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日本企業がデジタル化でDXを実現するためには

2020.01.23

10月28日から30日、「イノベーションリーダーズサミット(ILS)2019」が東京都において開催されました。これに合わせ、「EYイノベーションカンファレンス」も開催され、イノベーションをキーワードにさまざまなジャンルのパネルディスカッションが行われました。ここでは、10月28日に行われたパネルディスカッション「デジタル化最前線~クラウド活用の壁突破!~」についてお伝えします。

紙とはんこからの脱却は可能か

「デジタル化最前線~クラウド活用の壁突破!~」では、EAGLYS株式会社の代表取締役社長である今林広樹氏、一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の企画室長である大泰司章氏、ペーパーロジック株式会社の代表取締役社長兼CEOである横山公一氏の3名が登壇、パネルディスカッションを行い、横山氏がモデレーターを務めました。

横山氏には、パネルディスカッションのテーマとして、デジタルトランスフォーメーション、DXをテーマに、その入り口の段階である「デジタル化」「ペーパーレス化」、そしてクラウド活用について意見を伺いました。横山氏は大学卒業後の8年間、監査法人トーマツの株式公開支援部で法定監査や株式公開試験のコンサルを行い、その後、金融特化型の会計事務所を設立、国内最大手の一つにまで成長させた経歴を持ちます。現在はペーパーロジックの代表取締役であり、公認会計士でもあります。

EAGLYSの代表取締役である今林氏は、米国のシリコンバレーでデータサイエンティストとしてキャリアを開始。金融系へのシステム提案や不正検知などを行っていましたが、なかなかデータを共有してもらえず、いかにアルゴリズムが優秀であっても、データがないとデータサイエンティストとして働けずにいました。このデータ活用が大きな社会問題だと感じていたといいます。その後アカデミアに戻り研究をしていて、秘密計算と言われる技術を見つけました。これはデータを暗号化した状態で活用できるようにするもので、個人情報などのデータも安全に流通できるようになります。この技術に魅力を感じて立ち上げた会社がEAGLYSです。

JIPDECインターネットトラストセンターの企画室長である大奉司氏は、三菱電機、日本電子計算を経てJIPDECに参画。営業現場で長年にわたり大量の紙の契約書などの取引文書の対応を行ったことから、社会インフラを変える必要性を非常に強く感じ、「電子契約元年プロジェクト」を立ち上げ、全ての取引文書の電子化を推進しています。さらに「取引革命」と銘打ち、不合理な商慣習やビジネスマナーの改革を通じて「真の働き方改革」を目指すほか、メールやWebサイトのなりすまし対策にも取り組んでいます。

横山氏はまず、「紙とはんこからの脱却、ビジネス文書のデジタル化が進むか」をテーマに挙げました。日本では紙とはんこを2000年近く使っていますが、現在の日本はOECD加盟36カ国で1人あたりの生産性が21番目、時間あたりでは20番目と、大変に低いものです。また、生産性は米国の4分の3。サービス業に至っては半分という状況にあります。とはいえ、規制緩和は進んでおり、紙での保存を義務付けている法律は約300、その約9割はデジタル化を可能としています。

今林氏は自身の経験から、「米国はサインの文化で、シンプルで楽です。そもそもはんこの概念がありません。スタートアップとして海外の投資家とNDAを交わす際にも、そこには紙はなく、基本的にデジタルで全てが終わっていました。一方、日本ではビジネスのいろいろなところにはんこが必要です。徐々に変わっていくとは思いますが、やはり特有の文化であり、大変だと感じています」と述べました。

大奉司氏は、「もともとはんこが生まれたことには意味がありました。それは、同じ印影が二つとないからでしたが、現在は3Dプリンターで容易に複製できるので意味がありません。古くなったものは変えていく必要があります。どの企業も効率化に注力している現在、昨日と同じやり方では競争に負けてしまうでしょう」と指摘しました。

進まない「紙のデジタル化」

横山氏は、「紙をPDF化して書類の検索が楽になりました、会議でも紙は配りませんといった企業は増えています。しかし、バックヤードには膨大な紙が保管されています。紙保存を義務付けている法律が300近くありますが、現在は9割方デジタル保存できるようになっています。ただ、縦割り行政のためか要件がバラバラで、結局「紙は取っておく」という状況になっています」と述べました。普段の会計士、税理士の業務においてはデジタルについて触れる機会が少ないため、勉強しながら、啓発したりソフト開発の段階で作り込んだりしているが、やはり分かりにくいところがあるとのことでした。

