IPO(企業成長サポート)

世界の新規上場動向 - 2019年1月~9月

2020.01.28
EY新日本有限責任監査法人
クロスボーダー上場支援オフィス
公認会計士 長谷川 宗

クロスボーダー上場支援オフィスでは、世界のIPOの情報を提供し、日本企業の海外市場での上場等をサポートしてまいります。

1. 世界のIPOの状況

ハイライト

2019年の第3四半期は、米国、中国、EU間の貿易摩擦、経済成長への懸念、英国のEU離脱や香港の政情不安等の地政学上の問題による影響を受け、世界の多くの市場でIPO活動が停滞しました。

IPOを目指す未上場企業が、市場が好転するまで様子見をしているため、質の高いIPOが先延ばしされるケースが引き続き増加しています。このため、2019年第3四半期における全世界のIPO件数は256件、調達額は402億米ドルとなり、前年同期比で件数は24%の減少、調達額は22%の減少となりました。2019年1月~9月までに行なわれたIPOの件数は26%減少の768件、調達額は25%減少の1,141億米ドルでした。

IPO件数が減少した一方で、世界の主要マーケットにおけるIPOの初値上昇率は平均で27%、IPO後現在までの株価パフォーマンスは平均で32%となりました。上海証券取引所に開設された「科創板(スターマーケット)」は好調なスタートを切り、初値上昇率とIPO後の株価パフォーマンスは2019年第2四半期の水準を大きく上回りました。

アジア太平洋エリアでは、上海の科創板開設によるプラス面が、2019年第3四半期の香港及び、日本の実績の不振を補い、2019年第2四半期と比べ、件数は25%の増加、調達額は64%の増加となりました。このエリアの2019年1月から9月の実績は、前年同期比で件数は9%減少、調達額は27%減少しました。2019年第3四半期は、アジア太平洋エリアにおいて、件数で7つ、調達額で5つの取引所が、世界のトップ10取引所にランクインしました。

EMEIAでは、2019年第3四半期は地政学上の逆風が続き、投資家心理が引き続き後退しました。2019年1月から9月のIPOは、前年同期比で件数が52%の減少、調達額は41%の減少となりました。低金利環境と支援的な金融政策により、2019年第4四半期はIPOに対する投資家心理が改善し、関心が高まる可能性があります。

南北アメリカ大陸では、株式市場のボラティリティの影響により、2019年第3四半期のIPO活動は一段と低迷しました。2019年第3四半期は、前年同期比で件数が30%減少、調達額は10%減少し、2019年1月から9月のIPO件数と調達額は、前年同期をそれぞれ22%と9%下回りました。

表1 主要エリア別上場件数・調達額(2019年1月~9月)

表1 主要エリア別上場件数・調達額(2019年1月~9月)
(出典:EYGlobal trends:Q3 2019)

2019年第3四半期でIPOが最も活発だったセクターは、テクノロジーセクターで、件数は59件、調達額は114億米ドルと世界全体の件数の23%、調達額の28%を占めています。これに続き、インダストリアルズ(39件、27億米ドル)、ヘルスケアが(36件、60億米ドル)が好調でした。

2019年1月から9月までのクロスボーダーIPOの活動水準は前年同期と比べ低調に終わり、世界のIPO活動のわずか8%にとどまりました。増加となったEMEIAを除くほとんどのエリアではクロスボーダーのIPO実績が減少しました。

表2 セクタートレンド(2019年7月~9月 上段:セクター/中段:調達額/下段:IPO件数)

表2 セクタートレンド(2019年7月~9月 上段:セクター/中段:調達額/下段:IPO件数)
(出典:EYGlobal trends:Q3 2019)

見通し

地政学上の不確実性や各国の貿易問題が世界の資本市場に影響を与えており、世界全体のIPO活動の見通しが不透明となっています。こうした不確実性要素の先行きがより明らかになれば、IPOの波が一気に市場に押し寄せると見られています。2019年第4四半期中に上場を敢行する企業は、直近の株式市場のパフォーマンス次第で評価額の低下を覚悟しなければならない可能性があります。IPOを目指す企業の中には、より高い評価を得られる代替資金調達方法を模索する企業もあるかもしれません。いずれの場合でも、企業が風向きを見極めることになり、2019年第4四半期の見通しは「様子見」の状況となっています。

