IPO(企業成長サポート)

関連法令等の改正

2019.10.30
EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
公認会計士 安藤 正伸

1.「日本公認会計士協会」が2019年5月27日付で「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」を公表

日本公認会計士協会(会計制度委員会)は、2019年5月27日付で会計制度委員会研究報告第15号「インセンティブ報酬の会計処理に関する研究報告」(以下、「本研究報告」という。)を公表しています。

本研究報告は、多くのインセンティブ報酬スキームにおける会計処理が会計基準等で明らかにされていない現状を踏まえ、インセンティブ報酬に係る会計上の取扱いに関する現時点における考え方を取りまとめたものであり、現行の会計基準で定められている事項の概要、インセンティブ報酬に関する会計上の論点(総論及び各論)、会計上の論点と会社法の関係について考察がなされています。そのため、本研究報告において示されている会計処理等は、あくまでも現時点における一つの考え方を示したにすぎず、実務を拘束するもの、実務上の指針として位置づけられるものでもありません。

なお、本研究報告は、本文と付録から構成されており、本文については、現行の会計基準で定められている事項の概要を記載した上で、インセンティブ報酬に関する会計上の主要な論点について考察を行っています。付録においては、インセンティブ報酬の一般的なスキームについて、スキーム別に考察を行っています。

2. 本研究報告の概要

(1) 現行の会計基準で定められている事項の概要

インセンティブ報酬のうち、企業会計基準委員会(ASBJ)が公表する企業会計基準等において以下の会計処理が明らかにされており、これらの会計処理の概要が記載されています。

  • 株式報酬型ストック・オプション(いわゆる1円ストック・オプション)
  • 業績連動型ストック・オプション(無償発行のもの)
  • (従業員向けの)株式交付信託及び権利確定条件付き有償新株予約権

(2) インセンティブ報酬に関する会計上の論点(総論)

  • 「インセンティブ」と報酬の関係
    「インセンティブ」の概念、「報酬」の概念について考察がなされるとともに、本研究報告で用いる「インセンティブ」及び「報酬」が整理されています。また、これらの整理を踏まえ「インセンティブ」と「報酬」の関係について検討がなされています。
  • 費用計上額の測定日(事後的な時価の見直しの要否)
    インセンティブ報酬の費用計上額の測定に際して、オプションや株式のいつの時点の時価を用いるか、という点について費用計上額に焦点を当てた検討及び発行されるオプション又は株式に焦点を当てた検討がなされています。

(3) 「自社株式オプション型報酬」と「自社株型報酬」の会計処理の基本的な考え方

自社株式オプション型報酬と自社株型報酬の会計処理を比較する形で、以下の点における考え方が整理されています。

  • スキームの相違
  • 費用計上額
  • 費用の認識
  • 費用計上額の相手勘定
  • 株式交付時の会計処理
  • 失効時の会計処理

(4) 「業績連動型報酬」における会計処理上の概念と課題

業績連動型報酬は職務執行の対価として費用処理することが適当である旨、及びストック・オプション等に関する会計基準(以下、「ストック・オプション会計基準」という)においては、業績の達成又は不達成による付与数の変動は、その失効数を見積もることにより調整されることが記載されています。また、自社株報酬においても、ストック・オプションと同様に、業績未達による失効数を織り込んだ交付数で調整して会計処理を行うことが適切であるとの考えが記載されています。

3. 会計上の論点と会社法の関係

法務省・法制審議会が2017年4月に立ち上げた会社法制(企業統治等関係)部会で、会社法改正に向けた議論を行っており、取締役の報酬のうち金銭でないもの(会社法361条第1項第3号)に関して、当該株式会社の株式を引き受ける者の募集については、募集株式と引換えに金銭の払込みを要しない旨を募集事項として定めることができるものとすること等が検討され、要項が決定していることが記載されています。

この点について、現状では、自社株型報酬について、資本充実の原則との関係から、役員等に金銭報酬債権を付与し、当該債権を現物出資するスキームによる実務対応が取られていますが、会社法の改正動向を踏まえて、資本会計上の論点について会計処理の考え方を整理することが必要であるとの考察がなされています。

4. インセンティブ報酬に関するその他の会計上の論点(各論)

