IPO(企業成長サポート)

世界の新規上場動向 - 2016年1月~12月

2017.04.20
クロスボーダー上場支援オフィス シニアマネージャー 公認会計士
長谷川 宗

クロスボーダー上場支援オフィスでは、日本企業の海外市場での上場および外国企業の日本市場での上場をサポートしております。未上場企業の新規上場あるいは既上場企業の重複上場の双方をターゲットとして、証券市場で資金調達を目指す皆さまを支援して参ります。

1. 2016年世界のIPOの状況

政治経済の不確実性が増大するなか、2016年における世界のIPO市場は、全体的に縮小環境にあり、IPO件数、資金調達額ともに2015年の実績を下回る結果となりました。

2016年における世界のIPOは1,055件、資金調達額は1,325億米ドルと、前年に比べ、件数は16%の減少、調達額は33%の減少となりました。IPO件数の減少に加え、メガディールと呼ばれる大規模な資金調達も減少しており、調達額が10億米ドルを超えるIPO件数は昨年の35件に対して2016年はわずか21件にとどまっています。

エリア別にみていくと、アジア太平洋エリアの取引所は、グレーターチャイナを中心に世界のIPO市場シェアを着実に伸ばしており、2016年はIPO件数で60%、資金調達額で54%のシェアを占めるなど、世界のIPOをリードしています。

特に、香港(メイン・GEM含む)、深圳、上海の証券市場における2016年のIPO件数は、ぞれぞれ115件、114件、98件と、取引件数の上位3市場を独占しており、活発な動きをみせています。また、トップテン市場のうち6つがアジア太平洋エリアからのものになりました。

EMEIA(欧州、中東、インド、アフリカ)は、IPO件数で27%、資金調達額で28%のシェアとなり、同地域は取引件数、資金調達額ともに世界第2位となりました。

USを中心とする米州はシェアを大きく落とし、IPO件数で13%、資金調達額で18%のシェアと過去3番目の落ち込みをみせ、取引件数、資金調達額ともに世界第3位となりました。

表1 主要エリア別上場件数・調達額(2016年1月~12月)

  資金調達額(前年同期比) IPO件数(前年同期比)
全世界 1,325 億米ドル(33%減) 1,055 件(16%減)
米国 213 億米ドル(37%減) 112 件(36%減)
アジア太平洋 715 億米ドル(21%減) 638 件(6%減)
内)グレーターチャイナ 462 億米ドル(23%減) 331 件(6%減)
(出典:EY Global IPO Trends 2016 Q4)

表2 セクタートレンド(上段:セクター 中段:調達額 下段:IPO件数)

全世界 テクノロジー
127 億米ドル
185 件
Industrials
184 億米ドル
171 件
ヘルスケア
135 億米ドル
132 件
米国 ヘルスケア
33 億米ドル
40 件
テクノロジー
38 億米ドル
23 件
エネルギー
34 億米ドル
11 件
アジア太平洋 Industrials
123 億米ドル
125 件
テクノロジー
47 億米ドル
122 件
消費財
54 億米ドル
79 件
内)グレーターチャイナ Industrials
56 億米ドル
89 件
テクノロジー
36 億米ドル
58 件
消費財
40 億米
36 件
(出典:EY Global IPO Trends 2016 Q4)

2. 政治的、経済的な不確実性が2016年のIPOにブレーキをかけた

2016年は、IPOの利害関係者が意思決定を行うにあたって考慮しなければならない、多くの複雑かつ相互関係のある外部要因が発生した年となりました。

経営者心理及び投資者心理のトーンは、2016年の早い段階で固まっていましたが、これに米国大統領選挙の年という政治的不確実性が、英国の国民投票によるEU離脱、緊迫する中東情勢と欧州の移民問題に追い打ちをかけ、世界の新規株式市場の心理に悪影響を及ぼしました。

経済、金融市場の視点からも、市場関係者は株式市場と原油市場のボラティリティ上昇に直面し、中国本土の経済成長率の低下や米国の米国金融政策の不透明感を懸念しています。

多くの企業が、このような不確実な市場環境の中で上場するよりも、IPOの時期を2017年に延期する選択をしたことは驚くべきことではありません。

3. マルチトラック戦略においても、IPOは依然として強力な選択肢

プライベート資本市場の成長によりIPOの時期を遅らせることが容易になってきています。エクイティと負債の双方の形で代替的な資金調達手段を確保することが、未公開企業にとって柔軟に成長とイノベーションのための資金調達を行うことにつながります。

