IPO(企業成長サポート)

世界の新規上場動向 - 2018年1月~9月

2019.01.30
クロスボーダー上場支援オフィス
公認会計士 長谷川 宗

クロスボーダー上場支援オフィスでは、世界のIPOの情報を提供し、日本企業の海外市場での上場等をサポートしてまいります。

1. 世界のIPOの状況

ハイライト

2018年第1~3四半期における世界のIPOは、地政学上の不確実性と貿易問題が継続し、IPO市場のリスクと不確実性の高まりから、件数ベースでは1,000件と昨年同期比で18%減少しました。しかしながら、多くのユニコーン企業のIPOが当期に行われたことから、調達額ベースでは前年同期比を9%上回る1,451億米ドルとなりました。

南北アメリカ大陸は、件数は前年同期比27%増加の195件、調達額は41%増加の500億米ドルと、当第3四半期もその勢いを維持しました。米国が同エリアIPOの牽引役となっており、同国がエリア全体のIPO実績に占める割合は件数では80%、調達額では95%に上っています。

アジア太平洋エリアでは、香港のIPOマーケットが3件の超大型IPOと、良好な規制環境を背景に当第3四半期における世界で最も活発な株式市場となりました。香港が世界全体のIPOに占める割合は、件数では18%、調達額では49%に達しました。また、日本においてもIPOラッシュが続き、当期に2件のユニコーン企業のIPOが行われました。

この結果、件数は前年同期比31%減少の480件、調達額は16%増加の619億米ドルとなりました。

EMEIAでは、件数では前年同期比11%減少の325件、調達額は24%減少の330億米ドルと件数でも調達額でも前年同期を大幅に下回りました。しかし、初日の株価上昇率とIPO後のパフォーマンスでは高水準を維持しており、IPO銘柄に対する投資家の信頼感は依然として高いと言えそうです。

表1 主要エリア別上場件数・調達額(2018年1月~9月)

  資金調達額(前年同期比) IPO件数(前年同期比)
全世界 1,451億米ドル( 9%増) 1,000件(18%減)
EMEIA 330億米ドル(24%減) 325件(11%減)
南北アメリカ大陸 500億米ドル(41%増) 195件(27%増)
内)米国 437億米ドル(57%増) 157件(31%増)
アジア太平洋 619億米ドル(16%増) 480件(31%減)
内)グレーターチャイナ 473億米ドル(28%増) 242件(47%減)
(出典:EY Global trends:Q3 2018)

セクター別でみると、世界全体で当第1~3四半期に最も多くのIPOが行われたセクターはテクノロジー、インダストリアルズ、ヘルスケアでした。これは投資家が新しいイノベーションと伝統的な産業の両方に関心を寄せていることを示唆しています。

当第3四半期は、クロスボーダー上場が世界のIPO活動の11%を占めました。これは四半期としては2014年第3四半期以降最大の割合です。全世界で見ると、米国の取引所においてクロスボーダーIPOが最も多く行われましたが、最近はIPOを目指す企業の間で香港の人気が高まっており、この傾向は特に東南アジアで顕著となっています。ロンドンもクロスボーダー取引では高い人気を維持しています。

見通し

2018年第3四半期は、例年通り1年間で最もIPOの少ない四半期となりましたが、当第4四半期は引き続き、1年間で最もIPO活動が盛んな四半期になると予想されます。当年の年間IPO件数は前年を下回る見込みですが、複数のメガIPOやユニコーン企業のIPOの増加を背景に、世界全体での調達額は前年の水準を超えるでしょう。

アジア太平洋エリアのIPOは、当第4四半期でのIPO件数が減少する見込みです。ここ数カ月間、一部のマーケットにおける特定のIPO銘柄の収益率がマイナスとなっており、金利の上昇を受けて投資家の関心が金利感応型の投資に向かう可能性があります。しかし、企業が将来の不確実性をヘッジするためにIPOを前倒しで実行するようになれば、同エリアでのIPO活動は2018年通年で予想を上回るかもしれません。

EMEIAにおいて、米国、EU及び中国間の貿易摩擦と英国のEU離脱は、2018年の残りの期間もIPO銘柄に対する投資家心理に影響を与えると予想されます。しかし、IPO後の収益率が高く、株価パフォーマンスも主要株式指標を上回っていることから、投資家の信頼感は高い水準を維持しています。これを強固な基盤として、2018年第4四半期は例年通り、1年間で最もIPO活動の盛んな四半期になることが期待されます。

