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業種別IFRS解説

IFRS導入が不動産会社に与える影響について

2009.04
米国公認会計士 四釜宏吏

IFRS導入が不動産会社に与える影響について(PDF:139KB)

I はじめに

本稿では、主に不動産を販売・賃貸・投資などの目的で保有する、いわゆる不動産取引を行う日本の会社(以下、不動産会社)が、国際財務報告基準(IFRS)を導入した際に検討すべきと考える点を紹介します。しかし、このような不動産会社が営む不動産取引は多岐にわたるため、例えば建設業が主に関係する工事契約(IAS11号)等には本稿では触れていません。

なお、本稿における意見は筆者の私見であり、参考としている基準は2009年1月31日現在施行・公表されているものです。

II IFRSと日本基準の差異の主な原因について

IFRSは、少数の原理的な原則のみによって会計基準を設定すべきとする「原則主義」に従っているといわれます。そのため、産業別または各国の法制度や実務慣行などの固有の事情を考慮した簡便・例外規定を極力設けず、基準において該当する規定、および類似の事項や関連する事項について取り扱っている規定が存在しない場合には、概念フレームワークと呼ばれる共通の原則的なルールに照らして判断を求められる点が、一つの特徴となっています。

この原則主義は、多数の詳細なルールの記述によって会計基準を設定すべきとする「細則主義」(米国基準が典型とされる)と、しばしば対比されます。この点、日本基準は細則主義に近いといえます。後述の個別論点で解説する基準ごとの差異は主に、そのような会計基準設定上の基本的考え方の相違に由来すると考えられます。

III 個別の基準の解説

1. 棚卸資産(IAS2号)

販売目的で保有される不動産は、通常の棚卸製品等と異なり、販売まで時間を要する点、販売前に賃貸等の利用が可能な点から、取扱いについて検討が必要です。

2. 投資不動産(IAS40号)

不動産会社が賃貸・資産増価目的で保有する不動産は、金額的にも重要な位置を占め、かつIFRSと日本基準で会計処理に相違があるため、留意が必要です。

IFRSでは、投資不動産の取得後の測定方法として、「公正価値モデル」と「原価モデル」の選択を認めています(IAS40号30項)。前者を採用した場合、原則、すべての投資不動産を公正価値で評価し、公正価値の変動から生じる差額を発生した期の損益として処理します(IAS40号33~35項)。後者の場合は、毎期、減価償却、減損の兆候の評価を行いますが、毎期公正価値の測定と開示が必要となり、実務上の負担は変わらないとされています。この点、05年にIFRSを全面適用した欧州の主要不動産会社についてEYが調査を行ったところ、公正価値モデルを25社中23社が採用しているという結果が明らかにされています。なお、日本では建設または開発中の投資不動産の公正価値を評価する実務がないため、不動産鑑定評価基準自体の改定が必要になると思われます。

日本基準では、IFRSの原価モデルとほぼ同様の会計処理しか認められていません。平成22年3月期から、IFRSとの収斂の結果として「賃貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準」(企業会計基準第20号)に基づき時価情報の開示が求められますが、開示対象、採用する時価がIFRSでの開示と異なっているため、留意が必要です。

3. リース(IAS17号)

リース取引は、さまざまな考え方・実務があり、差異が多く認識される分野です。会計処理によっては財政状態に大きな影響を及ぼすため、留意が必要です。ここでは、代表的な二点に絞って解説します。

(1)ファイナンス・リースの判定

IFRSでは、所有権の移転という法的・形式的な要件を問わず、資産の所有に伴うリスクと経済価値のすべてが実質的に借手に移転する場合、ファイナンス・リースとして、リース資産・負債の計上が必要とされます(IAS17号10項、20項)。この点、日本基準でも基本的な考え方は同じです。

しかし、例えばIFRSでは、不動産をリースする際の建物等と土地との区分について、信頼性をもって区分できない場合には原則、リース全体をファイナンス・リースとして扱うことになるため(IAS17号16項)、日本基準とは大きく結果が異なると思われます。

