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保険IFRSアラート

IASBは保険契約に関する改訂公開草案を公表

2013.07.05
重要ポイント
  • IASBは、測定モデル案に関する5つの重要な分野に関して、2013年10月25日までにコメントを提出するよう求めている。
  • 提案では2010年の公開草案の特徴の多くを踏襲しているものの、大きな変更も何点か行われている。
  • IASBは、割引率の変動による影響を表示するに当たって、その他の包括利益の使用を導入している。
  • 有配当契約のうち、特定の種類の保険契約の測定と表示に関し、具体的なガイダンスが導入されている。
  • 期待将来キャッシュ・フローの現在価値の変動の一部について、契約上のサービス・マージンが調整される。
  • 包括利益計算書には、すべての保険契約に関する保険料収益が含まれる。
  • 移行に係る測定には、契約上のサービス・マージンが含まれることになる。

概 要

2013年6月20日に、国際会計基準審議会(以下、IASBまたは審議会)は、進行中の保険契約プロジェクトの一環として改訂公開草案「保険契約」(以下、改訂ED)を公表した。これは、保険契約会計における多種多様な状況を解消するためのIASBの取組みにおいて大きな節目となった。改訂EDには、2010年7月に公開草案「保険契約」(以下、2010年ED)が公表されて以降の再審議の内容が反映されている。IASBはこれまでの会議の大半を米国財務会計基準審議会(以下、FASB)とともに開催してきた。それと足並みを揃えて、FASBは2010年9月に、「保険契約に関する予備的見解」というディスカッション・ペーパーを公表している。過去数年間にわたって、IASBとFASBは全般的なコンバージェンスに向けた取組みの一環として、共同の保険契約基準の整備に向けて作業を進めてきた。両審議会は、保険契約会計における多くの点で意見の一致をみたが、依然として一部の分野では歩み寄りが進まない状態である。

IASBの改訂EDで規定されている保険契約の測定原則は、2010年EDのものと類似している。すなわち、期待将来キャッシュ・フローの現在価値、リスク調整および契約上のサービス・マージン(2010年EDでは「残余マージン」と呼ばれていたもの)から構成される現在測定のモデルである。改訂ED は、一部の種類の契約に対し簡素化したモデルの利用を認めている。

改訂EDでの測定モデルの多くの要素は、2010年EDでのガイダンスの内容と同様に見えるものの、審議会は寄せられたコメントに対応して、いくつかの大きな変更を行っている。そのうちの最も顕著な変更点には、割引率の変動による影響の表示方法や有配性を有する契約の取扱いなど、収益のボラティリティ関する懸念への対応がある。また改訂案には包括利益計算書の表示に関する大幅な変更も含まれる。移行アプローチは修正され、将来保険契約の基準が導入される際に、既存の契約に係る契約上のサービス・マージンを計上することとなった。

改訂ED公表に当たってのIASBの狙いは、企業による保険契約の会計処理方法に関し、全体的な一貫性と理解可能性を確保するモデルを整備することにある。ただし、審議会は、保険契約そのものが相当複雑なものであることから、改訂EDも相応に複雑なものとなっていることを認めている。

改訂EDでは発効日について提案しておらず、その代わりに、発効日は最終基準書の公表後およそ3年後になるとしている。

本紙は改訂EDの主な分野と、2010年EDからの変更を概括したものである。

これまでの経緯

IASBの前身である国際会計基準委員会(IASC)が保険契約の新しい会計基準策定の作業に着手したのは1997年であった。それ以降、モデル案の最終化に向けた道のりにはさまざまな障害が立ちはだかっていた。2010年7月に審議会は、測定の変動による影響はすべて純損益に計上するという、現在測定のモデルを中心とした提案をまとめている。必ずしもすべての点で公正価値による測定と同じではないものの、2010年EDで提案された保険会計のモデルは、報告日現在の経済環境を反映させた価値を表すものとなっていた。

2010年EDに対する主な批判の一つは、このモデル案を採用した場合、特に長期契約について、保険者が資産と負債の双方を現在の測定ベースで測定し、再測定による影響を純損益で計上せざるを得なくなる点であった(つまり、現在の測定によるバランスシート・アプローチ)。多数のコメントレターを通じて多大な懸念が表明されたのは、マーケットの状況の変化が金融資産と金融負債に及ぼす影響が異なる(例えば、資産と負債のデュレーションの相違)ことから生じる収益のボラティリティについてであった。このような変動は、保険者の長期の業績の期待値ではなく、短期市場の変動を反映したものであるというのが回答者の見解であった。

