アシュアランス
IFRS Outlook

財務諸表における開示の過重負担の軽減―開示項目の見直しによる情報発信の改善

2013.04.18
IFRS Outlook 2013年4月号 (PDF:600KB)

IFRS財務諸表では従来、開示は財務諸表本表を補完する説明と捉えられていたが、企業報告の中心的存在になりつつある。全てではないにしろ、ほとんどの企業にとって、財務諸表における開示の分量は過去20年で著しく増加した。例えば、大手製薬会社のアニュアル・レポートにおける定量的情報の開示量は、国際会計基準の適用以来、過去20年で7倍となった。1
独立系アナリストで、英国財務報告評議会の報告研究所のディレクターでもあるスー・ハーディング氏、及びHSBCのグループ最高会計責任者を務めるラッセル・ピコット氏が財務報告についてどのように考えているか、その見解を伺った。

開示量は多すぎるかそれとも少なすぎるか

欧州財務報告諮問グループ(EFRAG)を含む数多くの会計専門機関及び基準設定主体が、財務諸表における開示の分量を削減する方法を検討した報告書を公表している。「開示の過重負担(disclosure overload)」という、開示規定の増加を意味する表現が頻繁に使用され、開示規定の増加により実に煩雑な状況が生じているのではないかという疑問が呈されるようになっている。

「開示は情報量こそ多いが、財務諸表利用者に十分な見解を与えるものではないという批判をよく耳にする。わたしも同感である。しかし利用者からすれば、それでもなお欠落している情報があるように思われる」と、ハーディング・アナリシスのオーナーであり、英国財務報告評議会の報告研究所のディレクターでもある独立系アナリストのスー・ハーディング氏は述べる。

開示の過重負担は主に適用上の問題である、と我々は考えている。この問題が、IFRSの開示要求が多すぎることにどの程度起因しているのかは議論の余地がある。近年の開示に対する取組みの中には、誰に向けて何を報告すべきかという包括的な視点ではなく、単に開示要求の削減に主眼をおいているものも散見される。開示の過重負担は、開示の分量の問題だけではなく、利用者にとっての財務諸表の価値に関わる問題でもある。理想的にいえば、財務諸表は、財務諸表作成者の事業内容を明確に分かりやすく伝えるものでなければならない。このことは、必ずしも開示の分量を減らすことを意味するわけではなく、むしろIFRSの規定に準拠した上で、全体としての財務諸表の表示方法に焦点を当てなければならないことを意味している。

ハーディング氏は、そのようなやり方によれば、企業に対する投資家の見方も大きく変わることになるが、そこに至るまではまだ長い道のりが必要であると考えている。「私自身の仕事のなかで、アナリストが必要とする情報を提供しない企業は、投資家に見過ごされたり、又はアナリストの格付けも低くなる可能性が高い、ということも耳にする」と述べている。「報告書における重要な情報が分かりにくく、透明性に欠けるようだと、疑問が生じ、それが疑念につながり、実際に生じたリスクや認識したリスクを回避すべく投資が他に回される可能性がある。明確な開示を行うことで、場合によっては投資対象から外されるかもしれないという懸念や疑問をいくらか解消することができる」とハーディング氏は述べる。

作成者はどのように差別化をはかることができるか

財務諸表利用者は通常、詳細な情報を検討する前に要約情報を読む。したがって財務諸表における開示を階層的に行うことにより、利用者に対する情報発信という点で財務諸表の有用性が増す。

HSBCグループの最高会計責任者を務めるラッセル・ピコット氏は、財務諸表の開示の作成において、そのアプローチをコンプライアンス・ベースからコミュニケーション・ベースにシフトさせることは、3年前に行われた四半期開示の分量を減らす作業の中核であった、と言う。「当行のアニュアル・レポートでまず目にするのは、リスクに関する開示だろう。そこにはHSBCの重要なリスクの概要が示されており、それは上級管理職が本当に懸念するリスクの一覧である」とピコット氏は説明する。「市場リスク、流動性リスク等といった各種リスクの前に、その分野で何が生じているのか、簡潔な概要の記述を確認できる」

IASBはこの論点にどのように対処できるのか

企業は現行規定の範疇で開示を改善することもできるかもしれないが、開示フレームワークとしてIASBから追加の指針が提供されれば、有用である。そうしたフレームワークは、IASBが開示規定を策定する際の指針となり、作成者が開示についての判断を行うときの一助になる。法律及び制度上の規定がIFRS上の開示に立脚していることも多いため、フレームワークに関する規制当局からのインプットも重要となろう。

