IPO(企業成長サポート)

日本のユニコーン企業に、これまでとこれからの成長戦略を聞く

2020.01.23

10月28日から30日、「イノベーションリーダーズサミット(ILS)2019」が東京都において開催されました。これに合わせ、「EYイノベーションカンファレンス」も開催、イノベーションをキーワードにさまざまな分野のパネルディスカッションが行われました。ここでは、10月28日に行われたパネルディスカッション「次世代ユニコーンの成長戦略」についてお伝えします。

ユニコーン企業によるパネルディスカッション

「次世代ユニコーンの成長戦略」では、株式会社TBMの取締役COOである坂本孝治氏、五常・アンド・カンパニー株式会社の代表取締役である慎泰俊氏、Spiber株式会社の代表執行役補佐である森田啓介氏、EY新日本有限責任監査法人のパートナーである右田将徳の4名が登壇、パネルディスカッションを行いました。モデレーターは右田が務めました。最初に、EY新日本有限責任監査法人のJapan FAAS Leaderである深田豊大があいさつを行いました。

深田は、「企業の経営環境が多様化、複雑化している中で、海外、特に米国ではスタートアップ企業にも時価総額が10億ドルを超えるユニコーン企業が存在しており、その動向は世界的な関心を集めています。日本においても、独自性と行動力を有する新規スタートアップ企業が存在感を強めているため、今後は次世代のユニコーン企業が数多く誕生してくると予想されており、日本経済の再活性化の旗手として多方面から非常に期待されています。

EY新日本監査法人FAAS事業部では、以前より大企業からベンチャー企業まで、さまざまな支援を行っています。2019年7月からEY JapanがEY Asia-Pacificの一員となったことにより、グローバル事業を展開する日本企業に対して、充実したグローバルサービスを提供するための体制が整いました。今後は海外対応として、多様化が予想されるニーズにスピード感を持って、一層きめ細やかな対応ができるよう努めていきます。

今回はその一環として、変化を続けていく中で、自社の開発した技術やノウハウを武器として、目覚ましい急成長を遂げている企業のトップマネジメントの方々を招き、パネルディスカッションを企画しました。成長戦略や過去の課題の解決策、そしてオープンイノベーションといった大企業との連携の際に注意すべき事項など、貴重なお話をいただく予定となっています。このパネルディスカッションが、皆さんの成長戦略の検討、今後のネットワークの促進に貴重な機会となれば幸いです」として、あいさつを締めくくりました。

右田は、「今回のセッションの趣旨として、ベンチャー企業にとっては、成長著しいユニコーン企業の皆さんの成功の秘訣を学んでいただき、また大企業にとっては、オープンイノベーションの観点から注目度の高いベンチャー企業の皆さんとどうやって連携していくのかを学んでいただきたいと考えています」と述べました。まずは、パネリストに自己紹介を兼ねたプレゼンテーションをお願いしました。

石灰石から紙やプラスチックの代替を作るTBM

最初に、TBMの坂本氏がプレゼンテーションを行いました。TBMは、石灰石を主原料とした「LIMEX」の開発、販売を行う会社です。LIMEXの名前は、石灰石(Limestone)の「Lime」と、何にでも変化することから「X」を組み合わせています。石灰石は、世界中に埋蔵量が多く、かつ自然由来の環境に優しい素材であるという理由から選んだとのことでした。

LIMEXの活用法として、坂本氏は「紙の代替」を挙げました。1トンの紙を作るには、20本の木と85トンの水が必要になります。しかしLIMEXを使えば、木と水を全く使わずに一部の紙の代替が可能となります。また、耐水性や耐久性が高いことから、飲食店のメニューなどに多く採用されています。

そして、最も注目されているのはプラスチックの代替です。従来のプラスチックは原料の100%が石油由来の樹脂となっていますが、LIMEXでは50~80%の石灰石と20~50%未満の樹脂でプラスチックの代替品を作ることができます。自然由来の樹脂を使うことも可能です。また、LIMEXに置き換えた場合でも、従来の金型や機械をそのまま使用し成型できることも大きな特徴となっています。TBMの株主でもある三菱鉛筆では、LIMEXを使用した「uni LIMEX」というボールペンを販売しています。