破壊的な技術革新に直面している大手企業にとって、技術革新を行うベンチャー企業を買収することが、自らのイノベーションや成長加速のために有用な手段であることは、すでに立証されています。

このことが、ビジネスがより成熟した段階で大規模なIPOを行うという選択肢につながっています。

テクノロジーカンパニーは、常に時間との戦いであり、イノベーティブな成長のための資金調達を効果的に行うために、上場計画を公表するのと同時に金融スポンサーに対しても働きかけ、事業売却や買収の余地も残しておくことがあり得ます。

さまざまな資金調達手法やエグジットオプションが出来たことで、より大きくかつ強固な事業基盤を確立した企業がビジネスサイクルの成熟段階で上場するという新しい種類のIPOにとって状況が有利になっています。

これにより、IPOの滑走路は、より長くなっているかもしれませんが、それでもなお、多くの会社にとってIPOが魅力的な選択肢であり続ける理由がいくつかあります。

ビジネスサイクルの成熟段階にある企業は資金調達目的よりはむしろ、企業ブランド価値の向上やクロスボーダー上場による新市場への参入といった目的のためにIPOを検討することが多いです。

IPOは一回限りの資金調達以上に、その後に投資家から追加的な資金調達を行う機会を継続的に与えます。上場企業の株式は事業買収のための通貨として使用することができます。

公開企業の株式は投資家にとり、流動性があり、より安全な投資対象となりますし、公開企業は優秀な人材を引き寄せ、良好な世間の評価は雇用契約の締結に有利に作用します。これらのすべての要素が、公開企業に対して投資家がプレミアムを払う動機づけになっています。

4. 米国エリアの状況

2016年はIPOのみならずM&A等の戦略的取引が全体的に少ない年となりました。

企業は、国内だけでなく、海外の政治や金融政策における不確実性、マーケットのボラティリティの増大、世界的なマクロ経済の停滞に直面し慎重になっています。

しかし、年末にかけてマーケットボラティリティは落ち着いており、株式市場は最高値を記録するなど、2017年に向けて明るい兆しが出ています。

2016年のIPOは112件、資金調達額は213億米ドルとなりました。昨年と比較すると、案件ベースで36%、調達額ベースで37%の減少となりました。案件数、資金調達額ともに、2009年の世界金融危機以来の低調なパフォーマンスとなりました。

また、米国市場における2016年の資金調達額上位2件は中国ZTO Expressの14億米ドル、日本Line株式会社の13億米ドルとクロスボーダー上場案件が占めました。上位10位にクロスボーダー上場案件がランクインするのは、2000年以来初めての事です。

2017年の見通しですが、大統領選挙後の株価指数、ボラティリティインデックスは良好であり、2016年に実施されたIPO案件のマーケット指標はいずれも好調でありました。これを受けて、IPO申請が公表されていないものを除いても、既に130社を超える企業が上場準備のリストにあり、着実にパイプラインが積みあがっています。年末最終週におけるIPOにも兆しが表れてきています。

トランプ新大統領の政策が米国経済にどのような影響を及ぼすのかという不確実性は依然として残りますが、さしあたってのマーケットの反応はポジティブです。

金融スポンサーがIPO市場のアクティブプレーヤーに今後もなり続けることが予測されます。Preqin社の推定によると、VC及びPEには3050億米ドルを超える手元資金があるとされており、彼らの投資ポートフォリオからエグジットする企業が、IPO候補者のキーソースになり続けるでしょう。

2017年は、IPOの案件数では増加するものの、ディールサイズは2016年と同様、小規模な上場の傾向が続くことが予想されます。

5. アジア太平洋エリアの状況

2016年のIPOは638件、資金調達額で715億米ドルと前年対比では減少しているものの、米州やEMEIAと比べ、地政学的な不確実性を要因とする景気後退の影響は少なかったといえます。

世界の大型IPOトップ10のうち、6社がアジア太平洋エリア(香港で3件、韓国、日本、上海で1件)での上場となりました。

日本は、通年を通じて、着実にIPO件数を重ねており、東証メインボード、マザーズ、ジャスダック合計で87件のIPO件数と昨年の98件と比較すると若干の減少、金額ベースでは93億米ドル(NYSEと重複上場したLine株式会社の13億米ドルは除く)と昨年の157億米ドルより減少しています。

