. 工事契約(IAS第11号、第18号)

(1)収益認識

IFRS上、建設業における収益は、IAS第11号「工事契約」の定義を満たし、かつ工事契約に関する成果の確実性が認められる場合には、工事進行基準により認識します。満たさない場合には、IAS第18号「収益」により認識します(IFRIC第15号「不動産の建設に関する契約」)。一方、日本基準においても、工事契約に関する成果の確実性が認められる場合には、工事進行基準が適用されます。従って、現行のIFRSと日本基準は<表1>に記載した一部の取扱いを除き、ほぼ類似した内容になっているといえます。

表1 工事契約に関するIFRSと日本基準の主要な差異
  IFRS 日本基準
工事の成果を信頼性をもって見積もることができない場合 (IAS11.32)
原価回収基準を適用
発生した工事契約原価のうち、回収可能性が高い部分についてのみ収益を認識
(基準9)
工事完成基準を適用
成果の確実性の事後的な獲得 (IAS11.35)
工事の成果に係る不確実性が解消した時点から工事進行基準を適用
(適用指針3)
成果の確実性の事後的な獲得のみをもって工事進行基準への変更は行わない。ただし、本来、工事着手時に決定しておくべき事項が事後的に決定された場合を除く
  • 基準:企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」
  • 適用指針:企業会計基準適用指針第18号「工事契約に関する会計基準の適用指針」

(2)収益の総額表示と純額表示

IFRS上、企業が物品販売または役務提供に関する重要なリスクにさらされていない取引については、代理人として取引に介在したとされ、売上仕入の総額ではなく、「手数料」としての純額表示が要求されます。

この点、建設業においては、発注者が下請業者を指定し、下請工事契約における諸条件を当該下請業者とあらかじめ取り決めておく発注方式に基づく工事(いわゆるコストオン工事)が行われることがあります。現行実務上、元請業者は、発注者が指定した下請業者の行う工事費に、元請業者としての統括管理費(いわゆるコストオンフィー相当額)を加算した額、すなわち発注者からの工事代金総額を売上計上している場合があります。しかし、IFRS上、工事の実態として元請業者が重要なリスクにさらされていないと認められる場合には、コストオンフィーのみを「手数料」として純額計上しなければならない可能性があると考えられます。

IFRSの適用に当たっては、工事の実態を十分に吟味し、純額表示が求められる取引であるかどうかを確認する必要があります。

(3)今後の方向性

① 工事進行基準の適用の可否

現在、国際会計基準審議会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)が共同で進めている収益認識プロジェクトに基づき、08年12月に公表されたディスカッション・ペーパー「顧客との契約における収益認識についての予備的見解」(以下、収益DP)によれば、建設工事中の資産の支配が顧客に移転していると認められない限り、収益認識ができないとされています。従って、この「支配の移転」の解釈いかんによっては、現行の工事進行基準が適用できなくなる可能性もあるため、解釈の動向が注目されています。

この点、IASBの公式会議で議論するために国際会計基準委員会財団(IASCF)のテクニカルスタッフが作成したスタッフペーパー2009年9月5A(以下、収益SP)によれば、顧客が資産の支配を取得したかの判断に当たっては、次の8つの指標を含む、すべての関連する事実と状況を考慮して決定することとされており、収益DPは、すべての工事契約に対して工事完成基準を要求しているわけではないとされています。

  1. (A)顧客は、資産に対して支払いをする無条件の義務を負っている。
  2. (B)顧客は、資産に対する法的権利を有している。
  3. (C)顧客は、資産をほかの当事者に売却(または交換)することができる。
  4. (D)顧客は、資産の物理的な占有を得ている。
  5. (E)顧客は、資産の占有を得る実務上の能力を有している。
  6. (F)顧客は、資産のデザインまたは機能を特定(指定)する。
  7. (G)顧客は、資産に対して継続的な経営上の関与を有している。
  8. (H)顧客は、資産で債務を担保または決済できる。

8指標を現行の建設業における実務に当てはめると、例えば次のような場合には各指標の要件を満たしていると考えられます。

  1. i)出来高の査定により、顧客が請負代金を支払う義務を負い、支払い後には、原則として工事代金を返還請求できない場合
    →指標(A)
  2. ii)顧客が所有している土地の上で建設されている場合
    →指標(E)など
  3. iii)顧客の要求に基づいて品質に関する要件や設計が行われている場合
    →指標(F)
  4. iv)顧客が工事の進捗状況を確認し、進捗に応じた出来高の査定による工事代金の部分払いも取り決めている場合
    →指標(G)

この8指標のほか、工事の実態にかんがみた場合、現行の実務を前提としても、工事進捗に従って、顧客に建設工事中の資産の「支配の移転」が認められ、工事進行基準を適用できる可能性があると考えられます。

当然のことながら、工事契約ないし工事実態によっては、現行の工事進行基準で会計処理されている、すべての工事契約について収益DPにおける「支配の移転」を連続的に取得しているものと認められるとは限りません。そのため、各社における工事契約ないし工事実態を前記8指標のほか、さまざまな観点から十分に検討しておく必要があります。