もう一つの主な懸念は包括利益計算書の表示方法に関するものであり、中でも、審議会が要約マージンに関する情報に重点を置くと決定したことにより、保険料や保険金のような取引量に関する情報が削除されたことであった。また2010年EDに寄せられたコメントレターでは、どの範囲のキャッシュ・フローおよび新契約費を契約の測定に含めるのか、アンバンドリング(保険契約に含まれる個々の構成要素を特定し、それが別個の契約であるかのように取り扱うこと)、簡素化モデルの適用、再保険の取扱いなど他の問題も挙げられていた。

審議会は、再審議の一環として、コメントレターで取り上げられていた問題を検討し、提案の多くの部分に変更を行った。それにもかかわらず審議会は、一部の種類の契約に対しては簡素化モデルを適用しつつも、引き続き現在測定のモデルを適用する姿勢を示している。

審議会は改訂公開草案の公表が必要であると決定したものの、今までの討議を通じて十分に議論が尽くされてきたと考えている部分について、それらを再度検討することは避けたいと考えている。そのため、審議会はコメントを求める対象を下記の5つの分野に絞っている。

  • 契約上のサービス・マージンの調整
  • 有配性を有する特定の種類の契約の取扱い
  • 包括利益計算書の中での保険料と保険金の表示
  • 割引率の変動による影響の表示にその他の包括利益(以下、OCI)を利用することを含む、純損益における金利費用の決定
  • 移行アプローチ

EYの見解

このような形で改訂公開草案を公表するという決定に伴って、IASBは二つの重要な要因のバランスを図ろうとしている。

  • 1)特に2010年EDとは異なる点を対象に、モデルの主な特徴に関して関係者からの意見を得る必要があること
  • 2)すでに審議が十分に尽くされていると考えられる部分について、議論の蒸し返しによる必要以上の遅れを生じさせないようにすること

IASBは改訂公開草案を公表した後の再審議の範囲を限定することを目論んでいるものの、改訂公開草案を公表するという決定が、最終基準書の完成時期に影響を及ぼすことは避けられないだろう。

ビルディング・ブロック測定モデル

改訂EDは、履行キャッシュ・フローと契約上のサービス・マージンから構成される、測定モデルの基本的な構成要素を踏襲している。履行キャッシュ・フローは、将来キャッシュ・フローの見積りを、その特徴を反映させた割引率を用いて貨幣の時間価値について調整し、リスク調整を適用することにより決定される。リスク調整は、将来のキャッシュ・アウトフローが見込みより多くなる可能性があるという不確実性に対応するために、保険者が要求する対価の水準を反映したものとなる。契約上のサービス・マージンは、保険契約で見込まれる契約上の利益を表している。

キャッシュ・フロー

ビルディング・ブロック・モデルの原点は、偏りのない、確率により加重された将来キャッシュ・フローの見積りであり、保険契約からの将来のキャッシュ・アウトフローとキャッシュ・インフローの正味金額を表している。モデルに含まれるキャッシュ・フローは、保険者がどのような形で当該契約を履行することになるかについての見込みを反映したものでなければならない。測定の目的はキャッシュ・フローの期待値(すなわち、統計的平均値)を見積もることであり、改訂EDでは、必ずしもすべての可能性のあるシナリオを考慮することまで求めているのではなく、見積りプロセスに入手可能な情報をすべて盛り込むべきことが明確化されている。入手可能な情報には、業界データ、費用に関する企業の過去のデータ、当該契約の履行に関連性がある場合の市場のインプットなどが含まれるが、それらに限定されるわけではない。また改訂EDは、2010年EDと同様に、キャッシュ・フロー(またはモデルの他の構成要素)には保険者自身の信用状態を反映させないものとしている。

