IPO(企業成長サポート)

世界の新規上場動向 - 2019年1月~12月

2020.04.30
EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
公認会計士 飯室 圭介

クロスボーダー上場支援オフィスでは、世界のIPOの情報を提供し、日本企業の海外市場での上場等をサポートしてまいります。なお、本稿は新型コロナウィルス感染症によるリスクが顕在化する前に執筆したものであり、現時点で新型コロナウィルス感染症の世界のIPOに対する影響の予測は困難なため、見通しに関する記載には新型コロナウィルス感染症による影響は含まれておりません。

1. 世界のIPOの状況

ハイライト

2019年通年で見ると、世界のIPO件数は1,115件(前年比19%減)、調達額は1,980億米ドル(同4%減)となりました。減少の主な原因は、米国・中国・EU間の貿易摩擦、経済成長に対する懸念、そして地政学上のさまざまな問題です。

南北アメリカ大陸、アジア太平洋エリア、EMEIAでは、2019年のIPO活動が件数でも調達額でも前年の水準を下回りました。ただしEMEIAでは、調達額は前年よりも14%増加しました。これは2019年最大のIPOであり、史上最高額を調達したサウジアラビアン・オイル・カンパニー(サウジアラムコ)の上場によるものです。

IPO活動の中心は今期も米国であり、NASDAQとNYSEを合わせると165件のIPOが実施され、調達額は合計500億米ドルに上りました。

投資家心理を反映し、本則市場に上場した企業の初値上昇率は世界平均で17%、IPO後現在までの株価パフォーマンスの世界平均は14%となっています。

本則市場への新規上場による調達額の中央値は、前年比13%増の7,600万米ドルとなりました。中央値の上昇は、前年を上回る65件のメガIPO(調達額が5億米ドルを超えるIPO)が実施され、合計1,234億米ドルを調達したことによるものです。

南北アメリカ大陸のIPO市場は、2019年第4四半期はまずまずの成果を達成しました(件数は同年前期比23%増、調達額は同39%減)。しかし通年では、IPO件数は前年比20%減、調達額は同10%減となりました。

アジア太平洋エリアのIPO活動は比較的堅調を維持しました。2019年第4四半期は、件数は同年前期比43%増、調達額は同96%増となりました。通年の件数は前年比1%減、調達額は同8%減でした。

EMEIAでは2019年第4四半期にIPO活動が急激に活発化しました。4件のメガIPOにより、件数は同年前期比25%増、調達額は同480%増となりました。通年の件数は前年比47%減、調達額は同14%増でした。

2019年も、IPO活動の中心となったセクターは件数、調達額ともにテクノロジーでした。件数ではヘルスケアとインダストリアルズセクターで多くのIPOが行われ、調達額ではエネルギーとヘルスケアが好調でした。

2019年はクロスボーダーIPOの割合も低下しました。EMEIAを除くと、ほとんどのエリアでクロスボーダーIPOは減少しました。

表1 主要エリア別上場件数・調達額(2019年1月~12月)

表1 主要エリア別上場件数・調達額(2019年1月~12月)
(出典:EY Global trends:Q4 2019)

見通し

2019年に見られた地政学上の不確実性は、2020年第1四半期には部分的に解消される見通しです。世界規模の貿易摩擦は緩和され、英国では12月の総選挙を機にEU離脱の先行きが明確になるでしょう。また、主要市場には充実したIPOパイプラインがあるため、2020年は上半期を中心にIPOに有利な環境が形成される見込みです。

米国では2020年に大統領選挙が予定されており、政治日程と選挙活動の影響で市場のボラティリティが高まる可能性があります。南北アメリカ大陸全体では2020年も上半期を中心にIPO活動が活発に行われる見込みです。