南北アメリカ大陸では、複数のユニコーン企業が2019年までに上場しようとしていることなどから、IPOマーケットは活況を呈する見込みです。特に米国では2018年末までに多くのIPOが行われる可能性があり、通年でのIPO実績は高い水準を記録する可能性があります。

セクター別には、2018年はテクノロジー、インダストリアルズ、ヘルスケア、消費財がIPO活動の主役となるでしょう。南北アメリカ大陸では多数のヘルスケア企業が上場すると予想されます。アジア太平洋エリアではインダストリアルズがIPO活動の中心となるでしょう。EMEIAではテクノロジー関連セクターと伝統的なセクターの両方でIPOが期待されます。

表2 セクタートレンド(2018年1月~9月 上段:セクター 中段:調達額 下段:IPO件数)

全世界 テクノロジー
317億米ドル
187件
インダストリアルズ
134億米ドル
153件
ヘルスケア
173億米ドル
128件
米国 ヘルスケア
68億米ドル
56件
テクノロジー
122億米ドル
37件
Financials
54億米ドル
19件
アジア太平洋 インダストリアルズ
39億米ドル
88件
テクノロジー
151億米ドル
83件
消費財
36億米ドル
58件
(出典:EY Global trends:Q3 2018)

2. 米国

ハイライト

米国のマーケットは2018年第3四半期も勢いを維持しており、件数でも調達額でも南北アメリカ大陸全体で行われたIPOの過半数を占めました。米国では当第3四半期に47件のIPOが行われ、119億米ドルを調達しました。これは前年同期と比べると調達額は150%増、件数は31%増となっています。

米国の勢いは、基本的にIPO後の株価パフォーマンスの高さに由来しています。高いパフォーマンスが投資家を引き付け、さらなる企業を米国のIPOマーケットに引き寄せています。米国のIPOの初期収益率は平均約15%、IPOから現在までの株価パフォーマンスは平均28%です。

また、当第1~3四半期に米国の取引所で行われた上位10件のIPOのうち、プライベートエクイティファンド又はベンチャーキャピタルの支援を受けたIPOが40%を占めました。これは米国のIPOマーケットが、エコシステム全体からの旺盛な資本投資意欲に下支えされていることを示しています。

セクター別には、当第1~3四半期もIPOマーケットの中心となったセクターはヘルスケアとテクノロジーであり、これに金融と消費財が続きました。

見通し

IPO申請は非公開で進めることができるため、IPOパイプラインを正確に把握することは困難ですが、2018年第4四半期と2019年前半に大規模なIPO活動が行われるという情報があり、今後、複数のユニコーン企業のIPOが注目を集めることになりそうです。

米国ではテクノロジー企業のIPOが続いていますが、IPOパイプラインに含まれる企業は多様化しており、ヘルスケア企業や金融スポンサーの支援を受けた企業といった、伝統的にIPO活動の中心を占めてきた企業が含まれるようになっています。IPO活動の広がりは米国のIPOマーケットが強さを維持する上でも有効です。

米国は当第4四半期に議会選挙、州選挙、地方選挙を控えており、税制改革2.0に関する議論も過熱していることから、当第4四半期にはIPOの機会はさらに狭まり、IPO活動が減速する可能性があります。

3. アジア太平洋エリア

ハイライト

アジア太平洋エリアでは、中国本土におけるIPOペースの低下から2018年第3四半期のIPO件数は前年同期をやや下回りましたが、香港証券取引所でメガIPOが相次いだことから、調達額は大幅に増加しました。

前年同期と比べると、件数は16%減、調達額は78%増となりました。当第1~3四半期では、前年同期間と比べてIPO件数は31%減、調達額は16%増となりました。

世界のIPOマーケットに占める割合は依然として高く、当第1~3四半期では件数では48%、調達額では43%を占めています。

国や地域別では、オーストラリアでは、当第3四半期のIPO件数は前四半期を大きく上回り、エネルギー会社のViva Energy Group Ltdによる大型IPOが行われたことから調達額でも大幅増となりました。しかし、当第1~3四半期の累計では、IPO件数は前年同期間を下回っています。

東南アジアでは、ベンチャー企業が引き続きIPO活動を牽引していますが、地政学上の不確実性、貿易問題及びマクロ経済条件が、IPO全体に対する投資家の意欲を減退させています。

日本は当第3四半期も好調を維持し、IPO件数は前年同期の17件から28件へと大幅に増加しました。当第2四半期に行われたメルカリのマザーズ上場が調達額にも寄与し、当第1~3四半期の累計では、日本のIPOは前年同期間と比べて件数では14%増の66件、調達額では36%増の45億米ドルとなりました。