2010年EDからの主な変更点としては、どのキャッシュ・フローをモデルに含めるかを判断するための定義がある。2010年EDは、ポートフォリオレベルの増分キャッシュ・フローに着目していた。改訂EDでは、契約ポートフォリオの履行に直接帰属する固定と変動の間接費の配分額も含め、当該ポートフォリオの履行に直接関連するすべてのキャッシュ・フローをモデルに含めている。もう一つの変更点は新契約費(保険契約の販売、引受および組成に係る費用)である。2010年EDでは、個別契約レベルの増分となる新契約費としていた。改訂EDでは、新契約費をポートフォリオレベルで判断しており、契約獲得に成功した場合の費用も不成功となった場合の費用もその対象となる。

貨幣の時間価値

モデル案では、履行キャッシュ・フローを決定するに当たって、保険者が、キャッシュ・フローの特徴を反映させるように、将来キャッシュ・フローの見積りを割り引くことを求めている。改訂EDにおける割引率の決定に関する原則は、2010年EDと基本的には同じである。割引率の決定方法は、以下の原則に基づいている。

  • 負債の測定に当たって、割引率は報告期間ごとに更新する必要がある(現在の利率)。
  • 割引率は、保険契約負債と類似するキャッシュ・フローの特徴を持つ金融商品に対する、観察可能な現在の市場のインプットと整合させるべきである。
  • 利率からは、保険契約負債に関連のない要素を除外しなければならない。
  • 保険契約から生ずるキャッシュ・フローの金額、発生時期または不確実性が、全面的もしくは部分的に原資産(金融商品など)のリターンに左右される場合には、割引率はその依存性を反映したものでなければならない。

改訂EDで審議会は、割引率の決定には、トップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチの双方が利用可能であることを明らかにしている。トップダウン・アプローチは、資産の利回りからスタートし、負債の特徴に該当しない要素(例えば、期待デフォルトおよび非期待デフォルト)を調整した後の期待利回りを算定する。ボトムアップ・アプローチは、リスク・フリー・レートの決定からスタートし、非流動性の要素を含む保険負債の特徴を反映するように利率に調整を加える。

審議会は、入手可能な市場の情報からだけでは、保険負債の特徴を反映させた割引率の正確な決定には至らない可能性があると結論した。したがって、改訂EDには、保険者に対し、観察可能な市場の情報が入手できない場合には、適切な利率を決定するために必要なインプットを見積もることを求める指針があり、ボトムアップかトップダウンのいずれの手法を適用するにせよ、重要な判断が必要になることを示唆している。

モデルでは負債の測定において現在の市場金利を利用するが、審議会は割引率の変動による影響を表示するに当たりOCIを利用する方針を決定した。さらに、改訂EDは、有配当契約のうち一部の種類の契約における割引率の変動などについて、具体的なガイダンスを導入している。これらについては後述する。

リスク調整

リスク調整は保険契約から生ずるキャッシュ・フローの金額と発生時期の不確実性による影響を捕捉するものである。審議会の見解では、リスク調整は、かかる不確実性を負うために保険者が要求する対価を表しており、キャッシュ・フローが固定の負債の履行と、起こり得る結果に不確実性のある負債の履行が、保険者にとって中立となる水準を反映したものとなっている。

審議会は、リスク調整の設定に関する会計単位を規定してはいない。審議会の見解によれば、リスクの分散効果の影響をどの場合にどのように測定に組み入れるかについては、リスク調整の目的の中に暗に含まれている。審議会は、結果として、保険者がポートフォリオ間の効果を考慮し、価格設定における実務をリスク調整の見積りのインプットとして利用できるようになると認めている。

審議会は、原則主義の会計モデルであるという姿勢にのっとり、リスク調整の見積り方法を3種類に限定していた2010年EDにおけるガイダンスを撤廃することを決定した。その代わりに、今回の適用指針では、リスク調整が満たすべき特徴を規定することに重点が置かれている(例えば、リスク調整は明示的な方法で測定され、二重計上してはならないなど)。

契約上のサービス・マージン

契約上のサービス・マージンは、契約が当初に認識される際に把握され、当該契約のDay1利益を除去するものであり、当該契約に係る残存する未稼得利益に相当する。契約上のサービス・マージンは、キャッシュ・インフローの期待現在価値が、将来のキャッシュ・アウトフローの期待現在価値にリスク調整を加えた合計を超過する場合の超過額であり、ポートフォリオのレベルで決定される。

