ビジネスと人権・ニュースレター 第1号  人権報告フレームワークの公表

2015年5月1日 PDF
カテゴリー ビジネスと人権

新しい人権報告フレームワーク

2011年6月に、国連人権理事会は企業活動が人権に悪影響をもたらすリスクを予防し、かつ、こうしたリスクに対処するための国際基準「ビジネスと人権に関する指導原則(*1)」を全会一致で承認しました。この指導原則は、人権を保護する国家の義務、人権を尊重する企業の責任、ビジネスに関連した人権侵害の被害者に対する救済措置へのアクセスを明確に定めています。多くの大手グローバル企業が、社内のプロセスをこの指導原則の要請に合わせるための改革に着手しています。

2015年2月には、企業が人権をどのように尊重しているかを報告するための世界初の包括的ガイダンス「人権報告フレームワーク」がロンドンで公表されました。このフレームワークは8つの包括的質問(と各質問に付随する1つまたは複数の補助質問)、および4つの情報要件で構成されています。企業の「報告疲れ」への対処として、各質問は、GRIガイドライン第4版や統合報告フレームワークなどのイニシアチブと相互参照が付されています。本フレームワークは、企業に自らの「顕著な」人権への影響、すなわち最も深刻で潜在的な負の影響のリスクにさらされている人権に焦点を合わせることを求めています。まずは、さまざまな業種に属する5つの企業(ユニリーバ、エリクソン、H&M、ネスレ、ニューモント)が本フレームワークを試験的に導入し、2015年中にはさらに多くの企業が導入する見込みです。

Reporting Framework and  Implementation Guide

次のステップとして、2016年初頭には保証フレームワークが公表される予定です。現在、EY CCaSSのメンバーが同フレームワークの策定プロセスに参画しています。

*1 Guiding principles on business and human rights (PDF)(1,110KB)

*2 Reporting Framework and Implementation Guide は以下のURLで入手可能です。

www.ungpreporting.org

人権報告フレームワークが日本企業に及ぼす影響

CSR分野での実績をアピールするという点で、多くの日本企業は他国に若干の後れを取っています。一般に、日本企業は実施途中のことについて公に発言することを嫌い、プロジェクトが完了し、高い成果が達成されてから情報を開示することを好むという意見がよく聞かれます。

しかし、企業の「透明性」や「ベストプラクティスの共有」に対するニーズはますます国際的な注目を集めており、公開されている情報に基づいて企業を格付けする市民社会のイニシアチブも急増しています。消費者と長期的投資家は、企業が人権の尊重という責任をどのように果たしているのかについて、より詳細な情報を求めるようになっています。人権報告フレームワークを支持している67の機関投資家の運用資産総額は、実に3兆9100万ドルに上ります。こうした状況に鑑み、多くの企業は、実施途中のことを含めてさらなる情報を開示することが、自社の利益になると考えるようになっています。

新しい報告フレームワークの要諦は「継続的改善を示す」ことにあります。本フレームワークの報告原則は、人権の尊重は「完了したと報告できるような、有限のプロセスではない」と明言しています。本フレームワークは、すべての基準を満たす報告をすぐに実行できる企業は限られていることを述べた上で、「ビジネスにおける人権問題に着手した企業であれば、必ず達成できるように設計された」12の質問を最低要件として定め、「すべての補助質問に回答し、長期的に対応の質を改善していく」ことを奨励しています。

このようなフレームワークが登場し、さらに必要な支援が提供されるなら、日本企業は国内で展開されているすばらしい取組みに必ずやスポットライトを当てることができるでしょう。

チームメンバーのご紹介: 名越正貴

CCaSSチームのメンバーをご紹介します。今月ご紹介するのは、CCaSS東京チームのマネージャー、名越正貴です。

名越は、プロジェクト管理に加え、労働、人権、サステナビリティに関する調査研究、企業における「人権デューデリジェンス」の仕組み構築・実施支援を行っており、国際的にも認知された「ビジネスと人権」に関するエキスパートです。EYに入所する前は外務省のアドバイザーとして活躍し、2010年から2014年は、スイスにある「在ジュネーブ国際機関日本政府代表部」に勤務しました。ジュネーブでは、日本政府の人権外交・政策立案に携わり、人権分野の国際ルール作りに関する多国間の国際交渉を数多く経験した他、主にアジアおよび中東地域の政治・人権・社会情勢の分析等も担当しました。「ビジネスと人権に関する指導原則」をめぐる国連の議論の場では、一貫して日本政府代表を務め、現在も、各国政府・国際機関・企業・市民社会関係者と連携しつつ「ビジネスと人権」に関する国連を含む国際的議論の最前線で活動しています。ロンドン大学の国際人権修士号を持っており、日・英・中・仏語が堪能です。

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