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保険IFRSアラート

割引率:割引率の決定は容易ではない

2011.11.15
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はじめに

2010年の下半期に、国際会計基準審議会(以下、IASB)は公開草案(以下、ED)を、米国財務会計基準審議会(以下、FASB)はディスカッション・ペーパー(以下、DP)を公表し、保険契約に関する新しい認識及び測定のモデルを提案した。EDもDPも、保険負債の特徴を反映すると同時に当該保険負債に無関係な要素を排除した金融商品の観察可能な市場価格と整合性のある現在の割引率を使用することを求めている。そのような保険負債に関するキャッシュ・フローの特徴には、金額、通貨、発生のタイミング及び不確実性などがある。

保険負債に関連するキャッシュ・フローの特徴を適切に反映することのできる金融商品を市場で特定し、適用すべき割引率を決定することは容易ではなく、特にデュレーションが長い契約ほど困難が伴うと考えられる。また、現在の金利の変動が損益にもたらす影響を説明するためには、金利に含まれるさまざまな構成要素の影響を検討することが必要になるだろう。

本稿では、リスクフリー・レート、非流動性プレミアム及び信用スプレッド(予想デフォルト及びデフォルト・リスク・プレミアムから構成される)を金利に含まれる基本的な構成要素と捉え、それらの影響について検討を行っている。両審議会は、保険負債に関する割引率を、観察可能な市場情報と整合する方法で決定することを求めている。近年、特に2008年の金融危機の結果、割引率の基本的な要素の一部が、ある程度は市場情報から特定され、見積もられるようになった。ただし、多くの場合、保険負債の割引率の構成要素に関して、全面的に観察可能な市場情報というものは存在しない。これは、往々にして保険者による見積りが必要になることを意味しており、その見積りには何らかの判断が不可欠となる。

EDの提案が現在の会計慣行からの重要な発展となることは多数の人々が認めているものの、そのような人々の間では、今回の提案は、多くの保険契約が持つ長期性という特徴を反映しない業績のボラティリティをもたらすことになるだろうとも見られている。

業績のボラティリティは、会計上のミスマッチと経済上のミスマッチの結果として生ずる可能性がある。EDを公表した後の審議で、両審議会は、割引率は測定日現在のものを使用することを確認している。ただし、割引率の具体的な決定手法に関する規定を置くことはせず、割引率の目的など全般的な規定を定めるにとどめることを暫定的に決定し、保険者がボトムアップ・アプローチ又はトップダウン・アプローチのいずれの方法も利用できるようにした。理論的にはこの2つのアプローチは同じ割引率になるはずであるが、割引率(の構成要素)を見積るために保険者に重要な判断が求められる結果、企業間、市場間及び地域間で割引率に違いが生じるだろうと我々は考えている。このことは、割引率の水準が保険者の選択するアプローチに大きく左右される可能性があることを意味しており、その結果、アプローチの選択が測定と損益に及ぼす影響を把握し、財務諸表における表示や十分な開示を通じて自社の利害関係者に説明することが重要になると考えられる。

割引率の基本的な構成要素がどうボラティリティに影響するかを把握するために、我々は、割引率が生存年金のポートフォリオに及ぼす影響を示すいくつかの事例について検討した。各事例では、一定のシナリオの下で割引率が異なる場合に生ずる業績のボラティリティの影響を示している。事例では、割引率の構成要素の中の小さな変動が、保険者の損益に重大な影響を及ぼす結果につながる場合がよくあることや、基本的な構成要素ごとの分析が、割引率の決定や説明プロセスの中で重要な手順であることを明らかにしている。

なお、本稿では保険負債の割引率に関する検討に焦点を当てるため、将来の保険給付支払が特定の資産のパフォーマンスに基づかないような保険契約(無配当契約)を対象として取り上げている。

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