IPO(企業成長サポート)

世界の新規上場動向 - 2019年1月~3月

2019.07.23
EY新日本有限責任監査法人
クロスボーダー上場支援オフィス
公認会計士 松村 淳弘

クロスボーダー上場支援オフィスでは、世界のIPOの情報を提供し、日本企業の海外市場での上場等をサポートしてまいります。

1. 世界のIPOの状況

ハイライト

例年、第1四半期はIPOマーケットを問わず、IPO活動は停滞する傾向がありますが、2019年第1四半期は例年以上にIPO活動が停滞しました。前年と比較すると、件数は41%減の199件、調達額は74%減の131億米ドルとなりました。
IPO活動はすべてのエリアで減速したものの、IPOのパイプラインは現在も充実しており、ユニコーン企業によるIPOやメガIPOが控えています。

件数で見ると、2019年第1四半期も世界のIPO活動はアジア太平洋エリアに集中しました。このエリアは地政学上の不確実性や貿易摩擦といった問題を抱えているものの、世界のIPO活動に占める割合は件数では63%、調達額では64%に達しました。しかし、前年同期と比べると件数は24%減、調達額は30%減となりました。

EMEIAの取引所では、前年同期比でIPO件数は65%減少、調達額は93%減少しました。依然不透明なブレグジットの行方、米国の貿易及び関税の不確実性、経済成長率低下のリスク、そして欧州の主要3カ国の経済課題がIPO活動に直接的な影響を与えました。

南北アメリカ大陸では、前年同期比でIPO件数は44%減少、調達額は83%減少しました。米国では、同国史上最長の期間にわたって政府機関が閉鎖されたことを受けて、2019年の最初の2カ月間はIPOマーケットが実質的に休眠状態に追い込まれました。南北アメリカ大陸全体のIPOに占める米国の割合は、件数では65%、調達額では92%でした。

2019年第1四半期にIPO活動の中心となったセクターはテクノロジー、ヘルスケア、インダストリアルズでした。調達額ではテクノロジー、ヘルスケア、金融セクターが上位を占めました。これは投資家が引き続きグロース型投資とバリュー型投資のバランスに留意していることを示唆しています。

クロスボーダー活動は前年同期の水準に届かず、世界のIPO活動の7%にとどまりました。唯一の例外はEMEIAであり、このエリアのクロスボーダーIPOは前年の水準を維持しました。また、2019年第1四半期は、EMEIA企業のIPO活動の9%をクロスボーダーIPOが占めました。

2019年第1四半期は、金融スポンサーからの支援を受けていない企業が世界のIPO活動の94%を占めました。株式市場の世界的な不透明感やボラティリティの影響から、出口戦略としてM&Aを検討する金融スポンサーが増加していますが、まだ大きな伸びは見られていません。

<表1> 主要エリア別上場件数・調達額(2019年1月~3月)

表1 主要エリア別上場件数・調達額(2019年1月~3月)
(出典:EY Global trends:Q1 2019)

見通し

2018年第4四半期に予測されていたIPO活動の停滞が2019年第1四半期に現実のものとなりました。しかし、1件のメガIPOが成功すれば、あるいは充実したパイプラインの中から、ユニコーン企業が1社でもIPOを果たせば、不確実性がもたらす先行きの不透明感は一掃され、世界のIPOマーケットは息を吹き返す可能性があります。複数のメガIPOとユニコーン企業によるIPOが待機していること、中小規模のIPOのパイプラインはすべてのエリアで充実していることから、地政学上の不確実性が解消され、貿易問題が解決する兆しが見えれば、2019年下半期にはIPO活動は勢いを取り戻す可能性があると予想されます。

エリア別では、アジア太平洋エリアは、米中間の貿易関係が改善すれば、IPO活動も改善すると見込まれます。しかし、改善が本格化するのは2019年下半期以降となる可能性もあります。