重要性は概念フレームワークでは、目的適合性の企業固有の一側面と定義されている。IAS第1号「財務諸表の表示」及びIAS第8号「会計方針、会計上の見積りの変更及び誤謬」は重要性にも個別に言及しているが、重要性の概念が開示にどのように適用されるのかについての指針はほとんど存在しない。重要性を開示に適用することは、定量的要件を適用するだけでは足りず、定性的判断も要求される。IASBは、作成者がそうした判断を行うときの一助になる適用指針を策定してはどうだろうか。

HSBCは開示をどのように改善していったか

HSBCグループ最高会計責任者のラッセル・ピコット氏は、開示をスリム化し再構築するにあたり、HSBCが行った手続を次のように概説する。

HSBCは、高品質な開示が重要であると強く確信している。当行は、決算短信を公表しないことで差別化している。毎年2月末の決算発表では、500ページにも及ぶアニュアル・レポート一式を公表すると同時に、ピラー3報告書(バーゼルIIで要求される資本及びリスク管理に関する開示)及びIR資料についても一度に公表している。

我々の開示に対するアプローチは1年を通して実施されるプロセスにより管理され、開示は1年を通してまとめられていく。それはまず見通しをたてることから始まり、ベスト・プラクティスのガイドライン及び専門的論点の変更点を評価した後、IRプロセスから得られる主要な論点の検討へと進んでいく。また、同業他社の開示も確認する。

同様に、当行は、英国銀行協会とも協力して作業を進めている。英国銀行協会には、新たに生じる開示上の問題点について1年を通して定期的に議論するための開示グループが存在する。そこでの議論が、英国金融サービス機構との対話の中に活かされる。

こうした取組みを通じて、HSBCは、開示を改善する方法を考え、この地域におけるリーディングバンクであり続けようとしている。

我々はときに客観的に開示書類を見返すことで、「開示を劇的に改善、再構築し、分量を減らすために何ができるか」を考えることにしている。最後に実施したのは3年前のことであるが、それにより25%の書類が削減された。このプロセスで我々は、「なぜこのような開示をしているのだろうか。ただひな形に従った記載をしているのだろうか。我々の投資ビジネスについて整理した上でより明確な開示にしよう」ということを問い続けた。

25%の削減は、100ページもの書類の削減を伴う思い切った挑戦であった。内容、重複部分、様式、規制上や法律上の規定、及びベスト・プラクティスを確認した。複数の外部の投資家及び米国の証券アドバイザーにも話を聞いた。この検討や、各種フォーラムへの参加、及び今後変化していく投資家のニーズに対応できるよう内容を洗練することにかなり長い時間を費やした。

過去20年の間に4、5回の金融危機に見舞われたが、市場が当行について、あらぬ想像をすることがないよう、当行のリスク・ポジションについて早期に透明性のある開示を、常に先んじて行うことでそうした金融危機に対応してきた。

このような経験を通じて、危機に直面しても早期に開示を行えば、市場は好意的に反応し、株価の下落を免れるため、次の危機を乗り越えられる状態でいられるということを学んだ。こうした循環は有益であり、透明性に富む開示は、企業に対する市場の見方に好影響を与える上で実に重要である、とHSBCは確信している。

財務諸表上の開示を作成するにあたりコミュニケーション・ベースのアプローチを採用している企業は多くない。追加のガイダンスで、企業の状況に即した開示を行うことの重要性を強調することも考えられる。IASBはまた、どの開示項目が重要性判断の対象にならないかを明確化してはどうだろうか。それにより一定の開示についてはすべての企業に要求されることになるが、他の開示については各企業固有の重要性に基づき必要か否かが判断される。
企業報告は近年大きく変化しており、より複雑になってきている。おそらく長期的なプロジェクトになるであろうが、IASBは財務諸表による報告の限界について、及び財務諸表と他の財務報告書類(経営者報告書、コーポレート・ガバナンス報告書など)をどのように関連付けるべきかについても検討するだろう。

最新の技術(例えばXBRL)を検討するなかで、財務諸表の形式についても併せて検討することにより、IASBはより広範な統合報告の開発を補完することができるだろう。

次のステップ

2013年1月にIASBは、財務諸表作成者、監査人、規制当局、財務諸表利用者及び基準設定機関との間におけるコミュニケーションを促進し、開示をより効果的なものにする方法を探る目的で、財務報告における開示についての公開討論フォーラムを主催した。IASBは最新の「概念フレームワーク」プロジェクトの一環で寄せられた主な意見を現在検討している。

IASBが「概念フレームワーク」プロジェクトを開始して以降、財務諸表の開示に関する議論は活発化している。弊社は、関係者が今後の動向を見ながら、パブリック・コンサルテーションに関してコメントを寄せられることを推奨する。


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