さらに、レジ袋が有料化されることから、石油由来のレジ袋を減らしたいというニーズも多く、TBMではLIMEXを使ったレジ袋「LIMEX Bag」も開発しています。しかし、TBMの本当の目的は、プラスチックの代替品を作ることだけではなく、その先にあるエコシステム、資源を循環するシステムを作ることだと坂本氏は言います。この部分に賛同していただき、出資していただくケースが多いとしました。例えば、印刷物として使用したLIMEXを食品トレーとして再利用することも可能になっています。

坂本氏は事例として、神奈川県の取り組みを紹介しました。これは、LIMEXを活用することで資源を循環する仕組みを作るというもので、「かながわアップサイクルコンソーシアム」として神奈川県が旗振りをして、約70社が参加する大きな取り組みとなっています。世界的にも環境問題への取り組みの気運が高まっており、すでに600社近い問い合わせを受けているということです。ただ、ベンチャーだけで海外の大きな案件を回していくことはできないので、海外にネットワークがあり、多くの知見を持つ大企業と一緒に、環境に優しいエコシステムを作っていきたいと述べました。

民間セクターの世界銀行を目指す五常・アンド・カンパニー

続いて五常・アンド・カンパニーの慎氏がプレゼンテーションを行いました。慎氏が代表取締役を務める五常・アンド・カンパニーについて、「民間セクターの世界銀行を作って、世界中の人に金融サービスを届けることを目的に設立しました。金融サービスは社会インフラなので、これがないと「お金が借りられない」「安全な貯蓄手段がない」「保険に入れない」「送金サービスを使えない」など、非常に困ったことになります。特に発展途上国では日本並みの金融サービスを利用できないケースが非常に多い状況です」と述べました。

五常・アンド・カンパニーでは、この状況にマイクロファイナンスという少額の金融サービスで取り組み、これまで50年にわたって融資から預金、保険、送金といったサービスを提供しています。質が良くて、安い金融サービスを2030年までに50カ国1億人に届ける─これを達成すれば民間セクターの世界銀行と呼べると信じ、それを目標に世界中のお金を集めて拠点を作り、事業を行っているということです。累計の調達額は約300億円となっています。

拠点は、人口500万人以上で1人当たりのGDPが2030年で1万ドル未満の国を基本的に対象としており、67カ国が候補国になります。ただし、紛争地域などは入れないので、実質は約50カ国です。そして世帯は12億世帯ということで、対象世帯シェア1割が目標のため、人数に換算すると1億人 となります。まずはアジア、そしてアフリカ、中南米へと事業を拡大しています。現在、日本のほかにはカンボジア、スリランカ、ミャンマー、そしてインドに3社の計6社で運営しています。

毎月、顔を合わせる顧客は約50万人で、毎月3万人ずつ増えています。これらの顧客にFace to Faceでサービスを提供していますが、顧客の99%が「お母さん」であるといいます。お金の使い道は1位が食費、2位が学費となっています。従業員は2,700人を超えており、こちらも毎月増えています。日本の会社ではあるものの日本に従業員はほとんどおらず、メンバーは現地のプロフェッショナル出身者です。現地の経営者は、マイクロファイナンスのプロフェッショナルとして現地では知らない人はないという方を一生懸命に口説いて、仲間にしています。

慎氏は事業で大切にしていることとして、オペレーションをしっかりとすることを挙げました。その上で、テクノロジーを活用することと、顧客保護と顧客利益を最優先することに注力しています。ここまで事業は毎年3倍のペースで伸びており、年率は200%となっている一方で、延滞率は0.7%と非常に低くなっています。金利も同業他社よりも低い数字を提示していながら、きちんと利益が出る体制を維持しています。テクノロジーでは、まずはデータを集め、キャッシュレス化、ペーパーレス化を進め、最終的には審査の自動化を目指しています。省力化によりコストを下げて、より利便性の高いサービスを提供するには、テクノロジーは欠かせない要素としました。