また、日本基準では、ファイナンス・リースと判定されても重要性が乏しい場合、期間が1年以内の場合、所有権移転外で事業内容に照らして重要性が乏しく、リース料総額が300万円以下のリース取引の場合、賃貸借処理が可能という簡便処理が容認されています。IFRSでは、このような取扱いはないので留意が必要です。

(2)オペレーティング・リース-インセンティブ(SIC※115号)

オペレーティング・リース-インセンティブ※2について、日本基準では規定されておらず、現状では統一された会計処理が行われていません。

IFRSでは、リース期間で定額法により貸手・借手も認識処理することとしています(SIC15号4項、5項)。日本基準で、リース料総額に反映させ、定額法で処理していない場合には、賃貸契約ごとにリースインセンティブの有無を洗い出し、契約期間に按分して認識する会計処理が必要となり、今まで以上に契約情報の管理と、その適時利用が求められます。

  1. ※1国際財務報告解釈指針委員会(IFRIC)の前身である解釈指針委員会(SIC)が取りまとめた解釈指針書
  2. ※2初期のリース料を無料あるいは割引にしたり、借手の入居関連費用などを貸手が負担したりして、新規契約や契約更新を促進すること

4. 借入費用の資産化(IAS23号)

不動産開発では、意図した使用または販売が可能となるまでに相当の期間を必要とし、通常、多額の資金を要します。その場合、開発費用に占める借入費用の割合が高いことが多く、借入費用の資産化が不動産会社に与える影響は大きいと思われます。

IFRSでは、適格資産の取得、建設または製造を直接の発生原因とする借入費用は、当該資産の取得原価の一部として資産化しなければならないとされています(IAS23号8項)。さらに、不動産会社が資金借入を一括(=一般目的借入)で行い、その一部を各不動産開発に割り振るため、適格資産と直接的な関係が識別できない借入金に関する借入費用も資産化率を用いて資産化するなど、実務上の配慮もなされています。

一方、日本基準では、自家建設の固定資産、および不動産開発事業を行う場合の販売用不動産に関しては、借入資金に係る支払利息を資産化できるとされているにすぎず、借入費用を資産化できる借入金の範囲や、資産化できる対象を利息のみとする点など、資産化は限定的となっています。

5. 資産の減損(IAS36号)

現在、IFRS・日本基準のいずれも、固定資産について減損会計の適用を求めていますが、その会計処理に差異が存在するため、特に固定資産として多額の不動産を保有する不動産会社は、影響に留意する必要があります。

IFRSでは、減損の兆候が存在する資産の割引後キャッシュ・フロー(以下、CF)と簿価を比較(以下、減損テスト)し、割引後CFが下回った部分について減損損失を認識します(ここでは回収可能価額=使用価値=割引後CFと仮定)。ただし、過年度に資産について認識した減損損失が存在しないか、または減少している可能性を示す兆候がある場合、当該資産の回収可能価額の見積りを行わなければなりません。その結果、変更があったときには、過年度に認識された減損損失がなかったとした場合の減価償却控除後の帳簿価額を上限として、減損損失の戻入れを行わなければなりません(IAS36号59項)。

日本基準では、減損対象の資産について、割引前CFと簿価を比較し、割引前CFが簿価を上回っている限り、減損損失を認識しません。そのため、IFRSでは減損損失計上の機会が日本基準より多くなるといえます。

実務上、日本では一度、減損損失を計上すると、簿価が切り下がるため、その後の減損の検討が形式的になっている場合も見受けられますが、IFRSの下では、減損の戻入れにつながる兆候の有無も毎期、考慮する必要があります。

6. 資産除去債務(IAS37号)

一般の企業がオフィスを退去する場合も、原状回復義務に伴う資産除去を考慮しますが、不動産を事業用定期借地権で建設している場合には、建物撤去費用が不動産会社に与える影響は大きいと思われます。

