- ポートフォリオの定義及び会計単位としてのポートフォリオの利用について、両審議会の結論は分かれた。
- 両審議会は、保険要素と投資要素を区分するという方針及び財政状態計算書において投資要素をどのように取り扱うかについては合意した。しかし、包括利益計算書における投資要素の取扱いについては意見が分かれている。
- IASBは、IFRS第9号の負債性商品に係るOCIの取扱いについての今後の再検討を想定し、保険モデルにおけるOCIの利用についての討議を行うため、教育的セッションを開催した。
概要
国際会計基準審議会(以下、IASB)及び米国財務会計基準審議会(以下、FASB)(以下、両審議会)は、2012年3月21日に行われた合同会議において、IASBの公開草案「保険契約」(以下、ED)及びFASBのディスカッション・ペーパー「保険契約に関する予備的見解」(以下、DP)の再審議を行った。会議で討議された議題は以下のとおりである:
- 投資要素の保険契約からの区分
- ポートフォリオ及び会計単位の定義
IASBは、別途教育的セッションを開催し、保険負債の一部の変動をその他の包括利益(以下、OCI)で認識することの検討を行った。この論点に関しては、一定の基準を満たす負債性金融商品について、新たな(第3の)カテゴリー(OCIを通じた公正価値測定)を追加するIFRS第9号「金融商品」へのIASBの修正案を踏まえて、4月のIASB及びFASBによる合同会議において検討されることになるだろう。
投資要素の保険契約からの区分
両審議会は、保険契約に含まれる投資要素を財政状態計算書において区分して表示すべきかどうか、また、投資要素に関連して生ずる損益を包括利益から除外すべきかどうかについて討議した。両審議会の意向を汲んで、スタッフは、投資要素を保険負債からアンバンドルする(つまり、保険要素から分離し別の会計基準で測定する)のではなく、保険契約の会計基準の下で保険負債の一部として投資要素を測定するモデルに絞って検討した。スタッフは、投資要素を保険要素から区分するかどうか、またどのように区分するかを検討する際の、4つの選択肢を提示した:
- 投資要素を保険要素から区分しない
- 保険契約から生ずる明示的な勘定残高を区分する
- 保険事故の発生に係わりなく、保険者が保険契約者又は保険金受取人に対して負う支払義務の金額を区分する
- 保険者が、受領した保険料のうち、保険契約者又は保険金受取人に払い戻すことになる見積額を区分する
IASBメンバーの大半及びFASBメンバーの全員が、保険事故の発生に係わりなく、保険者が保険契約者又は保険金受取人に対して負う支払義務の金額を区分するというスタッフの提案に賛成した。IASBは、また、包括利益計算書における区分された投資要素の測定に関して、保険モデルを適用するのではなく、別途ガイダンスを整備する必要があると決定した。FASBは、この論点に関する決定を先送りした。
両審議会は、今後の会議において、合意された原則の下で、保険者に投資要素の区分処理を要求するか又は容認するかについて協議することになるだろう。
財政状態計算書の表示
両審議会は、財政状態計算書において、投資要素に関連する項目を独立した科目で区分表示すべきかどうかに加え、もし区分表示するのであれば、どのような原則を適用すべきかを討議した。その中で、以下の4つの選択肢が検討された:
(i)勘定残高と同額を区分表示する、(ii)支払いが要求された場合に即時に支払うべき金額に相当する額を投資要素として区分表示する、(iii)保険契約モデルを用いて決定された金額を投資要素として表示する、又は(iv)財政状態計算書においては区分表示しない。
IASBメンバーは、財政状態計算書において投資要素を保険契約から区分して表示することを要求すべきではないというスタッフの提案に賛成した。ただし、(i) 投資要素に対応する保険契約負債、すなわち包括利益計算書から除外された受取保険料の総額(下記参照)に対応する保険契約負債の金額、及び (ii) 支払いが要求された場合に即時に支払うべき金額の双方を開示すべきであるとした。
FASBメンバーの大半もスタッフの提案を支持したが、一部のメンバーは、投資要素を保険契約負債の一部として表示することに懸念を表明した。彼らは、投資要素を保険契約負債の一部とする表示では、保険者の貸借対照表の表示が忠実さを欠いたものになるだろうとの考えを示した。
包括利益計算書における保険料からの投資要素の区分