契約上のサービス・マージンはマイナスになることはない。当初認識時に、履行キャッシュ・アウトフローとリスク調整の合計がキャッシュインフローを上回る(つまり、不利な契約)場合には、キャッシュ・インフローを上回る金額は費用として純損益で認識しなければならない。

改訂EDでは、保険期間にわたり、当該契約にもとづくサービスの移転(例えば、保険カバー)を最も適切に反映させる方法で、契約上のサービス・マージンを純損益で規則的に認識することを求めている。

履行キャッシュ・フローとリスク調整に関し、最新の見積りを利用することと合わせ、改訂ED では、契約上のサービス・マージンを、契約開始時に「ロックイン」すべきではないと規定している。その代わりに、マージンは下記の場合に限り、将来キャッシュ・フローのその後の変動について調整(更新)すべきであるとしている。

  • これらの変動が、将来の保険カバレッジに関連する将来キャッシュ・フローについての、現在の見積りと過去の見積りの差額に該当する場合
  • 契約上のサービス・マージンが不利な変動を吸収するに十分である場合

これは2010年EDからの重要な変更点である。2010年EDでは、当初認識時に決定されたロックイン・マージンを採用し、期中に提供されたサービスに対応する損益を認識する以外には、当初認識以降に変更は行わないものとされていた。

EYの見解

改訂EDの測定モデルの原則は2010年EDと類似するものの、 契約上のサービス・マージンをアンロックすることは、純損益に大きな影響を及ぼす可能性がある。結果としてIASBは、契約上のサービス・マージンをアンロックするという決定を、ビルディング・ブロック・モデルへの大幅な変更であると位置づけ、関係者からのさらなるフィードバックを求めている。関係者はこの機会を利用して、集約のレベルや純損益へのマージンの解放の方法など、契約上のサービス・マージンの他の要素についてもコメントを寄せる可能性がある。

また、ビルディング・ブロック・モデルに対する他の変更については、現段階でさらなる意見を求めなければならないほどの重要性はないと審議会が考えているとはいえ、保険者はそうした変更が業績指標や業務上の要件に及ぼす影響を過小評価するべきではない。

表示

審議会は表示モデルに関する下記の点につき、再検討を行った。

  • 保険契約すべてに関して、既経過保険料を包括利益計算書に含めること
  • 割引率の変動による影響の表示

包括利益計算書の中での既経過保険料の表示

2010年EDでは、要約(すなわち、正味)マージンに重点を置いた包括利益計算書が提案され、ビルディング・ブロック・アプローチを適用して保険料を計上することは認められていなかった。

改訂EDでは、保険者は純損益として、保険料収益を表示しなければならないと提案している。IASB は、いくつかの保険料の測定方法について議論し、既経過保険料アプローチによることで、保険契約の収益認識をIASBとFASBの収益認識の共同プロジェクトでの提案と最も整合させることができるという点に同意した。一定期間の保険契約の既経過保険料は、当該期間に対応する期待保険金と期待費用の最新の見積り(純損益で認識される分を除く)、リスク調整の変動額、解放された契約上のサービス・マージンの額、および新契約費の回収に応じて配分された保険料の配分額の合計額を表している。

損害保険(短期)契約に関する現行モデルは、すでに既経過保険料アプローチを適用しており、契約保険料を収益として配分し、簡素化モデルに関する提案でも引き続きその方法が認められている。ただし、既経過保険料アプローチが、多くの現行の会計モデルで使用されている未収保険料アプローチとは抜本的に異なる考え方であることから、保険契約収益の表示に関する審議会の提案は、生命保険には大きな影響を及ぼすことになるだろう。

新たに提案された表示モデルでは、保険料、保険金、費用などの取引量に関する測定に重点が置かれているものの、保険者には依然として、開示の一部としてマージンに関する情報の提供が求められている。

EYの見解

既経過保険料は長期生命保険契約を扱う保険者の多くにとっては目新しい考え方である。これらの情報によって包括利益計算書の価値が増すと考える利用者はいるかもしれないが、そうは考えない利用者もいるだろう。したがって、我々は、(ⅰ)財務諸表の利用者が表示された情報を理解しているかどうかを見極めるため、さらに、(ⅱ)審議会に対して既経過保険料の表示の有用性に関するコメントを寄せることが出来る程度に、財務諸表の利用者がその情報を適切に解釈しているかを見極めることを目的として、保険者が財務諸表の利用者と接触をもつであろうと想定している。

