IPO(企業成長サポート)

関連法令等の改正

2019.07.23
EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
公認会計士 今井 春夫

1. 「監査基準の改訂について(公開草案)」の公表

企業会計審議会監査部会は、令和元年(2019)年5月31日に「監査基準の改訂について(公開草案)」(以下、「改訂監査基準案」)、「中間監査基準の改訂について(公開草案)」(以下、「改訂中間監査基準案」)及び「四半期レビュー基準の改訂について(公開草案)」(以下、「改訂四半期レビュー基準案」)を公表しました。

近年我が国では、不正会計事案などを契機に監査の信頼性を確保する取組みが求められており、その一つとして財務諸表利用者に対する監査に関する説明・情報提供の充実が指摘されています。これに対応するため、監査報告書において「監査上の主要な検討事項」の記載を求める昨年の監査基準の改訂に続き、監査報告書における意見の根拠の記載や監査人の守秘義務について監査基準を改訂する案が取り纏められました。また昨年及び今回の監査基準の改訂を踏まえて中間監査基準及び四半期レビュー基準についても改訂案が取り纏められました。

実施時期は、関係法令において所要の整備等を行った上で、改訂監査基準案は、令和2(2020)年3月決算に係る財務諸表の監査から、改訂中間監査基準案は令和2(2020)年9月30日以後終了する中間会計期間に係る中間監査から、改訂四半期レビュー基準案は、令和2(2020)年4月1日以後開始する事業年度に係る四半期財務諸表の監査証明から適用することを提案しています。

2. 改訂の背景について

改訂監査基準案は、監査人による監査に対する説明や情報提供への要請が高まる中、限定的適正意見、意見不表明又は不適正意見など、特に無限定適正意見以外の場合における監査報告書の意見の根拠の記載に関し財務諸表利用者の視点に立ったわかりやすく具体的な説明がなされていない事例の存在という指摘や、監査人の守秘義務に関し、監査人が財務諸表利用者に対し自ら行った監査に関する説明を行うことは、監査人の守秘義務が解除される正当な理由に該当するとの理解が関係者間に浸透していないため、財務諸表利用者に対して説明を行う上での制約になっているという指摘に対応したものです。

したがって、今回の主な改訂点は、この監査報告書の意見の根拠の記載に関するものと、監査人の守秘義務となっています。

3. 主な改訂点

(1) 監査報告書の意見の根拠の記載について

無限定適正意見以外の場合、監査人の判断の背景や根拠となった事情は、財務諸表利用者の意思決定に対して重大な影響を与える可能性があります。現行の監査基準では、無限定適正意見以外の場合の監査報告書において、意見の根拠の区分に以下の事項をそれぞれ記載しますが、限定付き適正意見を表明する場合には、監査報告書の意見の根拠の区分に記載する「除外した不適切な事項及び財務諸表に与えている影響」において、不適正意見ではなく限定付き適正意見と判断した理由についても説明がなされることを想定しています。

  • 意見に関する除外により限定付き適正意見を表明する場合には、除外した不適切な事項及び財務諸表に与えている影響
  • 不適正意見の場合には、財務諸表が不適正であるとした理由
  • 監査範囲の制約により限定付適正意見を表明する場合には、実施できなかった監査手続及び当該事実が影響する事項
  • 意見を表明しない場合には、財務諸表に対する意見を表明しない旨及びその理由

しかし、現行の監査報告書事例において、特に限定付き適正意見の場合に関し、なぜ不適正意見ではなく限定付き適正意見と判断したのかについての説明が不十分であるとの指摘があることから、監査基準上、意見の根拠の区分の記載事項として、意見の除外により限定付き適正意見を表明する場合には、除外した不適切な事項及び財務諸表に与えている影響とともに、また、監査範囲の制約により限定付き適正意見を表明する場合には、実施できなかった監査手続及び当該事実が影響する事項とともに、これらを踏まえて除外事項に関し重要性があるが広範性はないと判断し限定付き適正意見とした理由を記載しなければならないことを明確にする提案をしています。

(2) 監査人の守秘義務について

近年財務諸表において会計上の見積りを含む項目の増加など、監査の重要性が高まっているなか、具体的な監査上の対応や監査人の重要な判断に関する説明・情報提供の充実が要請されていることから、改訂監査基準ではこの社会的要請の高まりを踏まえた守秘義務のあり方を提案しています。

公認会計士法において守秘義務は、職業的専門家として職業倫理上当然の義務として定められています。そして同法第27条において「業務上取り扱ったことについて知り得た秘密」を公認会計士の守秘義務の対象として規定しています。

一方、監査基準においても守秘義務は、監査人が企業から監査に必要な情報の提供を受けるために不可欠なものであり、監査を受ける企業との信頼関係を確保したうえで、監査業務を有効かつ効率的に遂行する上で必要な義務として定められています。しかし、我が国においては、一般的に、企業に関するあらゆる未公表の情報について守秘義務の対象になり得るとする傾向があると指摘されており、公認会計士法上の守秘義務との対応が必ずしも明確ではありませんでした。このため、改訂監査基準における守秘義務の規程については、公認会計士法との整合を図るため秘密を対象にすることを明確にする提案をしています。

なお上記提案にあたり、監査人が自ら行った監査に関する説明を監査報告書に記載することは、守秘義務が解除される「正当な理由」に該当するものとされていますが、その具体的記載については、記載することによってもたらされる公共の利益と企業または社会の不利益との比較衡量の上で決定すべきとし、今後具体的な事例の積み重ねとともに関係者間で共通の理解を確立する必要がある点を指摘しています。

(3) 改訂中間監査基準案及び改訂四半期レビュー基準案

改訂監査基準と同様に中間監査報告書及び四半期レビュー報告書の記載順序を変更するとともに、意見または結論の根拠の区分を設けることを提案しています。また、経営者の責任について経営者に監査役等を含むことや継続企業の前提に関する評価や開示に関する経営者の責任と監査人の対応をそれぞれ明確にすることを提案しています。

4. 監査対象会社(被監査会社)の対応

監査に対する情報提供機能の充実を求める社会的な要請を踏まえた今回の監査基準の改訂は、上場会社等の2021年3月期の財務諸表の監査から適用される「監査上の主要な検討事項」と同様に自社に関する情報開示の充実が監査報告書を通じて行われることが期待されるとともに、その過程における会社と監査人との協議を通して、自社の財務諸表利用者の観点からより有用な情報提供のあり方を改めて検討する機会となりうるものと考えられます。