なお、収益SPはIFRSを構成しないため、今後の動向によっては結論が変わる可能性があることに留意が必要です。IASBの今後の作業計画によれば、収益認識に係る公開草案(ED)が10年6月をめどに公表される予定です。

② 瑕疵担保責任

現行の会計処理では、工事契約に基づく瑕疵担保責任は、将来発生すると見込まれる瑕疵担保に要する費用を売上に対応させるべく、完成工事補償引当金として計上されています。

一方、収益DPでは、工事契約に係る契約負債を履行義務の単位で識別する必要があります。当該契約負債の一要素である瑕疵担保責任に係る履行義務は、本体工事に係る履行義務とは区分して識別されます。従って、本体工事の完成までに、請負金の全額を売上計上するとともに、将来発生が見込まれる瑕疵担保に要する費用を引当金として計上するという会計処理ではなくなります。本体工事の完成時点では、当該本体工事に係る履行義務の評価額のみ売上計上し、残りの瑕疵担保責任に係る履行義務の評価額については費用の発生時点、すなわち履行義務を充足する時点まで売上計上が繰り延べられることになります。

実務上、売上の認識時期のほか、瑕疵担保責任に係る履行義務の評価および請負金からの区分処理などの業務プロセスやシステムにも大きな影響を与える可能性があると考えられます。

なお、収益DP公表後に寄せられた意見により、この瑕疵担保責任の取扱いについてはIASBで引き続き議論されているため、今後の動向に留意が必要です。(<設例>参照)

<設例>瑕疵担保責任に係る会計処理

(1)前提条件

① 請負金 100 (本体工事部分90、瑕疵担保責任部分10)
② 本体工事原価 75 (③を除く本体工事に係る原価)
③ 瑕疵担保に要する費用 5 (瑕疵担保期間中における補償費用の総額)

(2)仕訳

  日本基準・IAS11 収益DP
借方 金額 貸方 金額 借方 金額 貸方 金額
工事完成・引き渡し 現金預金 100 売上 100 現金預金 100 売上 90
            契約負債 10
原価-本体工事 75 現金預金 75 原価-本体工事 75 現金預金 75
原価-補償(完成工事補償引当金繰入) 5 完成工事補償引当金 5        
瑕疵担保に要する費用の発生 完成工事補償引当金 5 現金預金 5 契約負債 10 売上 10
        原価-補償 5 現金預金 5

2. 借入費用(IAS第11号18項、IAS第23号)

IAS第11号18項によれば、「請負業務全般に帰属することができ、かつ、特定の契約に配分できる原価には、借入費用も含まれる」とされています。建設業におけるビジネスの実態として、発注者に代わり、工事請負業者である建設会社は自らの信用において借入を行い、当該借入資金をもって工事を施工し、その代金の回収に一定の期間を要する、といった側面を有しています。そのため、建設業における借入費用のうち工事に対応する部分については、原則として工事原価への算入が求められることになると考えられます。

一方、日本基準における借入費用は原則として工事原価には算入されず、すべて営業外費用の支払利息として計上されています。従って、建設業における借入費用のうち工事に対応する部分については、営業外費用から工事原価へ振り替える必要があります。

また、IAS第11号では、工事原価に含めるべき借入費用をどのように算定するかについての追加的なガイダンスが具体的に規定されていません。そのため、会社は自身の判断として、①どのような借入費用が「請負業務全般に帰属し、かつ、特定の契約に配分できる原価」に該当し、②どのように配分するかを決定する必要があります。

この点、借入費用の資産化を規定しているIAS第23号は、IAS第11号における工事原価に含めるべき借入費用の算定において直接適用するものではありませんが、IAS第23号10~15項(資産化に適格な借入費用)および17~25項(資産化の開始、中断および終了)などの規定を参照することはできると考えられます。

実務上、財務諸表における表示のみならず、工事ごとに借入費用を集計するための業務プロセスおよびシステムにも大きな影響を与える可能性があると考えられます。

3. ジョイントベンチャー(IAS第27号、第28号、第31号)

建設業におけるジョイントベンチャー(JV)は、法律上の制度ではないため明確な定義を有していませんが、一般的には複数の会社が共同連帯して工事を受注し施工する協定であり、民法上の組合であると解されています。

日本基準上、JVは個別の組織体として認識することなく、構成員各社の会計に組み込む形態になっています(「連結財務諸表における子会社及び関連会社の範囲の決定に関する監査上の留意点」Q&AのQ12)。

一方、IFRS上、JVが法人格のある事業体であるかどうかにかかわらず、会社がJVを支配しているか否かをIAS第27号13~17項、解釈指針(SIC)第12号に基づき検討する必要があります。支配が認められ、子会社に該当すれば、そのJVをIAS第27号に基づき会計処理することになります。同様に、会社がJVに対し重要な影響力があるかをIAS第28号6~10項に基づき判断する必要があり、関連会社に該当すれば、そのJVをIAS第28号に基づき会計処理することになります。