審議会は、既経過保険料アプローチを実行するのに必要なすべての情報がビルディング・ブロック・モデルから入手できると考えているとしても、実際の数値を作成するには、保険者による業務面の多大な取組みが必要となる可能性がある。

割引率の変動による影響の表示

改訂EDの表示における他の重要な変更点は、保険契約負債の変動を認識するためにOCIを利用する点である。改訂ED では、保険者が下記の差額をOCIで認識し表示することが求められている。

  • ⅰ) 現在の割引率を用いて保険契約から生ずるキャッシュ・フローを割り引いた金額
  • ⅱ) 保険契約が当初に認識された時点の利率(ロックイン・レート)を用いてキャッシュ・フローを割り引いた金額

原資産のリターンによって直接的に(すなわち、すべてのシナリオで)変動することが見込まれる契約のキャッシュ・フローについては、原資産からの期待リターンの変動により期待将来キャッシュ・フローが変動する場合には、上記(ⅱ)の金利費用を決定する際の割引率も更新する必要がある。

審議会がOCIによる表示を導入したのは、一部の負債性金融商品についてその他の包括利益を通じて公正価値で認識するカテゴリーを導入する提案に合わせることにあり、それによって、保険負債とその保険負債の裏付け資産の測定と表示の整合性を高めることを意図していた。

次項では、割引率の変動による影響を含め、保険者に保有が求められる原資産のリターンと連動する契約に適用される具体的なガイダンスについて討議している。

EYの見解

我々は保険者に対し、会計上のミスマッチの解消を図るという目的が確実に達成されるよう、保険契約の測定モデル案を、金融商品に関する測定モデルとともに検討することを推奨している。これらの新基準による財務業績への影響は、保険者の主要な業績測定にとって重大な意味があり、IFRS第4号フェーズIIとIFRS第9号金融商品をともに検討し、影響を評価することが、今後の議論に不可欠なものとなるだろう。

保有が求められる原資産のリターンと連動した契約

2010年EDでは、保険契約から生ずるキャッシュ・フローの発生金額および発生時期の不確実性が全面的であれ、部分的であれ、特定の資産からのリターンに左右される場合には、保険者に対し、当該保険契約を測定するために使用する割引率にその依存性を反映させることが提案されていた。改訂EDでもこの原則は踏襲されているものの、企業に原資産の保有が求められ、当該原資産に対するリターンとのリンクが特定されている契約について、測定と表示の特別なガイダンスを導入している。これを適用するには、以下の二つの要件が満たされる必要がある。

  • 特定の資産、保険契約のプール、保険者の資産・負債などの原資産を実際に保有することが、保険者に求められている
  • 契約条件として、保険契約者への支払とその原資産との関係が定められている必要がある

改訂ED は、保険契約に含まれるキャッシュ・フローを三種類に区別している:

  • ⅰ)原資産のリターンとあわせて直接的に変動する、すなわち、キャッシュ・フローがすべてのシナリオで原資産と連動して変動するもの
  • ⅱ)原資産に対して間接的に変動する、すなわち、キャッシュ・フローが原資産の変動と一致しないシナリオがあるもの(オプションおよび保証)
  • ⅲ) 原資産の変動と一致しないもの(例えば、固定のキャッシュ・フロー

原資産のリターンとあわせて直接的に変動することが見込まれる履行キャッシュ・フローの要素は、原資産の帳簿価額を参照することによって測定され、測定値の変動は、原資産と一貫した方法で包括利益計算書において表示される。これは、保険者が、ビルディング・ブロック・モデルをこれらのキャッシュ・フローには適用せず、その代わりに、保険負債の構成要素を測定するために原資産を使用することを意味している。たとえば、原資産が純損益を通じて公正価値で測定される金融商品である場合、保険負債の測定はその公正価値を反映したものとなり、当該負債の測定値の変動は純損益に表示される。この測定と表示に関する例外は、保険契約とその裏付け資産との間に経済的なミスマッチがない状況を反映させることを意図したものである。