IASBメンバーの大半は、保険事故が発生するかどうかに係わりなく、保険契約者又は保険金受取人に対して保険者が負う支払義務の金額を保険料の総額から控除するというスタッフの提案を支持した。このため、保険契約負債全体の測定と整合する形で測定されることとなる。当該提案に従えば、現行の実務とは大幅に異なり、包括利益で認識される保険給付は、保険事故の発生直前における解約返戻金相当額が減額されたものとなるだろう。FASBメンバーは、この問題に関して投票を行わなかった。
ポートフォリオ及び会計単位(ユニット・オブ・アカウント)の定義
両審議会は、ポートフォリオの定義、さらにポートフォリオが、保険契約の会計基準において会計単位となる場合について審議した。契約のポートフォリオは、不利な契約テストや、残余マージン(IASB)もしくは単一マージン(FASB)の決定など、ED全体を通して利用されているため、この討議は広範に及ぶ影響をもたらす。IASBメンバーの大半は、下記の提案に賛成票を投じた:
- 保険契約のポートフォリオは、以下のような契約の群団として定義されるべきである:
- 類似したリスクにさらされ、引き受けたリスクに応じて同様に価格が設定される
- 単一のプールとして一体で管理される
- 残余マージンの決定及び不利な契約テストの実施で利用する会計単位は、ポートフォリオとすべきである
- 残余マージンの解放で利用する会計単位を規定するべきではない。残余マージンの解放は、サービスが提供される保険期間にわたってマージンを解放するという方針と整合した方法で実施すべきである
ただし、FASBはこれとは異なる提案を全会一致で決定した:
- 保険契約のポートフォリオは以下のような契約の群団として定義されるべきである:
- 類似したリスクにさらされ、引き受けたリスクに応じて同様に価格が設定される
- 類似した期間及び類似した単一マージンの解放のパターンを有する
- 単一マージンの決定と解放及び不利な契約テストの実施で利用する会計単位は、ポートフォリオとすべきである
両審議会は、それぞれの暫定的決定における相違を認識しているものの、その相違が著しく異なる結果をもたらすことはないと考えている。
IASB による教育的セッション:
保険負債の変動のOCIでの認識
3月20日にIASBは、OCIを利用することで保険負債の変動がどのように表示されるかについて討議するため、教育的セッションを開催した。これについては、4月の合同会議でも討議されるだろう。
この教育的セッションにおいて、スタッフは、この論点と現在進行中の金融商品の分類と測定に関するプロジェクトとの間に相関関係があることを確認した。この教育的セッションは、適格性を有する負債性商品について、OCIを通じて公正価値で測定することになるという前提の下で進められた。
IASBのスタッフは、この論点の背景について、以下の要因によるものとして説明した:
- 保険負債の現在の測定及びそのすべての変動を純損益として報告するというEDの提案
- 以下を含む、回答者から寄せられたコメント
- 保険の長期性を反映していない割引率の短期的な変動による純損益のボラティリティに対して懸念がある。さらに、保険負債の変動をすべて純損益の中で表示することで、保険引受による結果が曖昧になってしまう。回答者はまた、金利の変動による影響は時間の経過により解消されるものであることを主張し、これが純損益についての有用な業績測定結果であるか否かについて疑問を呈した。
- 一部の金融商品が純損益を通じて公正価値で測定されない場合に生じるであろう、会計上のミスマッチ
これまでに審議会が決定した暫定的決定の一部は、ボラティリティに関する回答者の懸念を払拭しようとしたものであった。しかしながら、スタッフは、依然として懸念が残っており、その結果、割引率の変動の表示に関するOCIの利用の検討に至ったことを説明した。
OCIの利用の是非
スタッフは、保険負債を測定する際に割引率の変動に関してOCIを利用することへの賛成意見及び反対意見を示した。割引率の変動による影響に加え、契約に組み込まれた利率保証、金利感応型商品の解約のアサンプション、インフレのアサンプションなどの金利感応的なキャッシュ・フローのアサンプションに起因する保険負債の変動の影響、さらにこれをOCIにおいて表示すべきか否かについても議論が行われた。
OCIの利用の是非について、IASBメンバーの見解は異なっている。OCIの利用に懸念を表明したIASBメンバーの意見は以下のとおりである:
