IPO(企業成長サポート)

世界の新規上場動向 - 2018年1月~6月

2018.10.25
クロスボーダー上場支援オフィス
公認会計士 山本 竜大

クロスボーダー上場支援オフィスでは、世界の IPO の情報を提供し、日本企業の海外市場での上場等をサポートしてまいります。

今年上期のグローバルでの大型IPO案件ベスト5(公募・売出金額ベース)としては、シーメンス・ヘルシニアズ(独)、フォックスコン・インダストリアル・インターネット(中)、AXA Equitable Holdings(米)、PagSeguro Digital(伯)、iQIYI(中)が挙げられます。その後、本稿執筆時点(8月現在)の大型IPOとしては、今夏に香港市場に上場した中国のスマートフォン大手の小米科技(シャオミ)や中国で携帯電話基地局を運営する中国鉄塔が挙げられます。

1. 世界

ハイライト

2018年第2四半期は、地政学上の緊張や通商政策の変更により、世界の多くの地域でIPOに対する信頼が揺らいだため、IPO市場のリスクと不確実性が再び高まりました。その結果、2018年上半期のIPO件数は縮小しましたが、いくつかの特徴もみられました。

2018年上半期は660件のIPOが行われ、合計943億米ドルが調達されました。これは上半期の調達額としては、2015年上半期以降の最高額となります(2015年上半期はIPO件数704件、総調達額1,101億米ドル)。

南北アメリカ大陸では米国を中心にIPOが活発化し、2018年上半期は前年同期比で件数は18%増、調達額は31%増となりました。南北アメリカ大陸では、2018年上半期に122件のIPOが行われ、353億米ドルを調達しました。これにより、南北アメリカ大陸は2014年以降初めて、調達額において世界トップとなりました。

アジア太平洋エリアでは、特に日本でIPO活動が活発化しました。日本は2018年第2四半期が堅調であったため、2018年上半期のIPO件数は前年同期比5%の減少にとどまり、調達額では8%増を達成しました。グレーターチャイナでもIPO活動は減りましたが、2018年第2四半期には中国の上海証券取引所(SSE)で世界最大のIPOが行われました。これにより、上海証券取引所は調達額において世界第2位の証券取引所となりました。

EMEIAではインドの活躍が目立ちました。インドのIPOマーケットは力強い成長を続けており、2018年第2四半期は件数において世界第2位のIPOマーケットとなりました。2018年上半期のIPO活動は、前年同期と比べると件数は32%増、調達額は31%増でした。EMEIA全体では、2018年上半期のIPO活動は件数こそ4%減少したものの、調達額は10%増となりました。

現在のIPOマーケットの状況が不確実であることから、企業は、引き続きマルチトラック戦略を採用すると考えられます。すなわち、適切なタイミングでIPOができるよう準備する一方で、別の資金調達手段も検討しながら、柔軟にIPO時期や資金調達金額を決定すると思われます。M&Aはその代替手段の代表です。2018年の年初から現在までのM&Aの水準から考えると、2018年は最も活発にM&Aが行われた年の一つとなる可能性があります。

見通し

2018年上半期は前年同期よりもIPO件数は減少したものの、上半期のIPO件数及び調達額としては、過去10年の中央値よりも高い水準を維持しています。2018年下半期は堅調な株式市場、好調な企業収益、健全なパイプラインに牽引され、幅広いセクター及びマーケットで上場が増加するでしょう。

アジア太平洋エリアのIPOは、テクノロジーセクターのメガIPOのパフォーマンスにある程度左右されると思われます。グレーターチャイナでは、バイオテクノロジーセクターとテクノロジーセクターでIPOが増加する見込みです。日本ではアベノミクスが引き続きIPOのエンジンとなるでしょう。

EMEIAのなかで、欧州は地政学上の不確実性や新しい通商政策に起因するボラティリティから、一部の企業が様子見の姿勢をとっています。英国ではBrexitが引き続き影を落としています。一方、インドでは市場の高い流動性に牽引され、2018年を通じて活発にIPOが行われる見込みです。中東及び北アフリカについては、経済が回復し、政府が国有企業の民営化を検討していることから、2018年下半期は急速にIPO活動が活発化すると見られています。

南北アメリカ大陸では、2018年上半期に他のエリアよりも多くの資金調達が行われましたが、この勢いは下期も継続するでしょう。今後も米国のニューヨーク証券取引所(NYSE)とNASDAQが中心となる見込みです。カナダでは取引件数が高い水準を維持すると見られています。ブラジルとメキシコでは、2018年の大統領選挙前の上場を目指す企業が多いことから、IPO活動は引き続き活発なると思われます。