10月にはJR九州が上場し、資金調達額は40億米ドルと2016年において世界で3番目に大きい資金調達となりました。また、2016年7月にNYSEと東証の同時上場を果たしたLINE株式会社が13億米ドルを調達しています。

日本では、テクノロジー、消費財、サービスセクターの企業が個人消費の回復もあって好調であり、投資家からの強い関心を引いています。この傾向は2017年に入っても続くものと期待されます。

株式市場の低いボラティリティにより、投資家心理は強気になっており、日経平均もこれに連動し堅調に値を伸ばしてきています。2017年前半には、金融緩和と量的緩和の効果でIPOはさらに加速するとみられ、経済をより活性化させることが期待されています。

グレーターチャイナ(香港、上海、深圳、台湾を含む)におけるIPOは331件、資金調達額は462億米ドルとなり、前年対比で取引件数で6%、資金調達額で23%の減少となりました。

グレーターチャイナの市場が2016年の大型IPOトップ10のうち、4つを占めており、これには香港市場で9月に76億ドルを調達したPostal savings Bank of China Co. Ltdも含まれます。

中国の証券市場は、昨年末にCSRCが市場ボラティリティの鎮静化に乗り出し、IPO承認件数を抑制したため、年初は静かな立ち上がりとなりましたが、今年後半からIPO件数が着実に伸びてきました。2016年の後半に入って、中国経済と証券市場が安定化してきたことは、新規上場企業のパフォーマンスにも良い影響を与えています。

2016年の第4四半期には、CSRCがIPOの承認ペースを加速させていることからも、復調の兆しがみられます。第4四半期だけでみると、IPO件数は第3四半期65件のIPOに対し86件、資金調達額は2016年第3四半期の73億米ドルに対し、92億米ドルと増加傾向にあります。

結果として、CSRCへのIPOウェイティングリストにある企業数は、2016年期初における850件から740件に減少はしましたが、投資家におけるA株式IPOに対する欲求はさらに強まっています。2016年第4四半期におけるすべての会社のIPO初日株価リターンは44%にまでのぼり、CSRCが許可する最大値に到達しています。

香港のメイン市場と新興市場におけるIPOは2016年第4四半期も47件77億米ドルとなり、堅調な形で終了しました。これは2016年第3四半期と比較して案件ベースでは57%の増加となっていますが、金額ベースでは36%の減少となっています。2015年第4四半期との比較においては、案件ベースでは8%の減少、金額ベースでは4%の減少となっています。通年ベースでは、115件252億米ドルのIPOとなり、昨年の121件339億米ドルと比較してそれぞれ5%、26%の減少となりました。マーケットの心理は依然として強く、メイン市場におけるIPOの応募超過(Oversubscribed)の割合が第3四半期の65%から第4四半期は78%へ上昇しています。

一方で、バリュエーションに対する投資家の目が厳しくなり始めています。第4四半期における上値でのIPOの比率は24%と第3四半期の43%から下落しています。香港市場のメイン市場、GEM市場ともに、小さいディールが目立つ傾向にあります。2016年第4四半期における資金調達額の平均は163百万米ドルであり、当第3四半期の397百万米ドル、前第4四半期の270百万米ドルより低下しています。

金融及びヘルスケアのセクターが2016年第4四半期においてもっとも多くの資金調達が行われたセクターの上位2つであり、それぞれ25億、22億米ドルの資金調達が行われています。ヘルスケアセクターに関しては、China resources Pharmaceutical groupが香港のメイン市場で10月に上場し、19億米ドルの資金調達を行っています。これは香港市場での当期2番目に大きいものになっています。消費財・サービス、製造業セクターはIPO件数で上位2つのセクターであり、2016年第4四半期におけるメインボード、GEMの全体のそれぞれ23%、19%を占めています。

6. 2017年のIPO見通しは楽観的

世界の株式市場は上昇傾向を継続しており、2016年末にかけて最高値を更新しています。CBOE Volatility Index(VIX)、EURO STOXX 50、FTSE100やHISといったボラティリティ指標は下降傾向にあり、株価収益率は上昇傾向にあります。

不確実性は依然として残るものの、2017年のIPOは回復していく見通しです。欧州、米国ともに底を打ったとみられており、着実に積み上げられたIPOパイプラインにより、2016年のリバウンドが期待されています。特に、米国においてはいくつかの大型IPOが予想されており、このような大規模ディールはマーケットの需要を刺激し、IPOへの関心に再び火をつけるものと期待されます。




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