- デュレーションのミスマッチ、信用スプレッド及びオプション・保証から生ずる経済上のミスマッチは、純損益よりもOCIで表示されることになる。主な懸念は純損益のボラティリティであるが、会計上のミスマッチを減らすためのOCI利用の試みは、資本における別のミスマッチを引き起こすことになるだろう。
- 割引率の変動は、たとえば確定利付債での金利の変動の場合のように自然に解消するものではない。確定利付債の契約上のキャッシュ・フローを考えると、このような債券の公正価値の変動は時間とともに解消し、満期時の公正価値に収斂する。したがって、確定利付債の変動をOCIに表示することには意味があるかもしれないが、割引率の変動は将来自然に解消するものではないため、保険負債の変動をOCIで表示することは望ましくないかもしれない。
- 割引率の変動による影響と区別して、金利感応的なアサンプション変動の影響を特定し、信頼性をもって測定することは、複雑性をともなう。割引率及び金利感応的なアサンプションの変動を他のアサンプションの変動による影響と区別して表示する際に要求される精度の水準からすると、場合によっては測定のプロセスを過度に難しくしてしまうことになるかもしれない。
OCIの利用により積極的な人々は、財政状態計算書の中に重要な情報が含まれていることから、金融機関のアナリストは、その内容を検討する必要があるとみている。OCIの利用に賛成する者は、財政状態計算書が損益計算書に劣らず重要であると考えており、保険負債の変動が明確に識別可能である限り、OCIの利用には比較的寛大である。
OCIの利用が強制されるべきか又は容認されるものかという論点に関しては、以下の4つの選択肢が提案された:
- あらゆる状況においてOCIの利用を要求する
- OCIの利用を要求するが、会計上のミスマッチが減少する場合には、純損益に変動を表示するという選択肢を認める
- 会計上のミスマッチがある場合にOCIの利用を要求する
- あらゆる状況においてOCIの利用を容認する
IASBメンバーは、会計単位についても考慮し、保険負債と資産の会計単位を同時に検討することが最善であろうと指摘した。
OCI利用の場合の損失認識テスト
資産のリターンが見込みよりも低くなった場合、たとえば、資産から7%の投資利回りを見込んで保険契約の価格設定をしたものの、実際の市場での利回りは3%だった場合などに契約に損失が生ずることになると一部の関係者が考慮していることをIASBスタッフは認識している。
損失認識テストは、保険負債とその裏付となる資産の間のミスマッチに起因する将来の潜在的損失について、純損益での認識を促すことになる。損失の認識は、経営者が最初に当該損失を把握した期間となるだろう。
スタッフは、損失認識テストに関するいくつかの賛成及び反対の主張を挙げ、損失認識テストのトリガーについて以下の3つの案を示した。
- 案1:現在の負債の割引率で割り引いた負債から、契約開始時の割引率で割り引いた負債を差し引いた値が、マージンよりも大きくなる場合
- 案2:投資収益率(ROI)で割り引いた負債から、契約開始時の割引率で割り引いた負債を差し引いた値が、マージンよりも大きくなる場合
- 案3:特定の定性的要因が、資産の期待リターンが契約開始時の負債の割引率よりも低いことを示している場合
損失認識テストでは、資産のリターンを考慮することになるため、保険契約に関する利得の認識を保険負債の裏付けとなる資産のリターンと結び付けるべきではないという審議会の暫定的な決定と矛盾するとして、審議会メンバーは損失認識テストについていくつか懸念を表した。
審議会は、OCIの利用の提案から生ずる困難について認めるとともに、その主たる目的は何なのか、そしてその根拠となる原則について検討する必要があることを認識した。この会議は教育的なものであり、正式な決定は行われなかった。
次のステップ
IASBは、2012年後半に、保険契約に関する改訂公開草案又は最終基準書のレビュー・ドラフトを公表する予定である。IASBは、いずれ最終基準書の発行日を決めることになるだろう。FASBは、目下、同時期に公開草案を公表する予定である。
両審議会は、4月の審議会で保険に関する次回の討議を行う予定となっており、そこで再保険、契約の修正、契約者貸付及び特約について取り上げることになるだろう。また、両審議会は、FASBの単一マージン・アプローチ及び保険負債に対するOCIアプローチのさまざまな側面に関して、意思決定を伴わないセッションを行うことになるだろう。