アシュアランス
業種別IFRS解説

IFRS導入がベンチャーキャピタル&PEファンド業(VC業)に与える影響について

2010.11
VC&ファンド業研究会 公認会計士 佐々木浩一郎
公認会計士 飯室圭介

I はじめに

本稿では、ベンチャーキャピタル(VC)およびプライベートエクイティ(PE)ファンド業(以下、VC業)を営むわが国の企業が、国際会計基準(IFRS)を導入する際に検討すべきと考えられる主要な論点を紹介します。なお、本稿の意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りします。

II 個別の論点について

1. 金融商品(IFRS第9号)

(1)有価証券の分類と測定

VC業における会計上の最大の論点は、それぞれが保有する有価証券の評価の問題です。有価証券の分類と測定についてIFRS第9号では、株式投資によるキャピタルゲイン獲得を事業目的とするVC業が保有する投資証券は、基本的に公正価値により測定され、その差額は当期純利益に含まれることになると思われます。

また、IFRSの公正価値測定の考え方は、未上場株式のように時価の把握が極めて困難と認められる有価証券に対しても適用されます。そのため、有価証券の評価といえば減損処理と投資損失引当金処理のみであった、従来の日本基準の会計実務から大きく変化し、VC各社の運営に以下のような重要な影響を及ぼすことになると思われます。

  1. 未上場株式の評価損だけでなく、評価益も計上されることになる。
  2. 公正価値測定による評価差額(損益)が包括利益計算書(損益計算書)の当期純利益を構成することになり、業績の変動が大きくなる。
  3. 公正価値測定のための評価手法や社内体制(IT含む)を確立する必要がある。

従来の日本の会計基準では、VC業にとってのパフォーマンスの表示、あるいは他社との比較可能性の観点から十分とは言い難い側面もあったと考えられます。そうした観点からは、公正価値の測定方法における実務上の困難性はあるものの、有価証券への投資から回収までを業としているVC業にとっては、IFRSは一定の意義がある会計処理といえるかもしれません。

(2)未上場株式の測定-IPEVガイドライン

① IPEVガイドラインとは

(1)で述べたとおり、未上場株式の公正価値を実務的にどのように測定するか、つまり評価手法の考え方も含めたガイドラインの設定が必要と考えられます。すでに、欧州を中心とした各国・地域のVC協会など(38団体)が公認した「IPEV※1ガイドライン」が存在しており、欧州のVC各社では、これに従った公正価値測定の実務が見られます。

当ガイドラインは、もともとフランス、英国、欧州それぞれのPE・VC協会が中心となって開発したものです。PE投資に関する公正価値の測定方法の中でも現在、最良と思われる方法を整理し、それを広く浸透させることにより、投資家が正しい判断を行えるようにし、首尾一貫した価値評価を行うための枠組みを明らかにすることを目的としています。また、これはIFRSや米国会計基準(US GAAP)との整合性も加味して検討されています。

当ガイドラインに関する詳細は、IPEVのウェブサイト※2から入手が可能です。

② 適用範囲および考え方

当ガイドラインが適用される範囲は、アーリー・ステージ・ベンチャーへの投資、マネジメントバイアウト、マネジメントバイインおよび、それに類する取引、グロースキャピタル、ディベロップメントキャピタルなどとされています。一般的なPEなどが投資対象とする、ほぼすべての非上場の資本性金融商品がカバーされていると考えられ、非常に広い範囲を対象としています。

また、PE投資の場合には、株主の持ち分の売却ではなく、投資先全体の売却または株式公開を通じて価値評価が決まることが多いと仮定しています。当該企業に対する投資の公正価値を見積もる際には、まず企業全体の価値(企業価値)を算定し、優先的に分配される部分や、希薄化を考慮した後の帰属価値によって算定する考え方を採っています。

③ 評価手法

個々の投資に最適な評価手法を選択するためには、投資の性質、実態、環境、および投資ポートフォリオ全体から見た重要性を総合的に判断することが求められます。また、見積りの精度向上を理由とした場合のみ、評価手法の変更を認めており、原則として、継続適用が要求されています。

評価手法の選定に当たっては、それぞれの投資の特徴を理解する必要があります。紙幅の都合上、詳細な説明は割愛しますが、評価手法の選定について要約すると次ページの<表1>のように、まとめられます。

表1 投資先企業区分と評価手法の関係
評価手法

投資先
企業区分
A
直近の投資価格
B
マルチプル
C
純資産
D
投資先の割引
キャッシュ・フローまたは収益
E
投資の割引
キャッシュ・フロー
F
業種ベンチマーク
典型的VC投資↑  
アーリーステージ企業*1 *6
研究開発型の企業*2 *6
赤字継続企業あるいはリビングデッド状態となった企業
ビジネスモデル確立企業*3 VC


PE






資産に比べて収益性の低い企業*4、*5
売却予定の投資先  



清算中もしくは清算予定の投資先
社債やローンなどのエクイティ以外の投資  


(注)当表は典型的な適用区分を表したものであり、実際は個別案件ごとの状況を勘案して評価手法が選択されると考えられる。

  1. *1頻繁に資金調達が行われている創業間もない企業、損益が赤字もしくはキャッシュ・フローが赤字で、近い将来も黒字の見込みがない企業
  2. *2技術・科学のイノベーションや発見を成長の源泉としている企業
  3. *3持続的に利益を上げると見込まれ、事業基盤が確立した企業
  4. *4純資産に対する利益率が期待値を下回っていて、資産の売却によって実現化される価値のほうが大きいと認められる場合
  5. *5不動産会社や投資会社が例示されている
  6. *6発展段階で黒字前の段階企業には売上のマルチプルの使用もあり得る
  1. ○:適用可能
  2. △:補完的、補足的あるいは二次的に適用可能