セクター別では2018年下半期、テクノロジーセクターと金融セクターがIPOを牽引する見込みです。ヘルスケアセクターは引き続き、IPOが活発に行われる上位5セクターの一つとなり、特にバイオテクノロジー企業の上場が各地で相次ぐ見込みです。

表1 主要エリア別上場件数・調達額(2018年1月~6月)

  資金調達額(前年同期比) IPO件数(前年同期比)
全世界 943億米ドル( 5%増) 660件(21%減)
EMEIA 295億米ドル(10%増) 236件( 4%減)
南北アメリカ大陸 353億米ドル(31%増) 122件(18%増)
内)米国 299億米ドル(30%増) 101件(20%増)
アジア太平洋 296億米ドル(17%減) 302件(37%減)
内)グレーターチャイナ 209億米ドル(17%減) 163件(48%減)
(出典:EY Global trends:Q2 2018)

2. 米国

ハイライト

2018年第2四半期も米国マーケットは勢いを維持し、件数においても調達額においても、南北アメリカ大陸全体で行われたIPOの過半数を占めました。米国では2018年第2四半期に54件のIPOが行われ、129億米ドルを調達しました。前年同期と比べると件数は8%減少したものの、調達額は6%増加しています。

この勢いの大きな要因となっているのが、米国で上場した企業の高いパフォーマンスであり、そのパフォーマンスが投資家を引き付け、さらに企業を米国のIPOマーケットに引き寄せています。米国のIPOは初値上昇率が平均で10%を超え、IPO後の株価パフォーマンスも多くの株式指標を上回っています。

ユニコーン企業のIPOが活発化したことから、2018年第2四半期はテクノロジーセクターがマーケットを牽引しました。テクノロジーセクターでは17件のIPOが行われ、時価総額は合計51億米ドルに達しています(17件のうち、13件は米国からのIPO)。

シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ指数(VIX®)は2018年第1四半期に急騰したものの、その後は長期平均を下回る水準に戻りました。2018年第2四半期の水準は、魅力的な発行条件となっています。

見通し

米国では2017年と2018年にIPOを行った企業がその後も良好なパフォーマンスを維持していることから、2018年下半期に向け、ますますIPO活動が活発化しています。

IPOのパイプラインには、テクノロジー企業にとどまらず、ヘルスケア企業や金融スポンサーの支援を受けた企業など、これまでIPO活動の中心となってきた企業も含まれています。IPO活動の広がりは、IPOマーケットの強さを維持する上でも有効です。

2018年第4四半期には中間選挙が予定されていることから、IPOの機会が若干、減少する可能性があります。米国の取引所に上場したいと考えている企業は、選挙の短期的な影響を避けるために早めに上場するか、当面は上場せず、様子見をするかのいずれかのアプローチを選択することになるでしょう。

3. アジア太平洋エリア

ハイライト

アジア太平洋エリアでは、IPOに対する投資家の関心は全般的に高いものの、2018年上半期は前年同期と比べて件数は37%減、調達額は17%減となりました。

しかし、世界のIPOマーケットに占める割合は依然として高く、2018年上半期は件数では46%、調達額では31%となりました。2018年上半期に取引件数が最も多かった上位10の取引所のうち、5つはアジア太平洋エリアの取引所でした。

国や地域別では、オーストラリアでは、2018年第2四半期の取引件数が前年同期比でわずかに減少(5%)したものの、上場する企業の規模が大きくなっていることから、調達額は増え続けています(117%)。

東南アジアのIPO活動を牽引しているのは起業家が率いる企業ですが、地政学上の不確実性、貿易問題、マクロ経済条件がIPOに対する投資家の意欲を減退させています。

特に好調だったのは日本です。日本では2018年第2四半期にIPO活動が活発化し、21件のIPOが行われ(75%増)調達額は15億米ドル(202%増)に到達しました。2018年第2四半期が好調だったことから、2018年上半期のIPO件数は5%減にとどまり、調達額は8%増となりました。

東京証券取引所、新興企業向けのマザーズ、JASDAQを含む日本取引所グループは、2018年第2四半期のIPO件数において世界第6位、2018年上半期では、世界第5位となりました。

他国と同様に、日本のIPOマーケットを牽引しているのもテクノロジーセクターです。2018年第2四半期、テクノロジーセクターでは11件のIPOがあり、13億米ドルを調達しました。消費財セクターでは2018年第2四半期も多くのIPOが行われました。

2018年第2四半期の大きなニュースは株式会社メルカリのマザーズ上場です。

IPOによる調達額は約11億米ドルに達しました。同社は、上場を果たした日本初のテクノロジー系ユニコーンです。調達額で見ると、メルカリの上場は上期の日本における最大のIPOでした。