今林氏からは、日本の税関系は特に紙のお作法が難しいという指摘がありました。「AIをやっている立場で言えば、やはりデジタル化は大前提です。今は社会的にAIの価値の理解が進んで、AIにゴールを見いだしたからこそデジタル化が進み始めたと思っています。とはいえ、その進み方はあまりにも遅く、AIの活用は一体いつになるのか危機感を抱いています。データを持っているところは、ようやくAIという文脈の中でデータ分析をし始めているようですが、まだPoCの段階が大半で、本当の意味でAIを活用できている企業は全体の1%にも満たないのが現状です。そもそもデジタル化が進んでいないとEAGLYSにとっては顧客ターゲットになり得ません。早くデジタル化が進んで欲しいです。

また、データの活用にはデータセキュリティが前提で、データを保護できているからこそ、社外にデータを出したり、逆に社外のデータを活用したりすることができます。PoCで止まってしまっているのは全体の98%と言われていますが、その要因のほとんどがセキュリティの問題となっています。AIプロジェクトへの投資は年々急拡大していて、4年後には10兆円を超えると言われています。PoCの次の段階に行かないと、これらの投資が無駄になってしまいます。それが大きな課題です」と指摘しました。

大泰司氏は電子契約について、「いろいろな企業に話す機会が多いです。それで現場だけで話がまとまればよいのですが、法務部や経理部が止めるケースが出てくるとダメだといわれ、さらには、やらない理由が変遷します。最初は「法務や経理が」と言われますが、やらない理由が見つからなくなってきたのか、「税務署が」と言い出しました。しかし、国税庁も電子化は歓迎しているので、今は「会計士の先生が」と言い出しています。やらない理由をどんどん無くしていって欲しいと思います。それでも変われないお客さまも、他の会社がやればやらざるをえないでしょう」と述べました。

横山氏は、2022年に公文書のデジタル化が決まったことで、いいタイミングになるのではないか、実現したら日本もスピード感を持ってデジタル化できる可能性があると指摘しました。ただし、「2005年のe-文書法のときも同じようにペーパーレス化の波が来ると言われましたが、結局は来なかったということもあり、パスワード付きのZIP暗号ファイルをメールして、次のメールでパスワードを送るという「PPAP」が蔓延している状況では難しいでしょう」としました。

「最近では「プリントしてはんこを押して、それをスキャンする」という「PHS」もよく言われます。あげくには、PHSをしてくださいというお願いがPPAPで来たりします。受け取った側にとっては最悪で、もちろん意味がありませんし、やめるようにしたい」と大泰司氏は指摘しました。

DXを実現するには

「海外では今、DXが相当進んでいます。日本ではまだまだDXは進んでいませんし、2025年問題もレガシーなシステムが足を引っ張ったり、新しいことをなかなか取り入れられない日本人の文化もあります。しかし、ここが本当に正念場だと思っています」と横山氏。「せっかく法規制の緩和を含め、国策としてデジタル化に取り組んでいますし、このような最新鋭の技術を持った若いベンチャーも出てきています。士業としてもより強く促進していくことが必要であると考えています」と述べました。

今林氏はセキュリティの文脈から、社会的には大きな哲学、思想の転換期が来ていると指摘しました。今までは例えばファイアウォールをローカルに入れて、しっかり城壁を作って守ればいいというスタンスで、社内のある場所に全ての機密情報を集めて、高い城壁を何枚も重ねて守るという発想でしたが、今はそれが成り立たない時代になっているとしました。

「現在はデータ活用、データ流通が前提であることが理由です。企業間をまたいで、そこにあるデータを外に取り出さないとAIが作れない、企業間の連携ができない時代なので、基本的にはデータをムーブメントするという前提でシステム、アーキテクチャを設計し直さないといけない時代になっています。今までのデータをストアするところにファイアウォールを置けばいいという時代ではありません。

データをストアするところからデータが流れるところ、さらにデータが処理されるクラウドまで、一貫してデータを守れる設計が必要になります。今までセキュリティと言われていたところが、これからはトラストという言葉に置き替わるのではないでしょうか。要は働き方改革であり、組織の外でも組織の機密データにアクセスできることによって、組織以外からでも働けることになります。基本的に認証でトラストして、トラストできないところは監視のシステムを入れていく。これは企業にとってもメリットがあることです」

結果的に働き方改革が実現するという話にきちんと持っていかないと、もう未来はないのではないかと今林氏はコメントしました。そういったところが今回のデジタル化、セキュリティ、クラウド活用、データの流通、秘密計算というところに包括的にかかってくる大きなストーリーではないでしょうか。

大泰司氏は、「電子化が進んでいるといっても、ここ数年取引先から要求される資料が増えています。何度も同じようなことを書いて送らなければならない、10社と取引していると10個のフォームを埋めないといけない、こうした情報のやりとりの共通化も必要で、もっとコラボレーションしやすいトラストな仕組みの構築を目指していきたいと思います」と締めくくりました。