IPO(企業成長サポート)

(続)2012年IPO市場の概況

2013.03.05
公認会計士 柴 謙一

昨年末の衆議院総選挙で自民党が勝利し、政権を獲得したことにより、景気浮揚策実施に対する期待感からか、株価が上昇するとともに為替相場も円安傾向に振れつつあり、2013年に入ってからも、この傾向が続いています。安倍首相の掲げるデフレ脱却、年2%の経済成長が容易に達成できるものとは考えられませんが、それに向けた施策を打っていくことに対する期待の表れなのでしょうか。
さて、今回は昨年12月に掲載した「2012年 IPO市場の概況」の続編となります。前回は、2012年の新規IPO市場の概観として、新規IPO市場の全体の状況についてお伝えしました。今回は、もう少し掘り下げて検討してみたいと思います。
まず、IPO市場全体については、資金調達総額(公開価格×公開株式数(以下同様))は2011年と比較して飛躍的に大きくなっていますが(12月10日時点で公開価格が決まっている会社では709,245百万円でしたが、結果的に総額734,337百万円となりました。)、このうち663,250百万円は日本航空株式会社1社の資金調達であり、これを除くと2011年と比較して1社当たりの調達金額は縮小している、と前回ご紹介しました。
では、2012年に新規IPOを実現した会社の業種はどうなっていたのでしょうか。図1をご覧いただくと、情報・通信業に属する会社は10社を数え、2011年とほぼ同水準となっていますが、大きく社数が増加しているのはサービス業(2011年4社⇒2012年13社)と小売業(2011年2社⇒2012年7社)です。

図1:新規IPO業種別社数推移
図1:新規IPO業種別社数推移

ここで注目したいのは、小売業に属する会社の新規IPOが大きく増加していることです(参照:表1)。これらの会社のほとんどが直前々期から直前期にかけて増収・増益を実現しており、少しずつではありますが、個人消費マーケットが回復基調になってきたことの反映と考えられます。
2011年の4社から13社と大きく増加しているサービス業の中には、保育事業が1社、介護サービスもしくは介護施設運営が2社入っており、いずれも増収・増益を実現しています(参照:表2)。これらの会社は、待機児童や少子高齢化といった社会問題への対応という時流に沿って事業展開をしてきた結果でしょうか。また、地盤調査を行う会社もIPOを実現しており、近年の地盤調査の需要増加が大きな追い風になったと思われます。
いずれの会社も各社の強みを生かし、市場の機会をうまく捉えて事業を展開してきた結果だと思います。
また、話題性という意味では、12月20日に東京証券取引所マザーズに上場した株式会社ユーグレナ(業種:食料品)は、微細藻ユーグレナ(和名:ミドリムシ)を活用した機能性食品の製造・販売およびバイオ燃料・環境技術の研究開発などを事業目的に掲げている会社で、食糧問題やエネルギー問題などの解決に大きな期待が持てるとして各メディアに取り上げられています。

表1:2012年新規IPO(小売業)
No 上場日 会社名 市場名 事業内容
1 2月22日 マックスバリュ九州(株) JQS 九州地区における食品スーパーマーケット「マックスバリュ」の運営など
2 3月6日 ティーライフ(株) JQS 自社で企画した健康茶、健康食品、化粧品などの通信販売事業
3 6月22日 (株)ハピネス・アンド・ディ JQS インポートブランド品を中心としたセレクトショップ「ブランドショップハピネス」運営
4 9月25日 (株)エー・ピーカンパニー マザーズ 主に外食店舗の販売事業および地鶏や鮮魚などの生産流通事業
5 11月12日 (株)ありがとうサービス JQS 「HARDOFF」および「BOOKOFF」のFC店舗運営を行うリユース事業および「モスバーガー」などのFC店舗の運営などを行うフードサービス事業
6 12月14日 チムニー(株) 東証2部 居酒屋を中心とした飲食店の運営およびフランチャイズチェーン展開
7 12月20日 シュッピン(株) マザーズ インターネットなどにおける、中古品の買い取りと販売および新品の販売
表2:2012年新規IPO(サービス業)
No 上場日 会社名 市場名 事業内容
1 3月27日 (株)ベクトル マザーズ 企業の戦略的広報活動を支援するPR事業など
2 4月20日 (株)ウチヤマホールディングス JQS 介護事業、カラオケ事業および飲食事業など
3 4月25日 こころネット(株) JQS 葬祭事業、石材卸売事業、石材小売事業、婚礼事業、生花事業、互助会事業およびこれらに付随するその他の事業
4 4月26日 (株)ユニバーサル園芸社 JQS 法人向けの観葉植物の貸し出し、造園工事、園芸関連商品および造花の販売などの事業
5 4月27日 (株)チャーム・ケア・コーポレーション JQS 施設介護を中心とした介護サービス事業など
6 6月20日 日本エマージェンシーアシスタンス(株) JQS 医療機関紹介、緊急搬送などの医療アシスタンスサービスの提供事業、ライフアシスタンスサービス提供事業
7 7月13日 (株)アクトコール マザーズ 水回り・電気・ガス・鍵など、日常生活におけるトラブル全般の解決サービス
8 8月7日 サクセスホールディングス(株) JQS 保育事業
9 9月28日 (株)メディアフラッグ マザーズ 店舗・店頭マーケティングに特化した覆面調査事業、営業アウトソーシング事業、システム事業など
10 10月19日 トレンダーズ(株) マザーズ ソーシャルメディアマーケティング事業、女性のためのライフスタイル支援メディア事業
11 11月15日 キャリアリンク(株) マザーズ BPO、CRM分野における人材派遣を中心とした人材サービス事業
12 12月6日 (株)IBJ JQS ソーシャル婚活メディアを中心とした各種婚活サービスの運営およびライフデザインメディア事業など
13 12月21日 地盤ネット(株) マザーズ 住宅地盤の調査、解析および地盤品質証明サービスの提供