EMEIAでは、2019年第2四半期も、米国・中国・EU間の貿易問題、ブレグジット、そして一部の欧州諸国経済の安定性に関する不確実性がIPO熱に水を差す可能性が高いと予想されます。しかし、EMEIAは強固なファンダメンタルズ、投資家の信頼感、そしてボラティリティの低さから、2019年も世界第2位のIPOマーケットの座を維持する見込みです。

南北アメリカ大陸では、米国では政府機関の閉鎖によりIPOがほぼ休眠状態に追い込まれたものの、多くの企業が混乱の終息後、2019年上半期中に上場を果たすための準備を続けています。南北アメリカ大陸エリアには2019年中の上場を目指すユニコーン企業のパイプラインが形成されているため、このエリアでは2019年第2四半期以降にIPO活動が大幅に改善することが予想されます。

セクター別では、投資家は引き続き、高い株価パフォーマンスが期待できる銘柄への投資と、低リスクの従来型投資のバランスを模索しています。南北アメリカ大陸では今後、多数のヘルスケア企業が上場する見込みであり、アジア太平洋エリアではインダストリアルズがIPO活動の中心となるでしょう。また、EMEIAでは、テクノロジー関連セクターと伝統的なセクターの両方でIPOが期待されています。

クロスボーダー活動では、2019年は次第に勢いを増すと想定され、米国、香港、ロンドンが引き続き主要なIPO先となる見込みです。

<表2> セクタートレンド
(2019年1月~3月 上段:セクター 中段:調達額 下段:IPO件数)

表2 セクタートレンド(2019年1月~3月 上段:セクター 中段:調達額 下段:IPO件数)
(出典:EY Global trends:Q1 2019)

2. 米国

ハイライト

米国では、政府機関が同国史上最長の期間にわたって閉鎖されたことを受けて、2019年第1四半期のIPO活動は件数では前年同期比57%減の20件、調達額では82%減の30億米ドルとなりました。

他のセクターと異なりヘルスケアセクターの企業は早めに行動し、2月初旬にはIPO価格を設定できたことから、2019年第1四半期は米国のIPOのうち、件数では70%、調達額では40%をヘルスケアセクターが占めました。同様に、調達額ではテクノロジーセクターが26%、生活必需品セクターが18%を占めました。

マーケットボラティリティを理由に複数の外国企業が上場を延期し、2019年第1四半期に米国で行われたクロスボーダーIPOは4件にとどまり、前年同期の15件を大幅に下回りました。

スポンサーの支援を受けた企業によるIPO活動は、マーケット全体の水準を大幅に下回りましたが、IPOのペースが通常の水準に戻れば、この傾向が長引くことはないでしょう。

見通し

IPO申請は非公開で進めることができるため、IPOパイプラインを正確に把握することは困難ですが、2019年第2四半期と2019年下半期に大規模なIPO活動が行われるという情報が引き続き存在します。

米国では政府機関が閉鎖されていた時期にSECも業務を停止していましたが、企業はその間もIPOの準備を継続しており、このような企業は、今後数カ月以内にマーケットにアクセスすると見られています。

IPO予定のテクノロジー系ユニコーン企業が大きな注目を集めていますが、規模を問わず、あらゆる企業にとってIPOの条件はそろっているため、2019年第2四半期以降はIPO活動が活発化する可能性があります。

3. アジア太平洋エリア

ハイライト

世界が経済的にも地政学的にも不安定感を増す中、他のエリアと同様にアジア太平洋エリアでも2019年第1四半期のIPO活動は低い水準にとどまりました。中でも米中間で続く貿易摩擦は市場心理に大きな影響を及ぼしています。前年同期と比較すると、このエリアではIPOの件数が24%減少し、調達額は30%減少しました。

2019年第1四半期も世界のIPO活動はアジア太平洋エリアに集中し、世界のIPO活動に占める割合は件数では63%、調達額では64%に達しました。アジア太平洋エリアからは、IPO件数では8つ、調達額では6つの取引所が世界のトップ10の取引所にランクインしました。

