IPO(企業成長サポート)

世界の新規上場動向 - 2019年1月~6月

2019.10.30
EY新日本有限責任監査法人
クロスボーダー上場支援オフィス
公認会計士 山本 竜大

クロスボーダー上場支援オフィスでは、世界のIPOの情報を提供し、日本企業の海外市場での上場等をサポートしてまいります。

1. 世界のIPOの状況

ハイライト

2018年には、史上最多のユニコーン企業が上場を果たし、歴史的な調達額を記録しました。米中貿易摩擦や英国のEU離脱といった地政学上の不確実性をよそに、2019年の第2四半期はこの傾向が続きました。ユニコーン企業13社の上場が牽引し2019年上半期には507件のIPOがあり、調達額は合計719億米ドルに達しました。

2019年上半期のIPO件数は28%減少したものの、メインマーケットの初値上昇率は平均で15.4%、IPO後の実績は28.4%増加しています。一方、パイプラインは引き続き充実しています。堅調な初日の初値上昇率や当期利回りは、注目すべき高い価値のIPO銘柄に対する投資家の関心が依然として高いことを示唆しています。これは、2019年下半期にとっては良い兆候と思われます。

現在も続く地政学上の不確実性と貿易摩擦により、2019年上半期のアジア太平洋エリアのIPOは前年同期比で件数は12%、調達額は27%減少しました。しかし、アジア太平洋エリアからは調達額ベースでは3つ、件数ベースでは6つの取引所がトップ10にランクインしました。

2019年上半期のEMEIAのIPOの実績は前年同期比で件数が53%、調達額は48%減少しましたが、調達額では5つ、件数では2つの取引所がトップ10入りしています。先行き不透明なままの英国のEU離脱、米国の関税引き上げによる摩擦、欧州の複数の国における選挙結果は、EMEIAのIPO実績に対し直接的な影響を与えてきました。

南北アメリカ大陸では、多数の有名なユニコーンが上場し、2019年第2四半期のIPO実績を引き上げました。南北アメリカのIPO市場では87件のIPOが行われ、2019年第2四半期には281億米ドルの調達額を達成しました。2018年第2四半期と比較して、件数ベースでは5%、調達額ベースでは50%の増加となりました。
2019年上半期には、米国のIPOは南北アメリカ大陸におけるIPO件数の75%、調達額では96%を占めました。

2019年上半期には、テクノロジー、ヘルスケア、インダストリアルズのセクターがIPOに占める割合は件数ベースで52%、調達額ベースで66%、共に過去最高を記録しました。このことから、投資家が新しいイノベーション企業と伝統的な産業の両方に関心を寄せていることが読み取れます。

2019年上半期のクロスボーダーIPOの活動水準は前年同期と比べ低調に終わり、世界のIPO活動のわずか8%にとどまりました。増加となったEMEIAを除くほとんどのエリアではクロスボーダーのIPO実績が減少しました。

<表1> 主要エリア別上場件数・調達額(2019年1月~6月)

表1 主要エリア別上場件数・調達額(2019年1月~6月)
(出典:EY Global trends:Q2 2019)

見通し

2019 年第2 四半期に上場したユニコーンの数は、IPO を目指す企業の選択肢がIPO するか、あるいはM&A いずれかであることを示唆しています。多数の大規模企業とユニコーンが待機しており、すべてのエリアで小規模・中規模企業の強固なパイプラインを構築しています。そのため、地政学上の不確実性や貿易問題が続くとしても、2019 年下半期はIPO の活動が勢いを増すと見込んでいます。

アジア太平洋エリアでは、2019 年上半期の件数と調達額は前年同期と比べて低調でしたが、前向きな投資家心理、健全なパイプライン、パイプラインで待機中の多数の大規模企業は、2019 年下半期におけるIPO 活動の増加を示唆しています。

EMEIA では、地政学上の不確実性が引き続きIPO 活動に影響を与えています。しかし、低水準の金利レベルと、EMEIA の強固なファンダメンタルズ、投資家の信頼感を考慮すると、2019 年下半期には同エリアのIPO 市場は勢いを増す可能性があります。