さて、全体の新規IPOの状況は以上ですが、新興企業向け市場における新規IPOはどのような状況だったのでしょうか。
まず、新規IPO企業の社数ですが、2010年から2012年にかけての推移を見てみると、大きく社数が増加しています(参照:表3)。

表3:新興企業向け市場の社数の推移
市場 2010年 2011年 2012年
JQS(Neoを含む) 10社 16社 14社
マザーズ 6社 11社 23社
福証Q-Board 1社
札証アンビシャス 1社
合計 16社 27社 39社

業種別に見てみると、表4のとおりです。

表4:業種別
業種/年度 2010年 2011年 2012年
医薬品 3社 2社
小売業 1社 2社 6社
サービス業 3社 3社 13社
情報・通信業 4社 9社 10社
食料品 1社 2社
倉庫運輸関連業 1社
保険業 1社 1社
その他 7社 9社 4社
新興市場合計 16社 27社 39社
(注)2010年および2011年に新規上場がない業種(卸売業、金属製品、証券・商品先物取引業、水産農林業、精密機器、電気機器、不動産業およびその他製品)は「その他」にまとめて記載しています。

この新規IPO会社数を業種別社数割合の年度推移で見てみると、図2のとおりです。

図2:新興企業向け市場新規IPO社数推移
図2:新興企業向け市場新規IPO社数推移

2012年は、社数こそIPO全盛期には及ばないものの、新規IPOを達成した会社の業種が増えてきています。これは、リーマンショック以降、少しずつかもしれませんが、さまざまな業種で会社の業績が回復しつつあることの表れではないでしょうか。
続いて、新興企業向け市場における資金調達総額についてです。2012年は2010年と比べて新規IPO会社数は多いのですが、調達金額自体は下回っています(参照:表5および図3)。

表5:資金調達総額の推移
(百万円)
市場 2010年 2011年 2012年
JQS(Neoを含む) 16,889 17,846 11,856
マザーズ 29,652 14,478 32,766
福証Q-Board 90
札証アンビシャス 223
合計 46,541 32,324 44,935
図3:新興企業向け市場の業種別調達金額推移
図3:新興企業向け市場の業種別調達金額推移

これについては、前回、日本航空株式会社のような巨大企業を除くと1社当たり平均資金調達額は減少していると紹介しましたが、新興企業向け市場においても同様の結果となりました。1社当たり平均資金調達総額は、2012年は前年より増加していますが、2010年より大幅に減少しています。もちろん、該当する年度で大きなIPOがあると金額自体は増加しますので、一概には言えませんが、新興企業向け市場においても完全に回復したといえる状況ではなさそうです。
2010年は新規IPO会社数こそ少ないものの、1stホールディングス株式会社(5,478百万円調達)および株式会社テラプローブ(9,600百万円調達)といった、全体からすると大きな資金調達を行った会社がありました。それに対して2012年はライフネット生命保険株式会社が10,772百万円を調達しましたが、その他は比較的調達金額が少なかったことが、1社当たりの平均資金調達額が低下した理由と考えられます(参照:表6および表7)。

表6:資金調達総額1社平均
(百万円)
市場 2010年 2011年 2012年
JQS(Neoを含む) 1,689 1,115 847
マザーズ 4,942 1,316 1,425
福証Q-Board 90
札証アンビシャス 223
新興市場全体 2,909 1,197 1,152
表7:1社当たり平均資金調達額(業種別)
(百万円)
業種/年度 2010年 2011年 2012年
医薬品 3,889 2,730
小売業 504 792 848
サービス業 659 373 698
情報・通信業 6,620 582 1,038
食料品 572 647
倉庫運輸関連業 1,432
保険業 1,712 10,773
その他 2,267 1,349 359
新興市場全体 2,909 1,197 1,152

2013年は2月21日の段階ですでに4社が上場し、さらに8社が上場承認を受けています。昨年より年初の立ち上がりが早い印象を受けますが、今年はどのような結果になるのでしょうか。



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