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ビジネスと人権・ニュースレター

第2号 【人権に関する開示と保証のフレームワーク】

6月にドイツで開催されたG7サミットの首脳宣言は、人権の尊重にコミットし、世界的なサプライチェーンにおいては労働者の権利や環境保護を促進するため、国連ビジネスと人権に関する指導原則(以下、指導原則)に沿った国別行動計画の策定や、企業による人権デュー・デリジェンスの実施し透明性や説明責任を向上することを要請しています。

こうした人権尊重の国際的な流れは、前号でご紹介した2015年2月公表の"Human Rights Reporting Framework"(以下、「人権報告フレームワーク」)に従って、企業が指導原則に基づいた人権に関する活動を開示することによって、一層促進されていくものと考えられます。また現在RAFI(*1)では、この人権に関する開示に対して保証を提供するためのフレームワーク(以下、「人権保証フレームワーク」)が、2016年のリリースに向けて議論されています。

*1 RAFI (Human Rights Reporting and Assurance Frameworks Initiative):
Shift(指導原則に関する主導的役割を果たしている専門組織)とMazars(監査、会計等のプロフェッショナルファーム)が中心となり、国際的なマルチステークホルダー形式で指導原則に基づいた報告と保証フレームワークを開発するプロジェクト

「人権報告フレームワーク」の導入状況

エリクソン社は、人権に関する開示・報告の枠組みである「人権報告フレームワーク」を適用した初めての報告書を、4月に公表しました。また、パイロット導入企業のユニリーバは最初の報告書を今夏に発行する予定です。早期導入企業であるH&M、Nestle、Newmontの3社も、Shiftと直接協力しながら人権報告フレームワークを2015年の報告に適用することを目指しています。そのほかすでに30社以上が、外部報告プロセス、あるいはまず内部の人権マネジメントシステムの改善において、実際に人権報告フレームワークを使用しているとShiftは伝えています。

こうした動きのねらいは、法的な要件よりも前に、リーダー企業が率先して取り組みその内容を開示・共有することで、人権尊重の意識や活動を浸透・定着させることにあります。指導原則の条約化の動きもあることから、開示を通じて企業の取組みを広く認知させることで、指導原則を早期に実効性あるものにしていくねらいがあると考えられます。

また、一部の証券取引所やSRI等も、この人権に関する開示のフレームワークに興味を示していることから、将来的に開示のスタンダードになっていくことも想定されます。

「人権保証フレームワーク」の開発

「人権報告フレームワーク」の公表に続き、現在、RAFIでは「人権保証フレームワーク」の策定に向けて、様々なステークホルダーを巻き込んだ議論が行われています。2015年6月には、フレームワークの構成要素及び、全体の方向性に影響する重要な内容についての協議が行われており、今後、2015年中にパイロット版やドラフトフレームワークの作成・協議を経て、2016年のはじめに最終版が公表される予定です。

「人権保証フレームワーク」の課題

「人権保証フレームワーク」の本格的な協議に先立ち、RAFIは4月に"Vision for Human Rights Assurance"(以下"Vision")を公表し、人権に関する開示への保証について、ビジョンと課題を明らかにしています。

人権に関する開示への保証は、企業の人権に関する開示が適切な基準(人権報告フレームワーク)に従って適切に作成されているかについて、独立した第三者である保証プロバイダーが保証意見を表明するものです。したがって、保証を受ける企業は、「人権報告フレームワーク」の最低限の内容を満たした開示をしている必要があります。 具体的には、人権尊重方針のコミットメントやその実現のための取組み、主要な人権課題 (salient human rights issue)とその決定方法、主要な人権課題に関する方針やステークホルダーエンゲージメント、影響評価、課題解決のための取組みとその有効性、人権侵害からの救済等について、人権に関する開示に含めることが求められています。保証プロバイダーは、これらの企業の開示(=経営者のアサーション)に対して保証意見を提供します。人権へ及ぼす影響や発生可能性(の低減)については原則として意見を述べません。

前出の"Vision"では、保証意見のプロバイダーは、保証のプロセスと発見事項に関する洞察に満ちた情報を提供すべきとし、実際の認識された問題に対する取組みを促進することで、その価値と信頼性を増すことができるとしています。このため、"Vision"では、保証のプロバイダーは、人権に関する開示への保証に必要な知識、技術、能力を有する組織・個人であって、一般的な保証の技術に加え、関連業界の技術的な専門性も有していなければならないとしています。保証のレベルとしてはまずは「限定的保証」を対象とするが、可能であれば「合理的保証」も検討するとしています。

また、有意義な保証は、単に企業が人権方針とプロセスの存在を報告しているかどうかを検証するだけではなく、それらが有効(effective)かどうかを考慮すべきであるとしていますが、有効性をどのように評価するかは人権に関する開示への保証の課題のひとつとなっており、その継続した議論には、EYの代表も参加しています。

チームメンバーのご紹介: 小池 裕子

写真CCaSS東京チームのマネージャーである小池は、プロジェクト管理・品質管理に加え、ビジネスと人権、サステナビリティ、統合報告の分野における調査研究や、企業の人権方針策定、人権デューデリジェンスの仕組み構築・実施等の支援を行っています。特に、本号のテーマである人権報告と保証の分野に重点を置いています。日本の公認会計士資格を持ち、国内上場企業や公益法人等の監査・保証業務や内部統制構築支援等に加え、CSR報告書・統合報告書の導入支援及び報告書作成支援、非財務情報の保証業務、サプライチェーン監査、ステークホルダー・エンゲージメント等の業務経験があります。