一般的には、割引キャッシュ・フローによる評価手法が、投資の主要な評価手法の一つとして理解されます。しかし、PE投資評価については、将来予測の困難性や、割引率も含めた設定値の変動により算定結果が大幅に変動するリスクがあるため、その適用には慎重であるべきとされている点が特徴といえます。

  1. ※1IPEV:International Private Equity and Venture Capital Valuation
  2. ※2www.privateequityvaluation.com

2. 開示(IAS第1号、IFRS第7号)

(1)投資関連勘定の包括利益計算書および財政状態計算書における開示

IFRSにおいては、IAS第1号「財務諸表の表示」に従い、包括利益計算書および財政状態計算書を作成します。日本基準とは異なり、表示方法に関する詳細な規定があるわけではなく、何をどのように表示するかは、適正な表示を達成するように経営者が判断することになっています。VC業における投資関連勘定に関する表示も各社各様ですが、開示事例を分析した限りで特徴的である点は以下のとおりです。

  • 投資資産を、現行のIAS第39号「金融商品:認識及び測定」に基づき、純損益を通じて公正価値で測定される金融商品として区分している。
  • 財政状態計算書上、投資資産を非流動資産に分類し、固定性配列法により、流動資産の前に表示している。
  • 包括利益計算書上、投資資産の回収により生じたキャピタルゲイン(ロス)を純額で実現損益とし、公正価値評価により生じた評価損益を未実現損益として、実現損益と区分して表示している。

(2)公正価値に関する開示

IFRS第7号「金融商品:開示」において、公正価値で測定される金融商品は、公正価値評価手法のほか、三つのレベルのヒエラルキーを用いて、測定のために使用したインプット(入力値)の源泉別に、測定額などを開示することが求められています。

前述のとおり、VC業においては、主たる投資対象である未上場株式を公正価値により測定します。公正価値評価手法のほか、市場で観察可能なデータに基づかないインプット(観察不能なインプット)の使用によりレベル3に分類されたものについて、期首残高から期末残高への変動内訳、合理的に想定される代替的な仮定への変更による公正価値の重要な変動など、詳細な開示が必要となります。

3. 連結(IAS第27号、公開草案第10号)

わが国では近年、企業会計基準適用指針第22号および実務対応報告第20号の改定・制定により、投資先や投資事業組合に関する、連結上の取扱いの厳格化・明確化が図られました。業務執行組合員として運営管理する投資事業組合が新たに連結子会社となるなど、VC業界に大きな影響が生じたことは記憶に新しいところです。

IFRSにおいては、現行のIAS第27号「連結及び個別財務諸表」で、報告企業が支配している、すべての事業体を連結することが求められています。国際会計基準審議会(IASB)は当初、公開草案第10号「連結財務諸表」においても、この原則の踏襲を提案していました。しかし、2010年2月、投資会社は支配する投資先を連結対象とせず、純損益を通じて公正価値で測定することを要求する暫定的な決定を下しました。

VC業においては、投資会社の定義、純損益を通じて公正価値で測定した場合に要求される開示事項について、今後の議論、最終基準を注視していく必要があります。なお、投資先を、純損益を通じて公正価値で測定することは、純損益のボラティリティを高める恐れがあるため留意すべきと考えられます。

また、ファンドマネジャーがファンドを連結すべきか否かは、代理関係などに関する議論を踏まえて検討されるものと見込まれるため、本公開草案の今後の進展が気になるところです。

4. 収益認識(公開草案「顧客との契約における収益認識」)

VCがファンドから受領する成功報酬に関しては、契約期間中、ファンドのパフォーマンスに連動して発生しますが、契約期間終了時、一定の条件を満たさない場合には、それまでに受領した報酬の返還義務を負うケースもあります(クローバック条項)。わが国における実務では会計基準上の定めがなく、会計処理が議論となってきたところです。

10年6月、IASBと米国財務会計基準審議会(FASB)が公表した公開草案「顧客との契約における収益認識」において提案されたモデルでは、取引価格の一部が変動する(価格が将来事象に依存する)取引に関して、企業が合理的な見積りを行う能力を有する場合、その見積取引価格に基づき、収益を認識する必要があると規定しています。

条件付対価の性格を有する成功報酬について、従来、アップフロントで収益として認識していたVCでは、当該条件付対価の金額を合理的に見積もることができない場合、その認識時期が現在よりも遅くなると考えられます。

III おわりに

本稿で取り扱った論点は、IFRS導入によって影響を受ける可能性がある、すべての領域を網羅しているわけではありません。また、今後IASBが公表する最終基準によっては、その内容が大幅に変更される可能性がある点にご留意ください。

なお、IFRSの全面採用(アドプション)とは別に、コンバージェンスに向けた動きとして、企業会計基準委員会から「公正価値測定及びその開示に関する会計基準(案)」「公正価値測定及びその開示に関する会計基準の適用指針(案)」「金融商品会計基準(金融資産の分類及び測定)の見直しに関する検討状況の整理」が公表され、日本基準自体の見直しが検討されています。




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