グレーターチャイナのIPO活動は、第1四半期であることを考慮しても、例年の水準を大幅に下回るものでした。2019年第1四半期は、前年同期と比べて件数は34%減少、調達額は32%減少しました。しかし、中国本土のIPO件数は2018年第4四半期を上回りました。これはIPO市場が回復基調にあることを示しています。IPO活動の減速にもかかわらず、香港証券取引所は件数でも調達額でも世界の取引所の第1位となりました。

日本は引き続きIPO市場で強さを示し、2019年第1四半期のIPO実績は前年同期を上回りました。また、日本の取引所(東京、マザーズ、JASDAQ)は調達額では世界のトップ10の取引所の第2位にランクインしています。

オーストラリアのIPO活動は前年同期を下回り、素材、テクノロジー、ヘルスケアセクターの小型上場(調達額10百万米ドル未満)が中心となりました。

東南アジアでは、このエリアの地政学上の不確実性、貿易摩擦、マクロ経済条件が引き続き、2019年第1四半期のIPO活動に影響を与えました。IPO件数は前年同期と同等の水準を維持したものの、調達額は17%減少しました。

アジア太平洋エリアの取引所では、2019年第1四半期に調達額が最も多かったセクターは金融、インダストリアルズ、テクノロジーでした。件数ではテクノロジー、インダストリアルズ、ヘルスケアが上位を占めました。

アジア太平洋エリアのメインマーケットでは、調達額の中央値がやや上昇し、2018年の35.6百万米ドルから、2019年第1四半期は48.0百万米ドルになりました。一方、メガIPOの件数は激減し、前年同期の6件に対して、2019年第1四半期はわずか1件(調達額500百万米ドル超)でした。

見通し

2019年第1四半期は例年にないほどIPO活動が少なかったものの、米中間の貿易関係が改善すれば、IPO活動も改善するでしょう。しかし、改善が本格化するのは2019年下半期以降かもしれません。

一部のセクターでは、IPO活動は高い水準を維持すると見られています。2019年のアジア太平洋エリアでは引き続き、テクノロジー及びメディア・エンターテイメント企業がIPOマーケットを牽引する見込みです。一方、米国との貿易問題の着地点が明確になるまで、インダストリアルズや天然資源などの伝統的なセクターが、IPOマーケットでの存在感を強めることを検討する可能性があります。

中国本土では、IPOのパイプラインは引き続き充実しており、市場心理も回復基調にあると考えられています。さらに、2019年上半期に新市場「科創板」が始動し、新しい上場企業登録制度のもとで試験運用を開始することが発表されたことを受けて、今後IPO活動の水準は高まることが想定されます。

香港では192社を超える企業がIPO申請を行っており、企業は上場に関して依然楽観的です。しかし、2019年のメガIPOをめぐり、世界の取引所との競争が激化していけば、香港は新たな課題に直面する可能性があります。例えば、上海証券取引所に新設されたテクノロジー企業向け市場はライバルとなる取引所の一つです。

日本では、2019年のIPO活動は前年と同等の水準になる見込みです。ただし、規模の大きいIPOも予定されており、今後の市場動向は注目されています。

オーストラリアのIPO活動は、2019年第1四半期は控えめだったものの、2019年下半期には改善する見込みです。素材(鉱業・金属)セクターとテクノロジーセクターの小型上場が中心となるでしょう。

東南アジアでは、2019年上半期もIPO活動は落ち着いた動きを見せるでしょう。地政学上の不確実性や貿易摩擦が世界的に改善されていけば、2019年下半期には東南アジアのIPO活動は上向きになる可能性があります。新興市場のマーケットは引き続き株式市場のボラティリティの影響を受けているものの、タイでは2019年にIPO活動が活発化する可能性があります。

2018年第4四半期の力強い成長とタイ政府が導入した積極的な投資促進策により、投資家の心理が改善しているためです。

アジア太平洋エリアでは、リスクを抑えたいという投資家心理から、少なくとも短期的には投資家の関心がより伝統的なIPOに向かう可能性があります。投資家は今後もバリュエーションとIPO後の株価パフォーマンスに注目するでしょう。




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