アシュアランス
IFRSポイント講座

第4部 棚卸資産

2009.10.09

第4部 棚卸資産

「棚卸資産」の部では、IAS第2号の定める棚卸資産と日本基準との差異、及び実務上想定される論点について触れます。

はじめに

IFRSでは、IAS第2号が、棚卸資産の測定及び開示について定めています。棚卸資産とは、以下のような資産であると定義されています。

  • 通常の事業過程において販売を目的として保有されているもの
  • その販売を目的とする生産過程にあるもの
  • 生産過程もしくは役務の提供にあたって消費される原材料又は貯蔵品

IAS第2号は、他の基準が規定しているもの(*1)を除き、すべての財務諸表に表示される棚卸資産に適用されます。

(*1) 他の基準が規定しているものとは、例えば以下のとおりです。

  • 直接関連する役務提供を含む、請負工事により発生する未成工事原価(IAS第11号「工事契約」参照)
  • 金融商品(IAS第32号「金融商品:表示」及びIAS第39号「金融商品:認識及び測定」参照)
  • 農業活動に関連する生物資産及び収穫時点の農産物(IAS第41号「農業」参照)

IAS第2号の測定に関する規定は、以下の者により保有される棚卸資産の測定には適用されません。ただし、これらの棚卸資産は、IAS第2号の開示などその他の規定は適用されるため、注意が必要です。

  • 十分に認められた業界の実務に従って正味実現可能価額で測定される場合における農業製品、林業製品、収穫後の農産物、鉱物及び鉱物製品の生産者。このような棚卸資産が正味実現可能価額で測定される場合、正味実現可能価額の変動は、変動が発生した期の損益として認識します。
  • 販売費用控除後の公正価値で棚卸資産を測定するコモディティー・ブローカー/トレーダー。このような棚卸資産が販売費用後の公正価値により測定される場合、販売費用控除後公正価値の変動は、変動が発生した期の損益として認識します。

日本の場合、棚卸資産の評価基準及び開示について定めている企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」があり、IFRSとの間で重要な相違が少ないと言われています。しかし、以下の点にはIFRSとの間に相違があります。

  • 棚卸資産の定義
  • 棚卸資産の原価
  • 棚卸資産の原価配分方法
  • 評価減の戻入れ

これらの相違点と実務上想定される論点について説明していきます。

棚卸資産の定義

棚卸資産の定義は、IFRSと日本基準ではほぼ同一と考えられます。しかし、事務用消耗品等の取扱いについては、日本基準では、販売活動及び一般管理活動において短期間に消費される事務用消耗品等も棚卸資産に含まれることが明記されていますが、IFRSにはそのような明確な規定はありません。

棚卸資産の原価

IFRSの棚卸資産の原価には、以下のすべてが含まれます。

  • 購入原価
  • 加工費
  • 棚卸資産が現在の場所及び状態に至るまでに発生したその他の原価

購入原価には、購入代価、輸入関税及びその他の税金、棚卸資産に直接関連する運送費及びその他の費用が含まれます。購入原価の算定上、IFRSでは仕入割引は控除されますが、日本基準では営業外収益として計上されるため、IFRSと日本基準で差異が生じます。

加工費には、直接労務費のような直接費及び製造間接費が含まれます。IFRSでは、固定製造間接費の配賦は、生産設備の正常生産能力に基づいて行われます。正常生産能力とは計画的なメンテナンスから生じる能力の低下を考慮した上で、正常な状況で期間又は季節を通して平均的に達成されると期待される生産量をいいます。実際の生産水準が正常生産能力に近い場合には、実際の生産水準を使用することもできます。生産水準の低下や遊休設備が存在する場合でも、各生産単位に配賦される固定製造間接費が増加することはありません。その結果発生した未配賦の固定製造間接費は、期間費用として計上されます。逆に、生産水準が異常に高い期間の場合、生産単位当たりの固定製造間接費の配賦額は減少し、棚卸資産が原価を上回る金額で計上されることはありません。一方、日本基準では、有利差異であろうと不利差異であろうと同様の処理をします。実務上、景気後退などによって生産水準が低下している場合には、日本基準では各生産単位に配賦される固定製造間接費が増加し、その結果IFRSに比べ、棚卸資産が大きく計上されている場合があると想定されます。また、IFRSを導入する場合には、正常生産能力を決定する必要があり、その決定には判断を要すると考えられます。

IAS第2号では、棚卸資産が現在の場所及び状態に至ることに寄与する管理部門の間接費について、製造原価の一部とすることが認められていますが、どこまでを対象とするかについて判断が必要となります。例えば、経理部門は、製造、販売、流通、一般管理の機能について補助しますが、このうち、製造に関する業務機能に対して配賦される経理部門の費用のみ加工費に含めることができます。このように、性質が明瞭でない金額的重要な間接費を原価に含める際は、実務上、製造工程への寄与についての分析を開示し、IAS第2号の規定に準拠して製造原価に含めることの妥当性を立証する必要があると考えられます。

借入費用については、IFRSではIAS第23号「借入費用」で規定する要件を満たした棚卸資産の原価には、原則として借入費用を含める必要がありますが、日本基準では費用処理します。ただし、日本基準でも、不動産開発事業を行う場合の支払利子については、原価に算入することが認められています。

棚卸資産の原価配分方法

原価算定方式として、IFRSでは後入先出法が認められていませんが、現在の日本基準では認められています。ただし、日本基準でも平成22年4月1日以降開始する事業年度より後入先出法は禁止され、IFRSとほぼ同等になると考えられます。

また、IAS第2号では、標準原価法及び売価還元法のような棚卸資産の原価の測定技法は、その適用結果が原価と近似している場合にのみ、簡便法として使用が認められています。この点は、日本基準と類似していると考えられます。ただし、日本基準は実際に使用した標準原価や売価還元法の適用結果が実際原価に近似するか否かを検証するプロセスの必要性を明文上課していないため、日本の基準で使用した標準原価や売価還元法をIFRS適用時に使用する場合、その精度等の点から改めて検証する必要があると考えられます。

評価減の戻入れ

IFRSでは、評価減する原因となった従前の状況がもはや存在しない場合、又は経済的状況の変化により正味実現可能価額の増加が明らかである証拠がある場合、当初の評価損の金額を上限として、評価減の戻入れを行う方法のみが認められています。

日本基準では、簿価切下額の戻入れを行う洗替え法と、戻入れを行わない切放し法の選択適用が認められています。ただし、臨時の事象の場合には、洗替え法を適用していたとしても簿価切下額の戻入れが認められないケースもあります。

「棚卸資産」の部は今回のみです。次回は「借入費用」です。




情報量は適当ですか?

文章はわかりやすいですか?

参考になりましたか?