IFRSでは、資産除去債務はIAS第37号「引当金、偶発負債及び偶発資産」に基づき、負債に計上されます(IAS37号14項、21項)。

日本では今後、IFRSとの収斂の結果として「資産除去債務に関する会計基準」(企業会計基準第18号)を平成22年4月1日以降開始年度から適用する必要があるので、留意が必要です。

7. 金融商品・保証金(IAS39号)

不動産の賃貸借契約締結時、貸手・借手間で受け渡される敷金または保証金に関する会計処理は、不動産会社にとって影響が大きいため、留意が必要です。

IFRSでは、このような保証金は金融資産(負債)として支出時(受領時)に公正価値で測定し、その後、毎期末に実効金利法により、償却原価で測定します(IAS39号43項、47項)。

日本では、一般的に敷金または保証金に対して利息を付さず、債務額により計上されています。結果として、IFRSに移行の際には賃貸借契約ごとに調整する必要があるため、契約情報管理の見直しが求められることになりそうです。

8. 特別目的事業体(SPE)の連結(IAS27号、SIC12号)

不動産会社が不動産を取得する場合、自己資金のみならず、広く外部からの資金調達が行われています。この際、SPEを利用することがあり、このSPEが連結の範囲に含まれるか否かが、不動産会社では重要な問題となります。

IFRS上の連結範囲は、実質支配する、すべての子会社が原則含まれ、SPEも例外ではありません(IAS27号12項)。なお、実質支配については、連結外しの抜け道をつくらないために、SIC12号で自動操縦概念を明示するなど、厳格に対応しています。

日本基準では、財務諸表等規則第8条第7項に基づき、そもそも一定の要件を満たすSPE(適格SPE)は子会社に該当しないと見なし、連結対象としていません。

IFRSが適用となった場合、連結の範囲を見直す必要性が生じると想定されるため、影響の大きい分野といえます。

9. 資本と負債の区分(IAS32号)

日本の不動産会社は、関与する適格SPEの単体財務諸表上、第三者から受け入れた出資も形式的に資本として区分しています。しかし、上記8に伴い、IFRS上、支配が認められる適格SPEが連結範囲に含まれることになった場合、適格SPEが第三者から受け入れた出資が負債として区分される可能性があります。この結果、財務分析に影響を与える可能性があり、検討が必要です。

IFRSでは、金融商品:表示(IAS32号)で資本と負債を区分し、金融負債を他の企業に現金または、その他の金融資産を支払う契約上の義務と定めています(IAS32号11項)。

日本基準では、負債と資本の区分に関し、IFRSのような詳細な定義はありません。これは、株主保護のための資本維持を厳格に考える法制度の影響が強かったことから、資産・負債に該当しないものを資本としてきた諸外国の考え方とは一線を画していた故と考えられます。その結果、例えば株式として発行されたものは、累積型優先株式のように、負債性の高いものも資本として扱っています。

日本におけるSPEを利用した匿名組合事業等のスキームにおける匿名組合出資について終了期限が契約書で規定され、終了時に現金等が分配される場合には、連結財務諸表上、少数株主持分(資本)でなく負債となることも考えられるため、IFRS適用時の影響の検討が必要です。

10. 公正価値評価の影響

IFRSでは、さまざまな分野で公正価値評価が必要な局面が増え、実務上の負担が増えることが予測されます。そこで生じる差異が、損益計算や税効果会計に与える影響も考慮しなければなりません。従って、適切なタックスプランニングの影響も考慮することが必要です。

IV おわりに

IFRSの導入は、不動産会社に対し、関連する数多くの会計処理について日本基準からの変更を強いる可能性があります。これらの影響を踏まえ、不動産会社はIFRS導入プロジェクトの計画に当たり、各会計処理にどのような、また、どの程度の影響があるのか、選択可能な会計処理のうち何を選択すべきか、十分な期間を見込み、シミュレーションを行うことが肝要と考えます。最後に、不動産に関連する個々の取引についての具体的会計処理については、担当の会計士にご相談くださいますようお願いします。






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