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ビジネスと人権・ニュースレター

第7号 (2015年12月1日発行)
テーマ:第4回国連ビジネスと人権フォーラム(ジュネーブ)

2015年11月16日から18日にかけて、スイス・ジュネーブで第4回国連ビジネスと人権フォーラム(Forum on Business and Human Rights)が開催されました。同フォーラムには世界の企業、政府、市民社会(NGO)から約2300人が参加し、特に企業からの参加者は全体の22%を占めるなど、2012年に開催された第1回以降最多となりました。今回はNestle、Unilever、Ericsson、Microsoft、BPといった先行企業に加え、中規模企業からの参加者も目立ちました。また、アジア太平洋地域からの参加者が存在感を増し、韓国国家人権委員会の委員長、日本弁護士連合会の代表団、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のメンバーなどが参加しました。

第4回「国連ビジネスと人権フォーラム」の主要なポイント

ビジネスと人権に関する指導原則(以下「指導原則」)が国連人権理事会で承認されてから5年が経過したことを受け、今回のフォーラムでは企業が人権に与える影響の特定、予防、軽減、報告に関する成果を評価することが一つの焦点となりました。会場で提起され、議論された主な問題は以下の通りです。

企業報告

「測定できるものは管理できる」をキーワードに、人権報告に関するさまざまな法令や基準にスポットライトが当てられました。欧州議会の代表者からは、2017年には6000を超えるEU企業が、非財務情報開示に関するEU指令 European Commisionウェブサイトへ に従って人権、腐敗や贈収賄の防止に関する報告を行うことになるという指摘がありました。フランス政府からは、人権デューディリジェンス計画の策定を企業に義務付ける法案起草の進捗状況が報告されました。この他、米国政府のミャンマーでの投資に対する「責任ある投資に関する報告の要件 European Commisionウェブサイトへ」や、英国が「現代の奴隷制法」に基づき、同国内でビジネス活動を行っているすべてのグローバル企業に課している報告義務についても発表がありました。また、GRI(Global Reporting Initiative)からは同団体のデータベースに掲載されている1400本の報告書のうち、3分の1は人権問題に関する報告を含んでいることが報告されました。

企業の代表者は、対応すべき報告の基準や指標が多すぎると、リソース不足のCSR部門に負担がかかり、デューディリジェンスによって明らかになった問題を改善するために必要な計画を実施できなくなる恐れがあるとして、CSR部門の対応力に配慮することも重要であることを指摘しました。この点については、企業はEU指令に準拠するために既存の国際的枠組み(GRIや国連指導原則を含む)を利用できること、指導原則に基づく報告フレームワークも、既存の基準との相互参照が可能となっていることが指摘されました。GRI自身も、GRI G4報告ガイドライン(G4)と指導原則の主要な概念との関連性を示した文書(Linking G4 and the UN Guiding Principles European Commisionウェブサイトへ)を発表しました。

しかしNGOのGlobal Witnessは、GRIの基準は人権侵害の被害者に救済措置へのアクセスを提供することを企業に義務付けた指導原則の要件を十分に満たすものではないと忠告しています。Global Witness は、市民が利用できる法的選択肢が少ない地域では、企業は利用可能な苦情処理メカニズムを設ける必要があることを強調しました。

企業と関係するその他の重要テーマ

持続可能な開発目標:目標12.6

国連持続可能な開発目標(ミレニアム開発目標の後継)の目標12.6は、「特に大企業や多国籍企業などの企業に対し、持続可能な取組みを導入し、持続可能性に関する情報を定期報告に盛り込むよう奨励する」としています。GRI、国連グローバル・コンパクト、WBCSDは、企業が自社の戦略を持続可能な開発目標と一致させるための指針を示した「SDG Compass SDG Compassウェブサイトへ」を発表しました。

人権と相反する法律の存在

GEなどの先進的企業は、既存の法律が、企業の人権尊重の取り組みと相容れない場合は、企業が一致団結して法律の改正を求めていくことが期待されていると強調しました。NGOと国際労働機関(ILO)は、これが「生活賃金(living wage)」の概念にも拡張されることを望んでいます。「生活賃金」とは、企業はフルタイムの労働に対し、社会的に許容される妥当な水準の生活を送るために必要な賃金を、それが法定最低賃金を上回っていたとしても、支払わなければならないという考え方です。

行動の優先順位

企業はすべての人権を尊重しなければなりませんが、事業活動の種類や地域の事情からビジネスに与える影響が特に大きい主要な人権課題については、方針やデューディリジェンスのプロセスにおいて特に留意が必要であるという点で、参加者の意見はおおむね一致しました。

フォーラムの意義

最後に、そして最も重要なことは、政府が企業の人権侵害から国民を守ることや、企業が人権を尊重することの重要性が、参加者の間で再確認されたことです。例えば土地の権利に関して、2014年には43人が自分の土地から立ち退くことに抗議した後に殺害されたことが報告されています。しかも、多くの場合は、そういった土地は自国の政府によって企業に払い下げられているのです。

これらのテーマについては、今後のニュースレターで詳しく取り上げていく予定です。特に関心のあるテーマや今後のテーマに対するご要望がございましたら、お気軽にお知らせください。

チームメンバーの紹介: アシュリー・オーウェンズ (Ashleigh Owens)

写真EY CCaSSのエグゼクティブディレクターであるオーウェンズは、ソートリーダーシップ、調査研究、クライアントサービスを担当しています。オーウェンズは、国連グローバル・コンパクトの「人権と労働に関する作業部会」のメンバーを務め、国連グローバル・コンパクトの2015年人権方針策定ガイド(Guide on How to Develop a Human Rights Policy)の起草者の一人でもあります。オーストラリア、イングランド、ウェールズの弁護士資格を有し、東京において国際仲裁や反トラストの専門家として日本企業をサポートし、国際公法について政府に助言をした経験を有しています。国連大学でサステイナビリティ・開発・平和学の修士号を取得したほか、法律と日本語の学位も有しています。


EYの人権関連サービス

EY Japan気候変動・サステナビリティサービス(CCaSS)は、国際的に認知された人権を、クライアントがあらゆる事業拠点で尊重できるよう支援しています。チームのメンバーは国際的な人権領域で指導的役割を果たした経験を持ち、国連のビジネスと人権フォーラムで講演したり、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)を支援したりしています。Owensと牛島は、 国連グローバル・コンパクト(ニューヨーク)の「人権と労働に関する作業部会」の日本代表を務め、EY Japanはグローバル・コンパクト・ジャパン・ネットワークとパートナーシップを締結しています。名越は、ジュネーブの国連人権理事会における日本政府代表として、人権領域の国際交渉を数多く担当してきました。CCaSSチームのメンバーは、以下のような人権関連分野で広範な実務経験を有しています。

  • 人権政策・方針の策定
  • 人権デューデリジェンス
  • 人権関連のEラーニング
  • 利害関係者とのエンゲージメント
  • 人権関連の情報公開と報告
  • 人権教育と意識改革