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ビジネスと人権・ニュースレター

第4号 【人権分野の情報開示に関する先行企業(ユニリーバ)の取組み】

2015年7月、ユニリーバが世界で初めて、「人権報告フレームワーク」に完全に準拠した報告書(「UNILEVER HUMAN RIGHTS REPORT 2015」)を公表しました。2015年2月に公表されたこのフレームワークの仕組みについては、本ニュースレターにてご紹介いたしました。本号では、ユニリーバの人権分野への取組みの状況と、日本企業への影響についてお話します。

人権分野の情報開示に関する先行企業の取組み

ユニリーバは2015年7月、「人権報告フレームワーク」に完全に準拠した初の報告書(「UNILEVER HUMAN RIGHTS REPORT 2015」*1)を発行しました。今日の企業は、自社のビジネスが人権に与える影響(潜在的なものを含む)を認識および対処し、取組みの内容を積極的に開示することを国際市民社会から求められています。ユニリーバの報告書は、こうした要請に応えるための取組みの一つと言えるかもしれません。

本報告書は、CEOのメッセージの中で、自社の幅広いバリューチェーンが人権侵害のリスクを抱えていることを明確に示したうえで、「人権報告フレームワーク」の要件に従い、以下の8つを自社にとっての主要な人権課題として挙げています。

  1. 差別
  2. 適正賃金
  3. 強制労働
  4. 結社の自由
  5. ハラスメント
  6. 健康と安全
  7. 先住民の土地の権利
  8. 長時間労働

たとえば、ユニリーバは、自社の主要課題の一つに「適正賃金(Fair Wages)」を挙げています。「法定最低賃金」が世界各国の自社の従業員(サプライチェーンの従業員を含む)の生活水準の向上につながる「適正賃金」であるとは限らないとし、自社の主力製品の紅茶生産のバリューチェーンにおける茶葉生産農家の貧困を自社の課題としています。この課題に取組むうえで重要な地域としてマラウィに着目し、NGOの協力を得ながら、政府、茶葉購入者、専門家を含む幅広いステークホルダーとのダイアログを実施し、農園の従業員の「適正賃金」の実現、生活水準向上に向け取組んでいます。今後、業務委託先の従業員等にもマラウィでの取組みを広げていく予定です。これらの課題や取組みの過程を公表することで、ユニリーバは国際社会からさらに注目されることになるでしょう。「法定最低賃金」の支払いでは生活水準の向上が実現していないという課題に対し、従業員の「人権尊重」の取組みの一環としてとらえ、法的責任を超えた社会的な責任を果たそうとしている姿勢を対外的にも明確に示しています。


ユニリーバの報告書の構成
  • ビジネスを通じた人権尊重へのコミットメント
  • 主要な人権課題及びその取組み
  • 人権に関する問題の予防・救済措置
  • 今後の人権への取組み

「人権報告フレームワーク」の特徴および日本企業への影響

ユニリーバの報告書発行が一つのきっかけとなり、企業の人権に関する取組みの情報開示が活発化することが期待されます。前回(第3号)のニュースレターで述べたとおり、国連で2011年、「ビジネスと人権に関する指導原則」が承認されて以降、国際社会では企業の人権への取組みへの関心が高まっています。経済界においても、2008年のリーマンショック以降、非財務情報を考慮した投資を行う投資家や、また持続的にビジネスを営むために経済的価値のみではなく、顧客や従業員等広範囲の様々なステークホルダーの利益を考慮した社会的価値を重視する企業が増えました。

ユニリーバは報告書の中で、人権に関するステークホルダーの期待に応えるために自社が取組むべき主要な人権課題として「適正賃金」を特定していますが、異なる業界や市場で事業を展開する日本企業にとって、主要な人権課題はユニリーバとは異なるはずです。これまでの日本の制度開示は、ルールベース(細則主義)・アプローチを採用し、企業は、基準等で要求される項目に則り開示することが要求されてきました。一方、「人権報告フレームワーク」は原則主義を採用し、自社のビジネスにおいて重要な人権課題を特定し、どのように取り組むかを決定したうえで、その内容を開示することを要求しています。

ユニリーバは、自社のサプライチェーンが人権課題を抱えていることをはっきりと認識していますが、それらの人権課題のすべてを解決したとは述べていません。これまでの日本の制度開示と異なり、「人権報告フレームワーク」は企業に対し、自社のビジネスが人権に与える影響(潜在的なものも含む)を認識および対処し、たとえ報告対象期間には人権課題に関する目標を達成できなかったとしても、取組みの進捗状況を開示することを要求しています。企業の人権課題への取組みが完了することはありません。レポーティングの目的は、人権に関する取組みを企業や社会で共有し、人権意識と取組み水準を向上させる事にあります。多くの日本企業は未解決の課題を開示することに慣れていません。しかし、多くの日本企業がグローバル化を進めており、新たに進出した市場にはその地域特有の人権課題が存在し、国内や海外の市民社会からの注目も高まっています。人権に関する国際的な基準に対応するためには、日本企業は、人権課題のリスクは国内にも国外にもあることを認め、情報開示に対するアプローチを変え、課題が完全に解決されるまで何も開示しないのではなく、課題を特定し、対処するために自社が導入した方針やプロセスを開示していく必要があります。

チームメンバーのご紹介: 吉岡 亜友子

写真CCaSS東京チームの吉岡は、ビジネスと人権、サステナビリティ、統合報告に関する業務に携わっています。
特に、人権のアドバイザリーに重点を置いています。
これまで、国内外金融機関の監査、内部統制構築支援、内部統制保証の業務経験があります。