原資産のリターンによって直接的に変動することが見込まれない履行キャッシュ・フローの構成要素は、ビルディング・ブロック・モデルを用いて測定される。測定値の変動は、改訂EDの一般的な表示要件に従って純損益かOCIのいずれかで表示され、オプションと保証の現在の価値の変動は純損益で表示される。

このガイダンスにより、原資産と共に変動するキャッシュ・フローを有する契約について、割引率の変動による影響の一部はOCIで報告され、その他は純損益で報告されることになる。審議会は、このアプローチが取り入れられることにより、保険者がかかる契約のキャッシュ・フローを3つのカテゴリーに分解しなければならなくなるという、業務面での影響があることを認めている。改訂EDには、この分解をどのように実施するかについての適用指針が含まれている。

EYの見解

有配当契約に関するIASBのガイダンスは、資産の測定と負債の測定との間のミスマッチを減らすことを意図している。世界中で有配当契約にはさまざまな種類があることを考えると、保険者は、具体的にどの種類の契約が改訂EDのガイダンスに合致するか、詳細な分析を行うことが重要になるだろう。キャッシュ・フローの細分化の必要性につき、業務上の課題が生じる可能性がある。このガイダンスを、実務上どのように解釈し、適用すべきかについて、審議会によるより一層の明確化を求める関係者も多く、我々は、有配当契約に対する具体的なガイダンスについて、関係者からの多くのコメントが寄せられることを期待している。

残存カバーに係る負債に対する簡素化アプローチ

簡素化アプローチは保険契約負債の2つの要素を組み入れている。

  • 保険期間にわたって保険契約者に対し保険カバーを提供する保険者の義務を測定する、残存カバーに係る負債
  • 報告済みかどうかに関わりなく、すでに発生した保険金を調査し支払う保険者の義務の現在価値を測定する、既発生保険金に係る負債
  • 提案されているモデルでは、一定の基準に基づき、簡素化アプローチがビルディング・ブロック・アプローチによる測定に近似すると認められる場合には、保険の残存カバーに係る負債の測定に簡素化アプローチを用いることが認められている。実務的な簡便法として、保険者は、残存期間が一年以内の契約に対しては簡素化アプローチを利用できるようになるだろう。簡素化されたアプローチは、保険期間にわたる契約保険料を配分することにより、残存カバーに係る負債を測定するものであり、このアプローチは損害保険における多くの現行の会計モデルと似通っている。

    現行モデルとは異なり、改訂EDの簡素化アプローチでは、当該契約保険料が重要な金融の要素を含み、保険料の受取りの時点と保険カバーの提供の時点の予想期間が一年を超える場合には、保険者は残存カバーに係る負債に関し、利息を計上することが求められている。保険者は当初認識時に決定した利率により利息を計上する。

    保険者は、契約保険料について、当該契約に基づいて提供されるサービスの移転を最も適切に反映させる規則的な方法により、保険期間にわたり収益として認識する。不利な契約テストは、当該契約を引き受けた時点(保険者が当該契約に拘束される時点)および事後の双方に適用される。

    EYの見解

    簡素化されたモデルの適用の結果について、損害保険会社は総じて、新しい提案の影響は生命保険会社に対する影響よりも小さいと考える可能性がある。しかしながら、損害保険会社は、保険金負債の測定には、割引とOCIの利用を含む、ビルディング・ブロック・モデルの構成要素が用いられているという点に留意する必要があるだろう。現在の金利の変動から生ずる増減の影響はOCIに表示するため、保険金負債に係る金利費用は当初にロックインされた利率で算定される。結果として保険者は、割引率と対応する保険金の額を、引受ごとに追跡管理することが必要になるだろう。

    図1: ビルディング・ブロック・モデルと簡素化アプローチの構成要素
    図1: ビルディング・ブロック・モデルと簡素化アプローチの構成要素

    再保険

    改訂EDは、出再者が保有する再保険契約について、再保険者の不履行リスクを含む履行キャッシュ・フローの現在価値および契約上のサービス・マージンで測定することを求めている。出再者は、元受保険契約に関する履行キャッシュ・フローの現在価値の該当部分と同じ方法で、再保険契約に係る履行キャッシュ・フローの現在価値を見積もる必要がある。割引率の変動による影響をOCIで表示するという決定は、再保険資産にも適用される。