アジア太平洋においては、地政学上の不確実性や貿易摩擦が続く中、IPO活動は2019年も堅調を維持しましたが、2020年は緩やかに減速する見通しです。

EMEIAでは、米国大統領選挙と英国のEU離脱の決着が迫っていることから、2020年は地政学上の緊張や貿易摩擦が緩和され、IPO市場は大幅に改善する見込みです。

クロスボーダーIPOの件数は、米中貿易交渉が続いているため、さらに抑制される可能性があります。

投資家の目は厳しくなり、強力なコーポレートガバナンスの文化を示すことのできる企業が好まれるようになっています。IPOを目指す企業は早い段階から入念な準備を進め、自社の評価額に対して現実的な期待値を持つことにより、上場の好機をつかむことができます。

2. 米国

ハイライト

2019年の米国のIPO市場は、件数でも調達額でも前年の水準に届かなかったものの、今後も高いパフォーマンスを維持すると見られています。米国の取引所では、2019年第4四半期に37件のIPOが行われ、合計57億米ドルを調達しました(件数は前年同期比8%減、調達額は同26%減)。

2019年に米国で最も多くのIPOが行われたセクターはヘルスケアとテクノロジーであり、それぞれ件数では44%と32%、調達額では26%と54%を占めました。

米国の取引所への上場を目指す外国企業は依然として多く、2019年は51件のクロスボーダーIPOが行われました。米中貿易摩擦の行方が不透明であるにもかかわらず、米国の取引所に上場した外国企業はグレーターチャイナの企業が最も多く、28社に上りました。

2019年に米国で行われたIPOのうち、金融スポンサーの支援を受けたIPOは件数では55%、調達額では77%を占めました。

表2 セクタートレンド(2019年1月~12月 上段:セクター/中段:調達額/下段:IPO件数)

表2 セクタートレンド(2019年1月~12月 上段:セクター/中段:調達額/下段:IPO件数)
(出典:EY Global trends:Q4 2019)

見通し

米国では2020年に大統領選挙が予定されており、政治日程と選挙活動の影響でボラティリティが高まる可能性がありますが、上半期を中心に多数のIPOが実施される見込みです。

直接上場を検討する未上場企業が増えているため、2020年は直接上場が増加する可能性があります。

投資家は投資先を厳しく選別するようになっており、IPOを目指す企業は評価額に留意する必要があります。

3. アジア太平洋エリア

ハイライト

地政学上の緊張や貿易摩擦は世界のIPO活動に大きな打撃を与えましたが、アジア太平洋エリアのIPO活動は比較的堅調を維持しました。2019年第4四半期にIPOの件数と調達額は大幅に上昇しましたが、通年では件数は前年比1%減、調達額は同8%減となりました。

世界のトップ10の取引所のうち、IPO件数では7つ、調達額では5つの取引所がアジア太平洋エリアからランクインしました。

上海証券取引所に開設された科創板(スターマーケット)が順調なスタートを切ったことから、2019年第4四半期のIPO活動は活発化しました。中国本土と香港の証券取引所を合わせると、2019年通年では件数は前年比14%増、調達額は同28%増となりました。

中国本土と香港では、2019年第4四半期に複数のIPOが行われ、IPO件数は合計で前年比14%増(309件→351件)、調達額は同28%増(576億米ドル→736億米ドル)となりました。

社会不安が続く香港でも、2019年第4四半期には5件のメガIPOが行われ、さらに53社がIPOの好機を捉えて資本市場に参入するなど、IPO市場は勢いを取り戻しました。

香港では2019年に154件のIPOを通じて合計379億米ドルが調達され、IPOの件数でも調達額でも世界の取引所の首位に立ちました。調達額が最も多かった上位10件のIPOのうち、2件は香港証券取引所で行われたものです。

中国本土では、上海証券取引所に開設された科創板が好調を維持し、2019年第4四半期は35件のIPOを通じて46億米ドルが調達されました。IPO件数の急増により、上海証券取引所と科創板は2019年、IPO件数では世界10位、調達額では4位にランクインしました。一方、深セン証券取引所(SZSE)とその創業板(ChiNext)は、IPO件数では5位、調達額では6位にランクインしました。2019年に行われた世界のトップ20件のIPOのうち、5件は中国本土の市場で行われたものです。

日本では、2019年第4四半期にIPO活動が再び活発化し、IPO件数は前年同期比16%増となりました。しかし通年で見ると、IPO件数は前年比9%減、メガIPOがなかったことから調達額は同87%減となりました。

