IPO(企業成長サポート)

世界の新規上場動向 - 2020年1月~3月

2020.08.03
EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
公認会計士 松村 淳弘

クロスボーダー上場支援オフィスでは、世界のIPOの情報を提供し、日本企業の海外市場での上場等をサポートしてまいります。

1. 世界のIPOの状況

ハイライト

2019年第4四半期の勢いに乗じて、世界のIPO市場は2020年1~2月も引続き好調を維持しましたが、2020年3月以降はIPO活動が大幅に縮小することが想定されます。新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大が引き起こした予期せぬ未曽有の事態は、世界の株式市況に大打撃を与えており、他のグローバルな市場要因も相まって、2008年に発生した世界金融危機以来となる市場の混乱を招いています。こうした極端な市場ボラティリティは、企業の上場への意欲を著しく動揺させています。IPOの準備過程で資金調達や流動性の問題に直面している企業は、代替的な資金調達方法を考えると同時に、次の好機にも備えておく必要があります。

2020年1~2月における世界のIPO活動は、主にアジア太平洋エリアと米国の証券取引所が牽引し、前年同期と比べて件数は29%、調達額は242%増加しました。しかし、その後は、多くの市場で株価指数が急激に下落したことから、世界の株式市場は混乱に見舞われました。各国政府は、さまざまな施策と景気刺激策を打ち出し、金融システムへの流動性の供給や産業への支援を実施しています。同時に、中央銀行による金利の引き下げや金融調整支援も行っています。

米国では、2020年3月16日に、シカゴ・オプション取引所(CBOE)のボラティリティ・インデックス(VIX®)が82.69まで上昇しました。これは、同水準で推移していた2008年11月以来の最高値となります。EMEIAでも、VSTOXX及びVDAXがいずれも世界金融危機以来の最高水準に達しました。以上のことから、高水準の市場ボラティリティと不確実性が、2020年3月以降第2四半期に入ってもIPO活動に影響を及ぼすことになると見込まれます。

表1 主要エリア別上場件数・調達額(2020年1月~3月)

表1 主要エリア別上場件数・調達額(2020年1月~3月)
(出典:EY Global trends:Q1 2020)

2020年第1四半期の資金調達額は、上海のメインボード及び科創板(STAR market)が首位で、NASDAQとタイの証券取引所がそれに続きました。IPO件数では、香港、上海、東京の市場が活況を呈しました。件数、調達額共に最も活気があったセクターは、インダストリアルズ(製造業)、テクノロジー、ヘルスケアでした。

南北アメリカ大陸では、2020年3月には取引が減少したものの、1~2月は、活発な株式市場に後押しされ、順調なIPO活動が行われました。2020年第1四半期は南北アメリカ大陸全体のIPO活動が前年同期比で件数は14%、調達額は47%増加しました。

アジア太平洋エリアのIPO活動は、COVID-19感染拡大が株式市場や経済に影響を及ぼしており、3月以降の活動は鈍化しています。しかし、2020年第1四半期は、主に2019年7月に創設された科創板の盛況によって、前年同期比で件数は28%、調達額は110%増加しました。

EMEIAでは、2020年第1四半期のIPO市場は、明暗が入り混じる結果となりました。IPO活動は、1月には緩やかな滑り出しを見せ、2月に入ってから勢いを増したものの、3月に減速しました。2019年第1四半期と比べてIPO件数は31%減少しましたが、主にインドのSBI Cards & Payments Services Ltd.の上場によって、調達額は133%増加しました。

見通し

COVID-19感染拡大のほか、原油価格の急激な変動をはじめとする世界的要因により、金融市場から実体経済に至るまで、IPOのエコシステムは影響を受けています。COVID-19感染拡大が収束するまでは、市場のボラティリティ、株価指数、時価総額への影響は実質的な回復に至らず、当面の間続くと見られます。ただし、中長期的なIPOパイプラインは主要な市場で継続的に拡大していくでしょう。

南北アメリカ大陸では、IPOパイプラインは引き続き拡大していますが、今年のIPO活動はCOVID-19感染拡大に対する認識、市況、米国大統領選挙の行方に大きく左右されることになりそうです。

アジア太平洋エリアでは、地政学上の緊張や貿易摩擦に取って代わったCOVID-19の流行と、最大の争点である米国大統領選挙が2020年のIPO活動に影響を与えています。各種5G関連企業、医薬品会社、不動産管理会社が引き続き上場準備を進めていることから、2020年には伝統的なセクターとハイテクセクターがバランス良くIPOを果たすと見ています。

EMEIAでは、2020年6月末までは、混乱拡大により経済活動が不安定な状態が続くと考えられることから、早くとも2020年下半期まではIPO活動が好転することはないと考えています。

2. 米国

ハイライト

米国では、2020年第1四半期のIPO件数は前年同期と同程度でしたが、調達額は39%増加しました。ヘルスケアセクターが件数(46%)、調達額(48%)ともに首位となり、米国の取引の中心となりました。IPO件数では21%を占めたテクノロジーセクターが、調達額ではエネルギーセクターが20%を占め2位となりました。

米国は、引き続き最も魅力的な新規上場先となっており、2020年第1四半期には7件のクロスボーダーIPOが行われました。そのうち6件は中国企業によるものでした。

2020年第1四半期に行われたIPOのうち38%(調達額で79%)はスポンサーが支援しており、米国のIPO市場が資本市場エコシステム全体からの旺盛な投資意欲に依拠していることを示しています。

