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IFRS Outlook

ディスカッション・ペーパー「リース:予備的見解」への反応

2010.02.03
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恐らくあまり知られていないことだが、国際会計基準審議会(以下、IASB)は2006年4月、リース会計のプロジェクトを米国財務会計基準審議会(以下、FASB)と共同で検討することに同意した。

しかし、実際の提案がディスカッション・ペーパー(以下、DP)「リース:予備的見解」として公表されたのはそれから3年後の2009年3月であった。本DPにおいて、リース会計は、すべてのリースは資産と負債を発生させるという原則に基づくべきであると提案されている。借手にとって資産はリース資産の使用権を表し、負債はリース料の支払義務から成る。このアプローチに基づけば、すべてのリースは「オン・バランス」されることになる。2009年7月、本DPに対するコメント募集が締め切られた。本章では、本DPに寄せられた300のコメントと、IASBが現在直面する課題を概説する。

コメントの概要

EYは、本DPに寄せられたコメントのレビューを行い、コメントの内容を図1のように4つのカテゴリーに分類した。
コメントで強調された一般的な懸念は、「本提案によって複雑性が生じ、便益を上回る負担が財務諸表作成者に課せられることになる」、「2010年の公開草案公表を達成するため、IASBにはすべての論点に対応する十分なリソースがあるのか」、「収益認識プロジェクトと同時に、貸手の会計処理の検討を望む」というものであった。

図1:DP「リース:予備的見解」に対するコメント概要
DP「リース:予備的見解」に対するコメント概要
注:コメント提供者の構成は、貸手18%、財務諸表利用者1%、監査人及び基準設定機関12%、財務諸表作成者及び業界団体69%であった。

貸手の会計処理

しばしば貸手の会計処理は、特に議論の的になるようである。我々のレビューがこれを裏付けている。図1が示すように、貸手の89%が使用権モデルに強く反対している。
最近まで、IASBは貸手の新しい会計モデルの開発を先延ばしにしているようであった。しかし、IASBは本DPの中で、貸手についてプロジェクトの範囲に含めるべきかどうかのコメントを求め、2つの可能なアプローチの説明を行った。貸手は以下のように会計処理を行う。

  • 債権(金融資産)を計上し、リース資産の一部の認識を中止する。もしくは、
  • 債権(金融資産)を計上し、履行義務に関する負債も計上する。
  • 上記いずれのアプローチにおいても、リース料収入は計上されない。

これに対し、REESA(Real Estate Equity Securitization Alliance、不動産関連の業界団体で構成する国際組織)は、投資不動産として所有される不動産は、このリース・モデルの対象から除外すべきであるとの見解を示すコメントを提出した。全300のコメントのうち、23がこのREESAの見解を支持した。これら23のコメントの大半は不動産賃貸業者からのものであった。
REESAを支持するコメントに加え、別の34のコメントでは、投資不動産はリースの新基準の適用範囲に入れるべきではないと主張されている。主な理由は、現行基準のIAS第40号「投資不動産」が財務諸表の利用者にとって最も公正かつ有用な情報を提供すると考えているからである。たとえば、ニュージーランド証券委員会は、「投資不動産を公正価値で認識することを認める会計モデルを、認めないモデルに置き換えることは、財務報告の改善とはならない」と述べ、英国の王立公認不動産鑑定士協会は、「IAS第40号は明確であり、一般的に市場の実態に最も即している。情報のレベルを下げるような新基準を設定すべきではない」との見解を示した。

多くのコメントは、投資不動産の会計処理が改善されうるとしても、リース会計に関する提案を投資不動産へ適用することは適切ではないとの見解を示した。たとえば、アライド・アイリッシュ銀行は「貸手と借手の双方の観点から投資不動産のリースを取り扱うようにIAS第40号を拡充すべきである。一般的なリース会計の基準で取り扱うべきではない」と提案した。

ほとんどのコメントで、借手と貸手の会計処理は、不整合な部分を認識するために同時に取り扱うべきであると述べられている。貸手の会計処理についてコメントしなかった者の多くは、提案されている変更について、そうした質問に答えるのに十分な情報がないと述べた。しかし、48のコメントでは、投資不動産を本提案の適用範囲に含めることに賛成であった。たとえば、オーストラリアの通信会社テルストラ社は、「貸手の関連するすべての資産に関して、それらが土地であるか建物であるかそれ以外の資産であるかに関わらず、参照先は一箇所であるべきであり、首尾一貫した一組の会計処理ガイダンスが必要である」とコメントした。