グレーターチャイナは地域によって規制制度が異なることから、当第3四半期は中国本土と香港のマーケットが異なる様相を呈しました。

香港のIPOマーケットではIPO活動が活発化し、件数でも調達額でも前年同期を大幅に上回りました。特に香港メインマーケット(HKEx)でIPOが活況を呈し、ニューエコノミー企業に関する新しい上場基準が導入された結果、3件のメガIPO(うち2件は最近加重議決権構造を採用したユニコーン企業のIPO)が行われたほか、売上のない多数のバイオテクノロジー企業がIPOを果たしました。さらに7月にはHKExと香港新興市場(GEM)で合計34件のIPOが行われ、1月当たりのIPO件数では2013年(28件)以降最多を記録しました。

HKExとGEMにおけるIPO活動は多様なセクターに広く分散しており、件数ではインダストリアルズ、消費財、テクノロジーセクターが全体を牽引し、調達額では通信セクターとテクノロジーセクターが中心となりました。3件のメガIPOのうち、2件は通信企業(China Tower Corp Ltd、Xiaomi Corp)1件はテクノロジー企業(Meituan Dianping)でした。

中国本土では、取引所のIPO承認基準が厳しく、市場心理も弱気であったことから、2018年第3四半期のIPO活動は件数でも調達額でも前年同期から大幅に減速しました。しかしながら、2018年9月にはA株市場で11件のIPOが予定されており、調達額は合計19億米ドルに達する見込みです。この数は、1カ月のIPO件数としては2018年3月以降最多です。

現在のA株市場は、短期的に見れば投資家の信頼感は十分な水準に達していません。しかし、企業価値評価のデータや資金調達の状況から判断すると、引き続き長期的には堅実な利益が見込まれます。

見通し

アジア太平洋エリアでは、ユニコーン企業のIPOやメガIPOにより、2018年のIPO調達額は前年の水準を上回るでしょう。現在の評価額を利用し、将来の不確実性に備えようと、IPOを前倒しで進めることを選択した企業もあります。

一部のセクターではIPO活動が高い水準を維持すると見られています。2018年第4四半期から2019年にかけて、アジア太平洋エリアではテクノロジー企業とメディア・エンターテイメント企業が引き続きIPOマーケットを牽引する見込みです。一方、米国の政策によって石油・ガス企業のIPOの魅力が高まっていることから、一部の投資家が伝統的なセクターへの回帰を検討するようになっており、天然資源などの伝統的なセクターがIPOマーケットでの存在感を増すと見られています。中国本土では、電気自動車に多額に投資を投じしてきた企業が上場を控えています。また、香港では規制変更によってバイオテクノロジー企業のIPOが活発化するでしょう。

香港では、2018年4月に施行された新しい上場規制がIPOマーケットにプラスの影響をもたらしました。加重議決権構造を採用している企業や売上のないバイオテクノロジー企業に関する規則が改定された結果、香港での上場を目指す企業が増え、香港資本市場の多様性が高まることが予測されます。

HKExとその下位市場であるGEMは、現在のペースが続けば、2018年通年のIPO件数は過去最高を記録する見込みです。調達額も合計400億米ドルを超えると想定されており、香港は件数でも調達額でも、世界で最も人気のあるIPO先のトップ3に食い込むことになるでしょう。

今後数カ月間に、複数の有名テクノロジー企業が上場する見込みです。全体として見ると、香港のIPOパイプラインは引き続き充実しており、すでに170を超える企業がIPO申請書(Form A1)を提出しています。

中国本土のマーケットでは、IPO承認基準の厳格化などによりIPO活動が減速しましたが、こうした変更はIPOの量より質を重視するマーケットを生み出し、長い目で見れば投資家に利益をもたらすでしょう。中国の中央銀行は軟調な資本市場に対処するために支援的な金融政策を続け、経済及び財務面での安定性を確保していくと見られています。

中国の証券監督機関も上場廃止に関する規則を改定しました。新しい規則では、証券取引所は様々な違法行為(国家の安全保障、公共の安全、公衆衛生を脅かす行為を含む)に関与している企業の上場を停止又は廃止できるようになります。

一方、中国本土への新規IPO上場は、当局が上場審査の標準化とIPO待機期間の短縮を進めているため、2018年第4四半期及び2019年第1四半期も堅調に進むと予想されます。全体として、中国本土のIPOは2018年第4四半期も2018年第1~3四半期と同等のペースを維持する見込みです。