蜘蛛の糸をヒントにタンパク質由来の素材を開発するSpiber

続いてプレゼンテーションを行ったのは、Spiberの森田氏です。Spiberは2007年に会社設立して今年で13年目を迎えますが、十数年間にわたり研究開発ペースで活動しており、ようやく販売を開始した状況にあります。森田氏は慶應義塾大学の総合政策学部を卒業していますが、大学の先端生命科学研究所が山形県鶴岡市にあり、そこで現在Spiberの代表である関山氏が蜘蛛の糸を人工的に合成するという研究を始めて、それがスピンアウトした会社となっています。

Spiberは、タンパク質を人類が使いこなせるようにしていくという理念を掲げています。その大きな理由として、タンパク質がファンクショナルでかつ、サステイナブルであることを挙げました。世の中の動きとしては生分解性があることと、バイオマスベースであることが主に語られています。この意味でもタンパク質は非常に優秀で、社会に役立つとしました。

タンパク質の機能性では、蜘蛛の糸がタンパク質でできており、自然界で最も衝撃吸収力の高い素材として知られています。そのほか身近なタンパク質には、レザーで使われるコラーゲン、爪や髪の毛、ウールなどの主成分であるケラチン、最近では、バッタの太ももにあるレジリンというタンパク質が注目されています。また、タンパク質と多糖類で複合体を形成すると、蟹の甲羅や昆虫の外骨格のような硬度のある材料を作ることができます。

タンパク質はこれまで、生物からはぎ取ってくる形で使っていましたが、コストや加工性に問題がありました。そこで化学的な合成手法が取られたものの、コストが非常に高くなるという難点がありました。そこでSpiberでは、人工的にタンパク質を合成することで、これらの問題をクリアしました。具体的には、微生物による発酵生産という方法を採用しています。遺伝子を微生物の中に組み込むことによって、この微生物にタンパク質を作らせるというわけです。

Spiberでは、まずタンパク質から繊維を作り、それを綿にしたり、紡いで紡績糸にしたりと、さまざまに加工していきます。レジンのようなものを作ることも可能です。金属のような光沢を出すこともできるので、インテリア用途での相談もあります。ターゲットとしては、短期的にはアパレル分野、中長期的には自動車部品分野を考えています。需要も見えてきたので、2021年の稼働を目指してタイでプラントの建設を進めています。初期の量産は自分たちで設備投資をして行う予定なので、引き続き予算調達を行っています。

2019年6月に、ついに商品としてTシャツを発売しました。そしてゴールドウインと共同開発したアウトドアジャケット「ムーン・パーカ(MOON PARKA)」を12月に発売しました。当初、MOON PARKAは2016年に発売する予定でしたが、開発した繊維は衝撃吸収力には優れるものの、耐水性や耐紫外線などの問題があったため、その解決に時間がかかったとのことです。発売の延期は採算危機でもありましたが、タンパク質素材に魅力を感じてもらえたことや、タンパク質を人工的に作る要素技術が確立され始めた時期に参入し、商品を製作できたことが成長要因であるとしました。

スタートアップを悩ませる「鶏と卵」の問題

パネリストのプレゼンテーションが終わったところで、右田はパネリスト同士での質問に移りました。まず、森田氏が坂本氏に対し、LIMEXという新しい素材を、より迅速に普及させていくためには、どういった形があるかを聞きました。坂本氏はLIMEXの魅力として、コストと汎用性を挙げました。「石灰石は自然由来である上に原料として非常に安価です。加工用にパウダー状にしたものが、石油由来の樹脂の5分の1から6分の1の価格で買うことができます。また汎用性では、紙の代替品は既存のプリンターで印刷できますし、プラスチックの代替品は既存の成形機を利用できます。既存の設備をそのまま使える。この2点をアピールすることで普及が進みます」と答えました。

次に、坂本氏が慎氏に対し、「海外展開する場合にはキーマンがスタッフとして参加すると聞いているものの、それがうまく行くケースと行かないケースの違いは何でしょうか」と質問しました。慎氏は、「全拠点で利益は出ているものの、確かに成長速度などに差が出ています。その違いは、マイクロファイナンスでは草の根の資金需要が重要で、それは地域により差があることです。そして人の面で、1から数十人のチームを作れる人と、100人までのチームをマネージできる人、1,000人まで拡大する仕組みを作れる人には、それぞれ異なる素質や経験が求められるので、そこの差が出てしまうのでしょう」と述べました。