    2010年EDからの変更点として、出再者は、将来のキャッシュ・インフローにリスク調整を加えた金額と将来キャッシュ・アウトフローの差額を契約上のサービス・マージンとして計上する。これは、元受契約のモデルとは対照的に、契約上のサービス・マージンはプラスにもマイナスにもなる可能性があることを意味している。ただし、再保険契約が過去の事象の結果として出再者に生じた負債を払い戻す場合(遡及型再保険の場合)には、マイナスの契約上のサービス・マージンは純損益で即時認識される(再保険を購入する費用であり、審議会はこれを損失であるとした)。審議会は、出再された元受保険金は既に発生していることから、再保険の購入費用は即時に認識すべきであると指摘した。

    再保険に関する改訂EDが提案している他の要件は以下の通りである:

    • 出再保険料は、出再手数料を差し引いた純額で表示すべきである。
    • ロスセンシティブ特性のような、保険金または給付金の実績に応じて再保険料や出再手数料の金額に影響を及ぼすキャッシュ・フローは、保険料ではなく、保険金または給付金のキャッシュ・フローとして認識すべきである。
    • 遡及型再保険契約に関する、出再者の再保険資産および受再者の保険契約負債に含まれる契約上のサービス・マージンは、一定期間にわたって償却すべきである。
    • 出再者は、再保険契約について、元受保険者の場合と同じ基準に従い、簡素化モデルを適用することが認められるかどうかを判断する。ただし、その判断は元受保険契約についての判断とは無関係に行われるものとする。

    EYの見解

    保険者は、損害率や事業費率といった重要業績指標が、再保険契約に含まれる条件付きの要素に関するガイダンス案によってどのように影響を受ける可能性があるか、把握しておく必要があるだろう。正味の引受マージンはこの決定による影響を受けないものの、取引量に関する情報は、このような条件付きの要素が含まれている程度によっては、大きな影響を受けることになるだろう。

    移行時のアプローチ

    2010年EDでは、契約を新モデルに従って移行時から測定するという、将来に向かった適用が求められていた。当時、審議会は、これによりモデルの遡及適用によって生ずる負荷を軽減することになるだろうと考えていた。ただし、移行時の測定において、未稼得利益を繰り越すことができないため、コメントレターにより否定的な意見が寄せられていた。

    再審議を通じて、審議会は複雑性と比較可能性と有用性のバランスを図ることを意図し、修正遡及アプローチを採用することに決定した。このアプローチは、実務上不可能でない限り、保険者は新しい基準を過年度すべてにわたって遡及的に適用する必要があるというものである。実務上不可能な場合には、保険者は、一定の実務的な簡便法を通じた救済措置に従いつつ、可能な限り客観的な情報を用いて契約上のサービス・マージンを見積もる必要があるだろう。

    審議会は、基準の発効日について、現段階で具体的な移行期間を決定するのではなく、最終基準書の公表から約3年後になるだろうと決定した。審議会は、この結果、強制適用開始日はIFRS第9号の強制適用開始日よりも後になる可能性があることを認めた。この結果生ずる複雑な状況に対処するために、審議会は、新しい保険契約会計への移行の際に、会計上のミスマッチが生じる場合、保険者が金融商品を再指定できる可能性を残した。

    EYの見解

    提案された移行アプローチは、全面的な遡及アプローチに伴う困難性を解消することを目的としいているものの、我々は、長期契約について移行アプローチの要件を満たす取組みが重要であると考えている。システム上の制約や買収、部門売却などさまざまな理由で、契約上のサービス・マージンを全面的に遡及して見積もるためには、保険者側にデータが欠落している場合がある。

    将来の保険契約の基準への移行に際して、金融商品を再指定することを認めていることから、審議会は、金融商品基準の強制適用開始日と保険契約の基準の強制適用日が、保険者にとって一致しない可能性があることを暗に示している。

    その他の論点

    審議会が関係者の意見を求めている部分を含め、改訂EDにおける提案の主な特徴については本紙の中ですでに取り上げている。以下の表では、改訂EDで行われたそれ以外の変更点をまとめている(ただし、すべてを網羅しているわけではない)。