貸手及び財務諸表利用者以外からのコメント

我々のレビューによると、表1で示すように、借手の会計処理に関する提案については、比較的異論が少なかったようである。

表1:貸手及び財務諸表利用者以外からのコメント

提案に強く反対する36%
反対であるが、リース会計の改善は支持する23%
支持するが、詳細について懸念事項がある32%
提案を強く支持する9%

コメントではまた、IASBが原則主義から米国会計基準に見られる細則主義へ移行しつつあるとの懸念も示された(一方で、本DPの支持者の中には、米国会計基準とのコンバージェンスがDP支持の主な理由の一つであると述べる者もいた)。提案に反対する者の中にはUSスチール社も含まれており、同社は、「我々の最大の懸念は、提案されている新基準は当事者の意図やリース取引の実態を反映しないという点である」と述べた。アグレコ社は、本提案は「財務諸表利用者にとって有意義なものとはならず、コストと複雑性を同時に増加させる」とコメントした。
多くのコメントにおいて、DPの概念は同意を得たが、ビジネスに及ぶ影響が懸念されていた。たとえば、シェル・インターナショナル社は、「我々はすべてのリースに対して単一の会計処理方法を適用することにより透明性が増すと考えてはいるが、本提案の適用により、当社担当者のような財務諸表作成者は、リース取引の会計処理、及び報告の方法について重大な影響を受ける」と述べた。HSBCホールディングスは、「多くの重要でない小規模なリースに使用権モデルを適用する際のコストは、このアプローチを適用する便益を大きく上回ることになる」と懸念を示した。
この提案を支持する理由の多くは、現行基準においては利益操作が行われやすいなど、複雑で不整合であるという点が改善されるだろうという考えによるものであった。たとえば、ファイナンシャル・コンピューター・システム社は、「使用権モデルにより、財務諸表表示の比較可能性及び透明性が大きく向上する」とコメントしている。

財務諸表利用者からのコメント

財務諸表利用者やその代表グループから寄せられたコメントの数はあまり多くはなかったものの、彼らのコメントには特徴があり、図1のように、多かれ少なかれすべてが提案を支持していた。
この理由は、財務諸表利用者のコメントが借手の会計処理の提案に重点を置いていたからかもしれない。スタンダード・アンド・プアーズは、「新モデルの最も重要な影響は、オペレーティング・リースとファイナンス・リースの会計区分を無くすことであろう。この点を我々は強く支持する。我々は、長い間この区分を非常に作為的なものであると考えてきた」と述べた。一方で、企業報告利用者のためのフォーラム(The Corporate Reporting Users'Forum)は、「全体として、リースについて単一の会計フレームワークを構築するというDPの方向性は正しいと考える。これにより、現行基準より簡潔で理解しやすいものとなるであろう」との見解を示した。

おわりに

本DPに寄せられたコメントの数や傾向からは、提案を支持する財務諸表利用者を除き、利害関係者は提案について多大な懸念を示していることがわかる。これは、IASBにとって意外ではないが、興味深いジレンマである。
EYは、借手がリース契約について、単一の資産と単一の負債を表示するというIASBのアプローチを支持する。但し、IASBが異なる会計処理をリース以外の未履行契約について認める論拠を示すことが重要であると考える。
しかしながら、貸手の会計処理に関しては多くの回答者と同じ懸念を抱いている。EYは、貸手の会計処理に関してIASBがDPで提起した質問は、対処しなければならない項目のごく一部に過ぎないと考えている。使用権モデルに基づく貸手の会計処理のアプローチは、IASBが収益認識プロジェクトで開発した全体的な原則と整合していなければならず、IAS第40号との関係も明確にすべきである。
EYは、貸手の会計処理に関する徹底した評価は、IASBのリース・プロジェクトにおいて非常に重要なものであり、現在開発中の借手のモデル及びIASBの収益認識プロジェクトと同時に実施されるべきであると考える。

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