表2 セクタートレンド(2020年1月~3月上段:セクター/中段:調達額/下段:IPO件数)

表2 セクタートレンド(2020年1月~3月上段:セクター/中段:調達額/下段:IPO件数)
(出典:EY Global trends:Q1 2020)

見通し

COVID-19感染拡大に起因する最近の市場ボラティリティやリスク回避傾向が収束すれば、投資家は再び市場の基礎的条件に注目するようになるでしょう。しかし、石油価格の大幅な下落がもたらす現時点での影響や将来の回復可能性に及ぼす影響について、過小評価すべきではありません。

2020年第2四半期のIPO活動は大幅に制限され、次の好機が到来するのは7月下旬、あるいは8月前半の第2四半期決算後になる可能性が高いと考えられます。

さまざまな逆風に晒されながらも、企業は粛々とIPO準備を進めており、上場への意欲を失っていないことがうかがえます。

3. アジア太平洋エリア

ハイライト

COVID-19の流行以前、アジア太平洋エリアでは多数の企業が上場後に高い収益を挙げており、IPO市場も2019年第4四半期の好調を維持していました。

2020年第1四半期は、前年同期比で件数は28%、調達額は110%増加し、アジア太平洋エリアのIPO活動は全体的に活況を呈しました。2020年第1四半期にこの地域では160件のIPOが実施され、168億米ドルを調達しました。内訳は、1月が件数54件、調達額累計72億米ドル、2月が件数43件、調達額累計64億米ドル、3月が63件、調達額累計32億米ドルでした。2020年第1四半期は、世界のトップ10の取引所のうち、取引件数では7つ、調達額では4つの取引所がアジア太平洋エリアからランクインしました。

グレーターチャイナでは、中国本土の取引所以上に香港の取引所がCOVID-19により被害を受けましたが、全体として、2020年第1四半期に前年同期比でグレーターチャイナのIPO件数は34%、調達額は104%増加しました。

日本のIPO活動については、2020年第1四半期に前年同期比で件数が22%増加しましたが、調達額は21%減少しました。

2019年に最高値を記録したオーストラリアでは、資本市場がCOVID-19感染拡大に対する反応を示したことから、株価指数はグローバル株価指数と同様、下落しました。このような状況にもかかわらず、IPO取引は前年同期と比べて件数は43%、調達額は27%増加しました。

東南アジアのIPO活動は、2020年第1四半期も2019年第4四半期に引き続き好調でした。件数は前年同期比で63%増、調達額は前年同期を大きく上回る885%増でした。調達額の大幅な増加は主にCentral Retail Corporation.の上場によるもので、これはタイ証券取引所史上最大のIPOとなりました。

2020年第1四半期に実施されたIPOで取引件数の上位を占めたセクターはインダストリアルズ、テクノロジー、消費財でした。一方調達額は、インダストリアルズ、小売、テクノロジーの3セクターが独占しました。

見通し

COVID-19感染拡大の影響が、金融市場から基本的な経済活動に至るまで、IPOエコシステムに波及しています。エコシステム全体がこの環境変化を受け入れるには、時間がかかるでしょう。

しかし、2020年3月のIPO件数が裏付けているとおり、アジア太平洋エリアの企業は体制を万全に整え、2020年後半以降の活動回復に向かって進んでいくと見ています。

各種5G関連企業、医薬品会社、不動産管理会社は、2020年の上場を目指し、引き続きIPO活動に意欲的に取り組んでいます。

中国本土では、強固なIPOパイプラインとIPOに協力的な施策が、上海証券取引所、科創板、深セン証券取引所のIPO活動を後押しするでしょう。

香港証券取引所(HKEx)は、加重投票権が付された議決権種類株式(WVR)構造を有する企業の受益者に係る諮問書を公表しました。同案が採用・施行された場合、2020年下半期には複数のWVR構造企業の大型IPOが実施されると見ています。

日本のIPO件数は、昨年と同程度になると予測していますが、IPO審査等の関係で、ここ数年の水準よりも低めになる可能性があります。ただし、新興企業の成長を支える良好な投資環境に鑑み、今後数年間はユニコーン企業の上場が増加すると見込んでいます。

オーストラリアでは、国内や世界の市場に漂う不確実性が考慮されて、投資家は様子見の姿勢を崩さないでしょう。小型のIPO、特に鉱業、ヘルスケア、テクノロジーセクターの企業による上場は依然堅調が続く見込みですが、2020年に上場を予定していた大規模企業は、現在の市況に鑑み計画を変更する可能性があります。

東南アジア全体で見ると、IPOの大部分は小型のIPOが占める見込みですが、2020年下半期には、タイ史上最大のIPOとなったCentral Retail Corporationのような大型上場が、同地域の取引所で1~2件実施される可能性があります。また、シンガポールでは、シンガポール証券取引所(SGX)による市場促進の努力が2020年第1四半期の時点で早くも奏功し、4月以降も好調が続く見通しです。

今年のアジア太平洋エリアのIPOは、COVID-19の影響が少ない伝統的で知名度の高いセクターと、感染症拡大の影響で高い成長が見込めるヘルスケア、テクノロジーをはじめとするセクターがバランスよく上場を果たすと予想しています。




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