グレーターチャイナでは、中国本土と香港で引き続きIPO活動が活発に展開されていますが、2018年第2四半期の実績は件数と調達額の両方で前年同期を下回りました(2018年第2四半期は64件、調達額は115億米ドル、2017年第2四半期は144件、調達額は136億米ドル)。

中国政府は引き続き、本土市場へのIPO承認を厳しく制限しており、この政策がIPO活動減少の一因となっています。

中でも、中国本土の中国証券監督管理委員会(CSRC)の発行審査委員会(Issuance Examination Committee:IEC)は、本土市場へのIPO申請に厳格な承認基準を課しています。上場を目指す中国企業はますます増加しているため、IPOの承認に2年を要するケースもあり、上場待機中の企業は増え続けています。

より伝統的なセクターでの中規模IPOでは、大型のテクノロジーIPOと同等の金額を調達することは難しいかもしれません。この傾向は2018年第2四半期のセクター活動の数に表れており、香港の取引所でも中国本土の取引所でも、件数ベースで最も多かったのはインダストリアルズでした。一方、調達額ではテクノロジーが他のセクターを圧倒しました。

セクター別にみると、2018年第2四半期にアジア太平洋エリアの取引所で行われた上位10件のIPOは、金融セクターとテクノロジーセクターの企業が大きな割合を占めました。2018年第2四半期にアジア太平洋エリアで行われたIPOに占める割合は、金融セクターが調達額の21%、件数の7%、テクノロジーセクターが調達額の45%、件数の20%となっています。

2018年第2四半期は、アジア太平洋エリアの企業のクロスボーダーIPOが多数行われました具体的には17件のアウトバウンドIPOがあり、同エリアの新規上場の5.4%が、エリア外で上場しました。

見通し

セクター別では、バイオテクノロジーセクターは、2018年第3四半期にIPOを予定している企業が多いことから、今後大きな存在感を示すでしょう。2018年第3四半期は、バイオテクノロジーがIPO活動の注目セクターとなります。

エンターテインメント、モバイルゲーム、出版セクターでも相当規模のIPOが予定されています。

国や地域別では、オーストラリアで、高い経済力、安定した政治、低い金利に支えられ、2018年下半期も安定したIPOが行われるでしょう。多くの企業が2018年下半期の上場を目指しているものの、2018年通年でのIPO件数は2017年の水準を下回る見込みです。

東南アジアでは、2018年第2四半期に行われたIPOのうち、調達額が最大となったのは2件の大型上場があったベトナムでした。その他の国(タイ、インドネシア、フィリピン、マレーシア、シンガポール)では、ほとんどのIPOが小型案件でした。

このエリアでは地政学上の不確実性、貿易摩擦、マクロ経済条件から、引き続きIPO活動が抑制されており、この傾向は2018年下半期も続くと予想されます。

日本では2018年の残りの期間もアベノミクスがIPO活動を刺激するでしょう。中心となるのは、日本政府が長期的成長を後押ししているテクノロジーセクターの企業です。2018年後半にさらなるIPOが予定されています。2018年通年では、2017年の実績である95件をわずかに上回る、約100件のIPOが行われる見込みです。

グレーターチャイナでは、地政学上の不確実性や貿易問題が、下期の投資家の心理に影響するかもしれません。

中国政府によるテクノロジー系ユニコーン企業のリパトリエーション(海外保有資産の本国への還流)は、2018年下半期の香港及び中国本土のメガIPOの数を押し上げる可能性があります。IPO企業の時価総額は合計1兆米ドルに上ると見られ、2018年はグレーターチャイナのIPOにとって当たり年となる可能性があります。

IPOのパフォーマンスが、向こう数カ月間の投資家心理を方向付けるでしょう。

香港の上場規制改革が実行されれば、バイオテクノロジー企業、テクノロジー企業、及びH株上場(中国企業の香港上場)を検討している企業によるIPO上場が増えるでしょう。

香港は、隣接するASEAN諸国の企業の上場先としての人気が高く、2018年第3四半期はクロスボーダーIPOが増加する見込みです。

表2 セクタートレンド(2018年1月~6月 上段:セクター 中段:調達額 下段:IPO件数)

全世界 テクノロジー
169億米ドル
72件
消費財
22億米ドル
49 件
インダストリアルズ
34億米ドル
39件
米国 テクノロジー
51億米ドル
17件
消費財
13億米ドル
15件
ヘルスケア
8億米ドル
11件
アジア太平洋 テクノロジー
79億米ドル
28件
金属
9億米ドル
20件
消費財
5億米ドル
19件
(出典:EY Global trends:Q2 2018)