アシュアランス
保険IFRSアラート

IASBとFASBの両審議会による、基準統一に向けた歩み

2011.03.11

※本号は前号(2011年2月号)の追補版です。

国際会計基準審議会(以下IASB) と米国財務会計基準審議会(以下FASB)は、保険契約に関する公開草案(以下ED)及びディスカッション・ペーパー(保険契約に関する予備的見解、以下DP) に関する再討議を継続して行っている。2011年2月17日から19日にかけて行われた合同会議では、2011年6月までに基準書を公表するという意向をIASBがあらためて表明した。

討議の概要

原則と前提

両審議会は、今回の再討議の基礎となる原則と前提について、今後、いくつかの領域でスタッフによる個別のフォローアップが予定されており、また必要に応じた修正が見込まれるものの、再討議の基礎となる原則と前提について確認を行った。(この「原則と前提」の概要については、「保険IFRSアラート」の2月号で扱っている。)

割引率

両審議会は、無配当契約の割引率算定に関するアプローチについて討議したうえで、基準書ではトップダウン・アプローチ、ボトムアップ・アプローチといった特定の方法に限定しないと決定した。この討議の中で両審議会は、どちらのアプローチを採用しても、理論上は特定の保険負債に関する割引率は同一になるべきであるとの考えを示した。また両審議会は、割引率は当該負債の特徴を反映したものでなければならないというED/DPでの提案内容を再確認した。両審議会はさらに、割引率が以下に掲げる特徴を備えるべきであるというガイダンスを基準書で明らかにすると決定した。すなわち、

  • 発生のタイミングや通貨、流動性など、保険負債の特徴を反映したキャッシュ・フローを有する金融商品の、観察可能な測定日現在の時価と整合していること
  • 保険者の不履行リスクによる影響を含まないこと
  • 観察された利回りには影響を及ぼすものの当該保険負債とは関係しない要素を含まないこと
  • 保険負債の測定の他の箇所において既に反映されているリスクと不確実性による影響を含まないこと

両審議会は、無配当契約の割引率算定の基礎となったイールド・カーブについて、保険者が主要通貨ごとに開示するよう求めることを検討した。両審議会は、今後、開示に関するトピックを取り上げる際にも、この点についてさらに検討を行うことになるだろう。

さらに両審議会は、(小規模な保険会社など) 状況に応じて、簡便法による割引率(すなわち、優良社債の利回り) を使うことの可能性について検討するよう、スタッフに指示した。

EYの見解

両審議会は無配当契約の割引に関する方針を決定したが、これはED/DPの中の考え方に沿ったものであることが見込まれる。適用ガイダンスは、無配当契約の割引率算定の実行可能な方法について手がかりを与えるものとなるであろうが、当該方針の具体的な実務への適用については、保険者の側から見れば残された今後の課題とも考えられる。

保険者としては、両審議会の決定を受けて、割引率への反映が必要な負債の特徴の洗い出しに着手することが考えられる。保険者によっては、観察された利回り(すなわち、イールド・カーブ) に対する、保険負債の特徴の一部とはならない利回り中の要素を排除するための調整、あるいは、保険負債の特徴の一部をなす要素を加えるための調整を定量化する方法についての検討が必要となるかもしれない。

割引率の算定に対する具体的な方法を規定しないという両審議会の方針の根底には、負債の特徴を反映した利回りを使用することが経済的なミスマッチの報告に資するという考えに加え、両審議会が一定レベルのボラティリティを前提としていることがあるように思われる。

両審議会によるこの討議は、例えばデフォルト調整後の資産の収益率などコメント・レターで提案された特定の代替案を検討することが、ボラティリティの問題に対する適切な解決策になると両審議会が考えていないことを示唆しているのかもしれない。

両審議会は、より保険者のビジネスモデルに即した情報提供が可能となるかもしれない以下の可能性についてはまだ検討していない。

  • 短期契約及び支払備金について割引計算を行わないこと
  • その他包括利益の利用や営業利益の概念の導入によって、金利の短期的な変動の影響と長期的な観点からの業績を区別するなどの表示方法の可能性

キャッシュ・フロー

両審議会は、履行キャッシュ・フローの期待値の算定に際して、平均値を参照すべきであるという点で合意した。さらに両審議会は、実際の実務上の対応は企業が置かれたその状況によって異なるものであり、見積りの結果が期待値の測定目的に整合していると保険者が考えていることを条件として、必ずしもすべての起こりうるシナリオを識別し定量化する必要がないことを明確にした。

また棚卸資産や工事契約に関する費用配分の実務(先例) を参考にして、期待キャッシュ・フローは契約上の義務の履行に直接関係する活動に関連した配分された費用を含むべきだという点にも合意した。この考え方をさらに明確にするために、両審議会はED/DPの履行キャッシュ・フローの定義から「増分」という用語を削除したうえで、IAS第2号「棚卸資産」及びIAS第11号「工事契約」に基づくガイダンスを提供することを決定した。

EYの見解

両審議会の暫定的な決定は、ED/DPで提案されたものより多くの費用を測定モデルに含めることを可能とすると考えられる。測定モデルに含まれるキャッシュ・アウトフローが増加すれば、結果として残余マージンや複合マージンが減少すると考えられる。これにより時の経過を通じた利益の発生方法が影響を受けることから、両審議会が残余マージンや複合マージンの償却方法を決定した際には、各社はそのような利益の発生方法について再評価を行う必要が生じるだろう。