アジア太平洋エリアでは、堅調な初値上昇と投資家心理の改善に加え、IPOの好機到来を待つ大型IPO案件からなる健全なパイプラインがあるため、同エリアにおけるIPO活動は2019年第4四半期から2020年上半期には上向きに転じるものと思われます。

EMEIAでは、今年これまで投資家心理に水を差してきた不確実性の多くは続いています。しかし、予想以上に長引く低金利環境が、1年で最もIPOが活発化する2019年第4四半期から2020年にかけてIPO活動の追い風となる可能性があります。

南北アメリカ大陸では第3四半期の減速と市場のボラティリティにもかかわらず、直近の取引でIPO後の収益率の平均が好調であることを踏まえると、南北アメリカ大陸のIPO市場の勢いは加速すると予想されます。また、2020年の上半期には、11月の米国選挙に先立ち複数の大型ユニコーン企業によるIPOが見込まれます。

セクター別では、ボラティリティが続く環境下にあって、IPO市場は引き続き高い成長可能性の企業とより伝統的で低リスクの企業がバランスの取れた状況となっています。南北アメリカ大陸市場ではヘルスケア企業の活発なIPOが予想される一方、アジア太平洋エリアでは製造業企業が優勢となる可能性が高いでしょう。EMEIAでは、テクノロジー関連セクターと伝統的なセクターでIPOが行われると見ています。

クロスボーダーIPOは2019年第4四半期と2020年に増加する可能性があります。米国、香港、ロンドンの取引所が引き続き主なIPO先となると予想されます。

2. 米国

ハイライト

米国では、2019年前半に著名なテクノロジー関連のユニコーン企業数社による大型IPOがありましたが、その後低調に推移し、第3四半期におけるIPO件数は39件、調達額は合計119億米ドルと、前年同期比で件数は30%の減少、調達額は6%の減少となりました。

メディアの関心は2019年前半において初取引が低調に終わった一握りのIPOに集中しましたが、第3四半期にIPOを実施した企業についての現在までの株価パフォーマンス(公募値対比)は平均で13.8%と好調で、投資家の強い関心を集めています。

セクター別で見ると、2019年第3四半期もヘルスケアとテクノロジーが引き続き他のセクターを圧倒し、件数は全体の64%、調達額は70%を占めています。調達額上位5件のうち4件が両セクターからのIPOとなっています。件数では金融とエネルギーがそれぞれ15%と8%、調達額では消費財が12%で続きました。

米国の取引所におけるクロスボーダーIPOは、2019年第3四半期に12件実施され、年間合計で35件とIPO先上位の一角を占めています。米中貿易摩擦をめぐる不確実性にもかかわらず、グレーターチャイナの企業が最も多く、年間件数のうち17件を占め、ヨーロッパ及び、イスラエルの企業がそれぞれ5件とこれに続きました。

見通し

2019年第3四半期の中盤に見られたボラティリティも低下し、各種市場指標は過去最高に迫る水準となり、IPO環境として強固なファンダメンタルズが形成されています。

加えて、2019年の新規上場企業のIPO後の高収益率が、好調を維持する米国のIPOマーケットに勢いもたらしています。

9月下旬は活動が加速し、2019年の年末にかけてさらに複数の大型IPO予定企業がIPOを実施する可能性があります。

地政学上の不確実性が続き、ボラティリティの上昇が懸念される中、上場を目指す企業の多くが、11月初旬の米国選挙の前の2020年上半期のIPOを目指して準備を進めています。

3. アジア太平洋エリア

ハイライト

現在も続く米中間の貿易摩擦が、引き続きアジア太平洋エリア全域のIPO活動に影響を与えており、その結果、2019年1月から9月に行われたIPOは436件、調達額で461億米ドルと、前年同期比で件数は9%減少、調達額は27%減少しました。

2019年第3四半期では、上海証券取引所にテクノロジー、ヘルスサイエンス、ニューエコノミー企業など、投資家に人気のセクターが含まれる科創板(スターマーケット)が開設された影響及び、東南アジアにおけるIPO実績の増加が、香港、日本、およびオーストラリアの低水準の実績を補い、173件、237億米ドルのIPOが行なわれ、2019年第2四半期と比べて、件数は25%の増加、調達額は64%の増加となりました。

2019年第3四半期も、アジア太平洋エリアは引き続き、グローバルのIPO活動において世界の他の地域を圧倒し、世界トップ10の取引所のうち、件数では7つ、調達額では5つをこの地域の取引所が占めています。