続いて慎氏が森田氏に対し、「まだ売り上げが立っていない状況というが、エコノミクスの勝算というかコスト構造のようなものは、どう予想しているのでしょうか」と質問しました。森田氏は、「タンパク質の素材としての魅力はかなり高く、繊維の場合は高級なシルクやウール、カシミアなどと同等以上のクオリティを安価に提供できることが大きな強みとなります。しかし、最大の問題は製造コストで、これをいかに下げられるかが利益に大きく影響します。そのためにタイにプラントを作っており、これが稼働して生産量が増えれば、生産初期の段階で十分事業に乗せていけると考えられます」と答えました。

ここで右田が当日の来場者から寄せられた質問の中から興味深いものについてパネリストに質問をしました。今でこそ社会的にも注目され、100億円単位の資金調達を得て、オープンイノベーションでも多くの声がかかっていますが、その前の段階、注目されるためにしてきた努力について聞きました。

坂本氏は、「当初は個人投資家から約60億円の資金をお借りしたが、その時点では工場もできておらず、取締役会長の角氏や代表取締役CEOの長崎氏が、夢とコンセプト、そしてラボで作ったものを見せて賛同を得たとのことです。工場ができてからは、工場を案内したり実際に生産した製品を見てもらえるようになったので、提案しやすくなりました。やはり、スペックが全てであり、生産体制があって、少ないロットでも製品があると、大企業にも話を聞いてもらえたり、メディアに取り上げてもらえたりします。まずは頑張って製品を作ることが重要です」と述べました。

慎氏は、チャレンジャーは常につらいと述べた上で、初期の「お金が集まらないと事業ができないけれど、事業内でお金が集まらない」という鶏と卵の問題は、ハードシングスであるとしました。「これを乗り越える方法は、いろいろな本を読んでも特に載っておらず、最終的には気合と根性という感じになることが多いです。慎氏も思いをひたすら語り、賛同者を得てお金を集めていったということでした。やはり、これに一般解はなく、固有解しかありません。できる限りのことを全部やり続けるしかないのでしょう。これは人材に関しても同様で、最初の2〜3年は創業チームより優れた人がなかなか来てくれません。ただ、経験上ひとつだけ、「お礼をする」ことは非常に大事です」と述べました。

森田氏も、「つぶれかけたことが2~3回はありました。そして本当に鶏と卵の問題があり、個人投資家の方に支えられてきました。特に慶應発ベンチャーだったので、慶應大学の「三田会」の方々に事業内容を理解していただき、大いに支援してもらえたことが大きいです」と述べました。また、「素材ベンチャーは製品ができるまでに非常に時間がかかります。いいものを作って世の中にアピールして会社を大きくしていくという考えもありましたが、それを待っていると会社がつぶれかねません。その中で、どんどん発表をしていくことは重要であると感じました。発表のたびにさまざまな方面から反応があったので、絶え間ないPR活動が資金や人材の調達の面で有効です」としました。

右田は最後に、パネリストに対してコメントを依頼しました。坂本氏は、「やらないといけないことはたくさんありますが、資本関係がなくとも大企業の方に相談すると、指導をいただけることもあります。外部の方の力を活用して、速いスピードで規模を大きくしていけるように頑張りたいです」と述べました。

慎氏は、「5年前に創業した時から50カ国1億人と言っていましたが、現在の到達度は0.5%なので、あと200倍です。ここまでのペースでいけば達成できるので、それほど難しくない、やればできると思っています。ただ、目の前に見えているチャレンジが大きく3つほどあります。これらをきちんとクリアして、世界で誰も達成したことのないことをやり遂げて、世界をより良い場所にしていきたいです」と述べました。

森田氏は、「今年からようやく製品を提供できるようになり、まだまだ頑張っていかないといけないフェーズではありますが、タンパク質の材料市場は世界的に見ても非常に盛り上がってきています。ドイツや米国などに競合が出てきていますし、大企業でも研究開発が始まっています。その中でも自社が技術的に一番進んでいると思っていますが、ひたすらアクセルを踏んで、産業分野ではリードをし、社会に還元できるようにしたいと思っています」と述べました。