南北アメリカ大陸では著名な企業の上場案件が注目を集める一方で、株式市場ではIPO の大半を占める中小企業が、ボラティリティにもかかわらず継続的に優れた実績をあげています。上場を目指す優良企業と、引き続き卓越したパフォーマンスを期待する投資家によって、将来的にIPO 市場はよりバランスの取れたものになっていくでしょう。

セクター別ではメディアの最大の関心事項はテクノロジー企業とユニコーン企業ですが、一方で投資家は高い成長可能性とより伝統的で低リスクの投資とのバランスを模索することを重視しているようです。アジア太平洋エリアではインダストリアルズが優勢ですが、南北アメリカ大陸の市場ではヘルスケア企業の上場が増加するでしょう。EMEIA では、テクノロジー関連セクターと伝統的なセクターの両方でIPO が行われる見込みです。

クロスボーダー上場については、 2019年下半期にはクロスボーダー活動が勢いを増し、米国、香港、ロンドンが引き続き主要なIPO 先となる見込みです。しかし、海外企業に対する中国の海外企業に対する厳格な規制に係る取組案が実施される場合、米国の証券取引所における中国企業のクロスボーダー活動レベルに影響を及ぼす可能性があります。

<表2> セクタートレンド
(2019年1月~6月 上段:セクター 中段:調達額 下段:IPO件数)

表2 セクタートレンド(2019年1月~6月 上段:セクター 中段:調達額 下段:IPO件数)
(出典:EY Global trends:Q2 2019)

2. 米国

ハイライト

米国の2019年第2四半期のIPO件数は66件、調達額は合計270億米ドルに達しました。大規模なユニコーン企業の上場により、2019年第2四半期の調達額は、前年同期と比べて79%増加しました。

IPO5件のうち4件は調達額が10億米ドルを超えるテクノロジー企業であり、この4件だけで2019年第2四半期における調達額の64%を占めました。

ヘルスケア企業は、米国の2019年第2四半期の上場件数のうち例年を上回る39%を占めました。

米国の2019年第2四半期のIPOは前期と比べて増加したとはいえ、2019年上半期のIPO件数は前年同期の実績を大きく下回っており、上場予定企業の金利の上昇を引き起こしました。

メディアの関心は初取引が低調に終わった一握りのIPOに集中したものの、上場した企業は平均的に目覚ましい収益をあげており、引き続き好調な業績を維持しました。

NYSEとNASDAQは、2019年第2四半期に行われたクロスボーダーIPO16件(2018年第2四半期は11件)の調達額によりIPO取引先のトップに立ちました。
クロスボーダーIPOのうち8件は中国企業であり、次いで3件のイスラエルの企業でした。

見通し

最新の銘柄が達成したIPO後の高い収益率は、貿易やマクロ経済の不透明感にもかかわらず継続的なIPOにとって良好な環境を作り出してしています。

上場を果たした優良企業と、引き続き卓越したパフォーマンスを期待する投資家によって、将来的にIPO市場はよりバランスの取れたものになっていくでしょう。

多くのIPOは5月に行われており、消費財やインダストリアルズといったセクターの案件が増加しセクター活動は多様化しています。上記銘柄の好調なIPOは投資家が広範なニーズがあることを示唆しており、これらのセクターにおけるIPO活動を活発化させる可能性があります。

多数の大規模ユニコーンが上場を控えているとの情報があります。本年度のIPOが活況を呈するかは、それらの企業にかかっています。

3. アジア太平洋エリア

ハイライト

米中間の貿易摩擦は昨年のIPO実績の回復の妨げとなりましたが、引き続き2019年上半期のIPO実績に影響を与えています。アジア太平洋エリアの2019年上半期のIPO実績は、件数では前年同期比で12%、調達額では27%減少しました。

この数字は理想的とは言えませんが、アジア太平洋エリアの主要な市場で行われたIPOの平均的な初値上昇率は約19%、現在の平均収益率は33%でした。

2019年度の累計取引件数で6つの取引所がトップ10入りし、世界のIPO活動の中心となったのは、引き続きアジア太平洋エリアでした。調達額ベースでは、同エリアの3つの取引所がトップ10入りを果たしています。