上海の科創板の活発なIPO活動が大きく貢献し、アジア太平洋エリアの主要マーケットのIPO実績は引き続き好調でした。初値上昇率の平均は51%に上昇し、IPO後から現在までのパフォーマンスの平均は71%に急上昇しました。

グレーターチャイナでは、2019年第3四半期のIPO実績は2019年第2四半期から顕著な回復を見せました。第3四半期は、グレーターチャイナにおけるIPO実績のうち、科創板が件数の38%、調達額の35%を占めました。また、3件のメガIPO(10億米ドル超のIPO)が実施され、調達額をさらに押し上げています。香港では、投資環境の低迷によりIPOを目指す企業が様子見の姿勢をとったことから、IPO実績は大幅に減少しました。

日本では、2019年第3四半期のIPO活動は停滞し、2019年第2四半期に比べて件数は33%減少、調達額は16%減少しました。

オーストラリアでは、2019年第2四半期に続き第3四半期もIPOが低迷し、2019年第2四半期から件数は36%減少、調達額は45%減少しました。引き続きテクノロジーと資源セクターの小型上場(10百万米ドル未満)が中心でした。

東南アジアでは、40件で調達額合計が29億米ドルに達するIPOが実施され、実績は大幅に回復しました。2019年第3四半期は、2019年第2四半期に比べIPO件数は33%増加、調達額は70%増加し、2019年1月から9月までの累計では、件数は13%、調達額は1%前年同期比を上回りました。

セクター別では、テクノロジーが42件51億米ドル、製造業が33件23億米ドルと件数ベースで全体の24%、19%を占めており、素材関連が21件13億米ドルと続いています。

香港のメインボードでは、2019年第3四半期に4件のクロスボーダーIPOが行われ、シンガポールの企業2社、マレーシアの企業1社及びタイの企業1社が上場を果たしました。

見通し

堅調な初値上昇と前向きな投資家心理に加え、IPOの好機到来を待つユニコーン企業とメガIPO案件からなる健全なパイプラインがあることから、アジア太平洋エリアにおけるIPO活動は2019年第4四半期から2020年上半期には活発化する可能性が高いと見込まれています。

アジア太平洋エリアでは、引き続きテクノロジーセクターの高い成長性を見込める企業と、天然資源や製造業といったより伝統的なセクター企業のバランスがとれたIPOが実施されると見られています。

中国本土では、2019年7月に開設された科創板に引き続き優良IPO案件が集まり、開設後の勢いが続くと予想されます。中国本土の取引所全体で、依然としてパイプラインが充実しており、市場心理は前向きな状態となっています。したがって、2019年第4四半期にIPO実績は増加すると見込まれます。

香港では、2019年11月に有名大手企業が香港メインマーケットに上場し、香港証券取引所の実績は2019年第4四半期に増加するため、2020年にかけてIPOの波が押し寄せる可能性があります。

日本では2019年も前年と同程度の90件から100件のIPOが行われる予定ですが、大手企業やユニコーン企業の上場予定はなく、2019年第4四半期にIPO活動の大部分中小規模になるでしょう。

オーストラリアでは、米中貿易摩擦と英国のEU離脱問題の解消を忍耐強く待ってきたIPO予定企業が、新たな地政学上の不確実性が生じる前に、2019年第4四半期中にIPOの実施を急ぐ必要性をより強く感じることになるでしょう。オーストラリアのIPO活動については、引き続き素材(鉱物・金属)セクターとテクノロジーセクターの小規模企業が中心となると予想されます。

東南アジアではIPO熱が高まる中、2019年第3四半期はIPO実績が急増し、第4四半期にかけてその勢いは続くと見ています。一方で、ASEAN諸国が直面する金利サイクルと通貨切り下げによる金融逼迫は今後も注視されるでしょう。IPO活動の中心は、引き続き起業家になるでしょう。

グレーターチャイナの取引所の規制変更は、シンガポールやマレーシアといったアジア太平洋エリアの取引所間の競争を激化させています。それでも、この地域では2019年の終わりから2020年にかけて引き続きIPO実績が増加すると予想されます。

アジア太平洋エリア地域全域で、投資家は、引き続き評価額とIPO後の株価パフォーマンスに注目していくでしょう。




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