    論点 改訂EDにおける変更点
    定義と範囲 改訂EDでは2010年EDで提案されていた保険契約に関する定義が踏襲されており、これはIFRS第4号「保険契約」の中にある現行の定義とも類似している。ただし、再保険契約は、実質的にすべての保険リスクを再保険者が負っている場合、重要な保険リスクを移転したものとみなされる点が追加されている。
    改訂EDは、固定料金のサービス契約の適用除外に関する追加の基準を含んでいる。これに対して、金融保証は、発行者が従前に保険契約として取り扱っていない限り将来の保険契約の基準の対象外とすることにより、IFRS第4号における現行の適用範囲に戻されている。
    有配当契約 改訂EDでは、裁量権のある有配当性を有する金融商品が、保険契約を発行している企業により発行されている場合に、保険契約の基準が当該金融商品にも適用されることを明確化しているが、当該契約が保険契約と同じ資産プールからの配当を受けるという2010年EDの追加の要件は撤回されている。
    ポートフォリオ 改訂EDでは、保険契約のポートフォリオについて、引き受けたリスクについて同様の価格設定を行うという要件を定義に加えることにより、2010年ED(およびIFRS第4号)からポートフォリオの定義を変更している。
    区分処理と分解表示 「アンバンドリング」という語は使われなくなっており、代わりに改訂EDでは、「保険契約からの要素の区分処理」という用語が使われている。改訂EDでは、保険者に対し、(i) 特定の要件を満たす組込デリバティブ、(ii) 区別できる投資要素 ならびに(iii) 財およびサービスを提供するための履行義務を保険契約から区分処理するよう求めている。
    改訂EDでは、保険者に対し、従前には区別されていなかった投資要素に対応する、保険契約収益(保険収益として計上せず、預り金要素として処理する)および既発生保険金を包括利益計算書から除外するよう求め、分解表示の考え方を取り入れている。区分処理されない投資要素は、保険事故が発生するかどうかに関わりなく、保険契約者に支払うべき金額を含んでいることになる。
    契約の境界 2010年EDでは、保険者は保険契約の当事者となった時点で保険契約を認識すべきであると規定している一方で、改訂EDでは、保険契約の認識時点は保険期間の開始時、保険契約者からの支払期限、保険契約のポートフォリオが不利になるという証拠が発生した時点のうちの最も早い時点であると明確化されている。
    さらに改訂EDは、保険契約に対する修正の取扱い方法に関する指針を導入している。
    ポートフォリオの移転と企業結合 改訂EDでは、ポートフォリオの移転と企業結合による保険契約の会計処理方法について、2010年EDの提案内容を踏襲している。改訂EDでは、ポートフォリオの移転や企業結合で取得した契約の認識日は、移転日もしくは企業結合日となることを明確化している。これは、取得した契約に係る契約上のサービス・マージンは、当初に保険契約者との間で当該契約が締結された日ではなく、取得日に基づいて決定されることを意味している。
    開示 改訂EDでは、保険契約負債および保険契約資産の帳簿価額の合計額に係る期首残高から期末残高への調整に関し、広範な開示が求められている。求められている調整項目については、財政状態計算書における変動と、包括利益計算書で認識された金額との関連性を示すことに加え、要約マージン情報を含めることが意図されている。

    今後のゆくえ

    今後数カ月の動向が、将来の保険会計のカギを握ることになるだろう。120日間のコメント受付期間を設けたうえでIASBは今年後半には再審議を開始する予定であり、2014年にも協議が続くものと見込まれている。

    このスケジュールに従えば、基準が最終化されるのは早くても2014年となるだろう。

    審議会は、2010年EDの提案内容についての懸念に対応し、解決を図るために、多大な努力を行ったと考えており、改訂EDに対して寄せられる反応に対して、その様な姿勢で臨むであろう。審議会は、現在の経済環境に起因して、現行のIFRS第4号の基準では財務報告に多くの問題が生じていると考えており、新基準書を完成させる決意は固いように見える。

    モデルの改訂は収益のボラティリティが低減される可能性がある一方、業務面で複雑になるおそれも残されている。したがって作成者および利用者は、コメントレターを通じて建設的な意見を提出し、審議会が保険契約に関するバランスのとれた将来のIFRSを策定できるよう支援するため、本改訂EDの提案内容による潜在的な影響を把握し、評価する必要があるだろう。

    (以上)



    

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