グレーターチャイナでは、2019年上半期の件数と調達額が、前年同期比でそれぞれ14%及び16%減少したことから、投資家は依然として慎重な姿勢を崩していません。グレーターチャイナの2019年第2四半期は、前年同期に比べて件数が緩やかに増加(16%増加)しましたが、調達額はわずかに減少(4%減少)しました。これは、地政学上の緊張状態にもかかわらず、グレーターチャイナのIPO市場が安定性を維持していることを示唆しています。

日本のIPO市場は、2018年上半期と比べてIPO件数が5%増加するなど2019年上半期を通じて安定していましたが、取引が全体的に小規模であったことから調達額は減少しました。

2019年上半期のオーストラリアでは、テクノロジーセクター、素材セクター、ヘルスケアセクターの小型の上場が優勢となり、前年同期と比べて件数ベースで43%、調達額ベースで73%減少しました。

東南アジアエリアでは、地政学上の不確実性、貿易摩擦、マクロ経済の状況により前年同期比で件数が8%、調達額が55%減少したことから、2019年上半期のIPO実績は引き続き後退しました。

2019年上半期にアジア太平洋エリアの取引所で最大の調達額を達成したセクターは、ヘルスケア、テクノロジー、金融でした。件数ベースでは、テクノロジー、インダストリアルズ、ヘルスケアが上位を占めました。

アジア太平洋エリアのメインマーケットでは、2019年上半期に調達額の中央値が53百万米ドルに達し、前年同期比で20%増加しました。また時価総額の中央値は227.5百万米ドルとなり、32%増加しました。

見通し

2019年上半期の件数と調達額は前年同期と比べて低調ですが、前向きな投資家心理、健全なパイプライン、待機中の多数の大規模IPO案件は、2019年下半期にアジア太平洋エリアでIPO実績が増加することを示唆しています。

複数のセクターではIPO実績が高い水準を維持すると見られています。2019年のアジア太平洋エリアでは、テクノロジー企業とメディア・エンターテイメント企業が引き続きIPOマーケットを牽引する見込みです。その一方で、米国との貿易摩擦が解消するまでは、インダストリアルズや天然資源などの伝統的なセクターがIPOマーケットでの存在感を増すと見られています。

中国本土では、依然としてパイプラインは充実しており、市場心理はより前向きになっています。上海証券取引所(SSE)に創設された科創板(STAR Market)が取引を開始した結果、中国証券監督管理委員会(CSRC)のIPOのペースが上がり、IPO申請に対する承認率が2018年よりも上昇していると思われることから、2019年下半期のIPO活動は活発になると見込んでいます。

SSEに新設されたSTAR Marketは、調達額の増加が見込める新興企業やニューエコノミー企業に照準を合わせています。規制当局は、売上のないバイオテクノロジー新興企業などの収益性の低い事業の上場を認める等、新設市場に上場予定の企業に対し柔軟な規則を設定しています。

香港については、アリババグループのような大手企業が香港メインマーケットに上場した場合、2019年下半期は調達額世界トップ3の存在感を維持し続けるでしょう。

2019年、日本の東京証券取引所では前年と同程度の90件から100件のIPOが行われる予定ですが、大手企業やユニコーン企業の上場予定はありません。結果的に、2019年下半期にIPO活動の大部分を占めるのは中小銘柄になるでしょう。

オーストラリアのIPO活動については、期初は振るわなかったものの、素材(鉱業・金属)セクターとテクノロジーセクターの小規模企業を中心に、2019年下半期には改善される見込みです。

地政学上の不確実性と貿易問題が世界全体で安定しない限り、東南アジアでは2019年の下半期も比較的低調な状態が続くでしょう。起業家が引き続きIPOの中心になるでしょう。

グレーターチャイナの取引所の規制変更は、シンガポールやマレーシアといったアジア太平洋エリアの取引所で上場を目指す競争を激化させる可能性があります。

投資家は短期的にでもリスクを抑えようとすることから、アジア太平洋エリア全体で引き続き、より伝統的なIPOに彼らの関心が集まるでしょう。投資家は、評価額とIPO後のパフォーマンスに注目し続けるでしょう。




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