契約開始時の利得及び損失、マージン

両審議会は、契約開始時の利得は認識されるべきではなく、契約開始時の損失は繰り延べられるべきではないという見解を確認した。コメントレターの大半がこの見解を支持していた。

リスク調整とマージンに関連するトピックについて、両審議会はリスク調整によって有用な情報が提供されるかどうか、また、残余マージンや複合マージンをアンロックすべきかどうかについて審議した。この段階で両審議会は、保険負債に固有のリスクを忠実に表すことが可能な手法があるのであれば、明示的なリスク調整を含めることで利用者に目的適合的な情報が提供されるだろうという点で合意した。しかし、両審議会は、リスク調整の測定目的や見積りの信頼性など上記以外のリスク調整に関連する重要な検討事項については審議しておらず、この点に関してはリスク調整に関する最終決定を行う前に検討されるべきであると考えられる。

両審議会は、残余マージンまたは複合マージンの償却を固定ではなく変動とする可能性の検討に関心を示した。これは、少なくとも非金融変数の事後的な変動に対してマージンをアンロックするとともに、おそらく金融変数の変動に対してもマージンをアンロックするものと考えられる。この議論の過程で、両審議会は(リスク調整と残余マージンの合計額がマイナスにはならないという条件で) 残余マージンがマイナスになりうるという考えについても検討を行ったが、これは損失(つまり、不利な契約) をどう定義するか次第であることを確認した。

EYの見解

マージンに関する両審議会の見解は現在のところ相違しているが、双方の支持者を納得させるようなアプローチへ向かっているといえるかもしれない。仮に残余マージンを契約開始時に固定するのではなく事後的に変動させるとして、その変動を将来キャッシュ・フローの見積りの変動だけでなく、リスクマージンの変動をも反映するようにアンロックするのであれば、両アプローチは収斂する可能性があるだろう。このように収斂されたアプローチは魅力的ではあるが、残余マージンの償却という点で新たな課題を抱えることになるだろう。さらに両審議会は、いかなる場合が不利な契約となるかという問題を依然として解決する必要があるだろう。

アンバンドリング

アンバンドリグに関する教育セッションにおいて、発表者から、保険要素と非保険要素とに区分することによる金融商品との比較可能性や他の保険契約との比較可能性に関する相対的なメリットについて説明がなされた。また、損益へのボラティリティや収益の発生パターンに対してアンバンドリングが及ぼす影響についても説明がなされた。

表示モデル

両審議会は、特に長期契約の表示に関して要約マージン・アプローチを支持している回答者がいることを確認した。ただし、一方で、要約マージン・アプローチでは、両審議会は保険料や保険金のような活動量を表す情報が表示されなくなってしまう懸念があることについても確認が行われた。そこで両審議会は、多くのコメントレターで指摘されている損益計算書の表示に活動量に関する情報をより多く反映させるべきであるという点について、これに対応できるような方法を検討するようにスタッフへ指示した。

他の事項

寄せられたコメントの中には、保険契約プロジェクトで行われた決定に基づいて、IFRS第9号「金融商品」の一部を今後再検討すべきという指摘があるものの、これに対してIASBは、保険契約に関するモデルの開発は、あくまでもIFRS第9号に従って金融資産を測定するという前提のもとで検討を行っていると述べている。IASBは、IFRS第9号の分類及び測定に関する要件を変更するという予定は今のところ持ち合わせていないと述べており、FASBは金融商品に関する会計基準の改訂作業が終わったわけではないと述べている。

また、IASBは、依然として2011年6月までに基準書を公表する意向を示しており、スケジュールが延期されたという一部の報告は正しくないと述べた。両審議会は短期間に数多くのトピックについて討議を行う積極的なスケジュールを立てており、今後の会議日程の多くを保険契約に関する議論に充てるとしている。また、両審議会は不確実なキャッシュ・フローの測定のような分野横断的な問題に関する討議も行っている。

次のステップ

両審議会は、割引率をロック・インすることの可能性や一部の短期契約及び支払備金への割引計算の適用除外又は適用範囲の縮小を認めるべきかどうかについての討議を予定していたが、討議を行う時間的余裕がなかった。これらの問題については、以下の項目とあわせ3月1日から2日にかけて開催される会議で対応する予定となっている。

  • 対象範囲‐ 保険契約に関する基準書の適用範囲に関する討議。討議の一部は、固定料金サービス契約に重点が置かれている。
  • 金融保証契約‐ 保険契約に関する最終基準書の対象を一部の金融保証契約に限るか、全部を対象とするかについての議論。
  • 新契約獲得費用‐ 保険契約のキャッシュ・フローに含まれるべき新契約獲得費用に関するフォローアップ。
  • 表示モデルの代替案‐ 保険契約の業績計算書 に関する代替的な表示方法について。
  • フィールドテストの予備的報告書

両審議会が保険契約プロジェクトへの対応に注力していることは明らかである。今後の討議の進展や決定により、保険者にとっての課題も具体化することになるだろう。本プロジェクトの検討のスピードの速さを考えると、関係者はその進捗に遅れをとらないように、常にその動向を注視していく必要があると思われる。




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