(1) 費用化の期間

規程上や契約等の名目的なサービス提供期間を単純に費用化の期間とするのではなく、その実態を適切に判断する必要があるとされています。この実態の判断に際しては、報酬制度において設けられている勤務対象期間に相当する期間や、譲渡制限付株式を用いたスキームにおいては、譲渡制限期間も判断の一つの要素となり、また、業績評価期間、権利不確定の条件や役員を対象とする場合にはその任期などとすることも考えられるとされています。

(2) 費用総額の測定

対価が現金の場合には、当該現金支出額で費用計上額が測定され、対価が株式である場合には、契約成立時点(ストック・オプションにおける「付与日」時点)で、将来の株式の交付(譲渡制限の解除を含む。)と将来の追加的な労働等サービスの提供が等価で交換されていると考えられるため(ストック・オプション会計基準第49項)、契約成立時点の「時価」で費用総額を測定することになると考えられるとされています。

なお、ここでいう「時価」とは、契約成立時点の「株価」のみを指すのではなく、等価交換の対象となった「対価の時価」を、一定の評価技法をもって算定するケースを含むと考えられる旨が示されています。

(3) 事後的な時価変動の反映の要否

対価が現金の場合には、当該現金支出額で費用計上額が測定されることから、将来の現金支出額の最善の見積りとして、株価を参照する報酬制度の場合には、株式ないし株式オプションの時価変動を反映させることが考えられるとされています。一方、対価が株式の場合にも、ストック・オプションと同じく、契約成立時点(ストック・オプションにおける「付与日」時点)以後の時価の変動は労働等サービスの価値とは直接的な関係を有しないと考えられるため、時価の変動を反映しない処理が会計的には適切と考えられる旨が示されています。

(4)株式型のインセンティブ報酬における未公開企業の取扱い

株式型のインセンティブ報酬を発行する場合、報酬額は株価×株数で算定されますが、発行企業が未公開企業である場合においても、合理的な見積りができるのであれば、可能な限り株式価値を見積もって報酬として計上することが望ましいとされています。

未公開企業で市場価格(株価)を参照できない場合は、一般的な株価評価方法としてDCF法などの手法により株価を算定し、それらの評価額を使用して株式報酬額を算定することが考えられる旨が示されています。

(5)税効果会計適用上の論点

インセンティブ報酬において、損金算入時期が対象勤務期間の終了時期になるような形態のものは、税効果会計の適用対象となるかどうか検討する必要があるとの考えが示されています。

また、インセンティブ報酬の特有の論点として株式交付信託においては、税務上の損金算入の対象となる株式の評価時期が、対象勤務期間の終了のタイミングとなり、費用計上時の株価(費用計上額)と損金算入時の株価(損金算入額)が異なるケースが考えられ、この場合の具体的な税効果会計の適用方法の考え方が示されています。

(6)開示上の論点

  • 1株当たり利益への影響
    事前交付型譲渡制限付株式(リストリクテッド・ストック)と業績連動発行型パフォーマンス・シェア(パフォーマンス・シェア・ユニット)を取り上げて、(潜在株式調整後)1株当たり当期純利益に与える具体的な影響について考察がされています。
  • その他の開示上の論点
    ストック・オプションに関する注記、関連当事者取引に関する注記、重要な後発事象に関する注記、有価証券報告書のコーポレート・ガバナンスの状況の開示、会社法事業報告における役員報酬の開示に関する論点に対する考えが示されています。

5. 上場準備会社の対応

本研究報告は、経済産業省から公表された「『攻めの経営』を促す役員報酬-企業の持続的成長のためのインセンティブプラン導入の手引-(2019年3月時点版)」を背景に、現在の事業環境で次々と生み出される多くのスキームに対応した会計基準等が明記されていないことを発端とし、会計処理の実情や基本的な考え方を整理したものです。

そのため、今後解決していくべき会計上の課題も残されています。上場準備会社においては、特に多様な報酬スキームが生み出されることが想定されますので、本研究報告を基に現状あるいは将来的に検討している報酬スキーム内容についてその実態を今一度確認することが必要になる場合があります。また、上場後を想定し適切な時期に適切な内容の開示ができる体制も併せて整備することで、中長期的に企業価値向上に資するものになると考えられます。