IPO(企業成長サポート)

関連法令等の改正

2018.04.20
企業成長サポートセンター
公認会計士 今井 春夫

1. 「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」の公表

JPXグループの日本取引所自主規制法人(以下、「自主規制法人」)は2018年3月30日「上場会社における不祥事予防のプリンシプル」(以下、不祥事予防プリンシプル)を公表しました。これは、近年、上場会社における多くの不祥事が報道され、不祥事を行った企業の社会的な評価や企業価値を毀損するとともに、それらの企業が上場する株式市場自体の信頼性を損なうこととなりかねないとして、状況の改善を目指したものです。自主規制法人は今回不祥事予防プリンシプルを公表していますが、以前には2016年2月に「上場会社における不祥事対応のプリンシプル」(以下、不祥事対応プリンシプル)を策定し、実際に不祥事に直面した上場会社の速やかな信頼回復と確かな企業価値の再生に向けた指針も提示しています。今回の不祥事予防プリンシプルの公表により、企業の不祥事に関する事前・事後の取組みの指針が示された形となります。

2. 策定の背景

2016年2月に不祥事対応プリンシプルが策定されましたが、それ以降も企業における不祥事の報道を目にする機会は残念ながら続いています。このような現状において、不祥事が生じた後の適切な対応だけではなく、不祥事の発生そのものを予防する取り組みを上場企業がより積極的に行う事の必要性が高まったといえます。そのため、実際の不祥事が生じた後の対応を取り扱う不祥事対応プリンシプルとともに、不祥事の発生そのものを予防する取り組みを扱う不祥事予防プリンシプルを策定することで、これらのプリンシプルを車の両輪として上場企業が不祥事対応に実効性を持って取り組む環境を整えているといえます(表1)。

一方、不祥事予防プリンシプルにおける各原則は、上場会社各社が自社の実態に応じた予防体制を構築するためのプリンシプル・ベースの指針となっています。また、コーポレート・ガバナンス・コードと異なり、上場会社が不祥事予防プリンシプルの充足度が低い場合であっても、上場規則等の根拠なく自主規制法人が当該上場会社を処分するものではない、としています。各原則の実践にあたり、上場会社の経営者はリーダーシップの発揮を強く求められますが、合わせて上場会社を助言する立場にある法律専門家や会計専門家、企業のステークホルダーによる規律付けも期待されている点も特徴の一つです。

3. プリンシプルを構成する6つの原則

不祥事予防プリンシプルは6 つの原則から構成されています(表1)。

原則1では、問題事例として旧来の慣行の継続による違反行為の放置、内部通報制度における告発の不適切な取扱いを取り上げ、企業自身による自社の実態の正確な把握を求めています。不祥事対応における企業の弱点や不正の兆候について、批判的な自己検証が求められています。

原則2では、問題事例として、マネジメントによる実力とかけ離れた利益目標の設定とそれに縛られ現場が不祥事を起こすケースや、適切な監査・監督機関を組織内に配置しなかったことによるケースを取り上げています。実力に見合った目標設定とその実行、モニタリング、改善アクションといったいわゆるPDCA を組織の各階層において実行することが求められています。

原則3では、問題事例として経営者による利益目標や生産目標が中間管理層や現場へ悪影響を与えているケース、また現場の自主性を過度に尊重することによる経営者と現場とのコミュニケーションギャップが不祥事を引き起こすケースを取り上げています。経営者と中間管理層及び現場との双方向のコミュニケーションを重視している姿勢の明示、経営者の姿勢について中間管理層への浸透、現場への定着によるコンプライアンス意識の向上といった循環が求められています。

原則4では、問題事例として不祥事事例が発生した後の再発防止策の不徹底のケースを取り上げています。不祥事の芽が常に存在しているとの前提に立ち、予防の観点から不正の芽を早期に把握し迅速な対処を行うことが求められています。

原則5では、問題事例として、海外子会社での不祥事が本社へ報告されないケースや買収した会社について買収後適切に管理体制を構築しなかった事例が取り上げられています。海外子会社や買収により取得した子会社は、地理的距離や言語、文化、慣習、各種制度の違いがあるため、特に注意を払うことが求められています。

原則6では、問題事例として企業グループ外の取引先、アウトソーシング先についての管理が不十分であるケースを取り上げています。企業はサプライチェーンにおける役割を認識するとともに、受託者へのモニタリングや取引先やアウトソーシング先での有事における説明責任を果たすことが求められています。

4. 上場準備会社の対応

今回のプリンシプルは、上場会社を対象としたものですが、上場準備会社においても体制の整備が不可欠です。主幹事証券会社及び証券取引所等による実質基準に基づいた上場審査への対応において、求められる様々な管理体制の整備と運用を行っていくうえで、不祥事の発生は上場時期の延期または上場自体の断念といった事態につながる恐れも否定できません。また、不祥事への対応はマイナスの面が注目されがちですが、適切な対応は長期的な視点では企業価値の向上に資するものと考えます。

表1 不祥事への対応

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表1 不祥事への対応