オーストラリアでは、地政学上の問題や通商問題、GDP成長率の低下などから、2019年もIPO活動は低迷しました(件数では33%減、調達額では49%減)。

ASEAN地域では、IPO活動の件数は前年比4%増、調達額は同11%増となりました。

2019年に最も多くのIPOが行われたセクターはテクノロジー、インダストリアルズ、素材でした。調達額ではテクノロジー、金融、不動産が上位を占めました。

見通し

地政学上や貿易面の不確実性が続くなか、アジア太平洋エリアの取引所は2019年も堅調を維持しました。しかし、2020年は下半期を中心にIPO活動は緩やかに減退する見通しです。

2020年に米国大統領選挙が予定されていること、米中貿易協定が第1段階の合意に達しつつあること、英国のEU離脱が何らかの決着を見る可能性が高いことから、中国本土と香港のIPO市場に影響を与えているボラティリティは、2020年第1四半期には落ち着くと見られています。そのため、2019年第4四半期における中国本土と香港の取引所でのIPOの急増は2020年も続くでしょう。

香港では、世界と香港の政治・社会をめぐる不透明感が2020年のIPO活動に影響を与える可能性があります。しかし、IPOパイプラインは充実しており、すでに168社超が香港証券取引所にIPO申請書(Form A1)を提出しています。流動性が高まれば、政治・社会をめぐる不透明感が和らぎ、予定されているメガIPOの実現と共に、香港のIPO活動は勢いを取り戻す可能性があります。

また、香港では、ペーパーカンパニーの使用制限や、活動していない企業や業績不振が恒常化している企業の取引停止を定める新しい政策が、投資家保護を意図したものにせよ、IPOを目指す企業の心理に影響を与える可能性があります。香港証券取引所は、従来型のビジネスを展開しているにもかかわらず高いIPO評価額を見込んでいる小型IPOの株価にも目を光らせています。このため、IPOを目指す企業は今後、最低限の上場要件を満たすだけでなく、上場前から相当額の利益を生み出していること、市場参加者が好むニューエコノミー企業であることなどを求められるようになる可能性があります。

中国本土では、科創板に上場した企業の初値が初めてIPO価格を下回りました。これは科創板への上場が必ずしも「ホームラン」を約束しないことを示しています。2020年の投資家はIPO予定企業の評価額をより慎重に検討する可能性があり、これはIPO活動に影響を与える恐れがあります。

中国本土には充実したIPOパイプラインがあるため、上海、科創板、深セン市場では今後もIPO活動が活発に行われるでしょう。2019年11月末、中国証券監督管理委員会(CSRC)のパイプラインには417社、科創板のパイプラインには160社を超える企業が含まれています。さらに規制面では、中国本土の資本市場改革やA株市場へのスピンオフ上場が承認されれば、2020年のIPO活動はさらに拡大する可能性があります。中国本土でのIPOを目指す企業は、CSRCの要件を明確に理解するとともに、CSRCが却下した上場申請を研究することで、IPOの準備を万端に整える必要があります。

日本では、健全なIPOパイプラインと安定した株式市場を背景に、毎年90件から100件のIPOが行われると期待されています。しかし、2019年10月に消費税が8%から10%に引き上げられたことが投資家心理の冷え込みにつながっている可能性があります。

オーストラリアでは、2020年も鉱業やテクノロジーセクターで小型の上場が続く見込みです。世界規模の不確実性はすでに新たな現実となっており、ボラティリティの変化が投資家心理に与える影響は小さくなっていくでしょう。

シンガポールでは、対外開放政策やシンガポール取引所の市場活性化策が功を奏し、2020年はIPO活動が活発化する見込みです。

東南アジアでは、今後も起業家的企業がIPO活動の中心となる見込みです。

アジア太平洋エリアでは、2020年も天然資源やインダストリアルズといった昔ながらの伝統的なセクターと、テクノロジーやヘルスケアといった高成長セクターのIPOがバランスよく実施される見込みです。




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