会社のJVに対する支配や重要な影響が認められず、かつ共同支配が認められる場合には、IAS第31号が適用されます。IAS第31号では、JVの形態について法的形式が重視されるため、日本におけるJVが民法上の組合と解されることを前提とした場合、共同支配企業と見なされるケースが多いと考えられます。そのときには、比例連結ないし持分法により会計処理されることになります(<図1>参照)。なお、現在、IASBのED第9号「共同支配契約」において比例連結は廃止され、持分法のみとなる提案がされています。

図1 IFRSにおけるJVの会計処理(JVが事業体と解されることを前提とした場合)

図1 IFRSにおけるJVの会計処理(JVが事業体と解されることを前提とした場合)

JVに対して支配を有せず、かつ重要な影響も与えていない場合に、共同支配が認められるかどうかを判断するに当たっては、少なくとも次の2点について検討が必要と考えられます。

  • 運営委員会にどの程度、権限が与えられているか
  • 運営委員会では、どのように決議されるか

すなわち、IAS第31号の共同支配企業に該当するためには、運営委員会が基本方針、計画、予算、購買、経理など、経営の重要な部分の意思決定権限を有しており、かつ全員一致ないし最終的に委員の全員一致が得られるよう協議し、議事録に全員の署名がある場合など、決議方法の公正が確保されている必要があると考えられます。

一方、経営の重要な部分の意思決定権限がスポンサーに与えられている場合や、運営委員会に権限があっても、意見が不一致のときにスポンサー(あるいはスポンサー会社出身の委員長)が実質的に意思決定する場合には、(IAS第27号13項の検討事項を考慮した上で)スポンサーはJVを連結子会社とし、パートナーは(IAS第28号6~7項の検討事項を考慮した上で)JVを持分法適用会社とするか、そうでない場合はIAS第39号の売却可能金融資産として公正価値で評価することも考えられます。

最終的には、前記以外にも契約書における、その他の事項および取引の実質を検討し、どの基準が適用されるかについて、会社の判断が必要となります。共同支配が認められる場合には、構成員各社間で共同支配の会計処理について確認しておくことが望まれます。

実務上、JVについて連結ないし持分法により会計処理する場合には、財務数値のみならず、業務プロセスやシステムにも大きな影響を与える可能性があると考えられます。

4. 開示

(1)IAS第11号に基づく開示

IFRSに従い開示を行う上で、日本基準で要求される開示項目に加えて留意が必要な項目として、次の事項の開示が求められていることが挙げられます。実務上、これらの数値を集計するための業務プロセスやシステムに影響を与える可能性があります。

  1. (A)発生した原価および認識された利益の現在までの総額
    当期以前に計上された額を含めた発生原価
    および工事利益の累計金額
  2. (B)前受金の額
    入金額のうち、工事未収入金を超える部分
  3. (C)保留金の額
    中間請求のうち、その支払いに対し契約で定めた条件が満たされるまで、あるいは欠陥が修正されるまでは支払われない額
  4. (D)工事契約に基づく発注者に対する債権総額および債務総額(<図2>参照)
    進行中の工事に関し、発生原価に利益を加えた額が中間請求額を超える額、ないし中間請求額が発生原価に利益を加えた額を超える場合は、その超過額

図2 工事契約に基づく発注者に対する債権総額および債務総額

図2 工事契約に基づく発注者に対する債権総額および債務総額

(2)今後の方向性

DP「財務諸表の表示に関する予備的見解」(以下、表示DP)は<図3>のように、財政状態計算書、包括利益計算書、キャッシュ・フロー計算書のそれぞれにおいて、事業活動(価値を創造する活動)と財務活動(事業活動のための資金提供または調達を行う活動)に関する情報を区分して表示することを提案しています。また、事業活動は営業活動と投資活動に関する情報に、さらに区分表示するとしています。

図3 表示DPが提案する財務諸表の例示

図3 表示DPが提案する財務諸表の例示

また、流動・固定分類は、日本基準および現行IAS第1号では営業循環基準とワン・イヤー・ルールで判定するとされていますが、表示DPではワン・イヤー・ルールでのみ判定するとされています。さらに、営業循環期間が1年を超える企業は、財務諸表の注記で営業循環期間を説明しなければならないとされています。

例えば、建設業における営業債権は、入金条件によっては1年超となるものもありますが、現状、営業循環基準に基づき流動資産として表示されています。しかし、表示DPによれば、これらは固定の営業資産として表示されることになるので、流動固定比率の悪化など、各種指標に大きな影響を与える可能性があります。

III おわりに

IFRS導入が建設業に与える影響として第一に注目されるのは、収益認識すなわち工事進行基準の適用の可否であると思われます。これについて、IASBとFASBのプロジェクトの動向に引き続き留意が必要です。一方、JVや借入費用の原価算入など収益認識以外の論点においても、日本の建設業における現行実務とIFRSに差異が認められるため、その解釈と取扱いによっては、実務に大きな影響を与える可能性が見込まれます。これらについても、事前に十分検討しておくことが必要と考えられます。





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