IPO(企業成長サポート)

関連法令等の改正

2020.01.28
EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
公認会計士 髙橋 朗

1.「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」の公表

企業会計基準委員会(ASBJ)は、2019年10月30日に企業会計基準公開草案第68号「会計上の見積りの開示に関する会計基準(案)」(以下、「本公開草案」という)を公表しています。

本公開草案公表の背景としては、国際会計基準審議会(IASB)が2003年に公表した国際会計基準(IAS)第1号「財務諸表の表示」(以下「IAS第1号」という。)第125項において開示が求められている「見積りの不確実性の発生要因」について、財務諸表利用者にとって有用性が高い情報として日本基準においても注記情報として開示を求めることを検討するよう要望が寄せられた事を受けて、企業会計基準委員会(ASBJ)において見積りの不確実性の発生要因に係る注記情報の充実について審議した結果を公開草案としてまとめたものです。

2. 本公開草案の概要

(1) 会計上の見積りの開示目的(本公開草案第14項及び第15項)

会計上の見積りは、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的な金額を算出するものですが、財務諸表に計上する金額に係る見積りの方法や、見積りの基礎となる情報が財務諸表作成時にどの程度入手可能であるかは様々であり、その結果、財務諸表に計上する金額の不確実性の程度も様々となります。このため、当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目における会計上の見積りの内容についての情報は、財務諸表利用者にとって有用な情報であると考えられます。ここで、個々の会計基準を改正するのではなく、会計上の見積りについて包括的に定めた会計基準において原則(開示目的)を示し、開示する具体的な項目及びその記載内容については当該原則(開示目的)に照らして判断することを企業に求めることを提案しています。

(2) 開示目的の内容(本公開草案第4項)

当年度の財務諸表に計上した金額が会計上の見積りによるもののうち、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い項目における会計上の見積りの内容について、財務諸表利用者の理解に資する情報を開示することを目的とするとされています。

(3) 開示する項目の識別(本公開草案第5項及び第19項から第21項

(項目の識別における判断)
翌年度の財務諸表に及ぼす影響の金額的な大きさとその発生可能性を総合的に勘案して企業が判断することとされていますが、項目の識別について、判断のための詳細な規準は示さないこととされています。

(識別する項目)
当年度の財務諸表に計上した金額に重要性があるものに着目して開示する項目を識別するのではなく、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高いものに着目して開示する項目を識別することとされており、識別する項目は、通常、当年度の財務諸表に計上した資産及び負債であるとされています。なお、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合には、当年度の財務諸表に計上した収益及び費用、並びに会計上の見積りの結果、当年度の財務諸表に計上しないこととした負債を識別することを妨げないとしています。また、注記において開示する金額を算出するにあたって見積りを行ったものについても、翌年度の財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性が高い場合には、これらを識別することを妨げないとしています。

(4) 会計上の見積りの開示の対象とした項目名の注記(本公開草案第6項及び第24項)

識別した項目について、会計上の見積りの内容を表す項目名を注記することを求めています。また、当該注記は独立の注記とし、識別した項目が複数ある場合には、それらの項目はまとめて記載することを提案しています。

(5) 項目名に加えて注記する事項(本公開草案第7項及び第8項並びに第25項から第28項)

識別した項目のそれぞれについて、項目名とともに、当年度の財務諸表に計上した金額、会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報を注記することを提案しています。その他の情報としては、当年度の財務諸表に計上した金額の算出方法、当年度の財務諸表に計上した金額の算出に用いた主要な仮定、翌年度の財務諸表に与える影響が例示として挙げられており、注記する事項は開示目的に照らして判断することとされています。

(6) 個別財務諸表における取扱い(本公開草案第9項)

連結財務諸表を作成している場合の個別財務諸表における取扱いとして、識別した項目ごとに、当年度の個別財務諸表に計上した金額の算出方法に関する記載をもって、会計上の見積りの内容について財務諸表利用者の理解に資するその他の情報に代えることができることを提案しています。また、この場合、連結財務諸表における記載を参照することができることを併せて提案しています。

3. 適用時期

本公開草案では、2021年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することを提案しています。

また、公表日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することができることを提案しています。

4. 上場準備会社の対応

本公開草案では、会計上の見積りには不確実性を伴い、不確実性の程度は企業の置かれている状況等により様々であるとした上で、会計上の見積りの算出方法、算出に用いた主要な仮定、翌年度の財務諸表に与える影響等を注記する事は、財務諸表利用者が財務諸表を理解するために有用であるとしています。

上場準備会社においては、事業環境の変化が大きく、将来の事業計画を用いた見積り(例えば、繰延税金資産の回収可能性の検討、減損の判定等)に特に不確実性を伴う事が想定されます。会計上の見積りについては、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて合理的に算出する事が最も重要ですが、注記項目についても慎重に判断を行う必要があります。また、上場を想定して適切な開示ができる体制を早期に整備する事も重要であると考えます。